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Bluebird : ぷくぷくの詩 [Spiritual Fantasy]

そこは日本の片隅の、小さな農村。
段々畑が広がる、長閑な田舎。
その一角に、両親に先立たれた兄弟がおばあと暮らす、古ぼけた小屋があった。
両親は自動車事故に遭って、兄弟の目の前で、見るも無残な姿に変わり果てた。
それ以来兄弟は、おばあの家で暮らしている。
本当は辛かったし寂しかったが、二人は弱音を吐かなかった。
一人じゃない。
そう思えたから、寂しさなんて吹き飛ばせた。
兄弟は日が経つにつれて、丸っこく縦にも横にも成長していった。
二人は、食いしん坊だった。
そんな二人におばあはいつでも優しくて、芋の煮っころがしや野菜炒め、豚汁などを毎日たくさん作ってくれた。
「さ、何にもないけど、たんとおあがり。」
「そんな事ないよ、おばあ!頂きまーす!」
「美味しそう!いつもありがとう!頂きまーす!」
兄弟の元気な声が小屋に響いた。

兄弟は二人とも明るく人懐っこい性格で、通っている中学校ではどちらも人気者だった。
二人とも勉強の方はイマイチだったが、要領は良く、いつも赤点は免れていた。
弟はよく、怒ると頰をぷくぷくとさせていた。
触りたいのだが触るとますます怒るので、見ているだけ。
兄にとっては、それが可愛くて仕方ないのだった。

兄弟は、兄が新太、弟が涼太と言った。
新太のテストの答案が返ってくる日。
中三の夏。
授業で。
「おー、新太。今回もギリギリ赤点は免れたな!次はもうちょっと頑張れ。」
先生の言葉に新太、ペロンと舌を出す。
「新太ー!たまには満点取れよー!」
「新太の頭じゃ無理だって!」
「そりゃそうだな!」
クラス中が大笑いだ。
先生はみんなに「新太にだって可能性はある!やれば出来る!」と言うのだが、誰も聞いてはいなかった。

その頃涼太は、熱を出して寝込んでいた。
この頃、体調を崩していたのだ。
おばあが懸命に面倒をみるが、その甲斐もなく熱は上がる一方。
仕方なく村の小さな診療所の先生に診てもらう事に。
診察を終えた涼太が待合室の椅子にどうにか腰掛けている間、おばあは先生から病気の事を聞いていた。
「涼太は、涼太はどうなんですか?」
「詳しい検査は町の病院で行うのですが、症状から見て急性骨髄性白血病の疑いがあります。残念ですが、手遅れかも知れません。」
「うわぁー!」
おばあはその場で泣き崩れた。
微かに聞こえる、診察室でのおばあの泣き声で、涼太は自分の運命を悟った。

それから涼太は、あっという間に空の星になった。
最期の夜、朦朧とする意識の中で、涼太は頰をぷくぷくと膨らませた。
新太もおばあも、涙をどっと溢れさせた。
「なぁ涼太、どうしてそんなに早く逝っちゃうんだよぉ!」
新太は毎日夜になると、星空を見る度に涙が止まらなかった。
それは、新太が中三の秋を迎える頃の事だった。

新太は高校進学を断念する事にした。
弱り切ったおばあに、これ以上の負担をかけることは出来ないーー。
そう思ったから、だから東京へ出て稼いで、少しでも仕送りしようと思ったのだ。
おばあは涼太が亡くなってから、みるみる衰弱していった。
正直、見ていられなかった。
新太も気分が塞ぎ込んでしまい、学校でこれまでのように振る舞う事が出来なくなった。
自然と、新太は学校で、空気のように透明な存在へと変化していった。
そんな時だった。
この頃、昼休みは屋上で一人で過ごす事が多かった。
そんな新太の隣に、弟の涼太みたいにまん丸なクラスメイトがやって来て、ドカンと座った。
呆気に取られる新太。
埒があかないと思ったのだろう、彼の方から話しかけて来た。
「なぁ新太、卒業したら就職するんだって?」
「うん。康太は?」
「俺も就職。先公、同じクラスから二人も就職する生徒が出たってんで、慌ててたぜ。」
「うち、弟が亡くなってから親代わりのおばあの具合が悪いんだ。日に日に悪化してる。早く就職先見つけて、仕送りしなきゃ。」
「そっか、お前も大変だな。なぁ新太、お前、俺の友達になれ。なんか、可愛いんだよな、お前。」
頭が沸騰した。
そういえば、今まで意識などしていなかったが、康太、ぶっきらぼうながらもなかなか可愛かったりするのだ。
「う、うん。よろしくね。」
片手を差し出すと、ガッチリとハグされた。
苦しいが、ここは我慢だ。
こうして新太と康太は、友達という関係からスタートするのだった。

それからは、霧がかかったようだった心に、光が射した。
新太と康太は、学校の中でも外でも、いつでも一緒だった。
「ねぇ、あの二人、付き合ってるんじゃない?」
「嫌ねぇ。男同士で。不潔!」
何が不潔なのかはよく分からないが、こうした囁きを耳にする機会は日増しに増えていった。
それでも激しい虐めに発展しなかったのは、康太の腕っぷしが強かったからだろう。
「あらやだ、あの二人ラブラブねー。」
「ホントねー!穢らわしいわ!」
またいつもの陰口。
堪らなくなって新太は尋ねた。
「ねぇ康太、あんな事言われて悔しくないの?」
だが、康太は余裕だった。
「弱い奴らに何を言われようが、どうって事ねぇな。言いたい奴らにゃ言わせとけばいいんだよ。」
そう言ってほくそ笑む康太は、いつもよりも更に大きく見えた。

その日、学校からの帰り際。
康太はさりげなく、こう言った。
「お前、ゲイの事って、どう思う?」
これはもしや。
新太は即答した。
「ぼく、康太がゲイでも驚かないし、嫌いにならないょ!」
すると。
いつになく真剣な表情で、康太はこう言った。
「なぁ新太、俺と付き合わねぇか?」
新太は黙って頷いた。
この時の康太の顔は、可愛かった弟の涼太の顔を彷彿とさせたが、一方でより男前でもあり、それがまた大きな魅力でもあった。
顔が火照る。
次の瞬間だった。
校門近くだったので人目もあるというのに、康太は新太にキスをした。
フレンチ・キス。
ハグをして見上げると、そこには優しい笑顔があった。
気が付くと人だかりが出来ていて、みんなが僕らを囃し立てている。
「さ、行くぞ。」
康太に手を引かれて、慌てて駆け出す新太。
「いつでも俺の傍に居れば安心だから、心配すんな。」
遠巻きに眺めては囃し立てる連中など何処吹く風、ケロッとした顔で康太はズンズンと進む。
そう。
どうせ彼らは、康太には手出し出来ないのだ。
喧嘩で康太の右に出る者は居ない。
以来卒業まで新太は、片時も離れず康太の傍に居る事にした。
その点は康太も満更ではなかったようで、二人の絆は一層、深まった。

年明け。
正月が終わったばかりの頃に、新太は康太を家に招待した。
喜んでくれるかと思っていたおばあの顔色が冴えない。
確かに恋愛はしているが、この日まで肉体関係はなく、この日もそんなつもりはなかったのだが。
ゲイである事がもう既に、駄目らしい。
そんな雰囲気がムンムンだ。
や、流石はおばあ。
カミングアウトもしていない上、初見なのに鋭いな。
新太は、そう思っていた。
で、開口一番。
「二人とも女の子みたいだけど。早く良いお嫁さんが見つかると良いわね。」
この調子である。
新太と康太は顔を見合わせると、溜め息を吐いた。
その夜。
康太は新太の家に泊まっていく事になったのだ。
が。
部屋に二枚、布団を敷こうとすると、おばあが怒った。
「新太、あんたは囲炉裏の前で寝なさい!部屋はお客さんに使ってもらうの!当然でしょ。」
これには新太も康太も、何も言えなかった。
結局新太は寒い囲炉裏の前で、震えながら一晩を過ごした。
その日以来、おばあは新太に一言も口を利かなくなった。
ただ同時に、肩の荷が少し下りた気もした。
あ、仕送りしなくてもいいんだーー。
勝手なものだが、これもおばあなりの気の遣い方なのではないかと、そう思ったりもした。

その後も、康太とはとても仲が良かった。
それが唯一の心の救いであり、楽しみでもあった。
特に何をするという訳でもなかったが、一緒に話しているだけで気が晴れた。
季節は冬。
放課後、新太は康太の家にお邪魔する事が多かった。
康太のお母さんは、新太にも優しかった。
自然と新太は、寝る時以外は家に寄り付かなくなった。

春。卒業の季節。
新太と康太は揃って、上京して就職する事になっていた。
卒業式の日。
おばあは酷く体調を崩していて、出席出来なかった。
元々体調が悪かったのだから仕方ないーー。
新太は、その位に考えていた。
それが、甘かった。
式を終え、一旦康太とは別れて帰宅すると。
そこには、天井からぶら下がるおばあの、見るも無残な姿があった。
へなへなと、その場で崩れ落ちる新太。
ふと、ちゃぶ台に目を遣ると、メモ紙が置いてあった。
遺書である。
間違いなくおばあの字だ。
そこには短く、こう書かれていた。
「ホモ、ちゃんと治すんだよ。早くお嫁さんを貰って、天国のおばあに孫の顔を見せておくれ。」
どうしよう、新太はそう思った。
涙が止まらないのだ。
早く警察に通報しなければならないのに。
新太は咄嗟に、康太の家へと駆け出していた。
門の前で。
チャイムを鳴らす。
鼓動がやけにうるさい。
永遠に近い一瞬。
やがて康太のお母さんが玄関扉から姿を現した。
「あら、新太君。待ってて、今康太を呼ぶから。」
程なくして、大きな体がのっそりとこちらに近付く。
「どうした、新太。何か用か?顔色悪いぞ。」
この時の新太にとっては、口で説明するのがもどかしかった。
新太は康太の手を掴むと、家まで引っ張るのだった。
「おいおい、どうした?」
声で、心配してくれているのが分かる。
でも今は、それどころではないーー。

家に着いた新太は、ちゃぶ台の所まで康太を案内する。
「な!?なんだ、これは!」
無理もない。
康太もこんな光景は、初めてだったのだ。
当然だ。
メモを手に取って、見せる新太。
康太の衝撃は、より深いものとなったようだ。
だが、新太が「別れよう」と言い終えるその前に、康太は新太をきつく抱き締めていた。
康太は、泣いていた。
「別れたくねぇ!俺、お前とずっと一緒に居る!」
その時だった。
幻だったのかもしれない。
ただ、青い鳥が確かに舞っているように、新太には見えていた。
やがておばあの姿が目の前に現れる。
おばあは、透き通っていた。
「天国でお前の父さんと母さんに怒られちまってさ。自殺なんかするんじゃない、二人の幸せを願えなくてどうする、ってね。」
続いて、父さんと母さんの姿も目の前に現れた。
やはり透き通っている。
「私たちもついさっき青い鳥に纏わる伝説を知った所でね。
願い事を願う人が自らの命や魂を差し出せば、何でも願いが叶うのだそうだ。
おばあと母さん、それに私がこの世界から完全に消え去る事と引き換えに、弟は蘇る事が出来る。新太、康太君、弟の事、よろしく頼む。」
それだけ言い終えると三人は、その姿を消してゆく。
「父さん、母さん、おばあー!」
新太はぐったりとしてその場に崩れ落ちる。
何やら気配がするので振り返ると、そこには一糸纏わぬ姿で横たわる、弟の涼太の姿があった。
「兄ちゃん、兄ちゃん!」
涼太は新太の胸の中で、いつまでもずっと泣きじゃくっていた。
おばあの亡骸はいつの間にか、跡形もなく消えてなくなっていたーー。

それから一カ月後ーー。
新太と康太と涼太は、東京のアパートにてちょっと変わった共同生活をスタートさせていた。
涼太は中三になった。
あいにく進学させる余裕はないので、卒業したら働いてもらう。
三人ともまだ子供といえば子供だから、共同生活はしばらく続くだろう。

ある日の事。
冷蔵庫の中を物色する康太。
プリンを見つけて、食べてしまう。
新太も油断していた。
実はそのプリン、涼太がなけなしの小遣いで買ったものなのだ。
「プリン♪プリン♪」
涼太が鼻唄混じりで冷蔵庫に近付く。
と、そこで。
避けられない運命、見てはいけないものを見てしまった。
涼太は目に涙を一杯に溜めて、頰をぷくぷくと膨らませる。
康太は笑いながら涼太の頰を潰すのだがーー。
これで涼太、余計に怒ってしまった。
涼太、無言で涙を流し続ける。
頰をぷくぷくと目一杯に膨らましながら。
仕方ないので、新太が康太に。
「プリン買って来てー!ぼく今、食事の支度で手が離せないのー!」
「あいょ。坊主、一緒に来るか?」
「うん!」
涼太、すっかり機嫌を直した様子。
現金なものである。

その日の夕食は、カツカレーとロールキャベツ、唐揚げとシーザーサラダだ。
食べ盛りのデブが雁首を並べるという事で、ご飯はいつもの通り、一升半炊いた。
保温出来るのだから別に残してもいいのだが、そこは食いしん坊揃い。
まず残らない。
「ねぇ兄ちゃん、テレビゲーム欲しい。」
「毎回食べる量を半分にしてくれたら、考えてもいいよ。」
「嫌だ!テレビゲームなんて要らない!」
よしよし。
ただでさえエンゲル係数の高過ぎで困っているのだ。
これ以上の浪費は、是が非でも避けておきたい。

食事の後はお風呂だ。
狭いのだが、いつも三人で一緒に入る。
「楽しいけど、暑苦しいよ、兄ちゃん。」
「そうだね。みんなで痩せよっか?」
「やめとけ(笑)」
それはもう、楽しい時間だ。

今日は金曜日。
明日はみんな揃って休みだ。
遅くまでテレビを観る。
涼太、眠そうだ。
「おい坊主、そろそろ寝たらどうだ?」
「嫌だ!どうせまたSEXするんでしょ!ぼくも混ぜて!」
二人の情事、涼太に見られていたのだ。
新太は耳まで真っ赤になるのを、肌で感じていた。
次からはどうしようか。
まさか本当に混ぜる訳にも行くまい。
だいたい、兄弟揃ってゲイだというのも、どうなのか。
頭痛の種が、また一つ。

翌日。
近所の広い公園で寛ぐ三人。
空には、青い鳥が無数に舞っている。
空の青と鳥の青とが混ざり合って、それは綺麗だった。
幻かもしれない。
ただ一つ言えるのは、確かに事切れた筈の涼太が蘇ったという事、それだけだ。
三人はベンチに座って、並んで喋っていた。
その一瞬一瞬が本当に幸せで、手放したくない、心からそう思った。
三人で歩む道が、広く長い道でありますようにーー。
三人はそれぞれの心の中で、そう祈らずにはいられないのだった。

Bluebird シリーズ久々の新作。
一応、全編書き下ろしです。
当初はBluebird シリーズの短編を新たに書くのは気乗りがしなくて、単発の作品にする予定だったのですが、書き進めてゆく内にこうなりました。
まぁ、成り行きの賜物です。
いつも通りの、行き当たりばったり。
ぷくぷくの詩、そんな名前の詩のようなものを書いた事がありました。
タイトルはそこから取っています。
ちなみに、スピリチュアルな世界は、割と信じている方です。
だからこそ怖いのですが。
さて、度々修正かけてます。
いつものパターンとはいえ、誠に申し訳ありません。
今後ともお見捨てなきよう。
よろしくお願い申し上げます。
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