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Bluebird : 暗黒慕情

また見てしまった。
覗いてしまった。
迸る罪悪感に攫われて、心が軋む。悲鳴を上げる。
けれども。
その光景は魅力的だった。
このままずっと眺めていられるのなら、破滅したって良かった。
ずっと、そう思っていた。
想い人がいた。
その男の子は毎日夜になると必ず、逞しい男に組み敷かれていた。
切ない表情。
シーツを握り締める小さな手。
汗ばんだ、赤子のような素肌。
必死に上を向いて激しく上下に動きながら鈍い光を放ち続ける、その小振りで愛らしい怒張。
全てが、魅力的だった。
天使のようだった。
この宇宙で一番の天使が、いつでも無防備にその痴態を曝してくれていた。
本当は僕が情けない自分自身で、貫いてやりたかった。
死ぬほど、狂おしくそう願っていた。
けれどもそれはきっと、叶わぬ願いだから。
だから僕は今日も双眼鏡を握り締めて、道を挟んだ向かい側の窓の向こうの眩し過ぎる光景を、天使の戯れを、己のちっぽけで穢れた心に何度も何度も繰り返し、焼き付けるのだった。
いつでも、今にも破裂しそうな胸を抱えながら、持て余しながら……。
「あっ、あっ、あっ、あっ!」
僕は邪魔な衣服を残らず脱ぎ捨てると、双眼鏡片手に己の情けない皮の被った怒張を摘み出す。
あっという間だった。
興奮の絶頂にあった僕は、見る間に追い込まれていった。
「あぁっ!あぁぁーっ!!」
双眼鏡が手から滑り落ちて、触り心地の良くない薄っぺらな絨毯の敷かれた床面と激突する。
身体が仰け反る。強張る。
もう手はここには必要無かった。
だから僕は己の情けない怒張を包み込んでいたその手を離すと、両胸の先端へと移動させる。
摘む。摘む。
強く、優しく、左右同時に。
次の瞬間だった。
触れられても触れてもいない僕の激しく上下に動く怒張から、白濁した液体が撒き散らされた。
大量に、止め処なく。
それでも全部が放出される事はない。
堪らずに僕は己のちっぽけな怒張に再び手を添えると、無我夢中で摘んでいた。
断末魔の叫びを部屋中に響かせながら……。
「あぁぁーーっ!!!」

肩で息をする。
悔しくて、悲しくて涙が溢れ出す。
再び双眼鏡を手に取って覗き込むと、既に男の子は生まれたての姿で逞しい男の胸に抱かれていた。
視界が歪む。
胸が掻き毟られる。
「あぁぁぁ……、あぁぁ……。」
目の前に広がる非情な光景に心をすり潰しながらも、それでも僕は視線を外す事さえも出来なかった。
体の震えが、止まらない。
漏れ始めた嗚咽は、次第に号泣へと変化していく。
気が付くと僕は双眼鏡を片手に、空いた手で己の情けない身体を抱き締めて、力の限りに泣き叫んでいた。

目が覚めると、朝だった。
今日は大学へ行く気が起きない。
僕には友達が居なかった。
長い間ずっと、独りぼっちだった。
寂しかった。
けれどもそれは、仕方のない事だった。
だって誰がこんないびつに歪んだ人格に、冴えない情けない容貌に、興味を持つというのだろうか?
無念だけれども、それは有り得ない。
だから僕はいつでも双眼鏡を握り締めて、己の孤独な心をどうにか慰めていたのだ。
天使のようなあの男の子が、僕の存在をどうにか支えていた。
もちろんそれは身勝手な、とても身勝手な言い分だったかもしれないけれども。
それでも僕は、あの子が我を忘れて男と戯れる姿を、心の何処かで確かに必要としていた。
蹲る。一糸纏わぬ生まれたての姿で、ベッドの上で。
寂しい。今は朝だから、男の子はあの場所には居ない。
分かっているから、どうにもならない。
「あぁぁ……。」
僕は吐息混じりの呻き声を漏らしながら、柔らかな羽根枕に頭を何度も打ち付ける。
その時だった。
窓の外の錆びた手摺りに、鮮やかな青い鳥が二羽、舞い降りた。
青い鳥たちは僕の汚辱に塗れた日常の一コマを、何処か厳しく、冷たく見下ろす。
そういえば、聞いた事があった。風の噂で。
青い鳥に願い事をすると、願いが叶う代わりに、願い事をした本人は死んでしまうらしい。
突如、心の中に嵐が生まれる。
今、自分には本当に何にも無かった。
幼い頃に母が失踪した。
残された父は、精神を病んでしまった。
僕は父さんの、サンドバッグだった。
それでも僕は耐えた。
歯を食い縛って耐え抜いた。
大学を卒業するまでは何としてでもこの忌まわしい家庭にしがみ付くんだと、己の軋む心に何度も言い聞かせた。
大学こそが己の未来に温かで明るい光を灯してくれると、本当に心の底から信じていたから。
そんな僕の我儘を父が飲んでくれた本当の理由を、僕は未だに知らない。
けれども理由はどうあれ、僕は大学まで進む事が出来た。
それは本当に幸せな、幸せな事だった。
僕はその幸せを糧として、何処までも空高く昇っていけるはずだった。
はずだったのに……。
気が付くと僕は青い鳥の目の前で、震える己の身体を抱き締めて嗚咽を漏らしていた。
僕は決意する。
嵐の末の、覚悟だった。
もうこのどん詰まりの世界に、興味は無かったから。
だから僕は、叫んだ。
「僕にあの子を抱かせて!一度でいいから、他には何にも要らないから!終わったらすぐにこの世界から消滅するから、だから、お願い!」
肩で息をする。もう後には退けなかった。
僕の願いを最後まで聞き届けると、青い鳥は振り返る事も無く飛び去っていく。
男の子が僕の部屋を訪ねてきたのは、それからすぐの事だった。

インターホンが鳴る。
ドアスコープ越しに来訪者の姿を確認して、僕の胸は鼓動のピッチを早めた。
僕は、嬉しかった。
飛び上がりたかった。
すぐに扉を開け放つ。
男の子はニッコリと、それはもう天使のように微笑んだ。
「こんにちは!いつも双眼鏡で僕の事覗いてた子だよね?付き合ってる彼氏が出張で暫く居ないからさ、寂しくて寂しくて……。こんな僕で良かったら、抱いて欲しいな。」
男の子は、その潤んだ瞳で僕の心を射抜く。
もう、躊躇する理由などない。
僕はその場で、キスをした。
何度も、何度も、舌を絡めながら息も止まるくらいに激しく。
その場に押し倒す。
「あ……。」
沈み込む。深く、深く。
柔らかで温かな感触が、僕を狂わせる。
ボタンを外すのもまどろっこしくて、僕は彼の肉体を覆っていたたった一枚の布切れを引き千切ると、その乳首をそっと噛んだ。
「あっ!」
鋭い声を上げて、男の子が仰け反る。
続いて、チノパンと下着をずり下げる。
たちまち僕と同じようにちっぽけな、子供のそれのような怒張が、ぴょこんと顔を出した。
愛らしかった。
けれども。
僕はそれには目もくれずに、目の前の乳首を責め続ける。
知っていたのだ。
そこが彼の一番の性感帯だと。
男の子は身を捩って艶やかな嬌声を上げながら、その愛らしい怒張を激しく何度もひくつかせる。
互いの意識が、曇る。
そうして、その時はやってきた。
いよいよ僕自身で、僕自身の怒張で、目の前の天使のような彼を貫くのだ。
これが最後だから、後悔はしたくない。
僕はローションを付けた己の怒張を、彼の秘部にそっとあてがう。
「ごめんね、ごめんね、ちっちゃくて、情けなくて。」
気が付くと僕の口から、嗚咽が漏れていた。
「いいよ、大丈夫だよ、早く来て……。」
男の子はそんな僕に濡れた瞳を向けながら、自らの手で己の秘部を押し広げて僕の侵入を促す。
その瞬間、僕の意識は沸騰した。
一気に貫く。
奥までは届かないけれど、それでももう構わない。
とにかく、動く。
狂ったように動く、動く。
次第に僕の下で、男の子の声が上ずっていった。
激しく動く怒張の先端から止め処なく流れ落ちる透明な液体に、白濁した液体が混じる。
今、男の子は僕のものだ。
僕に征服されて、その全てを曝け出して、没我の境地に沈んでいく。
僕の下で男の子が、あの天使が、震えるように咽び泣く。
僕は、幸せだった。
本当に、この上なく幸せだった。
もう後悔する事もない。
そろそろ、チェックメイト。
時間だ。
僕は男の子の濡れに濡れた怒張の先端を軽く摘むと、腰を一気に沈み込ませる。
「あぁーっ!!」
断末魔の叫び。
同時だった。
白一色の、永遠のような一瞬だった。
次の瞬間にはもう、僕の身体は透き通っていく。
僕は、肩で息をする男の子を見下ろしながら、この世界に永遠の別れを告げるのだった。

……気が付くと僕は、幽霊になっていた。
この世界から跡形も無く消滅するものだとばかり思っていたから、声も出ないくらいに驚く。
ふと横を見ると、あの男の子が逞しい身体を持った彼氏に組み敷かれていた。
二人は、僕の存在に気づく様子も無い。
きっと、見えないのだろう。
劣情が、僕の心に大き過ぎる嵐を生む。
けれども幽霊になってしまった僕には最早、己の怒張を摘む事でその劣情を一時的に開放する事すらも叶わない。
この苦悩から、ようやっと開放されると思っていたのに……。
待っていたのは、永遠の地獄だった。
僕は意識を曇らせる男の子の横で、これからの終わりなき時の流れをどうやり過ごしていくかを、頭を抱えて呻きながらいつまでも考え続けて、途方に暮れていた。
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