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三毛猫と白猫 [其ノ参・番外編]

これは、野良猫ミミと青年たちとが織り成す優しい物語である。
窮地に陥る青年・豊ーー。
彼を救ったのは、春雪と野良猫たちだった。
心温まる物語を今、ここに。

僕の名前は豊。
以前、犬を飼っていた。
散歩中に。
その飼い犬が吠えた。
名前は太郎。
「太郎、吠えちゃ駄目だよ。」
叱ってみるが、言うことを聞かない。
これは珍しい。
と、そこへ。
吠えられた不良グループの青年が、蹴りを入れた。
相手が悪かったのだ。
その後も何度も蹴りを入れる。
太郎を守ろうとして、僕は覆い被さるのだが。
後から来た不良グループのメンバーたちが引き剥がす。
結局、太郎はその場で事切れた。
去ってゆく不良グループ。
この話は、それで終わるはずだった。
だが、通り掛かりの人がその一部始終を見ていてーー。
ーー通報してしまった為に、事態は大きく展開する。

不良グループは、捕まってしまった。警察に。
彼らへの処分は軽かった。
だが、僕はこの件を機に逆恨みをされてしまう。
それからの僕は、不良グループのサンドバッグとなってしまった。
初めに、着ていた服を全て脱がされる。
そして、全裸の写真を何十枚も撮られてしまう。
で。
これをばら撒かれたくなかったら、言う事を聞けという。
別に構わなかったのだが。
両親が見たら、何と言うか。
うちの両親は、それは厳格だったから。
中には卑猥な写真もあったので、正直困ってしまったのだ。
僕は両親のコネで入った会社に勤めていた。
だから、スキャンダルになるのはマズい。
そう思って、言う事を聞いた。
太郎を助けられなかった、これがその罰だとも思っていた。
そしてその事が、僕をみるみる内に窮地へと追い詰める。

それから、毎日のように呼び出しがあった。
もちろん、相手は件の不良グループだ。
行く度に、暴行を受けた。
正直、慣れない。
何度殴られても蹴られても、身体は敏感に反応した。
彼らは、首から上は狙わなかった。
怪しまれるのを防ぐ為だ。
そんな事だから、命までは狙われないだろう、そう思っていた。
だが、七度目の夜に、事態は切迫する。
「おい、コイツ殺しちまおうぜ!」
途端にニヤけだす不良たち。
僕は、震え上がった。
恐怖のあまりに失禁するが、相手はもうお構いなしだ。
初めて鉄パイプが出てきて、いよいよ終わりだという事を悟る僕。
そして。
始まった。
痛いなんてものではなかった。
早く死にたいーー。
正直、そうとしか思えなかった。
意識が朦朧とする。

その時だった。
白い猫が現れた。
そして、不良グループを怒鳴り付ける。
「あんたたち、それ以上やったら警察を呼ぶわよ!覚悟おし!」
すると、他でもない不良グループのリーダーが腰を抜かした。
「ね、猫が喋った!!」
「え、何すか?どうしたんすか?」
他のメンバーは怪訝そうな顔でリーダーを見る。
その場はどっちらけ。
隙をついて、大型トラックの運転手さんが僕を確保。
助手席に乗せて、車を走らせた。

ーー気が付くと、僕は知らない街の路上で寝転がっていた。
病院でもなく。
どういう訳だろう。
あの白い猫も一緒だ。
三毛猫もいる。
三毛猫が僕に尋ねた。
「小さな願い事、三つだけ叶えてあげる。教えてくださるかしら?」
僕は即答した。
「あの不良グループから解放される事。安全な地で仕事が見つかる事。そして彼氏が出来る事。お願いします。」
喋る位の猫だから、これ位は叶えてくれるかも、そう思った。
僕は二十歳をとうに過ぎていたが、彼氏など居た事がない。
厳格な両親のせいだ。
だからこの三つの願いはどれも、僕にとっては切実なものだった。
「分かったわ。その三つの願い事に関しては、心当たりがあるの。きっと叶えるから、期待して待ってて。」
待っててと言われても困るのだが、他に方法はなかった。
僕はズキズキと痛む身体を持て余して、その場で蹲っていた。

それから、どれ位経っただろうか。
不思議な程に人通りのないこの広い道に、一人の青年が訪れる。
タイプだった。
いっぺんに一目惚れした。
でもどうせ駄目だろう、そう思ってもいた。
すると彼、救急車を呼んでくれた。
ふと思った。
今頃、不良グループはきっとばら撒いているに違いない。
あの恥ずかしい写真を、そこら中に。
「もう、家には戻れないな。」
そう思った。
僕はこれまで、両親の経営するアパートに住んでいたのだ。
やがて救急車が到着し、僕と青年は病院へと向かった。
その後の記憶がぷつりと途切れているのは、気絶したからだろう。
安堵からだと思う。
恐らく、緊張の糸が切れたのだ。

その後。
気が付くと、僕は病院のベッドに横たわっていた。
あの青年も一緒だ。
驚いた。
『まだ居てくれたんだな。物好きだな。』
正直、そう思った。
青年は熱心に僕に話し掛けてくれた。
最初は無視していた。
けれども、熱意に押されてーー。
ーーもちろん、僕が青年に好意を抱いていた事もあったけれども。
少しずつ、当たり障りのない範囲で話す事にした。
それにしても、その前にやっておくべき事がある。
この傷だ。
病院は警察に連絡をするかもしれない。
あの不良グループに捜査の手が及ぶ事だけは避けなければ。
案の定、程なくして警察の人間がやって来た。
「誰にやられたか、覚えているかい?特徴とか。」
そんな事を聞かれたので、僕はだんまりを決め込んだ。
青年にも聞いていたが、知らない、の一点張り。
「ふぅ。このままでは逮捕は難しいな。」
独り言のように口にして刑事さんは、病室を後にした。
幸いな事に、その後刑事さんが来る事はなかった。

それから。
僕は青年と色んな話をした。
二人共ゲイだった。
驚いた。
彼氏は無理でも、友達位にならーー。
この時の様子で、そう思った。
お互い、家のことでも悩んでいた。
ウマが合いそう、そう思った。
そんな時だった。
僕は青年に告白をされた。
青年の名前は、春雪。
素敵な名前だった。
僕は春雪にOKを出した。
春雪、ガッツポーズをしていた。
それが面白くて嬉しくて、思わず笑ってしまった。
二人揃って、笑顔だったーー。

それからの展開は早かった。
春雪は、退院したら一緒に住もう、そう申し出てくれた。
養子縁組の話もあった。
電話で確認したのだがーー。
ーー僕はやはりもう、両親から義絶されていた。
予想通りの展開であった。
だから証人には、春雪の家の人がなってくれるという。
嬉しかった。
というより心の中では、喜びが爆発していた。
ポーカーフェイスを保つのが大変だった位だ。

退院の日。
二人並んで、歩いた。
手を繋いでーー。
全てが初めての経験だったから、新鮮だった。
幸せ過ぎて、怖い位だった。
その後、春雪の車で僕たちはスーパーへと向かった。
お祝いのパーティーをするというので、食材を買うのだ。
僕は料理はからっきし駄目なので。
その辺は春雪の担当だ。
男は料理などするなと両親にきつく言われていた。
そのせいで作り方を全く知らない僕。
申し訳ないので、洗濯や掃除は僕がやろう。
一通り買い物を済ませると僕たちはいよいよ、春雪の部屋へ。

初めて見る部屋。
新鮮だった。
僕の以前の住まいよりも、少し広いこの部屋で。
いよいよ、僕たちの新生活はスタートする。
ダイニングに向かうと、あの三毛猫が居た。
ミミと言うらしい。
当面の間は、同居するのだそうだ。
お世話になったし、賑やかなのも良いだろう。
と、ここで。
そうだ。
お礼を言わなければ。
思い出した。
二人してミミにお礼を言う。
「あら、いいのよ。好きでやっているんだから。しばらくはここでお世話になるんだし、おあいこよ。」
ミミはウインクをして見せた。
今時ウインクというのもどうかと思ったが、妙に似合っていた。
僕たち二人は吹き出して、笑った。
「あら、失礼ね!」
ミミは怒るのだが、もちろん本気ではない。

僕たちはここで幸せになるんだーー。
そう決めたから、その為には誰の助けでも借りて、何でもしよう。
そうだ。
ここ以外に僕の居場所は、もうないのだ。
でも、それでいい。
退路が断たれたからこそ、出来る事もある。
不意に、初めてのキス。
甘い味がした。
僕たちは今、喜びの真っ只中に居る。
それがただ嬉しくてーー涙が溢れた。
一歩ずつ共に前へと進もうーー。
そう思えた、これがその瞬間だった。
新しい風が吹き抜ける。
幸せへの道は、目の前にひらけていた。
僕たちは、ずっと共にあるんだ。
そう誓って、僕は春雪の温かな掌を握るのだった。

ーーこうして、二人の長い長い共同生活が始まった。
何があっても二人は、共にあるに違いない。
二人の一歩は、まだ刻まれ始めたばかりだ。
“幸せになるんだ”、ぼくのお気に入りのフレーズです。
まぁ、なんて事はないのですが。
毎回の事ですが、書いているとやっぱり、作品のコアとなるフレーズが出て来ます。
それが強い時は、上手く書けた時なのかもしれません。
今回は、番外編らしい番外編が書けたと思っています。
本編と合わせて、是非どうぞ。