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ペン助・ペン太のほっこり劇場 [其の二]

午後。
南西向きの寝室で。
控えめに入る西日が、眩しい。
それにしても、どこか気怠い。
やる気が起きない。
ベッドの上に転がる。
布団にくるまって。
死んだように。
もう、寝ようか。
季節は晩秋。
そろそろ、肌寒い。

今日、夏太郎と。
付き合い始めてから、初めての喧嘩をした。
酷いのだ。
僕の事をブスだと言うのだ。
そんなにブスなら、付き合わなければ良いではないか。
そう思う。
勝手に、出て行けば良いのだ。
悔しくて、悲しくて、嗚咽を漏らす。

と、そこへ。
夏太郎、登場。
「あぁ、ここだったか。あのな。本当にブスだと思っていたら、とっくに居ない訳だぞ。可愛いから傍に居るんだ。さっきのは冗談だ。あまり真に受けないでくれ。」
嬉しかった。
素直に、そう思った。
だから、布団から這い出ると、抱き付いた。
手放したくない、そう思った。

その後。
「中庭の掃除は俺がやるから、雪太は夕食の支度をしてくれ。」
「あいあいさー。」
もうすっかり、いつもの遣り取り。
夏太郎は、食事が作れない。
単純に、教えてくれる人が居なかったのだ。
何しろ、夏太郎の母・麗子さんは元女優。
料理なんかやらない訳である。
旦那さんも料理は作れないし、午前様が多い。
自然と毎日の献立は、デリバリーだとか冷凍食品だとか、そういうものになるのだ。
後は、焼肉だとかしゃぶしゃぶだとか、すき焼きだとか、外食だとか。
焼肉なんて、ただ肉を焼くだけだもんね。
しょっちゅうだったらしい。
面倒臭がりで食いしん坊な麗子さんらしいエピソードだ。

実は、今日の献立は焼肉なのだ。
や、手抜きだな。
そう思った諸君。
そうなのだ。
その通りなのだ。
鋭い。
実は昨日、掃除の際に腰を痛めてしまったのだ。
あまり動きたくないのである。
『たまには楽をしなくちゃね』
そう思う僕なのであった。

淡々と焼肉の支度をする僕。
中庭からは賑やかな声が聞こえる。
「おぃブス太郎!もっとしっかり掃除しろ!雪太に負けてるぞ!この分だと、断頭台が必要だな。」
「ブス太郎!掃除もロクに出来ないんなら、死んじゃえー!雪太ー!ギロチン用意してー!」
「五月蝿いなぁ!黙って見てろ!何もやらない癖に、口だけは達者なペンギンだな。念が使えるなら、それで掃除すれば良いじゃないか。」
「僕達の念は、掃除なんていう下らない行為に使って良いものではないのだ。」
「俺達みたいな高等生物に掃除とか、笑わせる。お前達下等生物がやればいい事だ。」
「ペンギンの癖に言いたい事言いやがって、畜生。」
とまぁ、中庭の掃除は重労働なので、交代制なのだ。
昨日は僕がやったので、今日は夏太郎の番。
冗談とは言え、人の事をブス呼ばわりした罰だ。
せいぜい苦しむが良いさ。
そうだ、餌でも持って行こう。

「はーい!ペン助、ペン太。餌だよー!」
「おい、餌だぞペン助!」
「わー!神様仏様、雪太様ー!」
一斉に駆け寄るペンギン達。
これだから餌遣りは堪らない。
ペン助とペン太は言うまでもなく、夏太郎よりも僕に懐いている。
という訳なので、今日は大奮発増量キャンペーンだ。
「あー!ズルいぞ雪太!それは俺の楽しみだったのにー!」
「どうせ僕はブスだからね。ズルいんだょ。」
「ちぇっ。冗談なのにさ。明日は俺が餌遣りな。」
「嫌だね。明日は元々、僕の番だ。」
「うがぁー!」
夏太郎、珍しくキレるのであった。
夢中なのはペンギン達。
「なぁペン助。今日は量が多いな。」
「大奮発だね!いつもこうなら良いのに。」
よしよし。
懐け懐け。
「雪太様、明日もよろしくお願いしますょ。」
「増量、明日も頼むぞ。餌係は雪太で決まりだな。」
「あいょ。」
「何があいょだ!掃除終わった!手洗って焼肉!」
ぷんすか怒る夏太郎。
怒れ怒れ。
ブスの恨みは怖いのだ。

「頂きまーす!」
今日用意したお肉は、カルビ、ハラミ、ロース、ホルモン。
締めて一キロ。
カルビクッパも用意した。
「うんまいね。カルビクッパ、最高だな。」
夏太郎、ご機嫌になる。
「ところでさ、雪太。」
「なぁに、夏太郎。」
「ウチの父親が末期癌らしい。ペンギン達の力で、助からないかな。」
暫し絶句。
で。
「無理だと思うけど、、、、、、聞いてみる。」
中庭に向かう僕。
夏太郎も付いてきた。
「シケた面して、どうしたょ。雪太、夏太郎。」
「面倒事なら、真っ平御免だょ。」
その面倒事を頼まねばならない。
聞いてくれるか。
一か八か、勝負だ!
「実は、夏太郎の父親が末期癌でさ……。」
「無理。」
ペン助、即答。
言い終わる前にだ。
何となく予想はしていたが、やっぱり無理か。
「なぁ、頼むよ。」
「治せって言うんだろ。疲れるからパス。」
何と!
そんな理由か。
ここは押すしか!
「頼む、この通りだ!」
二人してペンギンに土下座。
すると。
「仕方ないなぁ。やってみるよ。結果の保証はしないけどね。」
「まぁ夏太郎はともかく、雪太の願いなら止むを得んか。連れて行け。」
「さ、おいで!ありがとう、ペン助、ペン太!」
「本当に、ありがとうな。」
「礼はいいから、餌はたっぷりな。」
「雪太、餌の増量、よろしく頼むょ!」
「うん!」

という訳で、夏太郎の実家に歩いて向かう僕達。
途中、近所に住むおばさん達とすれ違う。
「あら、こんにちは〜。ペンちゃん、いつ見ても可愛いわね〜!夏太郎ちゃん、麗子さんによろしくね!」
「雪太ちゃんとこのペンギンね。可愛いわ〜!ウチで飼えないかしらね。」
「止めた方が良いですよ。大変なんで、色々と。」
「あら〜、残念。またね〜。」
おばさん達は、気の良い人たちである。
が、こんなものを飼いたいだなんて、酔狂なものだ。
もちろん、実態を知ったら嫌がるに決まっているのだが。
僕達の場合は特別なのだ。
色々な意味で。
で。
到着。
インターホンを押す夏太郎。
「あら、夏太郎。雪太ちゃんも。ーーまぁ!これが噂のペンギンちゃんね!」
「こんにちは、綺麗なおばさん。僕、ペン助。」
「俺はペン太。旦那さんの末期癌を治しに来た。旦那さんに会わせてくれ。」
「ペ、ペンギンが、喋った!」
腰を抜かす麗子さん。
夏太郎は、イライラしている。
「いいから母さん、早く会わせて!時間ないんだろ!」
「分かったわ。父さん、一階で寝てるわ。こっち。」
僕達は一階の廊下の突き当たりまで進むと、麗子さんに続いて部屋の中へと入る。
夏太郎の父親は、ベッドで眠っていた。
「よぅペン助、流石は作り話。都合良く眠っているのな。」
「これならトイレにも困らないね。床、絨毯敷きだけど、まいっか。」
威風堂々とフンを垂れ流すペン助。
「駄目よー!あーあー!」
麗子さん、半狂乱だ。
まぁ可哀想だけれど、ここは我慢してもらおう。
「ペンギンはトイレは覚えないんで、垂れ流しです。」
今更だが、一応。
やがて、ペンギン達は無言になる。
念を送っているのだ。
「どれ位掛かるのかしら?床、お掃除したいんだけど。」
「黙って!」
空気の読めない麗子さんに、ペン助の一喝。
それから小一時間、止まったような時が流れた。
そしてーー。

ーー夏太郎の父親が、目を覚ました。
「父さん!」
「あなた!」
「おぉ、お前達!雪太君も一緒か。それより、何だこのペンギンは。床、フンだらけだぞ!張り替えろ!」
凄い剣幕。
これに怒ったのが、ペン太だ。
「何だこの恩知らずは。俺達がどれだけ苦労してお前の癌を治したか、分かっているのか?」
「何だ、俺は頭までおかしくなったか!ペンギンが喋っているように見えたぞ!もう駄目だぁー!」
半狂乱の夏太郎の父親。
横で、ペン太はざまあみろといった風情である。
「あなた落ち着いて!このペンギン、喋るのよ!それよりお身体、変わりない?」
「そういえば、すっかり軽くなった。明日、病院に連れて行け。床は張り替えろよ。」
「まだ言ってるよ、この人。死ねば良かったのに。」
ペン助が、ボソリ。
これにギロリと睨んだのは、夏太郎の父親だ。
「まぁまぁ。癌、治っていると良いですね。夏太郎は今晩はここにいてお父さんに付いてあげてさ。明日病院に一緒に行きなよ。僕はペン助とペン太を連れて、帰るから。」
こうして、僕とペンギン達は帰路に就いた。
「治し甲斐のない相手だった。お礼の一言もないとは。こういうのは、二度と御免だね。」
「むしろ、念で殺せば良かったな。」
気持ちは分かるが、親切に見返りは要らないと思うのだ、僕は。
とは言え、このままでは可哀想なので。
「僕は感謝してるよ!ありがとう!帰ったら餌、たっぷりあげるね!」
これには目の色を変えるペン助とペン太。
「流石は雪太!そう来なくっちゃな。」
「本当に治し甲斐のある相手だったね!次もよろしく!」
すっかり豹変しているのだった。

帰宅。
早速、ペン助とペン太に餌を遣る。
「早くしろよ、雪太ー!のんびりしてると、尻に火を点けるぞ!」
「遅くなったら、呪い殺すから!許さないから!ほら早く!」
「はいはい、ほら。」
何時もの五割増しで与えてみるのだが。
みるみる内に減って行く。
あっという間に完食。
で。
「足りないぞー!これで終わりだったら祟りが起きるぞ!」
「早くお代わりー!急げー!殺すぞー!」
追い立てられて、慌てて支度する。
これには参った。
どうやら、念で力を使い過ぎたので餌が沢山要るらしい。
流石は末期癌、伊達じゃない。
「ほらほら。」
「おぉ、流石だぞ!」
「わー!雪太様ー!」
結局、いつもの三倍もの餌を食べて、ようやく落ち着いたペンギン達なのであった。
もちろん、フンも三倍。
「これ、誰が掃除するんだょ、、、、、、。」
泣きたいょ、もう。
「今日は寝る!明日!」

翌日。
中庭をセコセコと掃除する僕。
その横で悠然と泳ぐ、ペン助とペン太。
思わず睨みたくもなるが、ここは我慢だ。
それにしても、寒い。
季節は、そろそろ冬。
風邪を引きそうだ。
うぅ、辛い。
と、そこへ。
「うぃーす。」
夏太郎が帰って来た。
「お父さん、具合はどう?」
「取り敢えずレントゲンからは癌は消えていたみたい。これから精密検査。ま、憎まれ口を叩く余裕があるみたいだし、大丈夫だろう。医者は腰を抜かしていたがな。有難うな、みんな。」
「そういえば床は大丈夫なのか?」
「張り替えるらしいな。母さんは業者に清掃を頼んで済ませたかったらしいけど。あの頑固親父はどうにもならんな。大黒柱には違いないから、仕方ない。」
そこへ、ペン助とペン太が割って入る。
「燃やしちゃえば良いょ!消毒、消毒!灰になればみんな綺麗!」
「雪太、いい加減火炎放射器買って来いよな!」
「要らないからー!」
一応、突っ込んでおく。
「おい雪太。腹減らない?おやつにしようぜ。」
「汚れ過ぎて掃除が終わんないのー!手伝ぇー!」
「良いぞ。その代わり、餌遣りは交代制な。」
「やっぱり良いです。冷蔵庫の中のシュークリーム、勝手に食べてて。」
「何だ、つまらん。」

「やっと終わったー!」
中庭の掃除を無事に終えて、のんびりとした午後のひとときを満喫。
する、筈であった。
が。
ここでペン助が一言。
「予定だと、今夜にも夏太郎のお母さん、亡くなるんだよね。心筋梗塞で。」
これは刺さった。
鋭く、胸に。
「夏太郎ー!たいへーん!」
大慌てで事態を知らせに行く僕。
これは、とんでもない。
「何!?マジか!母さんに電話しなきゃ。」
見ると夏太郎、手が震えている。
珍しい事もあるものだ。
まぁ、それだけ重大事なのだ。
言うまでもないが。

結局麗子さんは、胸が苦しい事を訴えて検査。
本当は平気だったらしいけれど、嘘も方便である。
で、そのまま入院となった。
後で聞いた話によると危なかったらしいのだが、一命を取り留めた。
発作前に治療が出来て、まずは良かった。
夏太郎まで僕と同じ境遇になるのは、悲し過ぎるから。
でも何故、ペン助とペン太は、念で治療をしてくれなかったのだろう。
そう思って頭を捻っているとーー。
「僕達を殺す気か!そんなに度々重病は直せないのー!」
ペン助に突っ込まれた。
まぁ、そうだよな。
ふと、中庭から空を見上げると。
今日も、突き抜けるような青さだった。

これからも、僕達のこのほっこりとした生活は続いて行く。
ペン助とペン太の能力は、これからもきっと僕達を幸せにしてくれる事だろう。
「ペン助、ペン太!有難う!これからもよろしくね!」
「おぅ!任せとけ、このトンチンカン!餌はたっぷりな。」
「餌をケチると祟られるよ、このアンポンタン!たっぷりで、よろしくね!」
口が悪いのが、玉に瑕。
とは言え、この幸せはいつまでも続いて欲しいから。
僕はペン助とペン太をもっと可愛がろうと、心の底から誓うのであった。

シリーズ二作目。
このお話のペンギンたち、雪太の家の中庭から室内を通って玄関まで向かう時など、気ままに至る所でフンをします。
邪悪たる所以です。
口も悪いのですが、意外と噛み付いたりはしないようです。
あれでも追い出されないように気を遣っているのです。
夏太郎の父親の存在のお陰で、三毛猫と白猫 [其ノ肆]の芳子さん一家と差別化が出来たと思っています。
どうも麗子さんと芳子さんのキャラクターが被っているように思えてならなくて、気になっていたのです。
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