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GREEN : GREEN

私たちの国日本から遥か遠く離れた地に、ファルテニアという国がある。
国土の大部分は見渡す限りの草原。
そこにポツポツと丸太小屋が建っており、日本人に良く似た風貌の人々がそこで暮らしていた。
「今夜も星が綺麗だよ。バム、早くおいでよ。」
「まだ夕食が出来上がんないのー!ビムもちょっとは手伝えー!」
ここはビムとバムが仲良く暮らす丸太小屋。
彼らは実の兄弟であり、ビムが十九歳、バムが十八歳の青年である。
両親は二人共、ビムとバムがまだ子供だった頃に病に倒れて今はない。
それ以来、二人は寄り添い合い助け合いながら生きてきた。
二人は双子ではないが良く似ており、背が低くて丸っこい。
違いといえば髪の毛と瞳の色位。
ビムはグレー、バムはブラウンなのだ。
二人共に艶やかな髪質で、時折見る者をハッとさせる。
肌も透き通るよう。
だが所詮はチビでデブの男だ。
馬鹿にする者も多かった。
それでもめげないのがこの二人。
「今年こそ彼氏作るぞー!」
彼氏いない歴十九年のビム、絶叫である。
「いいから手伝えって、このアンポンタン!」
バムが怒るのも無理はない。
「結局僕一人で作ったし。ビムの分はないから。悪しからず。」
明らかに四人前はあるビーフストロガノフの入った鍋を、星の良く見える窓際のダイニングテーブルの上に載せると、バムはビムを睨んだ。
もちろん、本気ではない。
「何だよぉー、食わせろよー!」
ビム、もう目がウルウルしている。
「仕方ねぇなぁ。食わせてやるから、サラダ作んの手伝え!」
「何だよもぅ、めんどくせぇなぁ。サラダなんて盛り付けるだけじゃんかよ!お前がやれよ、バム。」
ビムはこういう時、いつも悪態をつくのだ。
「じゃあ、飯抜きね。」
対するバム、会心の攻撃。
「分かりました、やりますよ。ちぇっ。」
さしものめんどくさがり屋ビムも、これにはこたえたようで。
まぁいつもの展開。
当然だが料理はバムの方が上手い。
というよりも、家事全般について、バムの方が良くこなす。
のだが。
そのままの流れだと何でもかんでも弟のバムが背負い込む事になって、不公平にも見える。
二人はその道の達人である父方の叔父から技術を習得した、鋳物ホーローの鍋職人であり、そこではビムの方が一枚上手であるから、結局の所はおあいこなのだが。
二人は十五になると父方の叔父に弟子入りして、鍋造りのイロハを叩き込まれた。
叔父の屋号の暖簾分けもしてもらって、もう立派な職人なのである。
ところで、二人には顔と体型以外にも共通点がある。
それは、ゲイである事だ。
しかも、二人揃ってデブ専ときている。
いわゆる、デブのデブ専。
兄弟愛に走らないのが不思議な位だが、二人共相手の顔は毛嫌いしている節がある。
まあ言ってみれば自分の顔を見ているようなものなのだ。
嫌いになるのも当然。
で、サラダである。
二人が作るのは、シーザーサラダ。
二人共に大好物。
ドレッシングはさすがに出来合いの物を使うから、さして時間はかからないであろう。
語り部もこのシーザーサラダの作り方に関しては無知蒙昧と言ってもいい位であるので、これは省略する。
「頂きまーす!」
声が揃った。ユニゾンである。
黙々と食べる二人。
夢中なのだ。
特にビーフストロガノフはバムの得意料理。
付け合わせのパンも美味しい。
市場に行列の出来るパン屋があるのだ。
結局、星空も眺める事なく四人前のシーザーサラダとビーフストロガノフを二人で完食。
最後はやっぱり。
「ご馳走様でした!」
皆さんも挨拶は忘れずに。

さてこの二人、お風呂も一緒に入る。
で。「あー、暑苦しい!」とか互いに文句を言い合うのである。
そんなに暑苦しいのならば、別々に入れば良かろうにとも思うのだが、それはしないという。
誠に以って不思議なものである。
まぁこれも絆というやつの、一つの形であるには違いない。
掛け替えのない家族には違いない訳だし。
ところで、この町には一つ変わった所があって。
それはお湯を沸かすのを、基本的には各家庭では行わないという事だ。
部落ごとに大型の、薪を使った原始的な給湯施設があって、お湯専用の配管で各家庭に供給される。
そのままでは熱いので、各家庭で使う際には、2バルブ混合栓の水の方をひねって調節するのだ。
それまでは各家庭で薪を用意してお湯を沸かさなければならなかったので、これは革命的な進化であったともいえる。
とはいえ、プロパンガスによるガスコンロやガスオーブンが普及し出した昨今に於いては、その重要性は高いとは言えないものになっているのだが。
「なぁバム、僕ら二人揃ってちっちゃいじゃん、あそこが。セックスの時とかどーすんだろーな。気が滅入る……。」
「相手もいないのにそんな心配したって無駄無駄。ビムって相変わらず馬鹿なのなー。」
「何だよー、バムって相変わらず冷たいのな。自分だって小さい癖に。」
ここでバムがいつもの一言。
「ねぇ、背中洗いっこしよ!」
「うげぇ、何でお前と毎度毎度。たまには素敵な男がいい!」
「こっちだっておんなじ気持ちだ馬鹿!背中が臭いと出会えるものも出会えないんだから!さ、届かない所とかこすってやるから座って。」
ビムは渋々といった様子で、風呂用の椅子の上に座った。
プラスチックは貴重品であり高価だったので、木の椅子が誂えられている。
「ビムが座るとその内に壊れそうだな、その椅子。」
「うるさいっ!自分だって同じだっつの!早く洗えー!」
こうしていつものようにこの日も、二人でワイワイ騒ぎながらの入浴だったのであった。
「さ、お風呂上がりはコケモモのジュースに限るな!バムも飲めよ。」
「ちょっと、そんなに飲んだらなくなっちゃうだろうが!高かったんだから!僕も飲む!貸せ!」
バムは一気に半分以上なくなったコケモモのジュースをビムから奪い取ると、瓶の口から直接飲む。いわゆるラッパ飲みというやつだ。
「相変わらずお前はホンっとに下品なやつだ。」
「これ位しないとなくなっちゃうじゃんか!グラスになんて注ごうものなら隙を突いて自分がラッパ飲みする癖に!」
もう大騒ぎだ。

ところで、この時代のファルテニアでのニュース媒体といえば、新聞と週刊誌である。
新聞といっても宅配サービスはなく、皆市場で毎日買うのだ。
「ねぇビム、ヴァルクラインって国、知ってる?」
「聞いたことはあるな。詳しくは知らない。何で?」
「新聞によると、危ない国らしいよ。その内にファルテニアも攻め込まれるんじゃないかって。怖いよビム。」
「気にするな。その新聞、嘘も多いから。」
「じゃあ何で買ってくるのさ。お金の無駄じゃんか、ビム。」
「いやぁ、漫画が面白くてな。毎号楽しみにしてるんだ。バムだっていつも読んでるじゃないか、この新聞の漫画。」
なるほど、これではさしものバムも返す言葉もない。

場所は変わって。
ここはヴァルクラインの首脳部が集まる公式な会議の場。
ヴァルクラインの各尚書はこぞってファルテニアへの軍事侵攻を唱えていた。
「皇帝陛下、ファルテニアを併合するなら今です!」
国務尚書が熱を込める。
すると、一人だけ冷静な尚書が。
「国務尚書閣下、あまり熱くなりますと、火傷の危険がありますよ。ご注意せられよ。」
これに国務尚書が激昂した。
「軍務尚書閣下!真っ先に出兵を唱えるべき卿がそれでは、我が国の繁栄はなりませんぞ!弱腰は亡国への道を切り拓く、その事は何があってもご承知頂く!」
だが、軍務尚書はいたって涼しげ。
「まぁ。卿も座ってお茶でも飲むとよろしい。その単細胞も治癒するかもしれん。それにこの件で一番のプレゼンスを持つ者は私だ。卿ではない。」
「うがぁー!」
軍務尚書のあまりの辛辣さに耐えかねて、国務尚書は頭を抱えて呻き出す。
「皆の者、冷静に。」
ここでついに皇帝が言葉を述べる。
「余は思う。戦をするにはすべからく勝たねばならぬ。余は我が国の軍が弱いとは思わない。だがファルテニアにも戦う力はあるだろう。つい五年前にも隣国のギプチスを併合したとか。手強い相手ではある。余はこの件に関しては、軍務尚書に一任しようと思う。異論がなければ、解散!」
こうしてひとまずは、武力による正面衝突は回避された。
「軍務尚書閣下、何か策がおありで?」
廊下にて、軍務尚書の首席補佐官が尋ねる。
「簡単な事だ。ファルテニア国内に虚偽の情報を流して大規模なクーデターを使嗾。その隙を突いて特殊部隊でファルテニアの要衝を制圧すれば良い。これで民間の建造物の被害は最小限度に抑えられる。壊れると、再建するのが厄介だからな。ファルテニア民主化の際に我が王国に亡命した貴族くずれが十何人かいたはずだ。侍従たちも含めると百人位は。彼らを使う。パスポートや戸籍の偽造は卿に任せる。」
嫌な予感がしたのか、首席補佐官は非礼を承知で尋ねた。
「もし失敗したら?」
だが、軍務尚書の考えは、首席補佐官が考えていたよりも幾らか辛辣なものであった。
「成功すれば我が国に多大な利益がもたらされる。失敗すれば我が国にとってのお荷物を公然と処断出来る。大した労力もなしにだ。まぁ何にせよ、彼らをこのまま遊ばせておく道理もなかろう。」
こうして、事態は風雲急を告げるのであった。

「セルバチア公。先のクーデターでは酷い目にあったとか。お恨みもさぞや深い事でしょう。」
「軍務尚書閣下、それは当然でございます。わたくしは逃げ遅れた身重の妻を犠牲に捧げました。彼らの行いは正に、鬼のような所業でございました。」
「セルバチア公、あなたは現在、苦境に立っておられる。我々はセルバチア公、あなた方に名誉挽回の機会を与えます。簡単です。ファルテニアで今度はあなた方が、再びのクーデターを起こせば良いのです。実行計画は我々の方で用意します。成功した暁には、あなたにはファルテニアの筆頭執行官としての職が与えられます。行政の権限の全てを手中に収める事が出来るのです。悪くない提案だと思いますが。」
この時、首席補佐官の目の色が曇った。
セルバチア公と軍務尚書の会談後、尚書の執務室にて。
「セルバチア公がクーデターの計画に乗ってくださったのはいいとしても、筆頭執行官職に彼を充てるというのには、わたくしは反対です。」
「別に筆頭執行官職が未来永劫存在するという訳でもなかろう。そもそも用が済んだら御用媒体にスキャンダルを横流しして、彼には退陣してもらうつもりだ。彼は女性関係に問題が多い。突き崩すのは簡単だ。ファルテニアの完全併合には、何かもう一押し欲しい所だが。」
「セルバチア公の名望と単細胞ぶりをこの際、利用するという訳ですね。」
席に座ったままでギロリと、軍務尚書は睨んだ。
蛇に睨まれた蛙のようになった首席補佐官は慌てて、話題を変える。
「ファルテニアのヴァルクラインへの完全併合が実現すれば、筆頭執行官職も必要なくなりますね。国力の増加も著しい事でしょう。」
軍務尚書は席を立つと、「その時には、卿にも期待している。私は用があるので退庁する。卿には残務処理を頼めると助かるのだが。」と言って、返事も待たずに執務室を去っていった。
「残務処理を任せるだなんて珍しいな。さて、どんなだろうか、、、、、、これは!」
首席補佐官が手にした資料には、隣国ミスティレイン・フォレスト共和国初代大統領のテット・クラウスの名前があった。
それは、以前の小競り合いの際に連れて来られたファルテニア人の捕虜を使って、テット・クラウスを爆殺するという内容の計画書だった。
捕虜はかつてはファルテニア軍の軍人であった。
それだけに上手くいけば、ミスティレイン・フォレストの政府や国民の声を我がヴァルクラインの味方に出来るかも知れない。
いざという時には同盟を組む可能性だって出て来る。
なるほど、これが軍務尚書の言う所のもう一押し、という訳だ。
だがもし失敗したら……。
首席補佐官は、書類の一枚一枚にじっくりと目を通しながら、背中が見る間に薄ら寒くなってゆくのを感じていた。
「ん、なんだ?」
何か光るものが二つ、目の前をかすめた気がした。
「気のせいか。疲れているんだな。早く帰って寝るようにしないとな。」
首席補佐官が伸びをしている間に、換気扇の中へ入りダクトを通って外に出た二つの光。
この光こそ、初代ミスティレイン・フォレスト共和国大統領一家の友人にして、同じく彼らの友人であるピウとピムの両親でもある、パウとリリーだ。
かつてミスティレイン・フォレストで圧政を敷いていた雷神と、テット・クラウス一行、そしてスプルース・フォレストの森の神とが、死闘を繰り広げた際に。
雷神のいかづち、即ちライツ・オブ・デスの直撃を受けてパウとリリーは妖精となり、現在は話す訓練を受けたのちに、ミスティレイン・フォレスト政府の諜報機関で働いていたのだ。
パウとリリーがここにいるのは、大統領テット・クラウスがヴァルクラインの動きを不審に思っていたからだ。
予感は的中。
パウとリリーは直ちにミスティレイン・フォレストに戻ると、大統領に報告をした。
「やはりな。手をこまねいていては取り返しがつかなくなる。直ちにファルテニアへのホットラインを繋げ!俺らが同盟を結べば、さしものヴァルクラインも、容易には手が出せなくなるだろう」
その後電話で一時間に渡る二国首脳会談が行われ、翌日にはその内容が大々的に全世界で報道されたのだった。

ヴァルクライン軍務省庁舎・軍務尚書執務室にて。
「軍務尚書閣下、残念な結果となり、誠に遺憾です。」
首席補佐官は肩をすくめた。
「気にする必要はない。卿とは関係のない出来事だ。厄介なのは今回の発表に、ファルテニアとミスティレイン・フォレストの軍事同盟に関するものが含まれていた事だ。やはりテット・クラウス、潰しておきたい。同盟成立の祝賀パレードを狙うのが良いだろう。」
「わたくしもそう思います、閣下。で、セルバチア公らはいかがいたします?」
「今回の件でミスティレイン・フォレスト側に情報を漏らしたとして、犠牲になってもらおう。尊い犠牲となるのだ。本人としても、構うまい。」
「そこまでお考えでしたら、わたくしの出る幕はございません。どうぞ仰せの通りに。」

その頃、ビムとバムは。
「ねぇビム、ウチの国とミスティレイン・フォレスト共和国が軍事同盟を結ぶんだってさ。」
「パレードやるかな?ミスティレイン・フォレストの若い大統領、行って見てみたい!」
「三日後の午後三時、ミスティレイン・フォレストの首都スファインにて、だってさ、ビム。」
「何だ、ウチの国でやるんじゃないのか。残念。」
「行ってみようよ、ビム!せっかくこの間パスポートも取った事だし。」
「そうだな。」
こうしてビムとバムはパレードに参加する事になった。

パレード当日。早朝から最前列を陣取っていたビムとバム。
季節は冬。寒いのである。
「なぁバム、僕もう死にそう。」
「同じく。」
そこへ四人乗りのオープンカーが。
「来たーー!」
次の瞬間だった。
ヴァルクラインの軍務尚書直属の特殊部隊のスナイパーが、大統領テット・クラウスの頭部めがけてサイレンサー付きの銃で発砲。
たまたま前を見たくてジャンプしたバムの肩にその弾が直撃した。
倒れ込むバムと、泣き叫ぶビム。
周囲が騒然となる中、パレードは中止となった。

翌日。
意識が戻るバム。
病室で点滴を受けていた。
周りにはテット・クラウス、ティル・クラウス、ピウとピムらがお見舞いに来ていた。
「ごめんねぇ、巻き込んじゃって。」
ティルが謝罪をする。
次に口を開いたのは、ピウとピムだった。
「僕たちそれぞれ、この二人のどちらかと付き合う事にしたから!可愛い!」
そこへテットが続ける。
「という訳なんでよ、もし良かったらおめぇたち、ミスティレイン・フォレストへ引っ越すといいぞ。助けてくれて、ありがとな。」
テットは、隣のビムとベッドに寝転がるバムの二人の頭をクシャクシャと撫でた。
で、お次は再びあの二人の出番。
「ねぇビム、僕の名前はピウ。よろしくね。」
頰にフレンチ・キスをするピウ。
ビムの顔が真っ赤だ。
「バム、もし良かったらこれから、よろしくね!」
ピムもバムにキスをする。
茹でダコのようになったバムの頰。
無理もない。
ビムもバムも、これがファースト・キスなのだ。
「退院はもう少し先だからよ、ピウとピム、それにビムが毎日来るから、楽しんでやってな。仕事があるんで、俺とティルはひとまずこれで。ホントに、ありがとな。んじゃ!」
ビムにもバムにも、幸せの予感。

一方のヴァルクラインでは、ファルテニアやミスティレイン・フォレストとの今後について、喧喧諤諤の議論が交わされていた。
結論が見えぬ中で、ついに皇帝が口を開く。
「軍務尚書、国務尚書、卿らでファルテニアやミスティレイン・フォレストとの相互不可侵条約を取りまとめよ。なるべく不平等にならぬようにな。」
「御意。」
「仰せのままに。」

こうして、世界の平和は保たれた。
ビムはピウと、バムはピムと、これから先仲良くやってゆく事だろう。
もちろん、テットとティルもだ。
ビムとバムの旅立ちの日。
市場の人たちがパーティーを開いてくれた。
「未成年なのが惜しいねぇ。あと一、二年も経てば酒が飲めるのに。」
「そんな事より。気を付けるのよ。苦しかったら戻って来てもいいのよ。」
みんなの声が、温かい。
そう、ビムもバムもこの町で、多くの人たちに愛されていたのだ。
心は次第に新天地へ。
それでも、ここでの思い出を決して忘れまいと誓う、ビムとバムなのであった。

シリーズ第一作目。
古いお話も入れると、第五作目。
智謀に長けた軍務尚書が活躍しますが、失敗。
ただ、ここでファルテニアやミスティレイン・フォレストと相互不可侵条約を結んだ事で、事態は思わぬ方向へと進んでいきます。
とても楽しく書けました。
シリーズ二作目の[SE]以降のお話も、お読み頂けますと、誠に幸いです。