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雨の夜の恋物語 [少年たちの詩]

空が激しく光っていた。
雨が叩き付ける音が、鳴り止まなかった。
僕は、怖かった。
隙間風が吹き込む不気味な音が、恐怖心を更に煽り立てる。
正直、もううんざりしていた。
独りぼっちの夜。
心細い夜。
僕は呻き声を上げながら、独り頭を抱える。
夜が嫌いだった。
雨の日の夜は、特に。
三年前の雨の日の夜。
好きだった子が、空の星になった。
いつでも笑顔が眩しくて、素敵だった。
何処か憂いを帯びた透き通った瞳は、僕の心を捉えて離さなかった。
あの子は、僕の目の前に舞い降りた天使だった。
僕たちは友達として、仲良く幸せな時間を共有出来ていた筈だった。
それなのに……。
最期の日、あの子は僕にぼそりと呟いた。
「ねぇ、僕、寂しいんだ……。」
堪らずに僕は抱き締める。
いつまでもいつまでも、優しくそっと抱き締める。
温かな時間。少なくとも、僕にとっては。
ふと気が付くと僕の胸の中で、あの子は笑っていた。
笑っていた、筈だった。
だから翌朝、あの子が自殺した事を知って、僕は正直、何がなんだか分からなかった。
分からないままに、叫んだ。
髪を振り乱して、仰け反って、声の限りに。
男の子は、あの子は失恋したのだった。
それだけで、たったそれだけで、あの子は空の星になる事を選んだ。
残された僕は、叫ぶだけ叫んだ後も、止まずに降り続ける大粒の雨を硝子越しに睨み付けながら、歯を食い縛っていつまでも涙を垂れ流していた。
その時から僕はずっと、ずっと独りぼっちだった。
「夜なんて嫌いだ、雨なんて嫌いだ……。」
僕は今日も震えながら、呻きながら、そして時に嗚咽を漏らしながら、大嫌いな夜をやり過ごす。

翌朝……。
学校に行くと、そこで僕は一人の転校生と出逢う。
切ない、悲しい目をしていた。
素肌が、透き通るように綺麗だった。
薄いシャツ越しに顔を覗かせる、その胸から腹部にかけての柔らかで艶っぽい曲線が、僕の脳を沸騰させた。
だから僕はお昼休みになると早速、勇気を振り絞ってその子に声を掛けた。
緊張で、声が震える。
握り締めた掌に、汗が吹き出す。
それでも僕は、最後まで言い切った。
「お願い、僕と友達になって!名前、教えて!僕はジュンタ。きっと優しくするから、だから、ね。」
一瞬の沈黙。
長い長い一秒が、積み重なる。
胸が、痛い。
息が、苦しい。
呼吸のピッチが、これ以上無いくらいに早まる。
次の瞬間だった。
転校生の男の子は、震える声でぼそり、ぼそりと言葉を紡ぎ漏らし始める。
「いいよ、ジュンタならいいよ、僕と同じみたいだから……。でも、離れたり見捨てたりしないでね、約束だよ……。名前は、ヨウタ。ずっとずっと、一緒だよ……。」
僕は、嬉しかった。
飛び上がるくらいに、嬉しかった。
見るとヨウタは、心細そうに不安そうに、小刻みにその柔らかく太った身体を震わせている。
だから僕はヨウタの手を取ってひと気のない体育倉庫の中まで連れて行くと、扉を閉めるなり抱き締めた。
その瞬間に、ずっとずっと使わないでおいたとっておきの勇気を、残らず使い果たした。
僕は怖かった。
拒絶されたら、きっと立ち直れないに違いなかった。
けれどもヨウタは、嗚咽混じりの深い吐息を漏らしながら、身体中を震わせて、僕に縋り付いてきたのだ。
気が遠くなるような時間。
気が付くと僕は、ヨウタをきつくきつく抱き締めて、まるで同じように嗚咽を漏らしていた。
それから、どれくらいの時間が経っただろうか。
僕の胸にしなだれかかりながらヨウタは、驚くべき言葉を漏らす。
「ねぇ、キスして……。」
その瞳は、不安と恐怖に濡れていた。
柔らかな身体が、小刻みに震える。
その声が、姿が、僕の心を射抜いた。
彼の勇気が、僕の背中を押した。
だから僕は、覚悟を決めた。
「大丈夫だよ、そんなに怖がらなくて大丈夫だよ……。」
僕は堪らずに、耳元で囁く。
「早くキスして、早く、早く……。」
透き通ったヨウタの瞳から、止め処なく涙が溢れ出す。
再び、抱き締める。
きつく、きつく、互いの存在を確かめ合えるように。
そして僕は、キスをした。
告白代わりの、長い長いキス。
息が出来ない。
意識が、遠のく。
それでも僕は、止めなかった。
僕の想いを、残らず余すところなく、伝え切りたくて。
嗚咽混じりのキスの味は、甘くて切なかった。
僕は、ヨウタの今にも壊れてしまいそうな全てを包み込みながら、何があってもこの子の心の支えで居続ける事を、密かに誓った。

その夜、僕の部屋で。
僕たちは初めて、互いの身体を重ね合わせた。
外は雨模様だった。暫く、止みそうにない。
静かな夜、しとしとと空から降り注ぐ雨の音だけがいつまでも鳴り止まなくて、切なかった。
部屋の真ん中で。
僕たちは息の掛かりそうな距離で、互いを見つめ合う。
そして、キスをした。
何度も、何度も、飽きるまでいつまでも。
そうしながら、シャツのボタンに手を掛けて、一つずつ外していって、目の前の天使を生まれたての姿へと少しずつ変化させていく。
ヨウタは、僕の一番の天使は、小刻みにその身体を震わせながら、ただ無言で僕の胸に縋り付いていた。
「大丈夫だよ、恥ずかしくないよ、僕も全部見せるよ。」
僕は早くヨウタに安心して欲しくて、一足先に一糸纏わぬ姿になると、目一杯の心からの笑顔を向けた。
ヨウタは、泣いていた。
「いいよ、ジュンタになら見てもらいたい、ジュンタになら、ジュンタになら……。」
ヨウタが嗚咽混じりの震える声を上げた時、その神様が掛けた魔法のような肉体を覆っていた最後の布切れたちは、バサリバサリと床に落ちていった。
僕は驚く。
声も出なかった。
その透き通る赤子のような素肌には、無数の痣が、傷痕が、刻み込まれていたのだ。
「僕、前通っていた学校でずっと苛められてて、逃げられなくて……。寂しかったよ、辛かったよ、うわあぁーっ!!」
ヨウタが、力の限りに号泣する。
僕はそんなヨウタに立ち直って欲しくて、愛を知って欲しくて、身体中に無数のキスの雨を降らせた。
「僕がいるからもう寂しくないよ、大丈夫だよ、ちゃんと愛してるよ……。」
漏れ出た言葉は、溜め息混じりだった。
「早く、来て、お願い……。僕を、ジュンタのものにして……。」
こうして僕たちは、一つになった。
嬉しかった。幸せだった。
上り詰めるのは、あっという間だった。
息が上がる。身体中が、溶けるように切ない。
初めての感覚。
夢中だった。
僕は我慢出来なくて、結局すぐに己の精をヨウタの奥深くに注ぎ込む。
肩で息をして、呼吸を整える。
見ると、ヨウタの腹部は大量の、それはもう大量の白濁した液体で、何時の間にかぐっしょりと濡れていた。
「先に出してたんだね、これ何回分?多過ぎだよねぇ。シーツもぐっしょりだよ。」
僕は笑った。
声を上げて、いつまでも笑った。
ヨウタも笑った。
僕の前で初めて、無邪気に、弾けるように。
僕たちはこうして、互いの存在を、全てを受け入れ認め合った。
外は相変わらず雨模様だ。
けれども僕はもう、雨の夜でも雷鳴轟く夜でも、嫌いじゃない。
僕は、胸の中の僕だけの天使を強く強く抱き締めながら、大人になってもいつまでも、何があっても繋いだこの手を離さないと、分厚い雲に覆われた真っ暗な空に密かに誓っていた。
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