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ペン助・ペン太のほっこり劇場 [其の一]

夏。
北国の水族館。
皆、ペンギンの到着を待っていた。
だが、待てど暮らせどやっては来ない。
運搬していた車が、速度超過でスリップして事故を起こしたのだ。
衝撃で後部の扉が開く。
すると、中のペンギン二羽が我先にと脱走していった。
一目散に消えて行くペンギン。
そのスピードは意外と早く、事故で脚を負傷した運転手には、捕まえられなかった。
ペンギンの種類は、マゼランペンギン。
まだ水族館までにはだいぶ距離がある。
これは諦めざるを得ないかも知れないーー。
運転手はそう思っていた。

で、ペンギンである。
このペンギン、少し特殊な能力を持っている。
現地の言葉を話せるのだ。
ここは日本であるから、日本語を話すのである。
かといって、いつでも話す訳ではない。
必要な場所でだけ、話すのである。
水族館では、必要のない能力だ。
だから今まで、猫を被っていたのである。
しかも、念を使える。
ある程度の事までは、思い通りに出来るのである。
今、まだ三歳。
まだまだ寿命は長い。
さて。
車には普通は柵でもありそうなものだが、そこは作り話。
ないのだ。
その事もあって逃げられた訳である。
が、実はそれらは全てペンギンによって誘導されていたのだ。
まぁ要するに、全てはペンギンが仕組んだ事なのだ。
このように作り話とは、誠に以って都合の良いものなのである。
話を戻して。
スピードこそ速いが、所詮はヨチヨチ歩きのペンギン。
本来ならばドミノ倒しのように倒れてもおかしくはない所だが、そこもやはり作り話。
倒れないのである。

二羽のペンギンが一目散に向かったのは、ある青年が独りで住む家。
庭付きの一戸建てだ。
昨年両親が事故で亡くなったので、一人っ子だった彼は独りでここに住んでいるのだ。
彼は今、十九歳。
両親の遺産を取り崩して、大学に通う身だ。
名前は雪太。
そんな雪太の元に、ペンギンが近付く。
雪太はタイミング良く、玄関前で掃き掃除をしていたのだ。
「やぁアンポンタン。久し振りだね!馬鹿ぶりは相変わらずかな?」
「よぉトンチンカン。元気でやってるか?阿保面下げて。」
振り返るとそこには、二羽のちょっぴり懐かしい顔。
「ペン助!ペン太!」
「今日からここで厄介になるから。庭にプール、よろしく。」
この一戸建てには、中庭があった。
そこで雪太は、中庭に大きなプールを造ってやる事にした。
中庭の方が目立たなくて良い、そう考えたのである。
結果的にはそれは、無駄骨だった訳であるが。
何しろ散歩をせがむので、好奇の目線で見られるのだ。
それでも、ペン助とペン太が落ち着いて過ごせる環境作りには、一役買ったのだった。
とまぁ、プールは作る事になったのだが、工事が入るまでには時間がある。
その間は、大きなビニールプール二つでしのぐ事になった。

「しっかし暑いな。これは効く。もう駄目かもー。」
「早くプールー!」
「分かったから、ちょっと待ってて。ところでお前ら、トイレはどうしてんの?」
嫌な予感のした雪太は、ペン助とペン太に尋ねてみる。
するとーー。
「我等の行く所、皆トイレ也。」
「そう也。」
予想通りの邪悪な答え。
「ちょっと待て!冗談じゃない!頼むから中庭以外ではしてくれるな。家ん中でしたら、追い出す。」
「仕方ないな。中庭の掃除、しっかりしろよ、トンチンカン。」
「一日六回、綺麗にするんだょ!このアンポンタン!」
どさくさに紛れて、無理難題を押し付けようとするペン助。
「大学だってあるんだ。一日に六回も掃除出来るか!阿保!二回が限度だ!それと、なぜうちに来たんだ。水族館じゃ駄目なのか?」
「ほら、お世話になったじゃない?恩返ししようと思って。僕達可愛いから、居るだけで恩返しになるでしょ。」
何を言っているんだか、といった表情で溜め息をつく雪太。
それを見たペン太が一言。
「俺達があんまり可愛いものだから、溜め息なんかついてやがるぜ。照れるなぁ。」
これを聞いて、イライラせずにはいられない雪太なのであった。
「世話をする身にもなってみれっつーの。」
雪太、ボソリと一言。
だが、一方で内心では喜びに満ち溢れている自分も居た。

そう。
実は先程のペン太の一言はまんざらでもない。
ペン助とペン太は元々、雪太の家から程近い、古ぼけた水族館で飼育されていた。
個人経営の水族館で、客足が遠のいていた為に、館長は常々閉館を考えていた。
それを思いとどまらせたのが、雪太の存在だったのだ。
雪太はこの水族館に毎日のようにやって来ては、ペン助とペン太を眺めていた。
雪太は、館長とは良く話をした。
館長は、涙ながらに有難い、と言ってくれていた。
しかし、そんな日々にも遂に終止符が打たれる。
経営が行き詰まったのだ。
土地・建物を売る他に道はなかった。
最後の日、雪太だけがその水族館に訪れた。
いつまでもいつまでも、ペン助とペン太を眺めていた。
涙が、止まらなかった。
ペン助とペン太には特殊な能力があって、雪太がお金を持っている事を知っていた。
だからこそ、雪太の家の近くで車から脱走したのだ。
雪太になら飼って貰える、そう信じていた。
ペン助とペン太は、口は悪いがいい奴だ。
それは前から雪太が知っていた事。
誰も居ないブースの前で、雪太は良くペン助やペン太と話していたのだ。
それを館長は知っていた。
というよりも、館長もまた、ペン助やペン太とちょくちょく話をしていたのだから、知っていて当然だ。
雪太の家にお金があるとペン太から聞いていた、館長。
館長は、北国の水族館まで移動する途中で、脱走する事を提案する。
その方がペン助もペン太も、幸せになれると思ったのだ。
もちろん、雪太もだ。
毎日欠かさずに来てくれた雪太への恩返し。
ペン助とペン太は、すぐにその話に乗った。
問題は既に先方から渡されていたペンギン代であるが、これも決着が着いた。
もちろん、返すのだ。耳揃えて全額。
元々、運搬に関しては館長が責任を持っていたのだ。
まぁ水族館の建物はともかく、土地は高く売れたので、問題はなかった。
館長はお金を返す代わりに、ペン助とペン太の事は不問に付すように要求。
これが肝である。
先方がこれを飲んだ為に、この話は終わったのだった。
で、雪太は何だかんだ言っても、飼いたいのである。
かくして正式な雪太の家族となったペン助とペン太。
これから巻き起こる、ちょっと不思議で心温まる出来事に、ご期待あれ!

とまぁ、ぶち上げてはみたものの。
何にもないのである。実際。
でも、書かないというのも寂しい話なので、以下につらつらと書いてみる事にする。

雪太には、大学での友達は一人だけ居た。
幼馴染の夏太郎である。
実は二人ともゲイで、且つ相思相愛なのだが、どちらもその事には気付いて居ないという。
ある日。
大学からの帰り道で。
「なぁ雪太。最近面白い話とか、あるか?」
「家の中庭でマゼランペンギンを飼い始めたよ。憎たらしいけど、可愛いよ。」
「何だそりゃ……。ってペンギンかょ!?」
夏太郎は、目を丸くさせる。
無理もない。
だが、思い当たる節はあった。
「なぁ、それってもしかして、あのマゼランペンギンか!?」
「うん。」
「確か、喋ってたよな。あいつら。」
「うん。でも、世話は大変だよ。フンは撒き散らすし、プールも要るし。」
「何だ、じゃあ駄目か、、、、、、。」
実は夏太郎も飼ってみたかったのである。
が、無理だと分かってしょんぼり。
夏太郎は実家暮らしであるが、父親が潔癖症なのだ。
それに、プールなど設置する場所もない。
「しっかし、喋れる癖にフンは撒き散らすとか、あいつらも極悪だよな。」
「ね、酷いでしょ。」
「な、雪太!これからお前ん家寄っていいか?ペンギン見せろよ。」
「ま、別に良いけどね。口は悪いよ。覚悟してね。」
「そうなのな。でも、可愛いから許そう。」

で。
二人揃って雪太の家に到着。
「ここに来る度にいっつも思うんだけどさ。こんな屋敷に一人暮らしとか、寂しくねぇ?」
「好きでしてる訳じゃないしねぇ。ま、今はペン助とペン太も居るから、平気。それより、一日中家の何処かの掃除をしてる感じだからさ。そっちの方が大変。」
「そっか。大学もあるし、大変だな。」
玄関扉が開かれると、ホール越しに中庭が見える。
「ペンギン、名前は何だっけ?」
「ペン助とペン太。」
すでに中庭には大きなプールがあり、ペン助とペン太は優雅に泳ぎ回っていた。
小屋もある。
これも、ペン助とペン太のリクエストだ。
「おぉ、泳いでる泳いでる!」
夏太郎が近付く。
すると。
「やぁ、相思相愛のブスカップル諸君!よくぞおいでになられた。寛いでゆかれよ。」
「相思相愛の豚の丸焼きが二本。別に要らんな。」
早速、洗礼を受ける雪太と夏太郎。
夏太郎、呆然。
「ま、まぁまぁ。入って。お茶出すから。」
白々しくもその場を取り繕おうとする雪太。
だが、聞き捨てならないのは夏太郎だ。
「俺、お前の事が好きだ。笑いたきゃ笑えばいいし、軽蔑したきゃしてくれてもいい。ただ、本気だぞ。」
まさかの、本気での告白。
次の瞬間、雪太は夏太郎に抱き付いた。
「僕もおんなじ気持ちだよ。おんなじだよ。」
かくして、相思相愛ながらもなかなか結び付かなかった雪太と夏太郎が、ここで結び付いた。
もちろん、ペン助とペン太の力のお陰だ。
二人の心の中を、念で読み取ったのだ。
ここで夏太郎が雪太に提案。
炊事・洗濯・掃除は自分がやるから、共同生活をしてみないか、という事であった。
バイトをして生活費を入れるという。
別にお金には困っていない雪太。
何もそこまでさせる道理もない。
という訳で、バイトは良いから、家の掃除を手伝ってくれとお願いをしてみた。
答えはOK。
まるで新婚生活のような、二人の生活が始まるーー。
まぁ、ペン助とペン太に振り回されながら、ではあるのだが。

先も述べた通り、夏太郎は実家暮らし。
この近所に家がある。
と言っても、普通の家に毛が生えた位のものではあるが。
それ位が、この近所では普通であった。
雪太の家が異様に大きいだけなのである。
さて。
二人は共同生活をしたいというお願いをしに、夏太郎の家に向かった。
家に着くと、鍵を開け、中に入る夏太郎。
雪太もそれに続く。
すると。
中から夏太郎の母親・麗子が現れた。
「あら、いらっしゃい。雪太ちゃんね。久しぶり。」
「こ、こんにちは、麗子おばさん!」
この後の展開を想像して緊張する雪太。
吃るのだった。
「あら、雪太ちゃん。どうしたの、緊張して?」
訝しむ麗子。
と、ここで!
夏太郎、決死の告白!
「母さん、俺、ゲイなんだ!雪太の事がずっと、ずっと好きだった。今日、無事に告白を済ませたから。一緒に住むから、雪太の家で。引っ越すから。な、いいだろ?」
麗子の反応は、二人にとっては意外なものだった。
「あら、良いじゃない!夏太郎、やっと告白したのね。母さん、ずっと前からあなた達の想いに気付いていたのよ。気が気じゃなかったんだから。さ、上がって!今夜はお夕食食べて行きなさいな、雪太ちゃん。お祝いよ!」
二人の想いは、筒抜けだったのだ。
まぁ世の中、そんなものである。
「やったね!」
「良かった!」
玄関先ではしゃぐ二人。
「早く上がりなさいね。ケーキとコーヒーがあるのよ。」
「はーい!」
返事は、二人の声が揃った。
ユニゾンである。

リビングに向かう。
ソファに腰掛ける二人。
出て来たのは、クランベリーと木苺のケーキ、それにウィンナーコーヒー。
ケーキ、ワンカットが大きいのだが、モリモリ食べる二人。
そこは食いしん坊のデブだけに、そうなるのである。
「良い食べっぷりねー!流石ね。」
麗子も、感心している。
「でね。雪太ちゃんの銀行の口座番号を教えて欲しいの。夏太郎の食費と生活費を毎月入れるから。二人ともまだ学生なんだから、遊びも良いけど勉強も頑張るのよ!」
これに慌てたのが、雪太。
「あ、お金ならあるんで、大丈夫です!勉強頑張ります!」
だが、世の中そうは行かないもの。
「あら、駄目よ。少し位は受け取ってくれないと。お世話になりっ放しという訳にも行かないもの。ね!」
押し切られて、お金を受け取る事になった雪太。
「良かったわ!これで安心。今夜は焼肉よ!思う存分、食べる事よ。ね、二人共。」
「はい!」
「あーい。」
ここはユニゾンならず。
残念。

夕食までには間があるので、夏太郎の部屋で寛ぐ事になった二人。
テレビゲームに興じる。
対戦ゲームだ。
何度やっても負ける雪太。
「もういい!」
拗ねるのだ。
たまには。
「まぁまぁ、もっかいやろうぜ。」
と、そこへ。
『おぃトンチンカン!飯はまだか!』
『この薄情者!僕達を飢え死にさせる気だな!覚えてろ!』
ペン助とペン太の声が、雪太にだけ聞こえた。
「悪いね、夏太郎。ペン助とペン太に餌やって来るよ。すぐに戻るからさ、待ってて。」
「了解!」
という訳で、一旦帰宅する雪太。
帰ると。
「おぉ、死神が戻って来たぞ。俺たちを飢え死にさせる悪魔だ!」
「おぃ雪太、早く餌くれないとお前を食べるぞ!不味そうだけど、仕方ない。」
ペン助もペン太も、大騒ぎだ。
「はいはい、今持ってくるよ。待ってて。」
「嫌だ!待たない!」
「五秒で持って来い、トンチンカン!」
言いたい放題である。
仕方ないので、今日は餌を多めにやる事に。
「おぉ、ペン助、見ろ!今日は餌が多いぞ!普段はケチな癖に、出血大サービスだな!」
「流石は神様仏様、雪太様!」
一転して、拍手喝采。
そして、無心で餌を喰らうペン助とペン太。
これがないと念も使えないので、必死なのだ。
あっという間に食べ尽くす、ペン助とペン太。
ちなみに、ペン助とペン太は、いわゆるグルメではない。
普通のペンギンが食べるものなら、何でも食べる。
これは、世話をする雪太にとっては、有り難い事だった。
食べ終えると、途端に素っ気なくなるペン助とペン太。
「もう戻れ。夏太郎が待ってる。」
「とりあえず、お前に用はない。行って良し!」
「あいょ。」
これも、ペンギン達なりの気の遣い方なのだ。
それが分かっているから、腹も立たない雪太。
もうそこそこ長い付き合いなだけに、分かっているのだ。

で。
夏太郎の家に戻って。
夕食である。
焼肉。
豪華である。
ちなみに、麗子は元女優。
容姿端麗なのである。
が。
良く食べる。
太りにくい体質なのだ。
これは、雪太も知っている事。
ちなみに、麗子の夫は出張で居ない。
「さ、頂きましょう!」
ご機嫌な麗子の掛け声で、宴は始まる。
この日、用意された肉は一キロ半。
一人五百グラムである。
モリモリ食べる三人。
一人、痩せている麗子も負けてはいない。
あっという間に完食。
デザートは杏仁豆腐で、さっぱりと。
「ご馳走様でしたー!」
見事なユニゾン。
挨拶も皆で揃ってしっかり、である。

その後。
夏太郎の最低限の荷物を手分けして持って、帰る二人。
「それじゃ、二人仲良くね!」
「ありがとうございました!さようならー!」
「ほんじゃ、また。」
帰り道。
「ホントは、手でも繋ぎたい所だけど。」
「両手、塞がってるからな。」
不意に、キス。
夏太郎から、雪太へ。
二人にとってのファースト・キスは、フレンチ・キスだった。

帰宅。
とりあえず、その場に荷物を置く。
「おぉ、ブスカップルのお帰りだぞ!」
「ただでさえ暑い夜なのに、暑苦しいなぁ!ところで、今晩辺り初夜かな。」
「そのようだな。頑張れよ!」
紅くなる雪太。
茹でダコのようになった雪太を、夏太郎が引っ張って進む。
これにて今夜は、おやすみなさい。

翌朝。
今日は週末なので、お休み。
でも、のんびりしている時間はない。
昨日サボった分まで、掃除をしなければならないのだ。
夏太郎が中庭の掃除をしている間に、雪太は朝食の支度。
メニューは豚汁に鮭の塩焼き、肉じゃがに天ぷら。
朝からしっかり、である。
一方。
「おぃブス太郎!掃除、しっかりしないと丸焼きだぞ!雪太〜、火炎放射器〜!」
「俺達の朝食はまだか、ブス太郎!雪太、火炎放射器早く持ってこーい!」
中庭は朝から、騒がしい。

この日から、二人と二羽の共同生活が始まった。
これからは雪太の家は毎日、これまでにも増して賑やかになるだろう。
空は抜けるように青い。
入道雲が、雪太達を見下ろす。
夏の日差しの下で、ペン助とペン太はバカンス気分だ。
「雪太、手榴弾持ってこーい!」
「そんなのないからー!」
雪太と夏太郎、それにペン助とペン太の幸福な日常は、まだ始まったばかりだ。

シリーズ一作目。
作品のタイトルですが、自然と出て来ました。
それまでのぼくの作品にはない感じのタイトル。
結構気に入っています。
このお話の中では、
「我等の行く所、皆トイレ也。」
「そう也。」
という邪悪なペンギンたちのセリフがツボ。
夏太郎は個人的に好きなキャラクターです。
主人公の雪太共々、それはそれは可愛いという設定。
まぁ、フィクションですので、どうとでもなります。
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