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三毛猫と白猫 [其ノ弐・番外編]

これは、野良猫ミミと人間とが織り成す優しい物語。
ミミが旅の途中で出会うべくして出会った冬太ーー。
彼には人生の転機が、訪れようとしていた。
彼は果たしてどうなってゆくのか。
短くさりげない物語を、今ここにーー。

私はミミ。
野良の三毛猫。メス。
特技は、喋る事と人の願いを叶える事ーー。
ーーの筈なのだけれど。
願いを叶える事が出来なくなってしまった。
力が失われてしまったの。一時的に。
交通事故に巻き込まれたのね。そのせいで。
という訳で、暫しの間冬太さんにお世話になっていたの。
これはその時のお話。
冬太さんは二十三歳のゲイの青年で、土木作業員。
丸っこい体型だけれど、実は筋肉もあるという。
で、その彼のご両親が。
冬太さんの事をひどく心配していたの。
ご両親にはお世話になったから、その流れで。
まぁ何とかしてあげようと思ったのね。
それで、冬太さんの事だけれど。
顔や体型は知っていたの。
ご両親に見せてもらった写真でね。
だから、出会った時にはすぐに分かったわ。
でも、ご両親には下の名前だけは聞いておいた。
念の為にね。
お陰で出会いはスムーズだったわ。
冬太さん、腰を抜かしていたけれどーー。
喋る猫の存在なんて、知らずに寿命を全うする人間も多い。
無理もなかったわ。

冬太さん、とても優しいの。
交通事故で怪我をして、入院してからというもの。
もう甘えてばかりで、申し訳なかった。
彼の三つ目の願い事はね。
恋愛に関する事だったの。
三つの内、唯一叶えられなかったその願い。
早く叶えてあげたくて。
それはもう、苦しかった。
何も出来ないって事がこんなに辛いなんて。
予想だにしなかった。
役立たずの自分が、悲しかった。
でも、そんな時。
決まって冬太さんは励ましてくれたわ。
「ミミは悪くないよ。早く良くなろうね。」
って。
私、その度に涙が出そうだった。
それこそ、柄にもなく。

冬太さん、よく資格の勉強をしていたわ。
家にいる時にはいつも、と言っていい位。
そんな時、私はいつも、胡座をかく冬太さんの脚の上。
丸まって、スヤスヤ。
よく眠る事も、力の回復には重要なの。
冬太さんの脚の上は本当に気持ちが良かったわ。
温かくて、柔らかくて。
とても素敵な居心地だった。
戻れるものなら戻りたい位に。
そんな冬太さんだけれど。
時々、ドライブにも連れて行ってくれたわ。
私はいつも後部座席。
車内ではいつもお喋りをしていた。
話を聞いていると冬太さん、音楽には疎いみたいで。
だから私が色々と教えてあげたわ。
ジャズとかクラシックとか、シャンソンとかポップスとか。
意外と筋は良くてね。
割と何でも聴きこなしていたわ。
好奇心旺盛だったのが幸いしたみたい。

寝る前の時間。
それは、私が一番好きだった時間。
冬太さんの傍で丸まって、ぬくぬくとして。
静かな部屋に、しんしんと降り積もる雪の気配。
全てが満ち足りた時間だったーー。

ある日の事。
冬太さんのお休みの日を狙って、ご両親がやって来たの。
お休みの日程を教えたのは、私。
ご両親は、冬太さんがゲイである事には理解があった。
だから、大丈夫だろう。そう思って。
冬太さんには内緒の来訪。
部屋も綺麗に整頓されていて。
もちろん、台所も片付いている。
自炊もしているのに。
だから、問題ないのね。
そもそも、物が少ないし。
部屋で目に付くのは、五十インチのテレビ位のもの。
クローゼットがそこそこ広いから、荷物は大体収まるの。
で。
呼び鈴が鳴るので、のっそりと玄関に向かう冬太さん。
扉を開けると、固まってしまったみたい。
「父さん、母さん、どうしたの。」
それに対して、ご両親は余裕たっぷり。
「カット済みのカニを山程持って来たから、今夜は鍋だ。」
「冬太とミミちゃんの様子を見に来たのよ。でもこの分だと必要なかったみたいね。夜には帰るわ。」
アットホームな雰囲気。
どちらも、拍子抜けする位に。
これには冬太さんも嬉しそう。
「父さん、母さん。寛いでいってよ。」
まぁ、もう十分に寛いでいるような気もしたのだけれど。
それはともかく。
三人と一匹の宴の始まりね。
「テーブルの上に資格の本があったな。勉強してるのか?」
お父さんが背中を叩く。
「うん、まぁね。いつか現場監督になりたくてさ。」
冬太さん、嬉しそう。
「さ、出来たわよ〜。たらふく召し上がれ!」
お母さんも上機嫌。
私はキャットフード。カリカリの。
ま、そんなものよね。世の中って。
せめて缶詰が良かったわ。
まぁ居候風情で贅沢は言えないわね。
それにしても。
お父さんも冬太さんも、ふっくらしているからかしら。
良く食べる事、食べる事。
あれ程あった具材が三十分でなくなりました。
これには、いつにも増してビックリ!
大男ダブルの迫力は、やっぱり凄いわね。
で。〆の雑炊。
みんなハフハフ言いながら、美味しそう。
最後はやっぱり。
「ご馳走様でしたー!」

「じゃあね。元気で頑張るのよ!」
「いいか。気合入れて、根性出してやれ。じゃあな。」
これでご両親ともしばしのお別れ。
冬太さん、寂しそう。
だから、言ったの。
「また会えるわよ。次は資格試験の合格祝いかしらね。」
って。
そこで冬太さんの表情が嬉しそうに変わるのを見て、私ね。
四つめの願い事を叶えてあげる事にしたの。
資格試験に合格出来るようにね。
ずっとお世話になっていたし、冬太さん頑張っていたから。
だからこれは特別。
結果が出るのはまだまだ先。
多分お別れしてからね。
でも、当然結果発表の日には駆け付けるわ。
みんなでお祝い。
それも絆があるからね。
冬太さんと出会えて、本当に良かった!

春。皆さんは桜を見に行かれるのだろうけれど。
私たちは海。
「僕、人のあまりいない海が好きなんだ。綺麗でしょ。」
はにかんだ笑みも可愛いの、冬太さん。
そんな冬太さんに抱き抱えられて眺める海は、最高だった。

梅雨。シトシトとそぼ降る雨を横目に見ながら。
私と冬太さんは、二人がけの小さなソファでうたた寝。
時折耳につく雨音も、それはそれでオツなもの。
二人だけの時間、掛け替えのない時間。
私、人間には恋はしないのだけれど。
冬太さんとなら、共に暮らしてゆけそう。
そんな事を思いながらの、夏前のひと時。

それから時が経過して。
夏。照り付ける日差しが眩しい。
気が付くと私、力が戻っていたーー。
ーーお別れの時がやって来たの。
私にはやりたい事があるから、仕方ない。
いつまでも居候をしている訳にはいかないから。
だから、お別れの言葉を、最後に伝えた。
「やっと力が元に戻ったの。もうお別れね。でも時々遊びに来るわ。本当にありがとう!もうじき新しい彼氏が出来るわ。幸せになるのよ。」
冬太さん、涙目になりながら私を抱き抱えて。
それからしばし、涙のハグ。
私まで貰い泣きしちゃった。
最後。
冬太さん、私の事をいつまでも、見送ってくれていた。
それは分かっていたの。
でも振り向くと未練が募るから、一瞥して駆け出したわ。
そうそう、冬太さんの片思いの相手。
バイセクシャルだったみたい。
それなら話は簡単。
冬太さん、きっと喜ぶわ。

こうして若者冬太の人生は、大きく前に進む事となった。
影響したのは、ミミの力だけではない。
彼のひたむきな思いが、幸せを大きく引き寄せたのだった。
まだ二十三歳。
冬太の幸せな日々は、まだ始まったばかりだ。
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