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三毛猫と白猫 [其ノ弐]

今日も、寒かった。
手が、かじかんでいる。
車に乗り込むと、暖機運転を開始。
仕事もどうにか無事に終わった。
後は買い物をして、帰るだけ。
変わり映えのしない日常ではある。
が。
そんな事を感じていた自分に、転機は突然訪れる。

車を滑らせる。
気怠い感じだ。
不意に眠気が襲う。
危険を感じたので、コンビニへ。
眠気覚ましのドリンク剤を買うのだ。
商品を棚から取ると、レジへ直行。
無駄な買い物をしないように。
モバイルSuicaで決済完了。
店を出て、その場でドリンク剤を飲み干す。
たまたまゴミ箱があったので瓶を捨てると、車へーー。

あ、猫だ。
気にしない事にして、車のロックを解除。
座席に座ろうとすると、、、、、、。
「こんばんは。私はミミ。野良の三毛猫。もしよろしければ今晩お宅にお邪魔してもよろしいかしら?後でお礼はするわ。」
な!猫が喋った!
腰砕けになる僕。
ヘナヘナと、その場に崩れる。
「あら、そんなに驚かないで。他にも喋れる猫は結構いるのよ。もちろん、喋れない猫も沢山いるわ。また、話し掛けられても聞き取れない人間も大勢いる。でもこれは、そこまで珍しい事でもないのよ。幻聴で片付けられる事が多いけれど、本当は違うの。」
そう言われても困るのだが。
とはいえ、このまま去るのもどうかと思ったのは確かだ。
なので、とりあえずは家へと連れて行く事に。
ミミを後部座席に乗せて、まずは車を移動。
で。運転しながら。
「なぁミミ。お前さんは普段、何をして生活しているんだ?」
気になった事。
でも、野良に聞いても仕方ないか。
そう思っていた所ーー。

「私は、様々な人の願い事を叶えてあげているの。日本全国を回って。移動は、車の運転手さんの好意に甘えながら。もちろんそこでも願いは叶えるの。ところで、ここで出会ったのも何かの縁。お名前を教えてくださると嬉しいわ。下だけでいいのよ。」
なるほど。
という事は、僕の願いも聞いてもらえるのだろうか。
それはともかく。
まずは名乗らねば。
忘れていた。
「僕の名前は冬太。土木作業員。二十三歳。質問に答えてくれてありがと。今日はもう遅いから、うちに泊まっていくといいよ。静かにしてるんだよ。」
ミミも最初からそのつもりだったのだろうけれど。
それにしても、顔が随分と嬉しそうだ。
「あら、ありがとう!嬉しいわ。後でお礼に小さな願い事を三つ叶えてあげるわ。今の内に考えておいて。」
それは有難い話だ。
でも、今の内にと言われてもちょっと困る。
今、運転中だし。
ましてや、雪のせいで路面の状態が良くない。
ここは北陸の地方都市。
雪が沢山降るのだ。
ちなみに、車は必需品。
だからこれもだいぶ無理をして買った。
安物だが、一応は4WDのSUVだ。
とまぁそういう訳なので。
願い事の件は帰ってから考えよう。

やがて車は自宅アパートの駐車場に到着。
車を停めると、傘もささずに小走りで、アパートへ。
もちろん、ミミを抱いて。
階段を上ると、二階の突き当たりが僕の部屋だ。
まぁ突き当たりというよりは、ね。
どん詰まりといった方がしっくりくる感じは、する。
のだが。今はまず、ドアを開けなければ。
鍵を出す。ポケットから。
かじかむ手で鍵穴に鍵をどうにか挿入。
当然の如く、ドアは開いた。
「さ、ミミ。中に入って。すぐに暖房付けるね。待ってて。」
「あら、暖房を付けてくださるのね。有難いわ。実は寒いのはあんまり得意ではないの。助かるわ。」
もう喜色満面のミミ。
さっき嬉しそうだった理由も、これだ。
それにしてもこれだけ喜ばれると、何だかこそばゆい。

部屋に入って暖房を付けて。
しばしボンヤリ。
小さなソファの上で。
ここは格安の1DK。
部屋が広いのがお気に入り。
『あ、あった。』
ここで思い出す。
小さな願い事、あるのだ。それも三つ。
一つ目は。
あらゆる人との人間関係が、スムーズに行く事。
二つ目は。
仕事やお金に困らない事。
大金は要らない。でも、貧し過ぎるのも困るから。
そして三つ目、なのだが。
ここ五年間に亘ってずっと好きな相手がいた。
仲は悪くはないのだが。
相手はヘテロなのだ。
当然、恋愛の相手として意識されている訳もなく。
すっかり諦め切っていたのだ。
そんな事を考えていると、見透かされていたらしく。
ミミが一言。
「三つ目の願い事、それは駄目よ。残念だけれど。新しい出逢いに期待する事ね。それなら協力出来るわ。」
心にポッカリと穴が開く。
そうだよな、それはそうだよな。
我ながら虫のいい話だったよな。
けれどもーー。
心がその事実を受け入れられない。
結局、僕の傍にいつの間にかいたミミを抱き締めながら。
僕は、嗚咽を漏らし続けるのだった。

翌朝。
ミミは去っていった。
「また来るわ」との言葉を残して。
果たして、願いは聞き入れられたのだろうか?
結果は、すぐには分からなかった。
だが、一日の仕事の終わりに。
現場監督から声を掛けられた。
「頑張れ!お前ならいつか、現場監督にだってなれる。勉強しておけよ。じゃ、お疲れさん!」
監督に初めて認められた瞬間。
嬉しくない訳がなかった。
これからの仕事にも張りが出るというもの。
が。
現場監督になるには土木施工管理技師の資格があるべき。
取得出来るか。
難しい資格だ。
それだけに取れれば評価もグンとアップするだろう。
まずは2級から。
ここはやるしか!

という訳で、空いた時間は資格の勉強に費やす事にーー。
ーー翌日、昼間。
今日は現場が休みだ。
勉強せねば。
「ふぅ……。」
溜め息を一つ。
それから、伸びをして。
立ち上がると、お茶の用意をする。
お茶受けは芋羊羹。
まずは一服。
疲れたのだ。
長時間集中していたので。

と、ここである事を思い出す。
「そういえばどうなったかな?彼氏の件。」
すると、ベランダに一匹の猫が。
どうやって登ったのかな、などと考えるも。
まずはそれどころでもないのだろう、という事で。
窓を開けてみた。
白猫が居ました。
例によって話します。こいつも。
で、その内容はというと。
「冬太さん、たいへーん!ミミちゃんが足を怪我しちゃったの。暴走バイクに轢かれて。このままだと死んじゃうわ。お願い、動物病院に連れていってあげて!野良だと難しいの、分かるでしょ?」
一大事だ。
白猫を後部座席に乗せて、事故現場まで車で向かう。
「そろそろよ、冬太さん。ほら、あそこ!」
そこは細い道だった。
路側帯の上でグッタリとするミミ。
幸い、出血はない。
だが、右後ろ脚の骨が折れていそうだ。
可哀想だ。
助けなければ。
何としてでも。
即座にスマホで最寄りの動物病院を探す。
「ここがいいか。」
目星を付けると、後部座席にミミを乗せて、発車。
白猫とはここで別れて、一路動物病院へ。

結論から言うと、命に別条はなかった。
運び込まれて即手術となり、もう意識も回復している。
「ごめんなさいね。迷惑掛けてしまって。」
涙声のミミ。
でも、そんなに落ち込む事でもないのだ。
悪いのはミミを轢いたバイクの運転手なのだから。
「ミミは悪くないよ。退院したらうちにおいで。元気になるまで、ゆっくりするといいよ。」
僕はそれだけ言うと、丁寧にミミの毛を撫でた。
「ありがとう、ありがとう!冬太さん!わあぁー!」
泣き崩れ、嗚咽を漏らすミミ。
早く元気になってくれーー。
それが偽らざる僕の本心だった。

それから半年。
色々あった。
楽しい事もたくさんあった。
事故後失われたミミの力も、少しずつ回復していった。
そしてーー。
ミミとのお別れの時が遂に、やって来る。
「やっと力が元に戻ったの。もうお別れね。でも時々遊びに来るわ。本当にありがとう!もうじき新しい彼氏が出来るわ。幸せになるのよ。」
ガッチリとハグ。
そして駆け出すミミ。
僕は去ってゆくミミの後ろ姿を見送っていた。
いつまでも、いつまでも。

翌日。
片想いの相手が突然、部屋にやって来た。
玄関扉を開けると、顔を覆い尽くす薔薇の花束。
「よ!色々考えたけど、な。俺やっぱり、お前の事が好きなんだ。付き合ってくれないか?幸せにするから。」
驚いた。固まるしかなかった。
でもここは、勇気を持って聞かねば!
「お前、ヘテロじゃなかったのか?」
片想いの相手、颯太の答えは実に分かりやすかった。
「俺、バイなんだよ。駄目か?」
そうとなれば、次にする事は決まっている。
僕は颯太の傍まで近付くと、頰に軽くキスをした。
途端にハグされる僕。

これからは、颯太と共に寒い冬も乗り越えてゆく。
僕と颯太の幸せな日々は、まだ始まったばかりだ。
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