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Star that twinkles in the night sky -星々を巡る旅路で-

天の川銀河を航行する小さな宇宙船の中で。
「ねぇ兄ちゃん、あの星が綺麗だょ!」
「そっか、そだね。あの星にしよぅ!」
兄弟は地球を目的地に定めた。
二人は宇宙人ではあるが、その容姿は全裸に至るまで、日本人のそれと寸分違わず同じであった。
ただ髪の色が艶やかなグレーである事が、唯一の違いといえばそう言えなくもなかった。
彼らの脳内には汎用コンピュータが埋め込まれており、相手の話している事は視界にオーバーレイする形で翻訳して表示される。
喋る時には、汎用コンピュータに接続されたスピーカーが音を発し、口はそれに合わせて勝手に動く。
怪しまれる事はない。

兄弟は元々、天の川銀河に来る予定はなかった。
アンドロメダなどいくつかの銀河を周遊する旅に出ていたのだ。
だが、二人で乗っていた宇宙船の自動航行プログラムが故障してしまい、慣れない手動操縦では上手く操縦出来なかった為、なすすべもなく漂流。
二人は魔法を使えたのであるが、それを以ってしても宇宙船の操縦は難易度が高かった。
それだけ自動操縦に頼り切っていたのである。
やがて制御不能に陥りワープに次ぐワープを経て、エンジンは爆発寸前。
手近で綺麗そうな地球に、緊急用脱出艇で慌てて不時着しようとしていた。
どうやら自分たちの容姿が地球のアジア系の人たちと全く同一である事が判明し、とりあえず無難な所で深夜の東京湾に着水したのであった。

「ねぇ、とりあえずどうする?」
「戸籍と住民票とマイナンバーと職歴、それに住所をでっち上げよう。運転免許も取った方がいいな。」
「えー!いくらこの星より進んだコンピュータが体内に内蔵されているったって、それは幾ら何でも無理筋な話じゃない?」
「魔法を使えば、チョチョイのチョイ、さ!」
「ウゲェ。あれ、疲れんだょな。ま、しゃーないか。」

さて、二人には共通のペットが居た。
もっとも、ペットと言うよりは優秀な相棒に近いものだが。
それは、地球のリスと瓜二つ、並べても見分けが付かない小動物で、二人からはペグと呼ばれていた。
今まで寝ていた為に兄弟の脳内からは存在が忘れられていたのだが、運悪くここで起きてしまう。

兄弟はそれぞれ、ミリーとプリーという名前だ。
双子ではないがよく似ているので、初対面だと見分けが難しい。
ただ、性格的にはかなり異なっていて、ちょっぴり怒りっぽくてずる賢いのがミリー、のんびり屋さんがプリーだ。
二人ともふくふくとした体型である。
ミリーが兄で十六歳。
プリーは弟で十五歳。

起き抜けのペグにミリーが言い放つ。
「餌が欲しければ、ぼくたちの日本での戸籍と住民票とマイナンバーと職歴、それに住所と運転免許、魔法でよろしく!」
「嫌だね!何でぼくがそんな事しなくちゃならないのさ!」
ペグの怒りにも一理はあるのだが、残酷なミリー、ここでとどめを刺す。
「あ、そう。やってくんないなら、一週間飯抜きでカゴの中ね。」
「ちぇっ。面倒な役回りは全部ぼくに押し付けてさ。参っちゃうよ。」
ペグは愚痴をこぼすのだが、ミリーはここでも冷たい。
「やるの?やらないの?どっちなの!」
「しょうがないなぁ。やるっきゃないか。全く、動物使いが荒いんだから。」

東京・港区のタワーマンションの高層階。
庶民ならば目玉が吹っ飛ぶ位のお値段の、大型2LDK。
ここがミリーにプリー、そしてペグの新居である。
一応、二人の寝室は別々なのである。
ペグはリビングで就寝。
少し割高だったが、新築未入居の即入居可能な物件があったので、それを購入したのだ。
新規分譲時に新築を買うという手もあったし、そもそもこの物件にしても、もう少し待てばもっと下がるのかもしれなかったのだが、そんなには待てなかったのである。
まぁ腐ってもここは首都・東京。
不動産価格は安くはなかったという訳だ。

お金はどうしたって?
魔法で金の延べ棒をしこたまこしらえたのである。
インチキにも程があるが、背に腹は変えられない。
一応、出来上がった延べ棒は本物であるから、罪にはならないであろう。
ペグがぶつくさ言う。
「この魔法疲れんだからねー!ちょっとは労って欲しいょ。大体、職歴なんている訳?延べ棒作れば済む話じゃんか。」
身も蓋もない話である。
更にペグは続ける。
「大体、日本で運転免許を取るには、教習所に通わなくちゃならないの!あなたたち、ハナからそんな気さらさらないでしょ!魔法で運転なんて、ご法度なの!捕まるから!馬鹿!」
もっともな意見に、ミリーとプリーは沈黙。
まぁでも金はあるのだ。
何とかなるのである。
たとえば、タクシーとか、ハイヤーとか、ショーファードリブンとか。
だが、浮かないのはミリーだ。
「あーあ。プリーと二人きりでドライブに行きたかったな。ちぇっ。」
これにペグが噛み付いた。
「ぼくを置き去りにする気!?許せなーい!延べ棒なら出すから、一緒に連れてけー!」
「うるさいなぁ!分かってるょ。」

そんな事を言い合っている内に、プリーのお腹の虫が鳴った。
時刻は正午ぴったり。
プリーの腹時計は、下手なクオーツよりもよほど正確なのである。
「ねぇ、そこの。なんか食べようょ。これ以上お腹が空いたらぼく、暴れちゃうから。」
ミリーをそこの呼ばわり。
気が立っている証拠である。
これは危険だ。
プリーが空腹で暴れ出すと、抑えるのが大変なのだ。
人格が変わるのである。
早速ピザなる食べ物を注文。
Lサイズ四枚。
サイドメニューも色々と付けて。
や、多いな。
そう思った諸君は、まだまだ甘い。
デブにとってはピザは飲み物なのである。
二人で四枚平らげる位、訳ないのだ。
でもまぁ、ミリーとプリーにとってはこれがピザ初体験。
だから慎重になるのである。
そういう訳でたったの四枚なのだ。

ところで、ミリーとプリーにも戸籍が出来たのである。
ペグの魔法で記録を改竄したのだ。
年齢が十六と十五では何かと不便を生じるので、戸籍上は十九と十八という事にした。
童顔なので、それ以上の年齢には出来ないのだ。
で、名前である。
日本人らしい名前が必要なのだ。
そこでミリーは晨平、プリーは琉輔と名乗る事になった。
ちょっと個性的。
一方で苗字は、大澤。
こちらは、無難な線を突いたのである。

ピザが到着。
美味しそうな匂いが鼻腔を刺激する。
「頂きまーす!んまんま。」
「うんまいね。暴れる気も失せたょ。」
大好評である。
「それは良かった。で、ぼくの餌は?」
ペグがチクリ。
「後でね。」
冷たいミリー改め晨平。
これに、ペグが怒った。
「んがぁー!」
リビングのソファを魔法で宙に浮かせる。
プリー改め琉輔は食事に夢中で、この事態に気付いていない。
仕方ないので晨平、いそいそと木の実を皿に盛り、ペグの前に差し出した。
「ほら、お食べ。」
「そうこなくっちゃ!」
一心不乱に木の実に齧り付くペグ。
魔法で力を使ったので、お腹が空いていたのだ。
何はともあれ、平和な食卓である。

その頃。
晨平と琉輔の住んでいた惑星では、ひと騒動起きていた。
実は晨平と琉輔は、惑星トリーの王族であったのだ。
いつまでも戻らないので、母親である王妃サラトヴァが国王マクセンに掛け合う。
「あなた、軍を動かしましょう!とりあえず百個艦隊とXVR親衛機動部隊を動かして、敵を殲滅するのよ!あの二人はきっと今頃囚われの身に違いないから!」
「よし、そうしよう!私が指揮を執る!」
「あなた、どうかお気を付けて。」
「分かっている。心配するな。必ず生きて戻る。」

この動きが面白くないのは、晨平と琉輔の異母兄弟、サローグ。
晨平と琉輔がこのまま失踪していてくれれば、次期国王の座は自分に巡って来るのである。
そう、晨平と琉輔の乗った宇宙船に細工をして故障させたのは、他でもない、サローグ一派の部下連中であったのだ。
もちろんサローグの命で、である。
しかし国王自らが大軍を率いて出陣するこの事態。
考えようによっては好機なのだ。
軍の半分が出陣するのだ。
国内の軍は手薄になり、治安統制は難しくなって来る。
それどころか国王不在ならば、軍を掌握出来る可能性も高い。
クーデターを起こせる余地は十分にあるのだ。
いち早くこの事態を把握していたサローグの最側近、ラーベターは、サローグをも差し置いて自らの手でクーデターを起こそうとしていた。
上手くすれば自らが国王の座に就く事も有り得るのだ。
こんなチャンスをみすみす逃す訳にはいかない。

一方、地球では。
晨平と琉輔、それにペグは、地球でのセレブライフをそれなりに満喫していた。
何より自由なのだ。
これまでは王族として相応しくあるよう、教育ばかりの毎日だった。
国王である父は厳格であった。
息が詰まっていたのである。

マクセン率いる王立艦隊による捜索は、難航していた。
それもそのはず。
物理的に距離が離れすぎていて、地球までは捜索不能だったのである。
まさか地球に居るとは誰も思わなかった、というのもある。
そこへ、ラーベターによるクーデターの一報。
マクセンは国内に戻る事を余儀なくされた。
マクセンの部隊とラーベターが押さえた国内駐留の艦隊、数の上では互角だ。
だがラーベターは一つ見落としていた。
ラーベターは最新鋭技術の塊であるXVR親衛機動部隊の実力を過小評価していたのだ。
艦艇数こそ少ないが、第六世代ステルス技術に重装甲高高度完全自律型自動追尾ミサイル、近接距離ワープ機構付き重爆雷、超大口径六連装拡散ビーム砲、敵方のレーダーのみを選択的に妨害出来る電波妨害艇などの最新技術のいわばショーケース。
戦力としては巨大なのだ。
中でもマクセンが搭乗している総旗艦は、最新鋭の特殊な超合金を全面に採用していて、ラーベター麾下の艦艇の兵器では破壊する事はおろか傷一つ付ける事も出来ない。
そして、マクセン搭乗の総旗艦には、死の雨と呼ばれる、この宇宙に現存する兵器では迎撃困難な超重装甲広域拡散A2熱爆雷弾頭搭載大型ワープミサイル・ガルペゴンの発射口が二千もあるのであった。
その艦内には、実に四万発ものガルペゴンを抱えているのである。
その威力はたったの二十発で大型惑星をも粉砕する程のものだ。

やがてマクセンの部隊が惑星トリーに帰還。
決戦はその遥か彼方上空で行われた。
近過ぎては政府関係施設を始めとする各種建造物が危険に晒されるからでもあるが、マクセンが国民の安全を考えていたのに対して、ラーベターの脳内にはそのような思考は一切なかった。

「全艦、攻撃開始!」
マクセンの合図により、会戦の火蓋は切って落とされた。
最前列に超高高速連続ワープ機構を全艦に搭載するXVR親衛機動部隊を配して、必勝を期すマクセン。
ラーベター麾下の艦隊による攻撃をかわすかのようにワープしたマクセン麾下の機動部隊であるが、ワープアウトするとラーベターの艦隊を包囲していた。
ワープしたのはこれが目的なのだ。
マクセン麾下の残りの艦隊も先行する味方に守られながら、それに合わせて包囲体制を固める。
いわゆる包囲殲滅戦を企図していた。
決戦は短期で決着した。
中でも、マクセン搭乗の総旗艦による死の雨の効果は絶大であった。
ラーベターは炎に包まれた旗艦の中で、自らの行いを今更ながら悔いていた。
しかし、時既に遅し。
同艦内に拘禁されていたサローグ共々、冥界の門をくぐるのであった。

惑星トリーで国王マクセンの妹の長男が正式に王位継承者となる事が決まった頃、晨平と琉輔は地球上の各地のグルメを堪能する旅にちょくちょく出ていた。
ある時、マルタに滞在する二人。
バカンスも兼ねているのだ。
ビーチで寛ぐ一行。
「暇だな。なぁ琉輔。」
「平和が一番だょ。そろそろお昼だょ。食事の時間だょ。」
「いつもの事だけど琉輔、時計も着けていないのに良く分かるね。流石の食いしん坊だ。」
「でも時計はあった方が便利だよね。今度一緒に買いに行こっか?」
「そだねー。さ、食事、食事。」
「それよりぼくの餌、ちゃんとあるんだろうね。なかったら許さないょ。」
ペグが二人を睨む。
「あー、今のうちに食べちゃえ。木の実があるから。レストランでは鞄の中に隠れててもらわないといけないからね。」
ペグ、お腹いっぱい木の実を食べて大満足である。
ここで琉輔、閃く。
「ねぇ、魔法で宇宙船が出来ないかな?」
これをペグが一蹴。
「あんなに複雑なものは無理!延べ棒だって大変なのに、宇宙船なんて三人がかりでも死んじゃうょ。」
「そっかぁ、残念だぁ。」
眠たそうな目で空を見上げる琉輔。
実を言うと、ちょっぴり寂しいのであった。
それは晨平も同じ事。

惑星トリーに居た頃。
二人には友達が居なかった。
王位継承候補に悪い虫が付かないようにと、周囲の人間たちが追い払ってしまう。
父は国政で忙しく、母は教育ママときていた。
息が詰まる毎日。
それでも二人は、両親を嫌う事は出来なかった。
戻れるものなら、戻りたいーー。
ここで珍しく、晨平の目に涙が浮かぶ。
「お腹がいっぱいになれば寂しさなんて忘れちゃうょ。ぼくもそう。さ、ご飯食べに行こー。」
琉輔の言葉に救われた晨平。
そうだ。
自分には琉輔もペグも居る。
一人ではなかったーー。

とはいえ、そろそろ彼氏が欲しいのである。
東京に戻ったら探してみようか。
そう思う晨平なのであった。

それから一ヶ月後ーー。
東京に戻った一行。
「彼氏作るぞー!」
家に戻るなり、晨平が叫んだ。
「うるさいょ。それよりご飯。食べらんなかったら、暴れちゃうもんね。」
琉輔お得意の脅し。
ご飯の事になると、見境がなくなるのだ。
「右に同じく。」
ペグも腹ぺこ。
まずはご飯。
男探しはそれからだ。

晨平も琉輔もゲイである。
だが、惑星トリーではそんな事は、口が裂けても言えなかった。
ある時、父がこう言ったのだ。
「巷ではホモが流行っているようだが、お前たちはそれに乗るなよ。もしホモ行為をしたら、この刀でお前たちを斬る。容赦しないからそのつもりで。」
それからの二人は、ますます窮屈な思いを感じるようになっていた。

惑星トリーでは、魔法を使えるのは支配階級のエリートだけ。
これには、魔法の術を一般人にも教えてしまうと、社会の秩序が揺らいでしまうからという、支配階級ならではの発想があった。
そんな考えが、晨平や琉輔は嫌いだったーー。

日本にも問題は山ほどある。
それでも晨平と琉輔は、この国を次第に好きになっていったーー。

晨平の男探しは難航した。
晨平も琉輔も可愛いので男位出来ても良さそうなものなのだが、高望みである事に加え、ゲイ界での常識や日本での常識を知らなさ過ぎる事も致命的であった。
仮にも元王子、特に晨平であるが、プライドが高過ぎたのもある。
アバンチュールなどもっての外、ちゃんとしたお付き合いを望んでいたのだが、網にかかるのは金目ばかり。
それでも、晨平はともかく琉輔は焦ってはいなかった。
そもそも琉輔は晨平につられて何となく動いているだけで、特に彼氏を必要としている訳でもなかった。
「ま、のんびり行きましょ、晨平ちゃん。」
こんな男日照りの状況でもマイペースなのが、琉輔の取り柄。

惑星トリーでは既に公式に、晨平と琉輔が亡くなった旨国民に発表されていた。
その死を悼む民は多数に上ったが、ゲイである事が発覚してぶった斬られるよりは皆にとってマシだったのであるから、これも結果オーライであったと言えるであろう。

そんな中、二人のうちの片割れに彼氏が出来たのである。
これが晨平に出来たというのならばめでたしめでたしで済むのであるが、彼氏が出来たのは琉輔の方なのであった。
これには晨平、不満タラタラであった。
「何でお前だけ!ぼくの何処がいけないって言うのさ!」
「たぶん、そういう所ー。ガツガツしてると、逃げてくょー。」
琉輔の的確なアドバイスに、ぐうの音も出ない晨平なのであった。

琉輔のお相手は、駆け出しの弁護士であった。
逢うのは週に一日位で、過ごすのは専らお相手の家。
これでも琉輔、晨平には気を遣っているのである。

ある晩。
広くもないバルコニーに出て、並んで夜空を見上げる晨平と琉輔。
「あの空の向こう側の何処かに、トリーがあるのかな?」
感傷に浸る晨平に琉輔が言う。
「寂しいの?でもトリーに居たままだったなら、好きでも何でもない女性と結婚して窮屈な暮らしをしなければならなかったんだと思うょ。ぼくは今の方がいいな。」
「そだね。」
それだけ返した晨平は、いつの間にか流れ出た涙を、服の袖で拭う。

こうして兄弟の地球での暮らしは、まずまずの滑り出しを見せたのであった。
もちろんペグもずっと側に居る。
この先晨平に彼氏が出来ても、この兄弟はやはり共に暮らすのであろう。
何だかんだで、仲良しなのだ。
今夜は雲一つない晴れ。
満点の星空に、乾杯だ。

-完-

即興で書いたお話。
なので中身は薄めかも。
箸休めにどうぞ。
宇宙人でありながらも、地球人と変わる所がまるでないのがポイント。
ちなみに、宇宙ネタは好きです。
ロマンがあって、良いのです。
ペグみたいなペットが欲しい、今日この頃です。
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