FC2ブログ

GREEN : GREEN [FE]

[Part 1 : 語り - ニト]

雑踏の中で。
それは、勧誘だった。
しかも、悪質な。
「お住まいは、どの辺りですか?」
これで俺はキレた。
それまでは適当に相槌を打っていた。
それがいけなかったのだが。
俺は「うがぁ!」と叫んで、勧誘を振り払った。
不動産の勧誘だが、俺にはそんなものを買う余裕はない。
ここハーレスに越して来て二年になるが、冴えないワンルーム暮らしなのだ。
ハーレスは便利で治安も良いが、とにかく家賃が高い。
それも、べらぼうに。
他国だが、メープルキングダムの首都・メープルシティ並みには高いのではないかと思っている。
メープルシティも、家賃は鬼のように高いというからな。
メープルシティもハーレスも、ワンルームはとても少ない。
そもそも、将来のために貯蓄もしたいのだ。
ワンルームは安くて良い。
だから、今住んでいる物件は貴重なのだ。
それにしても遅い。
俺は約束に遅れている相方のポコを待ちながら、銅像の前で貧乏ゆすりをしていた。
こんな事はしょっちゅうなのだが、せっかちな俺はいまだに慣れない。
「ニト、ごめーん!」
ポコが駆け寄る。
「何がごめんだ。お前が可愛くなかったら、とっくに帰っていた所だ。」
俺は頰を膨らます。
するとポコ、俺の両頬に人差し指を突き立てて、おもむろに押す。
頰の中の空気が間抜けな音と共に抜けてゆく。
ケタケタと笑うポコ。
「あのなぁ!」
俺は怒っているのだが、ポコは笑うのを止めない。
まぁ、いつもの事なのだが。
「怒らない怒らない。お詫びにお昼ご飯奢るからさ。」
嬉しい!
喜びが湧き上がる。
笑いが止まらない。
「これからもどんどん遅れていいぞ。俺、ハンバーグとビーフシチューが良いな。大盛りで!」
「ほんっと、ニトは単純なんだから。リクエスト、りょーかいっ!」
怒りは収まったが、痛い所はしっかりと突かれていた。
でもま、無事に逢えた事だし、まずは食欲である。
目抜き通り沿いを歩く俺達。
やがて行きつけのレストランが目に入った。
三つ星の高級店だが、そもそもハーレスには高級でない店は一切ないので、特に珍しくもない。
この街に越して来てから、ジャケットもローファーもすっかり板に付いた。
昔実家に住んでいた頃には、ジャージ姿で出歩く事もしょっちゅうだったのだが。
困るのはデブなので、吊るしだとサイズがない場合が多い事。
お洒落なジャケットがあっても、ワンサイズ展開だと間違いなく入らないのだ。
自然と行く店は決まってくる。
これは俺とポコ共通の悩み。
さて、席に座る。
窓際。
店内は空いているし、今日はツイている。
程なくしてウェイターがやって来た。
水の入ったグラスを二つ、当たり前のようにテーブルの上に置くのだが。
この水がまた高い。
スーパーで買うコーラの方がよっぽど安い。
まぁ仕方ないのだが。
ハーレスには、水代を取らない店はないのだ。
それに今日の会計はポコが払うのだ。
別に良いか。
注文をして待つ事暫し。
料理がやって来る。
ここのビーフシチューは絶品だ。
バゲットと共に味わう。
「うんまいね、ポコ。」
「うん、それだけ美味しそうに食べてくれると、奢り甲斐もあるょ。」
その後も続々と料理が到着し、あっという間に完食。
我ながらなかなかの食欲だ。
「ニト、トイレ行って来たら?」
「あいょ。」
このお店に限らず、ハーレスのレストランは大抵は座席会計だ。
ポコのトイレの合図は、俺の居ない間に会計を済ませておきたいという配慮から来るものだった。
いつもの事だ。
慣れたもの。
阿吽の呼吸だ。
戻ると、ポコが席を立つ。
「行こう。」
さり気なく俺の手を引く。
ハーレスはここヴァルクラインの中でも最もゲイフレンドリーな街なので、男同士手を繋いでも特に違和感はない。
これが、俺がハーレスに住み続ける理由でもある。
物価は高いが、気に入っているのだ。

街を歩く。
タクシーを探しているのだ。
程なくして黄色いタクシーが視界の中に入った。
手を挙げると、目の前で停まってくれる。
「お客様、どちらまで?」
「ネイチャーセンターまで。」
ネイチャーセンターとは、旧スプルース・フォレスト領にある国営の大型テーマパークだ。
スプルース・フォレストの大自然を、最新の技術を使ってあらゆる方法で体感出来る。
スプルース・フォレストは今はヴァルクラインの領土なので、気軽な国内旅行だ。
開業当時と違って道も整備されたので、迷う事はない。
だが、ハーレスからだと徒歩で行くには遠いし、電車は通っていない。
ハーレスでは自家用車にはとても高い税金が課せられるので、俺みたいな安月給には高嶺の花だ。
で、タクシーな訳だ。
それにしても回る回る。
メーターが。
遠いのだ、思っていたよりも。
脂汗がじっとりと背中を濡らし切った頃に、ようやく到着。
死ぬかと思った。
この分のお代は俺持ち。
元からそういう話になっていた。
どうりでポコの奴、レストランであんなに気前が良かったのだ。
吐きそうになりながら料金を払う。
顔を上げると、ポコの満面の笑み。
「帰りもよろしく!」
もう、どうにでもなれ!

ネイチャーセンター内部で。
施設は大部分が屋内。
その延べ床面積は優に1,000,000m2を超える。
迷子になりそうだ。
はぐれないように、というのもあって、男同士ではあるが手を繋いで歩く。
すると。
男同士の同年代のカップルが二組、それぞれ手を繋いでやって来た。
面白そうなので、声を掛けてみる。
「やぁ、みんな可愛いね。良かったら友達にならない?俺の名前はニト。横にいるのは相方で、名前はポコ。」
自己紹介を済ませると、向こうからも返事が。
「僕の名前はキリル。他は左からプリム、キッフル、ポッコイ。よろしく!」
次々と手が出て来たので、握手。
これでみんな、友達だ。
まぁ言ってみればデブの集まりである。
側から見れば何と暑苦しい事だろうさ。
で。
とりあえず、施設内のラウンジでお茶をする事に。
まずは一服、である。
最近はヴァルクラインでは抹茶がブーム。
日本人は俺達と見た目は殆ど変わらない。
何となく親しみは湧くが、さてどんな味なのだろうか。
六人で早速検証。
「うげぇ!」
「何だこれ!不味い!」
大不評だ。
しかも値段が素晴らしく高い。
お茶受けの羊羹なるスイーツもイマイチ。
オリエンタルブーム、俺達には来なかった。
ここでプリムが話題を変える。
「ところで最近、メープルキングダムをファルテニアとミスティレイン・フォレストの連合軍が襲うんじゃないかって話がまことしやかに囁かれているんだけど。あれ、どうなんだろうね。」
やや。
これは聞き捨てならない。
物騒な話だけに。
「テレビでは何も言わないね。」
キリルが一言。
報道管制か?
疑問が湧く。
「ウチの国の皇帝はどう出るのかな?確かファルテニアやミスティレイン・フォレストとは相互不可侵条約を結んでいたような。とはいえ、メープルキングダムが占領されるのは、ウチの国にとっては相当痛い話だろうし。国が傾くかも。」
キッフルは首を傾げるが、これって一歩間違えたらマズイのでは。
いよいよキナ臭い。

[Part 2 : 語り - 語り部]

その頃。
ヴァルクラインの玉座では。
皇帝と、大元帥に昇進した軍務尚書とが、今後の自国の戦略について討議をしていた。
「陛下。恐れながら、好機です。」
「ほう。卿の考えを述べよ。」
「ファルテニア、ミスティレイン・フォレスト両国との相互不可侵条約を一方的に破棄するのです。メープルキングダムと連携を取れば、南北から二国を挟撃出来ます。地理的には、ファルテニアはメープルキングダム領に、ミスティレイン・フォレストは我が国の領にするのが良いでしょう。今動けば、味方の犠牲も少なくて済みます。メープルキングダムとのホットラインを今すぐに繋げるのがよろしいかと。放置しておくと我が国にとっては重大な損害に繋がりかねません。ご決断を。」
「よろしい。卿の策を容れよう。無闇な交戦は避けたいが、この際止むを得まい。メープルキングダムを独占されると、国力の衰退にも直結する。正に一大事だ。彼らも愚かな事をする。大元帥、直ちにメープルキングダムとのホットラインを繋げ。余が直々に話を通す。」
「御意。」
メープルキングダムの国王とヴァルクライン皇帝との会談はこうして行われた。
内心では皇帝は、自ら行った方針の転換に、戸惑いを覚えていた。
しかし、状況は刻一刻と変化する。
あの二国にメープルキングダムを独占させる訳にはいかない。
何としてでも。
メープルキングダムは世界の商業の中心地。
ここを奪われれば、景気が悪化するだけではなく、逆にヴァルクラインが侵略の危機に遭うかもしれないーー。
これはヴァルクライン首脳部共通の懸念だった。
会談では、大元帥らも交えて具体的な戦術や連携についても話し合われた。
実はミスティレイン・フォレストでは強硬派、保守派の残党によるクーデターが起こっており、軍事政権による独裁体制が敷かれていた。
不意打ちだったため、警戒が手薄だったからこそ成功したクーデターだ。
元大統領テット・クラウスら一行、ピウ、ピム、ビム、バムらはメープルキングダムへ脱出、既の所で難を逃れた。
同日未明。
攻撃開始。
同時刻を以って、ファルテニア、ミスティレイン・フォレスト両国に対して宣戦布告。
同時に、ヴァルクラインのA22垂直離着陸型ステルス汎用攻撃機及び実戦初投入となるSAX超高高速高高度爆雷艇群、メープルキングダムのQ7長距離ステルス爆撃機及びR1ステルス戦闘爆撃機群が敵地侵入。
同時刻、重装甲自動追撃ステルスミサイルや拡散熱弾頭ミサイル、重爆雷群らを敵軍事要衝にピンポイントで発射。
ほぼ奇襲であった。
南北からの同時攻撃だった事もあり、ファルテニアやミスティレイン・フォレストの国内は混乱を極めた。
暴発した両国の残党が核攻撃を試みるも、ミサイルはヴァルクラインのSAX超高高速高高度自動追尾型迎撃ミサイル群によって全弾撃墜。
ファルテニア、ミスティレイン・フォレストは焦土と化した。
「あの連中は何を考えている!核攻撃とは何と愚かな!」
激昂するヴァルクライン皇帝。
正に、想定外の事態だった。

[Part 3 : 語り - 語り部]

世界は、変わった。
ファルテニア、ミスティレイン・フォレストは、国家としては完全に消滅した。
国民の大多数は死に絶え、国土は不毛の地と化した。
一方で、この戦争で亡くなったヴァルクライン国民及びメープル・キングダム国民は、一人も居なかった。
この事態を看過出来なかったのは、ミスティレイン・フォレスト元大統領のテット・クラウスである。
彼は相方ティル・クラウスを連れて飛行機で旧スプルース・フォレスト領奥地に向かい、神聖ヘリテイジ・ストーンに祈る事で森の神を呼び出した。
実は森の神は事前にこの事態を予測していた。
聖地サウザンライツ・バレーへ赴き許可を得て、ミスティレイン・フォレスト国民だけでなく、ファルテニア国民のDNAと記憶もデータベース化していたのだ。
テット・クラウスとティル・クラウスは祈った。
ミスティレイン・フォレストとファルテニアの亡くなった全ての民が、復活するようにーー。

祈りは、通じた。
全てとはいかなかったが、亡くなった多くの国民が復活出来た。
ファルテニアはメープル・キングダム、ミスティレイン・フォレストはヴァルクラインの下で復興を目指す。
道は険しいが、国民は皆、明るかった。
一度は亡くした命。
生き返る事が出来ただけでもめっけもん、皆そう思っていた。
その頃。
テット・クラウス、ティル・クラウス両名は、ヴァルクライン皇帝から直々の呼び出しを受けた。
要件は一つ。
「側近として余に仕えよ。」
それだけだった。
二人の覚悟は、決まっていた。
「はい、喜んで!」
テット・クラウスは軍務尚書と同格の大元帥の称号を賜り、国務尚書となった。
前国務尚書が病で急死、ちょうど空席だったのだ。
また、ティル・クラウスは副元帥の称号を賜わり、総参謀長となった。
二人に、笑顔が戻った。
この世界は、きっともっと良くなるーーそう信じられたから、だから笑った。

ピウとピムは皇帝付侍従となった。
ビムとバムは宮中御用達の称号を得て、鍋作りを益々極める。

一方、ニトとポコは、キリルとプリム、キッフルとポッコイ、彼らと交流を深めていた。
ニトとポコは、それぞれ中堅の商社で平社員をしている。
旧スプルース・フォレスト領は開発ラッシュだったが、現地に勤務する要員は不足気味。
不人気だったのだ。
そこでニトとポコは上司に志願して、旧スプルース・フォレスト領勤務に。
晴れてキリルやプリム、キッフルやポッコイと頻繁に行き来出来るようになったのだ。
引っ越しの日。
「さらば、ハーレス。」
寂し気なニト。
一方のポコは、友達が増えたという事で、嬉しそう。
「さ、新天地へレッツ・ゴー!」
特にニトは、今は感傷に浸っているが、べらぼうに物価の高いハーレスを離れる事で、暮らしに余裕が出来る事だろう。
こうして、皆が幸せになってゆく。
新生ヴァルクラインは森の神が見守っていた。
新生メープル・キングダムも、戦争を起こす事は最早ないだろう。
「さぁ馬鹿共、6Pするよ!」
「無理だょ、キリル!」
こんな彼らにも、神の御加護がありますように。

とりあえず、お・し・ま・い。

[おまけ : 語り - 語り部]

ニトとポコは共に暮らす事になった。
丸太小屋を新築したのだ。
それも、キリルとプリム、キッフルとポッコイが住む丸太小屋の、目の前にである。
小ぶりだが、可愛い家だ。
当初はニトは新築には乗り気ではなかったが、そうも言っていられない。
仮住まいとして中古家屋は確保したが、正直状態は良くなかったのだ。
近隣に賃貸物件は存在しない。
ダブルインカムならば上手く行く、そう熱心にポコに押されて、新築を決意したのだった。
この辺り、最近、近くに大型のスーパーが出来た。
ホームセンターも洋服屋さんも、家電量販店も出来た。
道も整備されて、買い物には困らない。
ヴァルクラインは世界では、メープルキングダムに続く金持ち国家なのだ。
有利な税制もあり、世界中からやって来た富裕層も数多い。
そうした層に向けて、旧スプルース・フォレスト領では別荘地開発も盛んだ。
ハーレスやメープルシティ程には治安は良くないが、当局の介入が増えたお陰で、日に日に良くなって来てはいる。
今日はニトとポコの引っ越し祝いのパーティーだ。
キリルとプリムが、ここぞとばかりに腕を振るう。
ジビエのステーキに、最近新鮮なものが流通するようになって手に入りやすくなった海の魚の料理の数々、ビーフストロガノフにロールキャベツ。
サラダやマリネ、ローストビーフやフォアグラもある。
楽しい食卓。
キリルがジビエのステーキを一切れ、フォークで取ろうとすると。
横からニトが強奪。
これにはキリルが怒った。
「ひどーい!こんなの虐めだー!夜、寝込みを襲っちゃうもんね。許さなーい!」
ここでニトが一言。
「別に可愛いし良いんだけどさ。もうちょっと貞操観念というものを持とうよ。」
可愛いという言葉に反応、キリルはしてやったりの表情だったが、堪らないのはポコ。
「こんなの許せなーい!浮気だー!もう二度とSEXしてあげないもんね!」
これには流石のニトも参った。
「ごめん、悪かった。絶対に浮気なんてしない。約束する。本当に可愛いのはお前だけだ。だから今晩、な?」
「仕方ないなぁ。今回だけは許す。」
ひとまず一件落着。
キリルも、これ以上つつき回す程には、デリカシーがない訳ではないようで。
「おSEX、頑張ってね、ニト、ポコ。僕らも頑張る。」
「おう。もちろん。な、ポコ?」
「うん!」
これにて、めでたしめでたし。
これから、新生活がスタートする。
これからは六人で仲睦まじく暮らしていく事だろう。
幸せになろう、皆がそう誓った。
でも彼らは既に、幸せの只中にあったのだ。
これからも続いてゆくこの暮らしに想いを馳せて、六人は笑顔で見つめ合った。
最高の船出、正にそうに違いない。
「またお気に入りの歯ブラシがなーい!こんなの虐めだ、許せなーい!」
賑やかな日常。
ちょっぴり我儘な者も居るが、皆楽しかった。
こんな日々がいつまでも続きますように、あのキリルまでもがそう思っていた。
約束の地は、もうすぐだ。

ちゃんちゃん。

FEというのは、4th Episodeの略です。
シリーズの他7作品をお読み頂いている事が前提で話が進みます。
GREEN : GREEN シリーズをこの作品で初めて体験された方、ごめんなさい。
訳が分からなかったですよね。
新生キリルは、個人的にはツボです。
関連記事

検索フォーム

QRコード

QR