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Bloomin’ Flowers II : 朝顔の囁き

[Part 1 : 語り・かねじー]

まぁ何というかね。
出会い系ですよ。
自分の生き甲斐というのはね。
年齢?
今年で19になります。
遊んでばかりいて、虚しくないのかって?
虚しくなんかないっ!
虚しくなんかないっ!
虚しくなんかないっ!
恋愛ってそもそも、重たいし。
こう見えても可愛いって良く言われるので、相手には困っていないのです。
まぁ、出会い系から恋愛に発展する人も居るんだろうけど。
自分の場合は、面倒臭くって、もう。
という訳でぼく、仲間内からは“かねじー”と呼ばれています。
よろしくっす!(何がだよ。)

さて、今日も今日とて、出会い系。
いい相手を見つけたら、SNSのID交換するんだ。
お、早速いい感じのが。
相手、ちょっと奥手みたい。
こういうのは、ちゃちゃっと会ってみないとね。
まどろっこしいやり取りはなし!

で、カフェですょ、カフェ。
まぁここは行きつけなんで、ホームグラウンド。
こちらに有利。
相手の男は、っと。
顎の無精髭がいい感じ。
ゆるーい感じのデブかな。
ぼくはむちむちしているって良く言われるので、ちょっと方向性が違う。
でも、これもまた良し。

それよりも困るのは、会ってみて分かったのだけど、相手の男、想像以上に無口なんだ。
まぁ本当は嫌いではないんだけどね、そういうのも。
寡黙な男、ってやつ?
でも、ぼく的にはそういうのは、やっぱりちょっと苦手かなー。
いや、何度も言うけど、嫌いじゃないんだょ。
ただ、何しろ経験値が少ないから(どの口が言うか!)、どう対処したらいいのか、分からないのですよねー。
というか、ぼくネコなんで、リードするのは苦手なのです。
年下なんて初めてだし。
けどま、ここまできたらチャレンジあるのみ!

「あ、あのー。」
ぼくが夏向けのアイスドリンクのベンティサイズを啜っていると。
視線がこちらに向けられている。
「これから、どうします?」
振ってきた。
丸投げかょ、おぃ。
まぁでも、ここは仕方ない。
「とりあえずウチに来なよ。」
いきなりの直球、早過ぎたか?
などという心配は無用だったみたいで。
「はい、是非!喜んで!」
それはもう嬉しそうに言うので、安心と共に少し気が抜けた感じがした。

とりあえず、行きつけのカフェをそそくさと出て、徒歩で自分の部屋のあるマンションへと向かう。
空のてっぺんからじりじりと照り付ける陽射しが、鬱陶しい。
「かねじーさんの部屋って、ここから近いんですか?」
「う、どうだろう?ここから歩いて十五分位だょ。」
まぁそぞろ歩くといった感じに近い雰囲気で、でも一応は部屋には近付いているという感じなんだけども。
それにしても、会話がない。
困った。
仕方ないのでとりあえず、最近のアニメの話題を振ってみた。
本当は、オタク気質が多少なりとも知られるのは、恥ずかしいから嫌なのだけど。
とはいえ、どうせ部屋を見られる事だし。
関係ないか。
と、ここで。
意外にもこの話に乗ってくる相手。
まぁこの場はこれで繋げたからいいけど、後で火傷しないといいなぁ。

彼の愛称はハリモグ。
理由は聞かなかった。
まぁ何となく分かったから。
ハリモグラ、ね。
でも見た目はもっと大人しい、可愛らしい感じの子なんだけどな。
それはさておき。部屋に到着である。
「来て早々何なんですけど、お風呂頂いていいですか?汗かいちゃって。」
「いいよー。そこの棚のタオル、洗ってあるから自由に使って。」
流石は良く肥えているだけの事はある。
この時期、汗はマスト。
もちろん、自分だって人の事は言えないが。

待つ事四十分。
や、意外と長いな。
ま、昨日観損ねたアニメの録画があったから、暇を持て余していたという程ではないのだけど。
「長風呂、すいません〜。夏でもしっかり浸からないと駄目な方なんで。」
「あ、いぃょいぃょ。気にしないで。冷蔵庫のペットボトル、空いてないの好きに飲んでていいから。ぼくも風呂入ってくるね。」

で、出てみると。
何と!
ぼくが今晩一人で食べようとしていたプリンが、哀れハリモグの胃の中へ……。
何も言えずに立ち尽くすぼく。
ハリモグは「ご馳走さまでした!美味しかったです!」と、あっけらかんと言ってのける。
「いぃょいぃょ、気にしなくて。」
とは言ってはみるものの、内心では泣いているのだった。

ベッドの上で、壁に寄りかかって、二人並んで。
距離が近い。
やがて、どちらからともなくキスーー。

四十分後。
事を終えた、ぼくたち二人。
ぼくはハリモグにシャワーを勧める。
「浴び終えたら、今日泊まってきなよー!」
「いぃんですか?喜んで!」

ハリモグは一こ下。
二人共ネコだったので、ここは年上のぼくが頑張った。
ぼくがタチをするなんて、珍しい。
雨でも降らないといいけど。
ハリモグ、寡黙な青年だと思っていたのだが、部屋に着いてからは良く喋る。
たぶん、緊張がほぐれたのだろう。
ハリモグが出て来たのを見計らって、ぼくが交代でシャワーを浴びる。

部屋に戻ると。
ハリモグ、ぼくの昔の写真が収められたアルバムを、勝手に見ていた。
というよりも、没入している感じ。
そんなにいいのか?
よく分からない。
が、恥ずかしいので、背後から没収。

「やー、何すんのー!見てたのにぃ!」
何すんのって、それはこっちのセリフだ。
「ハリモグ、寛ぐのは構わないけど、居ない間にあちこち引っ掻き回すのはやめてね。」
頭が沸騰しそうなのを感じながらも、なるべく穏やかに、しかしはっきりと自分の意思を伝えてみる。
「そうですね。ごめんなさい。」
ハリモグ、ここはあっさりと折れてくれた。
これは有り難い。
いい子だ。
「でも、可愛かったですょ、かねじーさん!」
頰が熱い。
こういうとこ、自分まだまだ修行が足りない。
まだまだウブなのだ。

翌朝。
ハリモグが帰るので見送る。
「かねじーさん、またお相手よろしくお願いします。では!」
「あいよー。またねー。」
戻ると、部屋の中がザワザワしていた。
音はベランダの方から聞こえる。
カーテンを開け、サッシを開け放つと、ベランダに置いてある鉢植えの朝顔が何やら喋っていた。
朝顔が喋るのである。
普通に考えれば、一大事である。
が、ぼくは以前にも同じような経験をしているから、こんな事では驚かないのだ。
で、耳を澄ますとーー。

「ハリモグ、今頃泣いてるょ。」
「昔の思い出が辛いらしいね。」
「かねじー、ハリモグと付き合っちゃえばいいのに。」
「あの馬鹿かねじーは面倒臭がりだから、厄介事には首を突っ込まないと思うょ。」
「人でなしかねじー。」
「そうそう、ちょっと可愛いからって、何をしてもしなくても許されるって訳じゃないのにね。」
「お似合いだと思うんだけどな。」
「そう思う!ぼくも!ぼくも!」

ハリモグが泣いているーー。
それを聞いて、胸がざわざわした。
でも、ぼくに何が出来るってんだ!
そう思ってイラついたから、ベランダに向かってぼくは叫んだ。
「うるさーい!」
一瞬にして辺りは静まり返った。
ぼくって、結構残酷なのな。

[Part 2 : 語り・ハリモグ]

かねじーさん家からの帰り道。
体が重い。また罪悪感を感じている。
こんな自分が嫌だ。
あの日から、全てが狂ったままだ。

電車に揺られる。
いつもの事なのに、今日は何だかそれだけでイライラする。
早く帰ろう。
最寄り駅を降りると、途中コンビニで弁当二つとサラダ、それにコーラを買って家へと急いだ。

ぼくは一人暮らし。
そこはかねじーさんと一緒。
大学に通いながら、仕送りで生活をしている。
静まり返った部屋で独り弁当を食べていると、何だか泣けてきた。
次第に泣き声を抑えられなくなり、最後には号泣。
いつものパターンだ。
こんなぼくには、彼氏など出来やしない。
いや、そもそも作る資格がないのだ。

あの日ーー。
ぼくはハッテン場で、初体験を済ませた。
途中までは意識もしっかりとしていた。
コンドームも、ちゃんと着けてもらうつもりだった。
でも、カプセルのようなものをお尻に入れられてから、ぼくはおかしくなった。
相手は、生で挿れようとしている。
危険だ。
なのにーー。
身体が、言う事を聞かない。
生で犯されるぼく。
無我夢中だった。
気持ち良かった。
その時は、それで良かったのかもしれない。
だがーー。
後日、不安になって自治体の無料の性病検査を受けると、HIVの感染が明らかとなった。
結果を聞いたその日の夜。
ぼくは眠れなくて、独りで部屋で泣き喚いていた。
心にも身体にも、絶望感しか残っていなかった。

それからもぼくは、出会い系やハッテン場で相手を見つけてはSEXを繰り返していた。
もちろん、ゴムは着けてもらっていた。
まぁもっとも、相手がゴムを着けなかった所で、困るのは自分ではないと、高を括っている節はあったのだが。

こんな自分だから、彼氏など作る資格もないと思ってきた。
第一、説明するのも面倒だ。
だから、ぼくには彼氏など居た事もない。
顔は少なく見積もっても十人並みではあると思うから、これはおかしな事態と言えなくもなかった。

かねじーさんと別れた日の夜。
ぼくは気を紛らわす為に、またもSEXの相手を探していた。
堂々巡りである。
結局その晩は見つからず、眠れぬまま朝を迎えた。

翌日。
土曜日の朝。
ぼくはようやく眠くなり、そのまま眠りに就く。

夢を見た。
悲しい夢だった。
昔の事を、思い出してしまった。

還らない温もり。
父さんの大きな背中。
ぼくは父を、中学生の時に亡くしていた。
父は、病気だった。
父を蝕んでいた病の名は、エイズ。
父もまたぼくと同じように、ゲイだった。
父の死後間もなく、母が失踪。
たぶん、色々とショックだったのだろう。
その後は親戚の家で育てられた。
親戚の家の人たちは皆優しかったが、ぼくは父さんの温もりが恋しかった。
失くした温もりを求めて、男から男へと彷徨う日々。
でも、何度抱いても抱かれても、心が満たされる事はなかったーー。

起きると、窓の外はすっかり暗くなっていた。
シーツは、脂汗でべっとり。
とりあえず、誰かと寝たい。
そんな気分だった。
人肌の温もりを一時でも感じて、気を紛らわせたいーー。
ぼくはいそいそと携帯を取り出すと、画面を操作し始めた。

結局ぼくは、適当な相手を見繕って、その日の内に会う事にした。
夜。
知らない駅前。
待ち合わせた男と対面する。
タイプだ。
少なくとも、悪くはない。
二言、三言会話をする。
だが、別にそれが目的ではない。
だから自然と会話がなくなる。
とりあえず、抱いてくれればそれでいいーー。
いつものように、この時もぼくはそんな風に思っていた。

シーツを握る。
手に力がこもる。
足が突っ張る。
声が勝手に出てくるーー。

相手は、手練れだった。
夢中になる事、小一時間。
宴は、終わった。

二人してうつ伏せで、ベッドの上に横たわる。
相手が、尋ねてきた。
「君、遊んでるよね?」
別にそんな事を聞かれる筋合いはない。
腹が立ったぼくは、それとなく立ち上がると、服を身に纏う。
「帰るの?」
素っ気ない声。
ぼくは黙って頷いた。
「駅まで送るよ。」
助かった。
この辺り、道が入り組んでいて、道順を覚えていなかったのだ。

「じゃ、またその内に。」
「はい。ありがとうございました。」
相手と別れる。
たぶんもう、会う事はないだろう。

その時だった。
携帯が鳴った。
見ると、かねじーさんからのメッセージだった。
そこに書かれていたのはーー。

[Part 3 : 語り・かねじー]

ハリモグと別れた日の夜。
またも朝顔がうるさい。
花は萎れている癖に、口だけはいっちょまえだ。
耳をそば立たせてみるとーー。

「ハリモグ、HIVなんだってさ!」
「うちの主人と同じだね!」
「仲間だ、仲間!」
「仲良くすればいいのにねー。」
「ほんとだょー。」

驚いた。
まさか、と思った。
ちなみに、ぼくがHIVに感染した経緯は至って単純。
コンドームの先っぽを、切られていたのだ。
その時にハッテン場でSEXをした相手は、少なくとも誰かには、確信犯的に感染させるつもりだった筈だ。
で、たまたまカモられたのがぼくだったーーそういう事。

で。
ハリモグに再度連絡を取るかどうかーー。
ぼくは丸一日悩みまくった。
悩んで悩んで、遂に出した答えが、連絡を取る、というものだった。
生半可な覚悟ではいけない。
それは分かっていた。
それでもぼくは、あんなに可愛い子が苦しんでいるのを、放っておく事は出来なかったーー。
ぼくに何が出来るだろう、そうも思った。
でも、ただ側に居るだけでも救われる事があるーーそんな気がしたから。
だから、それ位の事ならきっと出来ると、そう思ったからーー。

ぼくはのっそりと起き上がると、携帯を手に取ってメッセージを送る。
文面は単純だった。

「やぁ、ハリモグ。何か悩みはないかい?ぼくはあるよ。実はHIVなんだ。ハリモグには隠さない事にした。何か困ってる事があるなら、何でも相談に乗るよ。暑いから、冷たい飲み物を用意して待ってるょ。良かったら、今からおいで。」

これだけだ。
あとは萎れた朝顔の未知の力に期待するだけだ。

それから小一時間。
朝顔がざわめき出した。

「ハリモグが来るよ!」
「ほんとだ。もうすぐ来るね。」
「どうなるかな?」
「期待しちゃうね!」

そして、ハリモグはやって来た。
息を切らして。
熱帯夜の最中、走って来たのだ。
案の定、汗びっしょり。
「お風呂入りなょ。ゆっくり浸かるといいょ。」
ハリモグは、涙交じりの笑顔で、頷いたーー。

[Part 4 : 語り・ハリモグ]

かねじーさんからのメッセージ。
そこには、自らがHIVである事を明かす一文があった。
全身に電気が走ったような、そんな感覚を覚えた。
走った。
今なら、まだ間に合う。
居ても立っても居られなかった。
もしも運命の人なんてのが本当に居るのなら、かねじーさんをおいて他には居ない、そう思えた。

かねじーさんの家に着いて。
彼はこんなぼくの事を、笑顔で迎え入れてくれた。
そして、お風呂に入るように促した後で、こう言った。
「来てくれて、ありがとう。」
その瞬間に、強張っていた身体から、力が抜けた。
その場に崩れ落ちて、わんわん泣いていた。
かねじーさんはそんなぼくの側で、そっと背中をさすってくれていた。

「嬉しい?」
不意にそう聞かれて、ぼくはただ頷いた。
するとかねじーさんも、笑いながら。
「ぼくも嬉しい。」
そう言って、ぼくの事を抱き締めてくれた。
その温もりが、冷え切っていたぼくの心に、火を灯してくれた。
ぼくたちは、ずっと笑顔だったーー。

それから、色んな事を話した。
かねじーさん、高校までは意外な事に、いじめられっ子だったらしい。
大学に入ってから、はっちゃけたみたい。
ぼくは、亡くなった父さんの事を話した。
やがて、話すのに疲れて、ぼくがうとうとしかけた時。
かねじーさんは、耳元でそっと囁いた。
「付き合わない?ぼくと。」
だからぼくは返事の代わりに、隣のかねじーさんの手を、ぎゅっと、ぎゅっと握った。

窓の外の空が白み始める。
朝顔が花を咲かせ、小鳥がさえずる。
新しい朝を迎えて、ぼくはただひたすら、幸せだった。
こんな日がずっと続けばいいと、心からそう思った。
そんなぼくの思いを察してか、かねじーさんは、「だいじょーぶ!」、そう言って頭を撫でてくれた。
夏もいよいよ本番。
これからはかねじーさんと、思いっ切り楽しみ尽くしてやるんだ!
そう思えたこの日が、ぼくたちの記念日になった。
これもみんな、朝顔たちが助けてくれたからーーそれを知ったのは、もう少し後の事だったけど。
悲しい過去とは、もうさよならだ。

お・し・ま・い

恒例の、話の途中で語り部が変わるパターン。
いつもの反則技。
ハリモグという愛称は気に入っています。
近付こうとすると人を傷付けるから、近付けない、といったイメージです。
かねじーの“かね”は、お金の“かね”です。
じーはアルファベットの“G”。
お金と“G”によって生きる、みたいな。
“G”が何なのかは、秘密です。
意外と分かり辛いかもしれません。
それと、タイトルをBloomin’ Flowersに改題しました。
シリーズ化にあたり、当初大のお気に入りだったPractical Jokeというタイトルだと不都合が出てしまったからでした。
混乱させてしまい誠に申し訳ありません。
さて、ストーリーですが。
現実はこんなに甘くはないとは思いますが、フィクションだからこそ敢えて、ハッピーエンドにしてみました。
楽しんで頂けましたら誠に幸いです。
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