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Hero [キミに捧ぐ詩]

独りぼっちだった。
ずっと、ずっと。
もう思い出せない程昔から、ボクの傍には誰も居なかった。
そんな日々を、苦闘を、キミだけは見ていた。
いつの頃からか、そっと寄り添うように。
だからボクは、キミのためにならどうにでもなれる、そう思った。
初めての気持ちだった。
胸がポカポカ、温かかった。
そんなキミも、ずっと独りぼっちだった。
ボクたちは惹かれ合うだけではなくて、同じ、仲間でもあったんだ。
この話は、そんなボクたちの特別で普通な日常を綴った、日記のような物語であるーー。

Hero [キミに捧ぐ詩]

ボクは幼い頃から何度も自殺未遂を繰り返して来た。
リストカット、首吊り、色々やった。
両親や親類縁者からは、既に見放されていた。
通っている中学を卒業すると同時に、自活する事になっていた。
全てを、諦め切っていた。
ただ、寂しかった。
それだけだった。

胸が痛い。
いや、こころが痛い。
軋むように。
そんな中。
学校で。
ボクを見つめる、キミを見つけた。
独りぼっちで佇んでいた。
ボクと、同じだった。
憂いに満ちた瞳が、それを物語っていた。
もしかしたらボクもあの子にはそう見えているかも知れないーー。
そう思った。
だから、嬉しかった。
やっと、仲間を見つけた。
そんな気がした。

この時、ボクは中学三年生だった。
両親は居ない。
ボクが幼稚園の頃に、山のような借金を残して失踪した。
事業が失敗したのだ。
それ以来、親戚をたらい回しにされる日々。
誰からも疎まれていた。
仕方なかった。
所詮は親子ではない。
他人なのだ。

小学校の頃。
ある年の夏。
ボクは親代わりの親戚に、線香花火をねだった。
店先で。
「ねぇ、これ欲しい。」
バチン!
頬を叩かれた。
これが初めてではない。
だがこの時に、ボクはようやく学習した。
誰にも何もねだらない、決して甘えない。
そう、固く心に誓った。
隣には、別の親子の姿があった。
「ねぇパパ、花火やりたい。」
「よしよし、どれが良い?」
「これー!」
「よーし、帰ったら一緒にやろうな。」
息子の頭を撫でる父。
正直、羨ましかった。
でも、羨んでも意味はない。
ボクはこの時から、ある意味では諦めが良くなった。
自殺未遂を始めたのも、この頃からだった。
この世界に未練はない、これ以上迷惑を掛けたくないーー本気で、そう思っていた。
これは、単なる我儘だったのかも知れない。
それでも、衝動的に死のうとするのを止める事は、出来なかった。
だが。
死ねなかった。
意外と、難しいのだ。
ただ、一日一日が気怠く、鬱々としていた。

こんな事もあった。
ある日。
熱を出した。
珍しく。
39℃あった。
だが、親代わりの親戚は、何もしてはくれなかった。
学校へも連絡してくれない。
「軟弱ね!熱なんて気持ちの問題よ!早く学校へ行きなさい!邪魔なのよ!いっそこのまま死んでしまえばいいんだわ!そうよ、自殺するくらいなら、そうなさい。それがいいわ。」
罵倒された。
結局、行った先の学校で倒れてしまい、家まで帰る事に。
布団に寝ていたが、ぐちぐちと文句を言われたものだ。
今思えば、それすらも懐かしい。

それからも親代わりの親戚の顔ぶれは度々変わったが、互いの関係性に違いはなかった。
余計な物をねだれば叩かれる。
余計な事を言えば蹴られる。ど突かれる。
だからひたすら目立たないように、大人しくしていた。
それ以外には、自分の感情を押し殺す事以外には、生きてゆく方法はなかった。
ただ、死にたかった。
その思いだけが、日増しに募っていった。

学校でも、いつも独り。
特に虐められていた訳ではない。
ただ何となく、無視されていた。
勇気を出して声を掛けても、誰からも返事はない。
独りぼっちの長い一日。
正直、持て余していた。
何の記録にも、記憶にも残らない、透明なだけの日々。
キミに会うまでは、ボクは空っぽの、本当にただの、がらんどうだった。

出会った日。
というよりも、ボクがキミを初めて意識した日。
ふと視線を送ると、キミは笑う。
憂いに満ちていた冷たい瞳に、温もりが灯る。
それは、精一杯の勇気の証。
だからボクも、笑った。
勇気には、勇気で応えたかった。
やがてボクは近付いて、教室を出るように促した。
「行こう。」
もう間もなく授業開始。
でも、ボクは進学しない。
だから、関係なかった。
すれ違った先生も見て見ぬ振り。
厄介事には関わらないのだ。
二人して、廊下を歩く。
気が遠くなった。
鼓動がうるさい。
自分でも意外な程に、この時の自分は大胆だった。
すると。
キミの手が、温かな手が、スッと伸びてきた。
慌ててそっと、握り締める。
誰も居ない廊下で。
無言のやり取り。
ボクはこの時確かに、幸せだった。

そのまま空き教室に入り、二人で話をした。
「ねぇ、キミ、名前は?」
ボクが訊ねる。
「悠真。キミの名は、何て言うの?」
「陽太。よろしくね。」
久々の、本当に久々の笑顔が零れた。
自分もまだ笑えるんだーーそんな当たり前の事が、意外にも思われた。
その時。
キミもまた、笑った。
「多分、陽太もボクと同じ、仲間だよ!仲良くしようね。」
そう言って、キミはボクのヒーローになった。
いつまでも変わらない、絆がここに生まれた。

それから、いろんな話をした。
悠真にも、両親は居なかった。
幼い頃に自動車事故で亡くしていたのだ。
親戚の元へと身を寄せる事の辛さ、切なさを、悠真は分かってくれていた。
悠真は言う。
「授業を抜け出してきちゃったけど、陽太は進学するの?ボクは就職するよ。だから大丈夫。これ以上親戚に迷惑も掛けられないしね。」
そんな事まで、同じだった。
「ボクも就職するよ!おんなじだね!」
嬉しくて、声が自然と上ずった。
その時。
不意打ちだった。
「陽太は、ボクの事好き?友達としてでも、それ以上でも。」
固まってしまった。
衝撃で思わず。
目の前の顔がみるみる残念そうに変わる。
でも、だからこそ、再び勇気が出た。
「好きだよ。大好きだよ。」
顔が火照っているのが分かる。
次の瞬間。
悠真はボクの事を力一杯抱き締めて、嗚咽を漏らし始めていた。
ボクはただ、あまりの展開の早さに戸惑って、悠真の胸の中で、もらい泣きをするしかなかった。
やがて悠真は、笑った。
「もしかしたら、ってずっと思ってたんだ。キミならきっと、酷い事は言わない気がしたから。だから勇気が出たんだ。」
だからボクも笑った。
「ボク、キミみたいな子が好きなんだ。付き合うってだけじゃなくて、仲間に、同士に、お互いの味方になれる気がしたから。嬉しかったんだ。ずっと想っていてくれて、本当にありがとう。」

その日から、ボクたちの交際はスタートした。
と言ってもまだ中学生。
ましてやどちらの親も、悠真やボクの来訪は歓迎しない。
という訳で、交際はほぼプラトニックだった。
まぁ、キスは済ませたけどね。

それから、学校をちょくちょくサボるようになった。
もちろん、二人でだ。
今のボクたちの親代わりの親戚は、そういった事には一切、無関心だった。
ただ、中学校を卒業したらすぐに働く。
これは絶対に破れない約束だった。
それさえ守れば、中学校卒業と同時に居なくなるのであれば、うるさくは言わない人たちだった。
まぁ、迷惑さえ掛けなければボクたちに無関心なのは、間違いがなかった。
それはある意味では、とても有り難い事でもあった。
さて二人共、小遣いはほとんど貰っていないから、お金のかかる遊びは出来ない。
という訳なので、図書館や公園通いは日課となった。
近所に大きな公園があって、そこは時間潰しには最適だった。
本屋での立ち読みもよくやった。

ある日、公園で。
悠真が悲しい顔をしている。
放ってはおけない。
理由を訊ねてみる。
「僅かなお金を毎月少しずつやっと貯めて買った一冊の漫画本、親代わりの親戚に破り捨てられたんだ。この穀潰しめ、資格の本でも買うと思ったら!って言って四発ビンタされちゃった。ボクが悪いんだ。けど、悲しいぃ。」
悠真の目には、涙が浮かんでいる。
もう、見ていられない。
ボクは思わず、叫んだ。
「キミは悪くないよ!僅かでも、お小遣いには違いないんだ。漫画を買ってはいけない、そんな道理はない筈だよ!」
悠真はボクの体にしなだれかかって泣いていたね。
本当はボク、そんな時間も幸せだったんだ。
悠真にはそんな事、口が裂けても言えないけどね。

この頃、学校ではちょっと困った事が起きていた。
ボクたちの交際が、クラスメイトにバレたのだ。
時々は学校に行くようにしていたのだが、クラスにいる間中、嘲笑と嫌がらせの嵐。
机の足下に画鋲がばら撒いてあったり、宿題でやって来たプリントを盗まれたり。
ボクは正直に、プリントがなくなった、そう言った。
だけど先生は、全く取り合わなかった。
それどころか、ボクが嘘をついていると一方的に決め付けて、ボクをみんなの前で晒し者にした。
「忘れたら忘れたと、そう言いなさい!あなたは底意地の悪い大嘘つき。どうして嘘なんかつくの!やる気がないなら、出て行きなさい!進学しないからって、適当に授業を受けるなんて、私は許さない。この愚か者が!親が居ないから、こんな馬鹿が育つんだわ!後であなたの親戚を呼んで、叱咤してもらうようにします。覚悟おし!」
涙が、止まらなかった。
クラスメイトは皆、クスクスと笑っていた。
「みんな、こんな馬鹿と同じになりたくなければ、笑うのはよしなさい。ところであなた、まだ居るの?どうせやる気なんてないんだから、出てって頂戴。邪魔!」
ここで救いだったのは、悠真が駆け寄ってくれた事。
「もう学校なんて行かないで、一緒に遊ぼうよ。その方がずっと楽しいよ!」
悠真の言葉に、また救われた。
やっぱり悠真は、ボクのヒーローだ。

それからは就職活動までの間、前にも増して二人でよく遊んだ。
ちなみに、プリントの件では、ボクたちは二人共親代わりの親戚に、殴る蹴るの暴行を受けた。
「この恥晒しが!貴様なんて、人間の風上にも置けないわ!このアホンダラあぁーー!!!」
この一件で、また一段と強くなった。
元々の諦めの良さもあるにはあったが、いちいち落ち込んでいてはキリがないと、ようやく悟ったのだ。
まぁ、悪い事ばかりではないという事だ。

それから、卒業式まで一日も学校へは行かなかった。
職場は、小さな町工場。
雑用からのスタートだが、嬉しい事もある。
悠真と一緒に働ける事になったのだ。
仕事は、キツかった。
だが、二人だ。
一人ではない。
だから、まだ頑張れる。
やれる。

仕事を始めてから、一緒に住み始めた。
LGBTフレンドリーな物件に詳しい不動産屋さんで、男同士で住める格安の物件を見つけたのだ。
築28年だがこの際だ。
文句は言うまい。
二人暮らしでダブルインカム、しかも家賃は格安。
暮らしに少しばかりの余裕が出来た。
嬉しい誤算だった。

勤務先の人たちは、仕事さえ出来ればゲイであろうとなかろうと、関係はないという人たちばかり。
だからこそ、頑張るしかない。

やがて、勤務開始から半年。
仕事にも慣れて来た。
勤務先の人たちの殆どは、ボクたちの関係を知っている。
それでも、何も言われなくなった。
みんな、当たりが柔らかくなって来たような気がする。
以前のように罵倒される事がなくなった。
「おはようございます、皆さん!」
「おはよう、悠真、陽太。」
工場の中に、やっと小さな居場所が出来た。
もう手離すまい、そう思った。

ある日の夜。
二人の自宅で。
まだお酒は飲めないから、ジュースで乾杯。
お酒ってどんな味がするのだろう?
興味はある。
早く成人して、一人前になりたいものだ。
さて。
今日は悠真の誕生日なのだ。
珍しくホールケーキなど買って、お祝いをする。
プレゼントは、前から欲しがっていたテレビゲーム機。
「わ、これ、良いの!?」
「当たり前だよ!キミのために買ったんだから。」
「嬉しい!やっぱり陽太は、ボクのヒーローだね!」
あ、おんなじだ。
ボクがずっと思っていた事。
やっと共有出来た気がして、嬉しかった。

その夜。
布団の中で。
SEXもそこそこに、二人で語り合った。
驚いたのは、悠真にとってはボクが初恋の相手だったという事だ。
「陽太の事が可愛くて、ずっと見ていたんだ。男同士だし、それ以上の事は出来なくてさ。でも初めて目が合った時、きっと陽太はボクとおんなじだって、直感でそう思ったんだ。だから勇気が出た。出会えて、良かった。」
ボクにとっては悠真は二人目の恋の相手だったが、これには特に触れないでおこう。

翌朝。
今日は仕事がお休みなので、朝から凝った料理を作ってみる事にした。
なに、材料は昨日の内に買い出してあるのだ。
あとは腕次第。
どうなるか?

それにしても、二人並んで仲睦まじく料理だなんて、幸せ過ぎる。
今日は朝から天ぷらと煮物、それに銀ダラの煮付けと豚の角煮、そして山程の豚汁を用意するのだ。
気合いが入っている。
豚の角煮は圧力鍋で作る。
圧力鍋、珍しくボクがおねだりしたのだ。
やっぱり時短でしょ、という訳で。
ご飯は一升炊いてみた。
食べ切れるかな?
まぁ無理なら晩御飯にでも、と思っていたのだが。
やっぱり食べ切ってしまうのだ、二人で。
や、我ながらこの家、エンゲル係数高いな。
大丈夫か?
少し心配になる。
「何ぼーっとしてるの?陽太の分、ボクが食べちゃうよ。」
悠真になら良いのだが。
食べられても、別に。
でもまぁここは、慌てて食べるふりをするのである。

午後からは遅い昼食を食べに外出だ。
二人の洋服も見たいので、都心に出る事にした。
電車に揺られる。
勤務先の工場は家の近所だから、こんな事でもない限り、電車に乗る事はない。
車内の混み具合はそこそこ。
助かった。
ボクたち二人共、満員電車は苦手だったもんね。

やがて電車は新宿駅に到着した。
降りるボクたち。
が、ここで。
ボクはいつの間にかはぐれてしまった。
しばらく探していると、悠真に良く似た姿を発見。
たぶん間違いない。
筈なのだがーー。
その男、地下通路で女と、キスをしていた。
まさかね。
まさか。
でも、不安で。
悔しくなって。
久しぶりに涙が零れる。
と、そこへ。
携帯への着信。
悠真からだ。
「ねぇ、今何処?ボク、マルイ前。早くおいで。」
良かった。
本当に。
こういうのを、取り越し苦労と言うのかも。
心配して損した。

マルイ前に到着。
だが、別にマルイで洋服を買う訳ではない。
高いし、どうせサイズもないのだ。
洋服はサカゼンで買うとして、まずは腹ごしらえだ。
心配したらお腹が空いた。
こういう時は、食べ放題のお店がボクたちの味方だ。
とは言っても、別にホテルまで出向く訳ではない。
そんなにお金はないのだ。
格安のランチビュッフェ。
お値段なりだが、悪くはない。
「さっきボク、悠真に良く似た人が女の人とキスしてるとこを見ちゃってさ。心配したよー。」
「何だよそれー!ボクがそんなに浮気者に見えるのか?残念だ!」
「ごめん、悪かったよ。でも、良かった。」
二人で、笑った。
すっかり二人だけの世界に入り込んでいたボクたち。
気が付くと、ランチビュッフェの制限時間が到来。

その後、ボクたちはサカゼンで服を見立てて、帰途に就く。
電車の中で。
ボクたちは互いに見つめ合って、笑顔だった。
これからも、こんな平和な日常が続いていくといいな。
そう思った。
やっと得た居場所。
手放す訳にはいかない。
ボクたちはもう独りぼっちじゃないんだ、そう思うと、不意に涙が零れた。
それを悠真は、ハンカチで優しく拭き取ってくれた。

ーーキミは、ボクだけのヒーローだ。
ボクもきっと、キミだけのヒーローになるから。
だから、一緒に居よう。
結婚なんて出来なくてもいい。
これがボクたちが見つけ出した、唯一無二の答えなのだからーー。

幸せになるんだ。
そう誓って、一人、拳を握り締めるのだった。

-完-

こういう話を書いていると、自分って本当に恵まれていたんだなぁ、と思います。
完全なるフィクションです、当たり前ですが。
ちなみにヒーローというタイトルは、一度使ってみたかったのです。
ちょうど昔の作品のような雰囲気の話が書けそうだったので、使ってみたのでした。
中卒で黙々と頑張る子達って、個人的には素敵です。
デブ君だったら萌えるかも。
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