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WONDER : WONDER [Another World]

ジャンプしてみた。
水溜まりを飛び越える。
綺麗な弧を描いて着地した青年は、そのまま人通りの少ない道を駅に向かって駆け出していった。
空が青い。
突き抜けるような空の天辺から刺す、きらめくような陽射しが眩しかった。

休日の午前中。
既に気温は30℃を超えていた。
青年の弾力のある艶やかな肌からは、細かな汗が吹き出している。
「まずいな、遅れちゃう。次の電車、間に合えっ!」
その時だった。
変わった形の杖を持ったいわゆる萌え系の美少女が、何やら掛け声を掛ける。
すると、人や車、電車や鳥の動きが全て止まった。
驚きで固まった青年に、美少女は声を掛ける。
「福戸君。君は私によって選ばれた。私がこの世界を救うから、そのサポートを君にしてもらう。」
話が見えない福戸、しばしぼーっと立ち尽くす。
じれったくなった美少女は、更に続けた。
「どうやら君はあの電車に乗りたいようだ。乗ればいい。大切な人に逢いたいのだろう?何なら瞬間移動でもしてみるか?君の家なら知っている。くたびれたアパートだろう?正直気が進まないが、戦いに必要なシンクロナイゼーションの精度を高めるのに必要なのでな。今夜から私は君と共同生活をする。分かったな?」
やっと我に返った福戸、突き付けられた要求に唖然とする。
「共同生活なんて出来ない!困る!」
「なぜ困る必要がある?地球に住めなくなって困るのは、お前達地球人類だろう?私は異世界からわざわざ救いに来ているのだ。それだけでも、ありがたく思え。」
とんだ運命だと、福戸は思った。
だが、これは逃げられない定めなのだと、ようやく回り出した頭で考え始めていた。
「戦いの準備が始まると、交際相手にはしばらく逢えなくなる。存分に楽しんで来い。夜には戻れよ!」
「うん、分かった。」
福戸は、瞬間移動ではなく電車での移動を選んだ。
正直まだ、怖いのである。
改札を抜けてホームに着いた所で、美少女は時間を再び動かした。
程なくして滑り込んで来た上り電車に乗り込んで、福戸は一人溜め息を漏らすのだったーー。

福戸は、交際相手の蓮斗とは出会い系で知り合った。
会って早々に意気投合し、程なくして付き合いを始めた。
ある日の晩。
「ねぇ蓮斗、僕の何処が好き?」
真っ直ぐな瞳で、蓮斗を見つめる福戸。
そんな福戸に、蓮斗は冗談で返した。
「鼻が低くて小さい所、目が細い所、顔立ちがあっさりのっぺりしてる所、唇が薄い所、見た目も中身も子供みたいな所、鈍臭くてのろまな所、それから……。」
「ねぇ!馬鹿にしてるでしょ!」
案の定、福戸は沸騰した。
それを蓮斗は更に混ぜっ返す。
「怒りの福豚丼、よく煮えたぎっています。そろそろ食べ頃かな?頂きまーす!豚、箸持って来て!」
「んがぁーっ!」
福戸の怒りは絶頂。
だが蓮斗はこれを強引なキスで抑え込むのだった。
いつもの事だ。
この時もキスの後で福戸は「ずるいょ、蓮斗」と拗ねてみるのだが、そこはまだ若いだけに、欲求の方が打ち勝つのである。
そのままベッド・イン。
二人だけの世界へと誘われるのだった。

で、そこから半年後。
福戸が美少女と出会ったまさにその日。
美少女を信じていいのか、信じたとしてしばらく逢えないという事を蓮斗にどう伝えたらいいのか、福戸は悩みに悩んでいた。
と、そうしている内に電車は待ち合わせ場所の鎌倉駅へと到着。
二人共湘南地域に住んでおり、待ち合わせ場所はいつも鎌倉だったのだ。
やがて福戸は待ち合わせ場所に到着。
美少女のお陰で遅れなかった。
それは感謝したい、そう思っていた。

遅刻常習犯だった、福戸。
通っている大学の講義でさえ、いつも遅刻ぎりぎり。
蓮斗と逢う時は遅刻してばかりだったのだ。
前回の遅刻で流石に腹を立てた蓮斗、今度遅刻したら別れる、そう言い切ったのである。
もちろん、本当に別れる気はないのだ。
少しお灸を据えてみたつもりだったのである。
それは福戸も分かってはいたが、それでも今日こそは遅れたくなかったのだ。

福戸は、茅ヶ崎の両親の元で生まれた。
一人っ子である。
それはもう可愛がられた。
平凡な家ではあったが、愛に溢れていた。
苦境に立たされたのは中二の頃。
父親に癌が見つかったのだ。
経済的に、一気に厳しくなった。
更に、転入生に目を付けられて、いじめのターゲットとなっていく。
福戸にとって不幸だったのは、母が病の父にかかりきりだった事で、体の痣や生傷といったいわばSOSのサインが、ことごとく見逃されてしまった事だ。
毎晩一人で、咽び泣いた。
まだ精神的に人よりも幼かった福戸にとっては、虐めは人生の全てだった。
少なくとも当時の福戸には、そう思えてならなかった。

父は、生還した。
手術が上手くいった。
それ以来、再発を防ぎたいという一縷の望みから、母は父にアガリクス茸などの高価な健康食品を食べさせていた。
お金は、親族からの援助があった。
家を売らずに済んだのも、そのお陰だ。
母は夫である父の為に、方々を土下座して回ったのだった。
気丈な母にとってはそれは、本当に何でもない事で。
ただ最愛の父の具合だけが、母にはずっと気掛かりだったのだ。
それだけに、無事に手術を終えた事を告げられたその瞬間に、母は泣き崩れた。
初めてだった。
結婚して初めて、母が泣いていた。
横で見ていた福戸にも、その姿は衝撃を与えた。

学校では福戸は、初恋の相手に救われた。
その子は、学年のリーダー的な存在で、柔道で周囲から熱い期待を一身に受けていた。
それはもう、強いのである。
その子から、福戸は告白をされた。
福戸には断る理由などなかったので、交際は無事にスタート。
二人仲睦まじく、幸せだった。
学校での虐めも、すっと消えた。
跡形もなくだ。

そのお陰で無事に高校の普通科へと入学した福戸だったが、偏差値の関係で初恋の相手とは違う高校に通わざるを得ず、二人の仲は急速に疎遠になっていった。
というのも初恋の相手は入学した高校で、新しい彼氏を早くも見つけていたのだ。
福戸はまだ相手を好きだったので、取り残された感じがして、辛かった。

蓮斗は、それ以来となる福戸の彼氏だ。
蓮斗にも、辛い事はあった。
だが、それを表に出す事は決してなかった。
蓮斗は、強かった。
身体がではない。
心が、人の何倍も強かったのである。
だから母の死や、父による虐待、学校での暴行にも、耐える事が出来た。
蓮斗は高校を出ると、実家を出て藤沢の会社で働き出した。
今の住まいも、藤沢である。
決して裕福ではなかったが、湘南に憧れていた事もあって、蓮斗は楽しい毎日を送っていた。
そして何より、その楽しさの中心に居たのが、福戸だったのだ。

二人は相思相愛で、幸せだった。
だが今、それも危機に瀕していた。
これをどう伝えるか、福戸は心配していたが、それはある意味では取り越し苦労だった。
というのもあの美少女は、蓮斗にもコンタクトを取っていたからである。
蓮斗は初めは、取り合わなかった。
だが目の前で美少女に時間を止められて、その事実を受け止めてからは、素直に従うようになった。
そうせざるを得ない、そう思ったのである。
福戸の元へ、暗い表情をした蓮斗が歩いてゆく。
歩み寄って、次の瞬間。
蓮斗は人目も憚らず、福戸を固く抱き締めていた。
「すまん、福戸。代わってやりたいが、俺が行っても邪魔なだけらしい。頼む、無事に戻って来てくれ!」
二人は嗚咽を漏らしながら、刹那の幸福を噛み締め合い、抱き締め合っていたーー。

その夜。
福戸が自分の部屋に戻ると、何と美少女が勝手に上がり込んでいて、遅い夕食を作っていた。
「やぁ、遅かったな、福戸。待ち切れなくて、夕食作り始めてしまったぞ。お前の分もあるから、食べるといい。」
美少女、名前はファルミというらしい。
そのファルミのあまりの厚かましさに、流石の穏やかな福戸も、一瞬気が遠くなるのだった。

ふらふらと小さなダイニングテーブルにようやく腰掛けると、福戸はファルミにも分かるように、大きな溜め息を一つ漏らした。
そこへ、幾ら遣ったのかと思う程に豪華な料理の数々が並んでゆく。
「この部屋、オーブンもないから、苦労したぞ。お金は出しておいたから、好きなだけ食べるといい。」
これでは、ぐうの音も出ない。
「ところで君、私と寝る気はないか?君の赤ん坊なら、産んでみてもいいと思ってな。」
堪らず、冷蔵庫から出したばかりのコーラを吹き出す福戸。
ゲイなのだ。
そんな事は出来得る筈もない。
「ごめん、無理!僕、女の子に興味ない!好きでそうしている訳ではないんだ。ごめん。」
すると、意外な返答が。
「うむ、合格。こんな狭い1DKで寝込みを襲われたら、逃げ場がないからな。魔法を使っても良いのだが、寝起きだと精度ががたんと落ちるから、気が進まんのだ。さぁ、食べよう!」
ファルミ、料理の腕は天下一品だった。
「うんまいね。ありがと。今時、女の子だからってこんな料理を作れる人は、あんまり居ないよね。」
二人で笑い合った。
それまでのギスギスした空気が、少し柔らかくなった瞬間だった。

「これで我々のシンクロナス=ポイントも上がったな。大死精グレゴリ・ダークマターの襲来は八月だろうから、もう一ヶ月を切っている。時間がない。急ごう!」
急いで親睦を深めようとする二人。
無理筋な話ではあるが、仕方ないのだ。
福戸の部屋には、シングルベッドが一台あるのみ。
予備の布団もないので、とりあえず福戸は床で眠る事にした。
当然、ベッドはファルミが占有するのだ。
これは、暗黙の了解。

翌朝。
今日は大学の講義がある。
実家が茅ヶ崎であり、県内の大学へはそこからでも通える距離だったのだが、福戸は一人暮らしをしてみたかった。
そこで無理を承知で両親にお願いしてみると、呆気なく許可が下りたのだった。
そんな話もあり、福戸は講義には真面目に通っていた。
もっとも、毎朝遅刻ぎりぎりではあったのだが。
この日の朝食もファルミが担当。
作り終えるとファルミ、福戸を蹴っ飛ばして起こすのだった。
「がっっ!!」
「遅れるぞ、朝食の用意がある。早く支度しろ。」
「痛てて!蹴らなくてもいいのに……。」
福戸、気分は満身創痍だ。
ただでさえ、硬い床の上で寝ていたというのに。
「煩わせるな、急げ!途中まで私も付いてゆく。」
「はぁ!?付いて来る!?」
先に食事を済ませたファルミ、風呂場で着替えを済ませる。
「それで行くの!?」
開いた口が塞がらない福戸。
それにファルミはまたもや蹴りで応戦するのだった。

電車に乗る二人。
周囲の視線が釘付けだ。
「何を見ている、福戸。私の何処がおかしいというのだ。」
「全部!胸はだけ過ぎ、スカートの丈短過ぎ、ブラウス透け過ぎ!他の服はなかった訳!?昨日の方がまだマシだった!」
「何を言っている。私の故郷では若い女は皆こんな感じだ。至って普通の街着だ。」
「帰りに服屋寄らない?その格好じゃ側に居るこっちが恥ずかしいょ。お金は僕が払うから。」
福戸は精一杯の提案をするのだが。
「断る。私はこれがいい。何を好き好んでこの美しい私が、そんなにも地味な格好をせねばならんのだ!何ならOバックのビキニで歩いてもいい位だ。」
強情なファルミを前にして福戸、溜め息を漏らすばかりなのだった。

ファルミはファラン星系第七惑星ファランにあるリーム王国の第一王女だ。
次期女王、プリンセスなのである。
趣味は天体観測。
今回地球を救いにやって来たのも、王女様の気紛れという訳だ。
だが、地球を救うのは気紛れだとしても、大死精グレゴリ・ダークマターと相対したいのには、もう一つ理由がある。
ファルミの母パルミナは、リームヘのグレゴリ・ダークマター襲来の際に、夫である国王ベグデスを身を挺して守ったのだ。
空の星となった最愛の母に誓って、己の手で復讐しようと決めていた。

そう、ファルミはプリンセスであるから、当然の事ながら気位が高い。
己のセンスを福戸ごときに駄目出しされるなど、有り得ない話だったのだ。

さて、福戸が講義に出ている間、ファルミは近くのカフェで時間を潰していた。
ファルミは考えていた。
自分の服のセンスに間違いはないと、自分では思っている。
けれども、我を通すばかりではシンクロナス=ポイントは貯まらない。
ここは一つ折れてみるかーープリンセスにしては珍しく、そんな殊勝な事を考え始めていたのだった。

ファルミは渋谷のブティックに向かい、地球のギャルらしい服装をチェック、気に入ったものを購入してゆく。
どれもが今朝の服装よりもだいぶ大人しい格好ばかりだ。
ただ、ファルミはまだ十代。
シック過ぎるのも似合わないのである。
それで渋谷なのだ。

その頃蓮斗は、職場で事務作業をこなしながら、福戸の運命に思いを馳せていた。
何とかして役に立ちたい。
でも無駄死にしたらそれこそ、福戸を悲しませる。
堂々巡りだった。
「蓮斗君、どうしたね?」
恰幅の良い上司の一言で、はっと我に帰る蓮斗。
「す、すみません……。」
その場に居る一同が笑いに包まれるのだった。

遅い。
そう思って、福戸は少しばかり困っていた。
そういえばファルミと直接コンタクト出来る手段がないのだった。
待ち合わせ場所は、校門前。
このまま、待つしかない。

蓮斗は、いざという時に福戸の盾になろうと決意していた。
それが何の役に立つのかは、当の蓮斗にも分からない。
だが、そう決めたのだ。
理由など、要らなかった。

「わ!見違えたね!」
福戸は目を丸くした。
目の前に現れたのは、明らかに前よりも洗練された美少女・プリンセスファルミだ。
「待たせて済まない。お前をあまり困らせるのも、気が引けてな。」
「ありがとう!前のあの格好では痴漢に遭うんじゃないかと思って、心配してたんだょ。良かった。」
「そうか、悪かったな。行こうか。」
「うん!」
周りの人間は、福戸とファルミが付き合っているのではないかと勝手に誤解をして、騒めいていた。
その中には、福戸の大学での唯一の友人である海太郎も混じっていた。
海太郎は密かに、福戸の事を好いていた。
それだけに、福戸と謎の美少女との関係が、気になって仕方ないのだった。

「ねぇ、ファルミ。携帯持ちなょ。お金なら僕が出すから。いざという時に連絡も取れないっていうのは、まずいんじゃないかな。」
「なるほどな。一理ある。金は私が払う。心配しなくて大丈夫だ。それよりも機種選びを手伝ってくれ。使い方も教えてくれると助かる。右も左も分からないものでな、すまん。」
「了解!」
仲睦まじく見えなくもない、二人の姿。
密かに尾行していた海太郎はこの時まさに、嫉妬の嵐の只中に居た。

「こうするの。ほら。」
「あぁ、なるほどな。」
携帯電話ショップからの帰り道、雑踏の片隅に立ち止まって。
近くでは、海太郎が歯軋りしながら息を潜めている。
「ところで福戸。お前、付けられてるぞ。」
目を丸くして辺りを見回す福戸。
すぐに海太郎の姿を見つけた。
「海太郎、そんなとこで何してんの?どしたの?」
その問いに、無言のままでギロリと睨み返す海太郎。
「どうやら海太郎とやら、妬いているようだな。」
その言葉に耐えられなくなった海太郎、顔を真っ赤にして駆け出してゆく。
「え?何?どうしたの、海太郎。」
「本当に鈍い奴だな、お前は。まぁいい、行くぞ。」

帰り際にスーパーに寄る二人。
この日の夕食に必要な食材を買うのだ。
ファルミ、美少女だから少食かと思いきや、とんでもない。
大飯食らいなのだ。
これは福戸とて同じであるから、自然とカゴの中は山のような食材で一杯になる。
こうして二人で共同作業をしている間にも、シンクロナス=ポイントは上がってゆく。
残された時間は少ない。
シンクロナイゼーションの精度を早く上げねば、大死精グレゴリ・ダークマターへの勝ち目はないのだ。

福戸がファルミのパートナーに選ばれたのには、もちろん理由がある。
福戸にはチラン耐性があるのだ。
それも、豊富に。
これはとても希少な事なのだ。
チラン耐性のある人間は地球上に、五千万人に一人しか居ないと言われている。
福戸のレベルで、ともなると、二十億人に一人も居ないのだ。
本人に自覚はない。
そもそも大死精グレゴリ・ダークマターと相対する事にでもならない限りは、必要のない耐性なのであるから、当然だ。
どうりでスポットライトが当たらない訳である。
チラン耐性があれば、グレゴリ・ダークマターの攻撃に、より長く耐えられる。
もちろんチラン耐性は、ファルミにも豊富にある。
いざとなったら本国にも救援を乞うつもりだ。
面子がどうのなどと言っている場合ではない。
時間がないのだ、とにかく。

ファルミは時々思う。
母パルミナにもチラン耐性があったならーー。
チラン耐性は遺伝しないのだ。
一種の奇形のようなもので、突然変異的に現れる。
その晩、母パルミナの残酷な最期を目の当たりにしていたファルミは、福戸が眠る横で、蹲って泣いているのだった。

それからあっという間に時は流れ、大死精グレゴリ・ダークマター襲来の月、八月を迎えていた。
八月十五日、午後。
雲行きが怪しい。
突然、辺りに雷鳴が轟いた。
空に巨大な裂け目が現れる。
大死精グレゴリ・ダークマターのお出ましだ。
そこへファルミの顔馴染みの男女が一名ずつ、やって来た。
「プリンセスファルミ様。ご無理はいけませんよ。私達二名も加勢します。」
「美人の顔に傷が付くといけねぇからな。チラン耐性のある者が四人。まぁ、何とかなるだろ。」
誇り高き王女ファルミの目に、涙が浮かぶ。
「フェリル、クドス!よく来てくれた!」
しかし、再会を喜んでいる猶予はない。
早速、グレゴリ・ダークマターが攻撃を仕掛けて来たのだ。
「ダーク・ストームね。みんなで一斉にシールドを張るの。福戸、ヴァイン=ヴェルゲスと唱えて。皆も一緒に!」
一瞬、光がスパークした。
ダーク・ストームが、光のヴェールのお陰で足止めされている。
シンクロナス=ポイントが貯まったお陰で、福戸には特殊な能力が備わっていた。
「このシールドは長くは持たないわ。シールドがなくなると、チラン耐性があっても徐々に体内のエネルギーが削がれていってしまう。福戸、私たちの盾になって。シンクロナイゼーションの力で、上手く動ける筈。福戸が囮になっている間に、私たち三人で必殺技を繰り出す。一撃で決めるの、いい?」
「分かったょ。」
「了解しましたわ。」
「オッケー!」
実は福戸は、怖かった。
でも、ここで逃げ出す訳にはいかない。
何としてでも、食い止めなくてはならない。
福戸は、走った。
敵に向かって。
ダーク・ストームが迫って来るーー。

ーー実はこの時、蓮斗が側に居た。
飛び出すタイミングを見計らっていたのだ。
だがそこへ海太郎がやって来た。
「お前達、付き合ってるのか?まぁいい。ここは俺が行く。お前は福戸を、最後まで守れ。いいな。」
「ちょっと待て、お前には何の関係もない話だぞ。」
蓮斗、必死の形相で止めようとするのだが。
「あるんだ。俺も福戸の事が大好きでな。想いが叶わなくともせめて、守ってやりたい。お前は、無駄死にするな。きっとだぞ。」
駆け出す、海太郎。
ちょうどこの時、ダーク・ストームが二つに割れようとしていた。
それを見た海太郎、一つを福戸に任せて、もう一つのダーク・ストームを身を挺して止めにかかる。
瞬時の判断だ。
「福戸、守ってやれなくてすまんーーんがぁーっ!」

ほんの一瞬。
隙が出来た。
海太郎がその命と引き換えに贈ってくれた、大切な大切な一瞬。
「今だ!エクストリーム・ダイヤモンド・トルネード!」
轟音と共に、きらきらと輝く竜巻の中に巻き込まれる大死精グレゴリ・ダークマター。
三人の必殺技の直撃を受け、動かなくなった。
だが、まだだ。
続いてファルミが杖を振りかざす。
「ジェット・ブリザード!」
見る間にグレゴリ・ダークマターは、凍り付いてしまった。
「フェリル、クドス。この氷の塊を私達の世界の極地に封印してくれ。後で合流しよう。」
「はいっ!」
「りょーかいっす!」

そこへ飛び出して来た蓮斗。
「俺、お前の事守ろうとして、ここに居たんだ。でも海太郎が先に飛び出しちまってさ。俺、何にも出来なかった。すまん!」
その話を聞いて、福戸の膝ががくがくと震え出した。
もしかしたら蓮斗が、犠牲になっていたかも知れないーー。
堪らずに抱き付いた。
人の目など、どうでも良かった。
無我夢中で蓮斗を掻き抱く福戸。
「痛い、痛いょ。」
笑い混じりの蓮斗の声でようやく、我に帰る。

「海太郎の事は済まないと思っている。残酷だが、海太郎についての記憶は、ご両親やその他の関係者から抹消する事にする。今の戦いの記憶も、人々の中から抹消する。お前達はどうする?口が堅いのであれば、消さないでおく事も出来るが。辛くはないか?」
「僕は覚えてる!」
「俺も!」

こうして、ファルミ一行のお陰で、無事にあるべき平和を取り戻したこの世界。
ファルミとの別れ際。
「また会おうね。」
名残惜しい福戸に、ファルミは挨拶のキスをした。
ぽかーんと固まる福戸だったが、蓮斗に突っ込まれて、すぐに我に返った。

「私は、忘れた頃にやって来るぞ。それまで、待っているがいい!」
きらりと光って、ファルミは消えた。
ファルミとの思い出、海太郎の犠牲ーー。
福戸の目にも、きらりと涙が光っていた。

ファルミ一行と共に戦った事は、福戸にとっては忘れられないひと夏の思い出となった。
横には蓮斗が居る。
それだけで、それだけでいいーー今の福戸にはそう思えてならなかった。
季節は秋へと向かっていた。
食欲の秋。
蓮斗と何を食べに行こうか。
サンマーメンを啜りながら、蓮斗の隣で福戸は考えているのだった。
照り付ける日差しが眩しい、休日の午後の事だった。

お・し・ま・い

WONDER : WONDERシリーズ三部作の二作目。
三作目は完成していますが、推敲の事もありますので、忘れた頃にやって来ます。
三作全て、かなり設定が異なっています。
三部作とはいえ、それらの世界間に繋がりは全くありません。
リアル世界ではどんな場面にも女の子が存在しているのに、ゲイサイトには一人も存在しないというのも妙だと思い、時には壊してみたかった、それもこのシリーズを作った動機の一つです。
とはいえ、メインはあくまでゲイの奮闘と、幸せへの道。
楽しんで頂けますと、誠に幸いです。
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