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ペン助・ペン太のほっこり劇場 [其の三]

雑踏を歩く。
空は傾いて、夜の足音がひたひたと迫る。
餌を買った。
ペン助とペン太が待っている。
重いけれども、急いで帰ろう。

ふと、振り向くと。
見慣れた影が二つ。
ペン助とペン太だ。
「ペン助!ペン太!何でこんな所に!」
駆け寄ると、珍しく抱き付いてくる。
「刃物を持った男が家の中に入って来たんだ。無理矢理さらわれて、逃げるのに苦労したょ。」
「何せいきなり気絶させられて、胴体を縄でグルグル巻きだからな。車でさらわれたから、念で上手く事故らせて逃げて来た。可哀想だけど、ありゃもう駄目だな。事切れた。あの時は、あれが精一杯だった。どうにもならん。」
目の前が真っ白になった。
何を言っているのか、上手く飲み込めない。
それでも、目の前の二羽の心配はしないといけなかった。
「ペン助、ペン太。怪我はない?大丈夫?」
「僕達はどうにか平気。ただ、家の鍵、開けっ放しだょ。」
一大事だ。
「ペン助、ペン太!急げ!」
家に駆け戻る。
この日、夏太郎は実家に帰っていて、家には誰も居ない。
実に間が悪いのだ。
五分後。
到着。
玄関前には見慣れない軽トラ。
家の荷物を無断で運び出そうとしていた。
程なくして発車。
が。
すぐさま電柱に激突。
どうやらペン助とペン太が念じてくれたらしい。
僕は慌てて警察を呼んだ。

警察で。
僕は形式ばかりの取り調べを受けた。
通り一遍の事情を聞かれて、卒のない答えを返して。
最後に、僕は聞いた。
「犯人達の怪我の具合は、どうなんですか?」
刑事さんは笑って答えた。
「軽傷だよ。ただ、軽トラは廃車だな。馬鹿な奴らだ。近所に夫婦で住んでいたんだが、もう居られないだろう。」
そう。
犯人は、夫婦だった。
たまたま我が家の玄関の扉が開けっ放しだったのを見ての犯行。
咄嗟に思い付いたらしい。

家に帰って。
荷物が無事で良かった。
「僕達が無事で、良くない訳!?」
ペン助、怒り心頭。
ペン太もぷんすか怒っている。
いや、さっきも心配したじゃんか。
もう、世話の焼ける。
僕はしゃがむと、二羽の頭を撫でてやった。
すると。
「餌ー!」
「飯ー!」
今度は餌ですか。
はいはい。
餌は山程買って来たのだが、大して持たない。
何しろこの二羽、大飯食らいなのだ。
念を使える代わりに、燃費が頗る悪い。
普通のマゼランペンギンよりも、余程多く食べる。
「ほら、お疲れさま。」
今日も大量の餌を与えるのだがーー。
「足りなーい!もっと出せー!」
「早く餌持って来ないと呪い殺すぞー!」
いや、それ洒落になってないから。
仕方ないから、お代わりを運ぶ。
バケツで。
普通の家でこんなの、飼える訳がない。
沢山の遺産を残してくれた、両親に心から感謝。
「あいょー!持って来たょー!」
「やったね!流石は雪太!」
「雪太様、愛してるー!」
こんな時だけ、チヤホヤ。
ちなみに、こういった前向きなコメントが出ると、お代わりは打ち止めだ。
何とか足りたようで、良かった。
でも、明日も買い出しに行かねば。
毎度の事だが、面倒である。
「今、面倒臭いとか思ったでしょ!」
「いやいや、全然。」
「まぁいい。餌が多かったから許す。」
おいおい。
これでは、おちおち考え事も出来やしない。
勘弁してくれ。
もう疲れた。
掃除は明日。
おやすみなさい。

翌朝。
夏太郎が帰宅した。
「うぃっす!」
「雪太ー!馬鹿太郎が帰って来たよー!」
「阿保太郎様のご帰宅だぞー!それにしても、相変わらずの間抜け面だな。」
「五月蝿いぞ!居候の癖に!」
「下等生物が何か言ってる!雪太ー!機関銃持って来てー!」
「バズーカ砲持って来ーい!この家もろとも、夏太郎を吹っ飛ばす!」
「五月蝿ーい!!夏太郎も、余計な事言うなー!!」
やれやれ。
叫び過ぎで、声が枯れそうだ。

「そっか。大変だったな。」
事のあらましを説明しての、この反応。
素っ気なさ過ぎやしませんか?
まぁ、良いけど。

そもそも、ペン助とペン太の居た、今は無き水族館に初めて訪れたのは、三年前の事。
新しくペンギンを展示するというので、行ってみたのだ。
今年で二十歳になった僕が、今は亡き両親との最後の思い出を作った場所。
それが、ペン助とペン太の居た、あの水族館なのだ。
それから一年を待たずに両親は他界。
以来、どういう訳だか惹かれて、毎日のように水族館に通うようになった。
その当時から、水族館はお客さんもまばら。
目玉のペンギンの展示も、効果がなかった。
毎日通う内に館長とは知り合いになって、ペン助とペン太にまつわる話も教えてもらえた。
館長は、知っていた。
ペン助とペン太が喋れる事も、念を使える事も。
だが、能力をフルに発揮させるには、大量の餌が要る。
そんなものは用意出来ないと、館長は力なく零していた。
それに、全てを明らかにすれば、ペン助とペン太は狙われる。
それも、いろんな筋から。
ペン助とペン太には、静かに暮らして欲しいと、館長は願っていた。
そうなのだ。
だから、昨日のような事態は、起こってはいけないのだ。
「引っ越そうかーー。」
そんな無謀な考えが、頭をよぎる。
だが。
『僕はここが良い!プール広いし。引っ越すって、何処へさ。止めな。』
『俺も引っ越しには反対だ。金は大事にしろ。何せまだまだ厄介になるつもりだからな。自分達の身を自分達で守る、それ位の力はある。安心しろ。』
ペン助とペン太が、少し離れた中庭から念で訴えかける。
なるほど。
どうやら僕は、ペン助とペン太を少し見くびっていたかも知れないーー。

引っ越しはしない事となったが、物騒なので機械警備を入れる事にした。
いわゆる、ホームセキュリティだ。
それにつけても、金である。
世の中、安心も安全も、金で買えるのである。
が、しかし。
設置工事も終了して、安心を得られたと思ったのも束の間。
またも僕達を脅威が襲う。
玄関で、ドンっという大きな爆発音が聞こえる。
続いて、玄関扉に開いた大穴から二人組が侵入。
中庭のペン助とペン太を拉致しようとした。
僕は叫んだ。
「ペン助ー!ペン太ー!」
その時である。
二人組が、胸の痛みを訴え出したのだ。
それも、激しく、である。
この件で、僕はまたもや警察に通報する事となった。
後で聞いた事だがこの二人組、先にペン助とペン太を拉致しようとして事故で事切れた容疑者の仲間だった。
ペン助によると、水族館で僕がペン助やペン太と会話をしているのを目撃して、犯行を企てたようだ。
が、そんな話は当然、警察には通らない。
胸の痛みは発作によるものだったが、病院に収容された翌日には回復。
やがて逮捕となった。
胸の痛みは強烈だったようなので。
祟りが起きるとでも思ってもらえれば、しめたもの。
多分、もう来まい。

事件後のある日。
ペン助とペン太は、僕にこう切り出した。
「旅に出る事にした。ここに居ると雪太達に迷惑を掛けてしまうから。」
だから、僕は言った。
涙を、必死に堪えながら。
「頼むから、そんな事を言わないでくれ。傍に居てくれ。面倒なら見るから、な!」
「雪太ー!」
みんな、泣いていた。
ペンギンも泣くんだ、そう思った。
多分、こいつらが特殊なだけだが。

玄関はすぐに修繕してもらった。
幸いな事に爆発の規模が小さかった為に、躯体へのダメージはなかった。
工事はあっという間に終わり、生活は元通りになった。
なに、こんなもの、金を積めばすぐなのである。
さて。
車を買った。
免許は二人共に持っている。
ガレージは誂えてあったのだが、専ら来客用。
今は亡き両親は、かつてはタクシーやハイヤーを呼んでいたのだ。
さて、ここは地方都市なので、東京などとは違って駐車場事情には恵まれている。
買ったのは、廉価なワンボックスカー。
人目を憚らずにペン助やペン太と移動する為に、わざわざ用意したのである。
で、最初に企てたのが。
日帰り旅行なのである。
ペンギン連れで泊まりとなるとハードルが高い。
だから当然、日帰りなのだ。
目的地は、海。
言うまでもない。
季節外れなので、空いているだろう。
ペンギンにはもってこいだ。
さぁ、出発!
「狭いな。牢獄のようだぞ。」
「安物買いの銭失いっていう。典型的な。」
「ペン助、ペン太!聞こえてるよ!」
床にはビニールシートを敷いてある。
フン垂れ流しの邪悪なペンギン達には、打って付けだ。
「餌はあるんだろうな、当然。」
「なかったら許さない!ぶちのめす!」
「あるからー!」
ちなみに今日の運転は、夏太郎の担当。
僕より少し、上手いのだ。
ちょっと長めのトンネル。
抜けるとそこには、海があった。
それはもう、綺麗なのだ。
左手には、海岸が見える。
サーファー達が何人かいる。
今日の目的地はここなのだ。
「喋るなよ。ペン助、ペン太。」
「ラジャー!アンポンタン!」
「了解したから、餌はたっぷりな。トンチンカン!」
「OK。」
車を停め、海岸へ。
風が冷たい。
こんな時でも、ペンギンは元気なんだよなぁ。
海で水遊び。
そんなペンギン達を砂浜で見守る、僕と夏太郎。
日焼けには向かない季節だ。
うぅ、ペンギンばかりいい気なものだ。

そこへ。
サーファー達がやって来た。
ペン助とペン太を面白がっているのだ。
面倒な事にならないように、即座に僕たちも向かう。
「おー。ペンギンだぜ。これ、お前達の?」
話し掛けてくるので、大きく頷く。
「なぁ、くれよ。俺達に。」
「餌代も物凄いですし、家にプールも要りますから、飼えませんよ。」
「いいからさぁ、くれっつってんだよ。おい!」
唇を噛み締めて、込み上げる怒りを堪える。
すると。
「あいたたたたた!てめぇ何すんだ!あいたたた!」
サーファー達は砂浜の上で身悶えしている。
お腹が痛いようだ。
他に人は居ない。
「逃げるか。」
「うん!」
二人と二羽、そそくさと退散。
サーファー達がその後どうなったのかは、誰も知らない。

帰りの車中で。
「柄の悪い人も居るねー。困ったもんだね。」
「ほんとだよな。面倒な事に巻き込まれないで済んで、良かったぞ。」
僕と夏太郎、しみじみと。
そこへ。
「俺たちの手柄だな。餌を出せ、早くー!」
「今すぐ餌を出さないと、念でなぶり殺すょ!」
ペンギン達の大合唱だ。
仕方ないので近くの路肩に車を停めて、クーラーボックスの中の餌を出す。
ーー無心で食うのな。
で、予想通りに。
「お代わり出せー!」
「早く!早く!急げ!急げ!」
急き立てられるように、二つ目のクーラーボックスから餌を取り出すのだった。

食べ終えて。
「出先だからこれで我慢してやる。帰ったらまた餌な。」
「餌、無かったら許さないよ!放火するから!」
こいつらは一体、どれだけ食べるつもりだろう。
頭が痛い。
「はーい、食いしん坊の馬鹿共、帰るょ!」
「下等生物の癖に俺達を馬鹿呼ばわりか!呪うぞ!トンチンカン!」
「ちょっとばかし餌を遣ったからって、調子に乗るなよ!アンポンタン!」
怒れ怒れ。
少しは己の食欲を顧みる事だ。
まぁ結局は餌を遣る事になるのだろうが。
ちなみに、もう家には餌はないので、車でついでにお店に寄る事にした。
「たっぷりなー!ケチったらタダじゃおかない!」
「雪太様ー!沢山お願いしますー!」
「食べ過ぎだからー!」

帰宅。
中庭で餌を遣る僕。
「流石は雪太。分かってるなー!」
「雪太様、最高!」
例によって、チヤホヤ。
「はーい、おしまーい!」
餌遣り終了。
呆気なく退散するペンギン達。
と、そこへ。
電話だ。
夏太郎が取る。
相手は、麗子さんだった。
銀座丸福堂の最中が有るので、おすそ分けだそうだ。
ピンポーン♪
「はーい!」
「あらー、雪太ちゃんこんばんは。はい、最中。夏太郎に言われて、旦那も連れて来たんだけど。お夕食とか、頂ける?」
「いいですよー!今日は豚汁としゃぶしゃぶですよ。沢山ありますから、是非!」
「よぉ、雪太君。押しかけて済まないな。私は初めて来るんだが、これは実に良い家だ。喋るペンギンさえ居なければ、更に良いんだが。」
「ちょっとあなた!癌を治して貰っておいて、その言い方はないわよ!」
「その話、本当かね。」
あからさまに訝しむ、麗子さんの旦那さん。
「まぁー!失礼ね!死ねばよかったのよ!」
中庭では、ペンギン達が大喜びだ。
「麗子さん、最高ー!」
「麗子さん、愛してるー!」
「ほら、喋ってるじゃない。こんなペンギン、他に居ないわよ。」
「そうか。しかしな。人の家の床にフンを垂れ流しとはなぁ。いい加減にして欲しいものだ。」
ここで遂に、怒ったペンギン達の念が発動。
「痛!痛!」
のたうち回る旦那さん。
「私が代わりに謝るから、止めてあげて。お願い!」
すると旦那さんの痛みは、ピタッと止んだ。
「どうだ!少しは感謝しろ!それともまだ痛め付けられたいか?」
「分かった!有難う!分かったから、もう勘弁してくれ!」
ここは、ペンギン達の勝利だった。
すごすごと、その場を退散する旦那さん。
内心では僕も、ほくそ笑んでいた。

で。
夕食である。
気難しい旦那さんも一緒なのである。
「豚汁は要らん。手垢が付いているかも分からんし、何が入っているかも分からんからな。」
またもや喧嘩腰である。
やれやれ。
付き合わされる方は、堪らない。
ここは、夏太郎が一喝。
「帰れ!」
渋々豚汁を食べ始めた旦那さん。
それはもう、不味そうに。
と、ここで。
何やら中庭が騒がしい。
「どうしたの。ペン助、ペン太。」
「誰も気付いてないみたいだけど、あのジジイ糖尿病だょ。これから合併症がわらわら。大変だね。ざまあみろ。」
「そう言わずに、治してくれない?」
「嫌だ!」
「無理!」
「餌は毎日、たっぷりあげるからさ。」
「しょうがないなぁ。」
お腹には素直な、ペンギン達である。
さて、まずは糖尿病である事を、当の旦那さんに示す必要がある。
簡易な検査紙のストックがあるので、それを使う。
「お食事中すみません。ペンギン達によると、夏太郎のお父さん、糖尿病らしいです。確かめたいので、この検査紙を使ってみてくれませんか。」
旦那さん、固まる。
「、、、、、、本当か。」
やっと出て来た一言は、それだけだった。
無言で検査紙を渡すと、トイレに案内する。
結果は、聞くまでもなかった。
断末魔の叫びが、辺りに轟いたからである。

結局、ペンギン達に糖尿病を治してもらった旦那さん。
検査紙も、反応しなくなった。
これでもう、頭が上がらない。
「すまん!それと、有難う!」
ペンギン達と旦那さんは、これにてひとまず休戦。
「やっと分かったか、ジジイめ。あんなの、オタンコナスだ!」
「物分かりの悪い奴だったな。認知症かも知れんぞ。」
おいおい。
これ以上物騒な事は、言わないで欲しい。
とはいえ、ペンギン達の力で、またも幸せが舞い降りた。
これからも僕達は、共に生きて行く。
ペンギン達は、僕達に幸せを運んでくれる使者かも知れないーー。
そう思うのだった。
僕を選んでくれて、有難うーー。
心からの思い、口にしなくても伝わっていた。
僕達の幸せな日常は、まだまだ続いて行く。

雪太たち、受難の回。
次から次へとアクシデントが起こります。
もちろん、狙って書いています。
夏太郎の父親とペン助・ペン太も無事に和解。
続編、書けるといいな。