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三毛猫と白猫 [其ノ壱・番外編]

これは、三毛猫とよくある家族の織り成す、ごくありふれた、けれども優しい物語である。

私はミミ。
一部の人間たちと話す事の出来る、メスの三毛猫。
ドライバーさんたちの好意に甘えて全国を移動しながら、様々な人たちの様々な願い事を叶えるというのが、目下のライフワーク。
先日は白田耕平という男の方と知り合い、三つの願い事を叶えてあげたの。
お仕事の面接が上手くいきますようにという願いと、人間関係がスムーズにいきますようにという願い、それに素敵な彼氏が出来ますように、という願いの三つね。
実は耕平さんの所に向かったのには理由があって。
その少し前に知り合っていた耕平さんのお母さんの、たっての願いだったの。
他にも彼女、二つ願い事をしていて。
お金を、居場所の分からない耕平さんの元へと安全に届けて欲しいという願い。
それに、いつか一家四人で仲良くお話したいという願いね。
本当は三つ目の願い事は、耕平さんが出来るだけ早く孫の顔を見せてくれますように、っていう願いだったんだけれど。
よくよく話を聞いてみると耕平さん、ゲイだっていうから。
彼女はそんなのは一時の気の迷いだって頑なだったけれど。
結局、その願いは聞かなかったの。
「よりにもよって私の息子がホモだなんて、ホモだなんて、あんまりだわー!どうして治してくれないのー!」
彼女、そう言って泣き崩れていたわね。
でも、可哀想だけれど仕方のない事。
ゲイはゲイとしてしか生きられないのよ。
それは、この世界でみんなが受け入れざるを得ない決まりみたいなもの。
言ってみれば天の定め。
私の力で変えてはいけないのね。
それに、ゲイかヘテロセクシャルか、っていう問題は大きな問題だから、私の力は効きにくいの。
私が変えられるかもしれないのは、彼女・京子さんとその旦那さんの頑なな気持ち。
正直手強いけれど、やってみるしか!

「お金、大切に遣うのよ。それじゃ、また来るから。」
そう言って、お母さんからの札束を手に持って泣き崩れる耕平さんの元を離れた翌日、三連休の初日ーー。
私は耕平さんのお母さんの京子さんとその旦那さん、それに次男坊さんの頑なな気持ちを変えるべく、その住まいの近くまでやってきていたの。
入り口で戸を叩く私。
顔を出してくれたのは、予想通り京子さんだったわ。
「あら、いらっしゃい、ミミちゃん。今日はお父さんも同居している次男坊も中にいるから、挨拶していって。お金……渡してきてくれたのよね?……ね?」
私が大きく頷くと、京子さんは「ありがとう!」そう言って私を抱き上げてキスをすると、居間へと連れていってくれたの。
「こんにちは、私はミミ。もし良かったら今日一日、ここでやっかいになろうと思うのだけれど。いいかしら?」
これに応えてくれたのは、この家のお父さん。
京子さんの旦那さんね。
「あぁ、構わん。喋る猫か。珍しいな。」
それだけ言うとお父さん、読んでいた新聞に再び目線を落としたの。
『もしかしたらこのお父さん、私の力が効きにくい体質なんじゃないかしら?』
そう思った私は直ちに、お父さんに集中的に力を送り始めたの。
正直、一晩では時間が足りないかもしれない。
でも、さっきも言ったけれど、やってみるしかないわね。
私はただ寛いでいる風を装いながら、お父さんめがけて力を送り続けたわ。
やがて夕食の時間がやってきて。
疲れていた私は、京子さんの持ってきてくれたキャットフードでリフレッシュ!
ついでに京子さんと次男坊さんに力を送って、意識を変えてもらったの。
狙い通り、京子さんと次男坊さんはすぐに考えを改めてくれたわ。
問題はやはり、お父さんね……。
「私、京子さんやお父さんと一緒に寝たいわ。いいかしら?」
ここで断られたら万事休す。
でも。
「あら、いいわよ。ウチはダブルベッドだから、私たちと同じお布団で眠ってちょうだいな。」
これはラッキー。

夜、就寝の時間。
私は京子さんとお父さんの間で丸くなりながら、お父さんに力を送り続けていたの。
結局、一晩中力を送り続けて、もう限界。
お父さんの考えが改まったかどうかは、正直自信がなかったけれど。
それでも。
この機を逃したら次はいつになるか分からないから。
だから朝、京子さんに言ったの。
お父さんに気付かれないように、そっとね。
「京子さん、今日は三連休の中日でしょ。耕平さんを呼んでみたらいかがかしら?」
「そうね、誘ってみるわ。でもお父さん、大丈夫かしらーー。」
「とにかく誘ってみて!京子さん、ファイト!」

それから何時間か経ってーー。
家の玄関の前で私が待っていると、オドオドしながら耕平さんがやってきたの。
「耕平さん、きっと大丈夫。あのお父さんに会うんだから、オドオドしてちゃダメよ。男らしくね!」
私がウインクをすると。
「分かった。」
それだけ言って、呼び鈴を押す耕平さん。
長い長い、永遠に近い一瞬。
次の瞬間、京子さんが玄関扉から顔を覗かせたわ。
「耕平、お帰りなさい。長い間色々と、済まなかったわね。」
そう言って、耕平さんにとってはまさかの、ハグ。
「あなたと弟とは仲が良くないけれど、弟はあなたの代わりになろうとして頑張ってくれているわ!それだけは分かってあげて、ね!」
涙を流す二人。
そこに次男坊さんも加わる。
「兄さん、良く帰ってきたね。お帰り!」
三人の和解。
そこへーー。
「何やら騒がしいな。誰か来たのか。……なっ!お前は!」
鬼のような形相を見せるお父さん。
残念。私の力、及ばず。
「そこを退け、京子!」
お父さんの目の前に耕平さんを庇うようにして立ち塞がっていた京子さんめがけて、拳が振り下ろされる。
でね。まさかと思ったわ。
いつもの京子さんだったら、間違いなく退いていたわね。
でもこの時の京子さん、微動だにしなかったの。
次の瞬間。お父さんの拳が京子さんに直撃。
それでも怯まずに、京子さんはお父さんを一喝。
「ホモだろうと何だろうと、この子は私たちの息子です!これ以上この子を殴りたいなら、私を殴り殺してからになさい!」
その時。耕平さんが泣き崩れて。
そこへ大きな掌が。
お父さんが、あれ程嫌っていたはずの耕平さんに、手を差し伸べたの。
私の力も効いていないはずなのに。
「立ちなさい。そうだったな。お前も立派な、私の息子だったな。長い間、忘れていたよ。済まなかったなーー。」
お父さんの胸の中で泣きじゃくる、耕平さん。

その後、積もる話も尽きない中、時間は夕刻に。
一家四人の、実に二十年ぶりの穏やかな団らん。
お鍋を囲んで。
一番のご馳走は、みんなの笑顔。
でもーー。
「兄さん食べ過ぎー!なくなっちゃうよー!」
「え、僕そんなに食べてないょ?」
耕平さんが珍しくすっとぼけるので、お父さんが。
「二人共図体ばかりデカくなって、食べ過ぎだわ!」
それでも笑いは尽きない。
「お父さん、髭生やしたら似合いそう!」
「耕平、お前こそ生やせ!」
「残念だけど父さん、僕、髭似合わないんだ。前に一度、やってみたけど。」
「髭も似合わんとは、情けない。」
「お父さん、そういう事はご自分がまずは髭をお生やしになってから言うものでしょ。」
「京子か、鍋の具材が足らんのだ。」
「今、お持ちしますねー。」
ここにあるのは、揺るぎない絆。
場所は違えど、切れる事はきっと、もうない。
「耕平さん、私そろそろ帰るわね。皆さんによろしく。また会いましょうね!」
皆に気付かれないように、そーっと帰る私。
と、そこへ。
「あら、ミミちゃん。もう帰るの?今日はもう遅いから、泊まって行きなさいな。明日、耕平と一緒に家を出ればいいわよ。」
すっかり角の取れた京子さんが、私に声をかける。
「おぉ、そうだ。もう一晩位、いてもいいだろうよ。そうしろ。」
お父さんも上機嫌で声をかけてくれる。
「そうね。そうさせて頂くわ。」

「耕平、たまには一杯どうだ。ビール位、付き合え。」
「父さん、じゃあせっかくだからちょっとだけ。」
「息子共、二人とも飲むだろ。京子、大ジョッキ二つと瓶ビール三本!」
「だから父さん、ちょっとだけ!」
「俺の酒が飲めないのか!いい度胸だ!腕相撲で勝ったら、グラスにしてやる。」
よーい。スタート!
で。瞬殺。次々と。
二人共、大ジョッキ決定。
「父さん、強過ぎー!」
「お前たちが弱いんだわ!まだまだだな、息子共よ!」
「はーい、大ジョッキと瓶ビール、お待たせー。みんな、程々になさいね。」
「おう、大丈夫だ京子よ。三人で瓶ビール、あと十本もあれば足りるな。」
「死んじゃうから、父さん!」
「いや、大丈夫だょ兄さん。兄さんと父さんが四本ずつ飲めば。僕は二本で。」
「それがいい、耕平。な、そうしろ!」
「無理!」
ーーみんなが幸せになってゆく。
雪解けの日。今日は記念日。
「忘れられない日になりそうね、京子さん。」
「そうね。ミミちゃん、ありがとうーー。」

幸せの温もりは、既にもうここにある。
四人の物語はこうして、今までにはない新たな展開を見せるのだった。

お・し・ま・い。