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Bluebird : 遥かな旅、星々の海を越えて

「コン、コン、コン」
家の二階の自分の部屋で一人、テレビゲームをしていると、窓をノックする音が聞こえて、ぼくは驚く。
「誰だ!」
ぼくは思わず叫んだ。恐怖で体が震える。
咄嗟に窓の方を見ると、カーテンの隙間から、鍵がかかっているのが確認出来た。
それでも安心は出来なくて、ぼくは身構える。
すると……。
「失礼します」という声と共に、開かない筈のスチールサッシがガラガラと音を立てて開いていく。
驚きのあまりにしばらく固まっていると、頭に角を乗せた、亜麻色の髪の太った少年が、窓の向こう側からひょっこりと顔を出した。
「ぼくは、隣りの銀河の辺境の惑星からやってきた、フルムです。お邪魔してもいいですか?」
フルムと名乗るその少年は、かしこまってお辞儀をすると、ぼくの目をじっと見つめる。
本当なら、追い返してもよかった。
でも、その少年はびっくりするほど可愛かった。
だから、ちょっとした期待、それに沸々と湧き上がる好奇心から、ぼくは黙って頷いていたのだった。
ぼくの返事を確認した少年は、それはもう嬉しそうに窓から入ってこようとするのだが……。
「どうしよぅ!脚が短くて乗り越えられないや!」
どういう訳か、足が窓まで届かないらしい。
あれ?浮かんでいる訳じゃなかったの?ここは二階だよ?などと疑問は浮かぶのだが、可哀想なので一応引っ張ってみる事にした。
「よいしょ、っと……わっ!」
勢いが付き過ぎたらしい。
部屋の中に飛び込む格好となった少年が、倒れ込んだぼくに覆い被さる。
柔らかな感触が心地よいのだけど、流石に……。
「重い……どいて」
すると少年は「あ、ごめんなさい!」と言いながら慌てて起き上がり、正座をする。
少しの間、無言で向き合うぼくたち。
二人の間に、緊張した空気が流れる。
この空気を変えたくて、ぼくは自分から質問を振ってみる事にした。
「どうしてうちに来たの?」
気になっていた事だ。
無数に家はあるのに、わざわざうちにやってきた理由が知りたい。
「それは、この辺りではここにだけ広い中庭があったから、宇宙船を不時着させるのにちょうどよかったんです、目立たなくて」
少年はペロンと舌を出すと、「よろしくね」と言って手を差し出した。
ぼくも一応は手を差し出してみるものの、気が急いて仕方ない。
中庭にあるという宇宙船を、早くこの目で見てみたいのだ。
「フルム、一緒に来て!宇宙船の中、見せてくれないかな?」
ぼくは、返事も待たずにフルムの手を引くと、部屋を飛び出した。
「いいけど、壊れていますし、何にもないですよ?」
ふとフルムの方を見ると、怪訝そうな顔をしている。
それでも、そんな事などお構いなしに中庭へと駆け付けると、小さな宇宙船を前にして父さんと母さんが腕組みをしていた。
「おう、孔児。これは一体なんだね」
父さんが困ったような顔をしてぼくに尋ねるので、どう説明していいか分からず、ぼくは答えに窮してしまう。
すると……。
「これ、ぼくの宇宙船です!お願いします、ぼくをここに置いてください!」
フルムは、深々と頭を下げた。
だけど、父さんは相変わらず困ったような顔をして、宇宙船の方を見つめている。
さすがに「これはまずい」と思ったぼくは、援護射撃をしようと父さんに近付くのだけど……。
「あら、いいじゃない。可愛い子だし、何だか面白そうだわ」
そんな母さんの一言が、状況を一変させる。
「まぁ、母さんがそう言うなら……。孔児も、構わんな?」
そう、父さんが折れてくれたのだ。
ぼくは、父さんの気が変わらない内にと思い、黙って何度も頷いた。
それを確認した父さんは「分かった」とだけ言うと、自分の書斎へと戻っていく。
「これで今日からあなたはこの家の子供よ!よろしくね」
母さんの言葉で緊張からようやく解放された様子のフルムは、何度も頭を下げながらも、嬉しそうにニコニコと笑っていた。
どうやらぼくの援護射撃は、要らなかったようだ。
「お名前は、何て言うの?」
そういえば父さんも母さんも、まだ名前を聞いていなかったんだっけ。
「フルムです!隣りの銀河の、辺境の惑星フルンから来たんです!」
惑星フルンかぁ。フルンのフルム。王子様か何かかな。
「フルムちゃんね。フルムちゃんはどうしてわざわざ地球までやってきたのかしら?」
母さん、不思議そうな顔をしている。
ぼくも不思議だ。生物の住める惑星なんて、他に幾らでもあるだろうに。
「詳しく話すと長くなるのですが、亜空間から突如現れた小惑星群が衝突したせいで気候変動が起こって、そのせいでフルンは生物の住めない星になっちゃったんです」
亜空間から??小惑星が??何故そんな事が起こったのかな。SFアニメじゃあるまいし。後で詳しく聞いてみよう。
「あら、まぁ……」
母さんてば……突っ込みどころは幾らでもあるのに。まぁ、いいけどさ。
「それで、みんな他の惑星を探して散り散りに逃げていったんです。ぼくも生物の住める惑星を探して、銀河中を彷徨っていました。でも、見つからなくて……。仕方なく、隣りのここ天の川銀河を彷徨っていたら、この星を見つけたんです」
天の川銀河って言い方は初めて聞いたな。
それにしても、生物の住める惑星って、思っていたよりもずっと少ないんだな。がっかりだ。
「あら、大変だったのね。お父さんやお母さんとは、離れ離れになっちゃったのかしら?」
母さん、少し心配そうな顔をしている。
フルムは見たところぼくと同い年くらいだし、考えてみると両親と一緒でない方が変なのだ。
ぼくは、たぶん母さんと同じ気持ちで、フルムの目をじっと見つめる。
「……二人とも、亡くなりました」
暫しの沈黙の後にフルムは、自分の両親が既にこの世に居ない事を、ぼくたちに教えてくれる。
沈黙の長さはたぶん、心に負った傷の大きさを表しているんだろう。
「あら、余計な事聞いちゃったわね、ごめんなさい。……それで、その宇宙船も壊れてるのよね?」
一瞬、あっさりと流したようにも聞こえたけど、その後に間が空いたせいで、母さんが落ち込んでいるのが分かってしまった。
十年以上も親子をやっていると、そういう事はさすがに分かってくるものだ。
「はい、ぼくの力では直せなくて……」
申し訳なさそうにフルムは背中を丸める。
「いいのよ、いつまででも居てくれて。でも、寂しいわね……。これからは私の事を、本当のお母さんだと思って頂戴ね」
さすが母さん!
ぼく、母さんの息子で良かったよ。
何だか嬉しくなってフルムの方を見ると、フルムもやっぱり嬉しそうで、ぼくはますます嬉しくなる。
「はい、ありがとうございます!」
フルムの声が弾んでいる。
宇宙人でも、こういうところは地球人と同じなんだな。
「それにしても本当に礼儀正しい子ね、爪の垢を煎じて孔児に飲ませたいくらいだわ」
「うるさいよ」
言いたい事は分かるけど、一応反抗しておかないとね。
「ところでフルムちゃん、変わったお帽子被ってるのね。頭の天辺に角みたいなのが乗っかってて」
ぼくは母さんの言葉で、フルムの頭に乗っているものが帽子なんだと、初めて気付いた。
てっきり、髪の毛と同じ体の一部だと思っていたのに……。
「これは、アンテナなんです。フルンの人たちは王様も大司祭様も大人も子供もみんな、頭にアンテナを付けるんです。内務尚書っていう偉い人がこれを全て管理していて、彼にはフルンの人たちの考えている事は何もかも筒抜けなんです。そのためのアンテナなので、仕方ないです」
話が見えない。
だいたい、ないむしょーしょって何者だよ。
「何だか怖い話ね。孔児、あなた話に付いてこれてないでしょ?」
痛いところを突かれて、ぼくの胸がぐさりと音を立てる。
「無理言うなよ、ぼくには何が怖いのかさっぱり分かんないよ」
ここは正直に話そう。
詳しい話がフルムから聞けるかも知れないし。
「面倒だから分からなくていいわ。でも、そのお帽子は取った方がいいわね。フルムちゃん、そうなさい」
え、えぇ!?
分からなくていいんだ?
最低だ。
それにしても母さんちょっと怖いな、あの帽子が余程気に入らないらしい。
「はい」
フルムは、淡々とした様子でアンテナの付いた帽子を外す。
「ほら、その方がずっと可愛いわ!」
確かに、とぼくも思った。
艶のある亜麻色の髪が、帽子を取った瞬間にふわりと舞って、ぼくはハッとする。
可愛い……。
そうして少しの間見とれていると、ふとフルムと目が合って、ぼくは慌てて目を逸らす。
でも、何となく気になっちゃってさ。
で、もう一度フルムの方を見ると、何と顔が紅いじゃないか。
これはもしかして……。
ちょっとだけ、期待するぼく。
「さ、フルムちゃん、お部屋へ案内するわ」
あらら、邪魔が入った。
仕方なくぼくは、部屋へと向かう二人の後を付いていく。
たぶん空いている隣りの部屋だろうなと思っていると、案の定そうだった。
「孔児、お風呂とトイレの場所、教えてあげてね。それじゃ、仲良くするのよ」
母さんが一階へと戻っていく。
チャンスだ。
「ねぇフルム、宇宙船の中見せてよ!」
はやる気持ちを抑えて、ぼくはフルムにもう一度お願いをしてみる。
「いいですよ、付いてきてください!」
フルムは小走りで一階へと下りていく。
慌てて後を付いていくと中庭の真ん中に、先ほど目撃した時と変わらない姿で、小さな白い宇宙船が墜落していたのだけど……。
それにしても小さい。
大きさから言って、せいぜい二人乗れれば、といったところだろう。
「こちらです!」
宇宙船の側面に取り付けられている青い石のような物にフルムがそっと手をかざすと、ゆっくりとハッチが開いた。
先に入ると、予想通りに中は狭くて窮屈だった。
「座ってみますか?エンジンが壊れているので、動きませんけど」
願ってもないフルムの勧めで、ぼくは宇宙船のコクピットに腰掛ける事が出来た。
「凄いねぇ。たったこれだけで宇宙旅行できるんだね!メーターも何にもなくてシンプルだなぁ」
ぼくは感心しきりだった。
フルン星の科学力は地球よりも相当進んでいるらしい。
「必要な情報は正面の窓にオーバーレイで表示されるんです」
「お、おーばーれい??」
「こんな感じ!」
すると、外の景色に重なるようにして、様々な情報が窓に浮かび上がる。
「カッコいい!でも何が書いてあるのかさっぱりわかんないや。ぼくには操縦は無理だな」
ぼくは一つ溜め息を吐いた。
何か、がっかりだな。と、思っていると……。
「そんな事ないですよ!ちょっと訓練すれば大抵は大丈夫なんです。通常航行時は、自動操縦ですし。孔児さんなら、きっと出来ますよ!」
フルムはぼくを元気付けてくれる。
いい子だなぁ。
それにしても、今思い出したけど、ぼくフルムに名前も名乗ってなかったんだっけ。
だからぼくは慌てて手を差し出して、「もう遅いけどぼく孔児って言うんだ。改めてよろしくね!」と言って頭を下げた。
そしたらフルム、嬉しそうに笑ったかと思うと、握手をするよりも早く、ぼくに抱き付いてきたんだ。
びっくりした。
だけど、嬉しかった。
だからぼくは笑った。
フルムも笑っている。
こうしてぼくらは、狭い宇宙船の船内でいつまでも笑顔だった。

それからしばらく経って、狭い船内がさすがに窮屈になってきたぼくらは、とりあえずフルムの部屋へと移動する事にした。
フルムの部屋は何年か前まではゲストルームとして使われていたらしく、ベッドやデスクなどの調度品は調っていた。
「座ろうか!」
入るなりぼくは、向かい合わせで置いてある一人掛けのソファではなくて、ベッドの方を指差していた。
並んでベッドの淵に腰掛けると、何だか胸がドキドキする。
本当は、目の前の愛らしいフルムを、押し倒してしまいたいくらいだ。
だけどぼくには、まず何よりも先にフルムに聞いておきたい、聞いておかねばならない事があった。
ぼくは深呼吸を一つすると、疑問に思っていた事をフルムに尋ねる。
「ねぇフルム、幾つか聞きたいんだけどさ、まずはフルン星で何が起こったのか、詳しく教えて欲しいんだ」
するとフルムは、明らかに落ち込んだ顔をして、とつとつと事の真相を話し始める。
「フルン星の気候変動の原因は、さっきも言った通りで小惑星群の衝突なのですが……。それを起こしたのは、ハース星に根城を置く宇宙海賊の仕業だと言われています。彼らは衝突の後に、フルンの人々の財産を根こそぎ奪っていったようです。」
「えっ!?じゃあ亜空間から小惑星群が現れたっていうのは、その宇宙海賊の仕業なんだ?」
「そうだと聞きました。彼らは小惑星群を防空網の内側までワープさせて、一気にフルンに衝突させたようです」
ぼくは言葉が出なかった。
だってそれでは防ぎようがないじゃないか。
「それじゃあ、犠牲者もたくさん……。」
「はい、王宮にいた父も母も祖父も祖母も兄弟も、みんな亡くなりました。ぼくが助かったのは、その日たまたま友人と離宮まで出掛けていたからです。みんな死んじゃって、ぼくだけ助かって……。こんなはずじゃなかったのに……。」
フルムは泣いていた。
すぐに励ましてあげたいのは山々だけど、その前に一応確認しておきたい事がある。
「待って、じゃあフルムはやっぱり、王子様なの?」
「はい、今となっては何の意味もありませんが……。」
やっぱりな、と思った。
同時に、今まで随分と失礼な態度をフルムに対して取っていたような気もしていた。
これを機に改めようと思い……。
「あ、今まで失礼な態度を取ってしまってごめんなさい」
ぼくは頭を下げる。
「いいんです!気にしなくて。ぼく、孔児さんともっと仲良くなりたいんです。ずっと独りで、寂しかったから……。駄目ですか?」
潤んだ目でフルムに見つめられて、ぼくは少しの間動けなくなってしまった。
「あ、やっぱり駄目なんだ……」
目の前でフルムががっくりと肩を落とすので、ぼくはたまらずに抱き付く。
「う、嬉しいけど、ちょっと苦しい……」
まずい、ちょっとキツく抱き締め過ぎたみたいだ。
ともあれ、嬉しそうなフルムの顔を見て、ぼくは安心する。
そうして、安心したせいか眠くなってきたぼくは、フルムの部屋だというのにベッドに横たわってしまう。
「ごめんね、眠くなってきちゃった……ここで寝ちゃだめ?」
ぼくは目を擦りながらフルムに尋ねる。
「い、いいですけど……横にぼくが寝たら狭くなっちゃいますよ?」
見るとフルムは心配そうな顔をしているので、ぼくは「大丈夫、大丈夫」とだけ返して、眠りに就いた。

「……ぅーん。今、何時だろ……」
目を覚ましたぼくは、サイドテーブルの上の置き時計を見る。
「まだ五時か……ふあぁーぁ」
欠伸をして、もう一度寝ようと思ってふと横を見ると、フルムの顔があった。
実に可愛らしい。
フルムは、小さく丸くなってぼくにぴったりと寄り添って、すやすやと寝息を立てていた。
その手はしっかりとぼくの手を握っている。
あまりの事に理性が消し飛んでしまったぼくは次の瞬間、フルムの頬に口付けをしてしまった。
その瞬間にフルムは、目をぱちくりと瞬かせて目を覚ます。
しまった、と思いぼくは咄嗟にその場を離れようとするのだけど……。
「行かないでください!!」
フルムは、手を強く握ったまま泣きそうな声で必死にぼくを呼び止めた。
「いいの?ぼく、男の子同士なのにフルムにキスしちゃったんだよ?」
ぼくは恐る恐る目を見ながら、フルムに尋ねる。
「いいんです!何ならぼく、孔児さんの前でなら裸にだって何だってなりますから!だから、傍に居てくださいぃぃ……」
フルムは、声を上げて泣き出してしまった。
どうしていいか分からなかったぼくは、ただフルムを強く抱き締める事しか出来なかった。
フルムは、ぼくに抱き付きながらわんわんと泣き叫ぶ。
ふと気が付くと、フルムの下半身のまだ小さな膨らみが、必死に上を向いているのが感触で分かってしまって、ぼくは気が動転する。
どうしよう……。
もしかしたらフルムは、本当にただ寂しいだけなのかもしれない。
だから、このまま何もしないでおく、という手もあった。
でも、既に意識の曇っていたぼくは、フルムと抱き合う事の方を選んでいた。
キスをする。
今度はそのぷるんとした唇に。
するとフルムは、泣きながら狂ったように舌を動かし始めた。
そんな姿を見ていて無性に切なくなったぼくは、フルムの温かい背中を、何度もゆっくりと撫で摩る。
やがてぼくは、フルムが落ち着いてきた頃を見計らって口付けを止めると、裸になるように促してみた。
「はい、今脱いじゃいますね!」
フルムは、顔を紅くしながらも嬉しそうな様子で、テキパキと身に纏っていた服を脱いでいく。
手伝おうかと思ったけど、その必要はなさそうだ。
正直、不安はあった。
何しろフルムは宇宙人だ。
目にした裸が地球人のそれとは違っていたら、そしてそれを受け入れるのが万が一にも難しかったら、ぼくはフルムを傷付けてしまうに違いなかった。
だけど……。
「はいっ、脱ぎました!」
目の前に晒されたフルムの裸体は、地球人のそれよりもむしろ美しかったのだ。
ぼくは驚き、そして溜め息を吐く。
「ぼくの裸、嫌ですか?」
「うぅん、そんな事ないよ!すっごく綺麗だよ!」
「良かったぁ!それなら今度は孔児さんの番ですよ!」
ニコニコと嬉しそうなフルムに促されてその場に立ち上がると、恥ずかしいながらも渋々服を脱いでいくぼく。
まぁ、フルムも全て曝け出してくれた訳だし、ぼくもちゃんと見せないとな。
そう思って、一糸纏わぬ姿になると……。
「あ、ぼくの方がちっちゃいや」
フルムが恥ずかしそうに前を隠す。
隠さなくていいのに。
「フルム、その手が邪魔だよ、えぃ、えぃっ!」
じれったくなったぼくは、体毛らしい体毛のない透き通るようなフルムの肌を、思いっ切りくすぐってみる。
「ひゃははは!隠さないから止めてくださいぃ~!」
刺激には弱いらしく、フルムは目に涙を浮かべながら笑い転げるのだった。
これは期待大だ。
経験のないぼくのつたない責めにも、きっと反応してくれる事だろう。
それからしばらくして……。
「あっ!あっ!何か凄いよ!変になっちゃいそうだよ!」
「ぼくも、ぼくも、ああぁん!」
ぼくらは、互いの小さな膨らみから大量の白い液体を噴き出していた。
もう、胸やお腹、それに下半身までもがべちゃべちゃである。
シーツまでも濡れてしまった。
しかも、変な臭いまでする始末。
「やべ……これ、どうしよ」
ぼくは狼狽える。
ふと横をみると、フルムがとても不安そうな顔をしてこちらを見ているので、ぼくは根拠もないのに「たぶん大丈夫だから安心して」などと答えてしまっていた。
結局、母さんのところまでシーツを持っていく勇気はなかったから、それについては止むを得ず自然乾燥するまで待つことにして、ぼくはその事を頭の中から消し去ってしまう。
で、シャワーだ。
ぼくらはティッシュで体中を念入りに拭き取った後、服を着て、それから浴室へと向かった。
「フルンの人たちはシャワーは浴びるの?」
「はい!毎日浴びます。体の洗浄から乾燥までを全自動でやってくれるカプセルがあるんで、楽ちんです」
何だか羨ましい話だ。
時々体を洗うのが面倒になるぼくには、うってつけのカプセルじゃないか。
ぼくも欲しい。
でもここは地球だから、地球の流儀に従うしかないのは、幾ら頭の悪いぼくでも分かっている。
ぼくは、スポンジを手に取り、お湯を含ませてボディソープで泡立たせると、先にフルムの体を擦り始める。
「地球では、こうするんだよ」
「へぇ!手で擦るんですね!孔児さんの手付き、何だか優しい感じがして好きです」
フルムが嬉しそうな顔をするので、ぼくは張り切って全身を洗っていく。
「ここも洗おうね」
「あ、ん、優しくして…くださ…い、ね」
ぼくは、フルムの小さな膨らみを包む皮を剥くと、丁寧に汚れを擦り取った。
フルムの全身を洗い終えたぼくは、次に頭を洗ってやる。
順序は逆でも良かったような気もするけど、そこは気にしない。
「お湯かけるよー、ちゃんと目を閉じててねー」
「はーい!」
そうしてぼくは、すっかり綺麗になったフルムを、先に湯船へと促す事にした。
「先にお湯に浸かってていいよ」
「ここに入るんですか???」
どうやら、フルンにはお風呂の時にお湯に浸かる習慣がないらしい。
「入ると体が温まって気持ちいいよ!疲れも取れるし~」
するとフルム、恐る恐る足先からお湯に浸かっていく。
「あ、気持ちいーです!わぁ、ぼくこれ大好きだ!」
フルムがお湯の中ではしゃぎ出すのを確認したぼくは、今度は自分の体を洗い始める。
全身をスポンジで擦り終えた頃になって、フルムが静かになったので、振り向いてみると……。
フルムは、ぼくの裸をじっと見つめていた。
急に恥ずかしくなって下を向くと、フルムは「孔児さん、可愛いです!」と言ってニコニコと笑った。
だからぼくは「可愛いんじゃなくて、カッコいいんだよ!」と言って頬を膨らませてみたけれど、結局フルムに笑われるだけだった。
まぁ、いいけどね。

その後、二人仲良くお湯に浸かってからお風呂を出たぼくらは、喉が乾いていたので、リビングに向かうと、ウォーターサーバーの水をコップに注いで、一気に飲み干した。
父さんと母さんはまだ寝室に居るらしく、リビングには他に誰も居ないので、気兼ねがない。
「さ、部屋に戻ろうか。そろそろ出掛ける支度しないと」
「ぼく、孔児さんと一緒に出掛けたいです!」
見ると、とても真剣な表情でこちらを見つめているので、ぼくはフルムの手を取って部屋まで一緒に歩いた。
途中、フルムの横顔を覗き見ると、見ているこちらが嬉しくなってしまいそうな程に嬉しそうだったので、この時初めて、ずっとそばに居てやりたいと思った。
ずっと寂しかったんだろうな、と思うと、ちょっとばかり複雑でもあったけれど。
部屋に着いたぼくは、やっぱり留守番していてもらう以外にないだろうな、と思いながら、学校に行く支度を始めた。
フルムは、ぼくの傍にぴったりとくっついて離れない。
ちょっと息苦しいくらいの距離感だ。
でもぼくは、それが嬉しくて、ぼくなんかが求められているのが無性に嬉しくて、思わずフルムを抱き締めるのだった。
家に帰ってもまだフルムが居るように、心から祈りながら。
そして……。
「さ、行こうか。朝食の時間だよ、おいで」
ぼくは再びフルムの手を取ると、ダイニングへと向かう。
「あら二人ともおはよう。手なんか繋いじゃって、早速仲良くなったのね。あなたたちの朝食も今出来るから、食べちゃいなさいね。」
母さんは、手を繋いだぼくらを見ても、平然としていた。
先に朝食を食べていた父さんは、そんな母さんの様子を一瞬だけ窺うと、何も言わずに黙々と、シュガ○レディの発芽玄米おにぎりを口に運ぶ。
やっぱり母は偉大だな、と思いながらぼくは、フルムと並んで椅子に腰掛けた。
ちなみに、母さんは朝に弱いので、朝食はシュガ○レディが定番だ。
ぼくとフルムは、温められたばかりのカルビライスバーガーを母さんから受け取ると、はふはふ言いながら頬張る。
「孔児さん、これ、美味しいです!」
フルム、何だかとても美味しそうに食べている。
「あれ、フルンではフルムはどんな食べ物食べてたの?王子様だから豪華な物だったんじゃないの?」
美味しそうに食べているところだったので悪いなとは思いながらも、不思議に思ったぼくは一応、尋ねてみる事にしたのだ。
すると……。
「フルンでは食糧は配給制で、毎日の食事は完全栄養食品って呼ばれるドリンク剤に決められてるんです。それ以外の物は体に良くないから、摂取禁止って法律で決まっています。破れば投獄もされます。ぼくも父から、自己の尊厳を貶める事、もっと分かりやすく言うと緩やかな自殺に繋がるから、指定のドリンク剤以外の摂取は絶対に駄目だって、何度も言われてました……でもあれ、あんまり美味しくないんだよね」
フルムはそこまで説明すると、舌をペロンと出して笑った。
可愛い。
でも……なんて星だ。
肉が大好物の自分がフルンに移住したら、すぐに捕まってしまうに違いない。
怖いなぁ……。
母さんもぼくと同じ気持ちだったようで、「あらまぁなんて星かしら!私だったらすぐに捕まるわね。いいわ、今晩は腕によりをかけて美味しい物を作るから、楽しみにしていらっしゃい!」とまで言ってくれた。
フルム、喜ぶだろうなぁ。
ぼくも楽しみだ!
こうしてぼくらは、骨なしの鯖の味噌煮と即席の味噌汁を美味しく頂くと、わくわくした気分のまま、揃ってダイニングを後にする。
だけど……。
「孔児さん、これからお出掛けですか?ぼくも連れていってくれますよね?」
ぼくの微妙な様子の変化を察知したフルムは、途端に泣き出しそうな顔になって、ぼくをじっと見つめるのだった。
これには困った。
このままでは、学校に行けないじゃないか。
そりゃあぼくだって出来る事なら、フルムと離れたくはない。
一瞬でも嫌だ。
でもなぁ……。
そうしてぼくが頭を抱えていると、それに気付いた母さんが、援護射撃をしてくれた。
「ねぇフルムちゃん、フルムちゃんは今日は私とお買い物に行くのよ。その不思議な色と形のお洋服のままだとお外に出られないから、フルムちゃんに似合う可愛いお洋服を沢山買いに行くの。取り敢えず孔児のお洋服を着てね。嫌かしら?」
するとフルム、パッと笑顔になって、「ぼく、お母さんと買い物に行きます!孔児さんに気に入ってもらえるように、いっぱい可愛くなるんです!」と言ってくれた。
何だかこそばゆい。
だいたい、それ以上どうやって可愛くなるってんだ。
今だってメロメロなのに……。
とは言え、母さんには感謝だな。
これで遅刻しないで済むし、何より安心して学校に行ける。
帰ってくればフルムが待ってるんだ!
嬉しくなったぼくは玄関へと駆け出すと、そこでフルムと母さんに一度手を振って、学校へと向かうのだった。
「よぉ、孔児!宇宙人は見つかったか?」
家を出ると、ちょうど前を通りかかった健太に、声を掛けられた。
健太はぼくのただ一人の友達なんだけど、ちょっとばかり口が悪い。
この時も、ぼくが「今、家に居るよ」と本当の事を言うと……。
「お前、とうとう完全におかしくなったか。前々から変な奴だとは思っていたが、遂に現実と空想の世界の区別が付かなくなっちまったんだなぁ。いいとこあったのに、残念だ」などとのたまうので、軽く蹴りを入れてやった。
「おゎ、何すんだよ!」
「本当に居るんだってば、馬鹿!内緒だぞ」
「マジか!?」
ようやく信じたみたいなので、学校帰りに家に寄るように促すと、健太は指を立てて頷いた。

その日、ぼくと健太との間の話題は、フルムの事で持ちきりだった。
「なぁなぁ、その宇宙人、可愛いのか?」
「うん、すっごく可愛いよ!」
「まさか、手ぇ出したりしてないだろうな?」
「う……、あ……」
まずい、こういう時にぼくは嘘が吐けないのだ。
「おいおぃ、もう済ませたのか!?お前まだ小五のくせにだぞ!!」
「う、あぁ……、うん」
「お前みたいなデブと恋に落ちる宇宙人か、早く見てえぇ!!」
で、放課後……。
「ただいまー」
「お邪魔しまー、……おぃ、宇宙人って、この子か?」
「そぅだよ、それが何か?」
「男かよ……しかもデブぃし。暑苦しいだろ、このカップルはどう見ても」
「あれ、言わなかったっけ?フルン星の王子様だって」
言ったような気がするんだけど、こいつ時々人の話を聞かないからなぁ。
「孔児さんお帰りなさい!お待ちしてました!それから隣りの方、初めまして!フルムと言います」
フルムが、緊張した面持ちで挨拶をする。
すると、隣りの馬鹿がよりにもよって「君がこのデブとやっちゃった王子様なんだね、よろしく!」などと言うので、ぼくはすかさず頭をひっぱたいた。
そして「こいつは悪い奴だから、気を付けるんだよ」とフルムにも一応注意をしておく。
「はい、わかりました!気を付けます」
フルムはニコニコ顔でそれに頷くのだった。
ふと横を見ると、健太が何か文句を言いたそうにしているのだけど、気にしない事にして先に進む。
「フルム、その服可愛いねー!凄く似合ってるよ!」
新しく買ってもらったのであろう服を身に付けたフルムは、それはもう可愛かった。
たまらずに頭を撫でてやると、フルムはとても嬉しそうにしてぼくに抱き付く。
そして「まだまだあるんですよ!お見せしたいので、一緒に部屋に行きましょう!」と言って、服の袖を引っ張る。
可愛いから、幾らでも見ましょう。
ぼくは健太の存在もすっかり忘れて、フルムと仲良く二人で部屋へと向かった。
途中、中庭を横切ると、後を付いてきていたらしい健太が、「宇宙船かょ!中見せろ、頼むよ!」などと喚くのだが、先を急ぐので気にしない。
悪いな、健太。

部屋に着くと、フルムのファッションショーが始まった。
正直もう、どれもこれも可愛い。
フルムがウォークイン・クローゼットの中から着替えて出てくる度に、ぼくは拍手を浴びせていた。
隣りには、健太の不満そうな、退屈そうな顔。
怒ったぼくは「拍手!!」と言って健太を促す。
すると健太は渋々といった表情で、やる気のない拍手をするのだった。
おのれ、覚えてろ……。
やがて、一通り服を見せ終わると、フルムはぼくと健太にぺこりと頭を下げた。
そんなフルムを、ぼくは拍手とキスの雨で出迎える。
横で健太が「おいおい、俺の前でおっ始めないでくれよ、見たくないからな」などと茶々を入れるので、ぼくはまたも軽く蹴りを入れておいた。
「まぁ怒るな、ところで中庭にあった宇宙船の中を見たいんだが、どちらか案内してくれるか?」
「はい、ぼくが案内します!」
「ぼくも行くよ」
こうしてぼくら三人は、中庭へと向かうのだった。

「こちらです、どうぞ」
フルムの案内で、健太が宇宙船の中に入る。
「狭いなぁー。にしても何にもないな、どうやって操縦するんだこれ?」
健太も、昨日の自分と同じような疑問を持ったらしい。
まぁ、無理もない。
フルムから説明を受けると、どうにか納得した様子ではあるものの、興味は尽きないようで、あちこちべたべた触りまくっている。
「俺、動かしてみたい!!」
「ごめんなさい、エンジンが壊れているので、動かないんです」
それ、さっき学校で話した気がするぞ。
本当に人の話を聞かない奴だ。
「なんだ……ちぇっ」
健太は、急に興味を失った様子で宇宙船から出ると、今度は「俺、おやつ食べたい!」などと言い出すのだった。
やれやれ、世話が焼ける……。
という訳でぼくらは、中庭を後にするとリビングへと向かい、母さんにおやつをねだってみた。
「あらちょうど良かったわ、丸福堂の芋羊羹があるのよ」
おいおい、幾らなんでも渋すぎないか?
「ケーキはないの?」
諦めきれないぼくは、一応聞いてみる事にした。
「ないわよ~突然来るからよ。それに芋羊羹だって高かったのよ、箱で四千円もしたんだから!」
それは高すぎだろう……丸福堂と言えば銀座だから、やっぱり場所代かな?
「じゃあそれでいいや、後で切って部屋まで持ってきてよー」
結局、ケーキを諦める事にしたぼくは、それだけを言い残すと、二人を連れてリビングを後にした。
「ケーキがなくて残念だった。結構、ある事も多いのにな。ちぇっ。」
途中、階段でぼくは、不満を口にする。
すると……。
「俺は、芋羊羹でも別に構わんが。ちょっと渋いけどな。」
「ぼくもたぶん大丈夫です~。“いもようかん”が何なのかはさっぱり分かりませんが、お母さんの持ってきてくださる食べ物なら、きっと美味しいに違いないですから!」
二人は、口々に芋羊羹を擁護するのだが……。
地球人である健太の意見はともかくとしても、芋羊羹を見た事も食べた事もないはずのフルムが、芋羊羹をきっと美味しいに違いないと力説するのは、流石にどうかと思うぞ。
心が綺麗なのは分かるけれども、ちょっと色々な事を信用し過ぎなんじゃないかな、などと心配になってくる。
ほら、未知の惑星地球の人間だとか食べ物だとか、後は特に我が家の身内だとかを、さ。
ま、いいんだけどね。可愛いから。
で、部屋に着くなり、大して面白くもない芋羊羹談義を、ただ惰性でだらだらとしながら過ごしていると……。
「入るわよ~。」
芋羊羹が来ました。
もうね、待ちに待った。
首を長くしてね。
二人は、歓声なんかあげちゃうし。
一人はもちろんワザとだけど、もう一人の方は……。あぁぁ。
この後の展開が思いやられるなぁ、もぅ。
母さんが部屋を去った後、ぼくら三人は、それぞれの目の前にある皿の上の、神聖なる銀座丸福堂高級芋羊羹を、まずはじっくりと眺める。
うん。目で楽しむってのも、大事だからね。まぁ、分かるよ。
でも、そんなに期待しないでね、フルム。
実を言うとね、ぼく芋羊羹って、あんまり好きな訳じゃあないんだ。
口の中が、パサパサするし、だいたい芋だよ!
そんなに有難がって食べる物じゃぁないんだよ!
そもそもさ、何で芋羊羹なんかが……「わぁ、美味しぃですっ!」えぇっ!?フルム!?
そりゃあどう見ても芋羊羹の好きそうな体型はしているけどさ、そんな話の展開って、小説的につまんなくない?
「でも、美味しいんですっ!」
むくれたフルムは、薄桃色の頬をぷっくりと膨れさす。
誰との会話だよ、これ。
まぁ、可愛いから許すけどさ。
「箱四千円だっけ?高いだけの事はあるな。甘い甘い。」
健太よ、お前もフルム派か。
何だかがっかりだ、おぃ。
結局、孤立無援のぼくは、三人の中でたった一人芋羊羹に有り難みを感じないまま、ぶつくさ文句を垂れ流しながらも、目の前の皿に盛られたブツをどうにか完食するのだった。
「ぼく孔児さんの事は大好きですけど、流石にそれはないと思います!お母さんに失礼です!要らないならぼくにくだされば良かったのに!けちんぼ!」
見ると、フルムはぷんぷんと音を立てそうな程に怒っている。
流石に焦ったぼくは、ふと思い付きで、フルムの唇を奪ってみた。
もちろん、健太の目の前で。
「わっっ!!何をするんですか!?こんなの反則ですからっ!孔児さんなんて、孔児さんなんて……大好きです……。」
わ、何だこの漫画みたいな展開。
調子に乗ったぼくは、取り敢えず夢中で舌を絡める。
何度やっても気持ちいいな、これ。
「おぃどぅでもいぃけどお前ら、俺様の存在というものをすっかり忘れ去っているだろ。その辺にしとけやお前ら、な。」
健太さん、怒ってるぅー。
当たり前か。
反省しきりのぼくとフルムは、健太にぺこぺこと頭を下げる。
あ、やったぜ!
話がすり替わった!
何時の間にか健太が怒る話になっている!
ぼくはしおしおと申し訳なさそうな顔を演じながらも、内心ではガッツポーズを作っていた。

「ところでフルムくん、君が今いるこの国には、節分の日に豆を撒く習慣があるのを、知っているかな?」
「せつぶん?まめ?まく?それ、なんですか?」
あーあ。話が突然変わったせいで、フルムが戸惑っているじゃないか。まったく。
それにしても嫌な予感がするなぁ……。
フルム、豆撒きしたいなんて言い出さなきゃいいけど。
なんて思っていると、健太から一通りの説明を受けたフルムが……。
「ぼく、豆撒きしたいです!」
あー……。ほらねー、やっぱり。
健太め、余計なこと言いやがって……。
我が家、豆撒きは禁止なんだよね。
でもま、一応母さんに聞いてみるか、駄目元で。
で、早速聞いてみたところ……。
「駄目よ!許さないから!」
やっぱりなぁ。
昔からそうなんだ。
この人、豆が家の中で行方不明になるのが嫌みたい。
でもね、粘ってみるよ。大好きなフルムのためにね。
という訳で、ぼくはなおも食い下がる。
「豆の代わりに落花生を撒くってのは?」
「駄目よ!家具と壁や床の隙間に入ったら取れないじゃない!誰が取ってくれるのよ!」
このばばぁ……。
「それなら、中庭で撒いたらいいじゃん!」
頭に来たぼくは怒ってみるのだが……。
「それ、落ちたの誰が食べるのよ!食べ物を粗末にするんじゃありません!!」
逆に怒られてしまった。
これでは、取り付く島もない。
仕方なく、すごすごと部屋に戻ってフルムに報告。
「ぼく、豆撒きしたかったですぅ。悲しぃ……」
あぁぁ……。フルム、泣いちゃった……。
「あ、俺、帰るわ。そんじゃな」
おのれ、けーんーたー!!
このタイミングで逃げるとは、それがさっきの仕返しのつもりかよ!
今度会ったら、覚えてろよ!
それにしても……どうやってなだめようか、この子。
しくしくと泣き止まないフルムを前にして、ぼくは一人頭を抱える。
で。結局ぼくは、またも力業に打って出る事にした。
「んぅ!?孔児さん!?」
ぼくはフルムを、ベッドに押し倒す。
そして……。
「ぼく、フルムの事、愛してるよ!それじゃあ駄目かな?」
クサい台詞も今なら言えるよ。
ぼくはフルムを、思い切り抱き締める。
そしたらフルム、ぴたりと泣き止んで「ぼく、豆撒きなんかより孔児さんがいいです……」なんて言ってくれたんだ。
だからご褒美に、いっぱい気持ち良くしてあげようと思ってさ。
ぼくらは夕食までの短い時間を、ただひたすらに抱き合って過ごしたんだ。
あぁ、幸せだなぁ。

楽しいSEXの後は、美味しい夕食が待っている。
今日のメニューは焼肉らしい。
や、何だか手抜きだな。
“腕によりをかけて美味しい物を作る”って言ってなかったか?
焼肉がそうだとか?まさか。
という訳でぼくは、母さんに事情を問いただしてみる事にした。
「ねぇ母さん、腕によりをかけて作った美味しい物はどこ?」
「あら、ごめんなさいね~。お買い物に予想外に時間が掛かっちゃって、下ごしらえしている時間がなかったのよ。焼肉だって美味しいわよ!あんた大好きじゃない。」
あー……。お買い物ねぇ。
どぅせ母さんがフルムをあちこちのお店に引きずり回したんだろうさ。
そうに決まってる。
焼肉かぁ。フルムは喜ぶんだろうけどさ。
「お母さんが腕によりをかけて作った焼肉、美味しいです。」なんて言ってね。
どんなだよ。
肉買ってきて焼くだけじゃねぇか。
純真な子供を騙すのもほどほどにしろよ。ったく……。
で、食卓を囲んで。
母さんが事もあろうに「今日は腕によりをかけて作った焼肉よ~!大変だったんだから!味わって食べてね~!」なんて言うもんだから。
烏龍茶吹き出しちゃったじゃないか、ばばぁ。
フルムはフルムで「わぁ!凄いや!お母さんありがとうございます!」てな感じで大喜びだし。
恥ずかしくないのかよ!
大人って汚ぇな。
でもま、いいか。
美味しいからね。
で、ぼくが黙々と焼肉を食べていると……。
「わぁ、お母さんが腕によりをかけて作った焼肉、美味しいですぅっ!」
「良かったわ~。いっぱい食べてね~。」
フルムぅ……お前、騙されてるんだぞ。
あんまりなのでちらりと母さんの方を見ると、睨んできやがるし。
酷いよなぁ。

その後、食事も終わり、フルムと仲良く部屋に戻る途中で。
青い鳥を見ました。
それも真っ青な。
驚いたぼくは、フルムを連れてダイニングへと舞い戻る。
「母さん大変!真っ青な鳥がいたんだよ、中庭に!」
息を切らしてぼくは叫ぶ。
すると母さん、あからさまに嫌な顔をして一言。
「願い事なんか絶対にしちゃ駄目よ!」
え?青い鳥だよ?幸福の象徴だよ?
不思議に思ったぼくは、母さんに聞き返す。
「どうしてさ!青い鳥って幸福の象徴だよね?何か理由でもあるの?」
そしたら母さん、驚くべき事を叫んだ。
「死んじゃうわよ!!!絶対に駄目!!!」
ぼくが目を丸くしていると、母さんは「余計な事は考えないで二人とも早く寝なさい!!」と怒鳴って追い払うのだった。
でも、何故死んでしまうのか、理由が気になる……。
だからぼくは食い下がった。「教えて!でないとここから動かないから!」
すると母さん、とても嫌な顔をしながらも、重い口を開いてくれた。
「昔、姉さんがいてね、大好きだったのに、私を置いて青い鳥にお願いしたのよ。自分を捨てた彼氏を殺して欲しいってね。姉さん、私の目の前で消えちゃった……。綺麗だったのよ、本当に。だから憧れていたの。それだけにショックだったわ……。しばらくの間、姉さんの事が許せなかったもの。青い鳥に願い事をするとね、願いが叶う代わりに願い事をした本人は死ななきゃいけないの。もう、誰も失いたくはないのよ、私……。」
母さんは深い溜め息を吐いた。

その夜、部屋に戻ったぼくたち二人は、青い鳥について熱心に話し合った。
殆どは空想に過ぎなかったけど、それでも願い事をすると死んでしまうという事実は、ぼくたちには強烈だった。
もちろんぼくは怖いから、願い事をしようなんてこれっぽっちも思わなかったし、フルムも当然同じ気持ちでいるはずだと思っていた。

ところが、そのまま疲れて眠ってしまってからしばらく経って、ふと目が覚めると、フルムの姿が見当たらないんだ。
布団はまだ温かい。
最初はトイレにでも行ったのだろうと思い、特に気にも留めなかったのだけど、いつまで経っても戻ってこないので、だんだん心配になってきた。
「まさか、青い鳥を探しに……。」
結局、家中を捜しても見つからなくて焦ったぼくは、パジャマのまま夢中で家を飛び出していた。
どこにいるのかは見当も付かない。
でも、必ず見つけ出して、止めなきゃ!!

ぼくは走る。
フルムを見つけ出すまでは諦めずにどこまででも走るんだ、そう心に言い聞かせながら。
それから五分ほど経って、ふと立ち止まると、すぐ脇に公園があった。
もしやと思い中に入ると、そこには……。

「フルムーっ!!!」
ぼくは叫んだ。
力の限り叫んだ。
フルムは青い鳥の目の前で、今にも消えてしまいそうな程に、透明になっていたのだ。
「フルム、どうして……。」
ぼくは涙が止まらない。
「孔児さん、ごめんなさい。でも、役立たずのぼくなんかが生きているよりも、せめて父さんや母さんだけでも生き返った方が、みんなが幸せになれるから……。亡くなった人たちみんなを生き返らせる事は、ぼく一人の命と引き換えでは出来なかったけど、それでもいいんです。短い間だったけど、孔児さんと出逢えて、ぼくは本当に幸せ者でした。どうかぼくの分まで、幸せに……。あっ!」
その瞬間、フルムは消えて無くなってしまった。
あんなに可愛かったフルムが、もうこの世にはいない。
でも、こんな結末、ぼく、許せない!!!

ぼくはある決意を胸に、飛び去ろうとする青い鳥を呼び止めた。
「フルムを生き返らせて!!!今すぐ!!!それから、フルムの願いはもう聞いちゃ駄目だよ!!!」
衝動的な我儘かもしれないけど、何故だか迷いは微塵も無かった。
そんなぼくの心の内を察したのか、青い鳥はただ一言「分かった」とだけ答えた。
徐々に透明になっていく体。
幸いな事に痛くはない。
すると、目の前に消えたばかりのフルムが現れて、ぼくを安心させる。
ぼくを見くびってもらっちゃあ困る。
愛してたんだからさ、これでもね。
「フルム、愛してるよ。フルムの方こそ、幸せにならなきゃ駄目なんだよ。」
ぼくはそれだけ言うと、笑ってみる。
「孔児さーんっ!!!嫌だーっ!!!行かないでーっ!!!こんなの嫌だーっ!!!」
ぼくは本当は、二人で仲良く生きたかった。
でも、それが無理ならせめてフルムには、幸せになって欲しかった。
ただ一つだけ、母さんにだけは、本当に申し訳無い事をしちゃったな……。

……そしてぼくは幽霊になった。
泣き叫びながら駆け出す、フルム。
ぼくは何だか気が重くて、後からとぼとぼと家に戻る。
と、その途中で……次第に体が、元に戻っていく。
まさか……!?
ぼくは慌てて駆け出していた。

家に戻ると、母さんが今まさに消え去ろうとしているところだった。
「母さん、どうして……。」
ぼくが泣きながら駆け寄ると、母さんは一喝した。
「どうしてじゃありません!!あんたはまだまだ生きなきゃいけないの!!二人で幸せになりなさい、それが一番の親孝行よ。」
それだけ言い終えると、母さんはぼくを抱き締めた。
ぼくは母さんと離れたくなくて、消え去った後もいつまでも、その場を離れなかった。

それから三か月……。
ぼくはフルムと、夫婦のように仲良く暮らしていた。
フルムの家族は、青い鳥のお陰で復活する事が出来たみたいだ。
そして母さんは幽霊になって、ぼくたちを見守ってくれている。
「孔児、学校に行く時間よ、起きなさい!」
今朝も母さんがぼくたちを起こしてくれた。
今まで通りの日常だ。
ぼくとフルムが馬鹿な事をしたせいで母さんは幽霊になってしまったけれど、二度と会えないと思っていたから、ぼくは嬉しかった。
ぼくは、母さんにもらったこの命を何があっても無駄にしないと心に誓って、母さんの幽霊を力一杯抱き締めた。

あとがき - 主人公一家の設定

孔児の自宅は、建築家小川晋●設計の、広い中庭のある東京郊外の邸宅。
家の外観は白くて目立つ。
キッチンは建築家オリジナル。
IHはガゲナ◉。
食洗機と洗濯乾燥機はミ◯レ。
全て奥さんの希望。
他は……。
冷凍冷蔵庫はエコナビのP◯n◯s○nic。
オーブンレンジはパンをよく焼くので東芝の石窯ド◯ム。そろそろ買い替え時だと思っている。
更にリビングのテレビは購入当時評判の良かったシャープ。これもそろそろ買い替えを考えている。
ブルーレイとハンデ●カム、それにプロジェクターは迷わずS◯NYを選ぶ。
根拠のない何となくの無難な選択が、美徳でもあるという。
そういう一家。
それから、孔児の父親・哲郎の愛車はレクサ◉LS5◯◯h。
他に奥さんの希望で、レクサ◉LC5◯◯hも。
ダイナミックなフォルムがお気に入り。
哲郎の名前は当然、あのアニメから拝借。但し名前以外には共通点は皆無である。
仕事上のしがらみが原因で国産車にしか乗れない為、選択の余地もなく何も考えずに運転手付きの黒いLSに乗る。
このお話に於いての哲郎とは、そういう男性。新幹線以外の電車には、長い事乗っていない。
時代が時代なら、あのセ○チュリーの人。
保守一辺倒。
孔児の母親で専業主婦の玲子がああいった性格の人なので、そのお陰で家庭は壊れない。
玲子の発言力は一家の中では絶大である。
何しろ哲郎は玲子の家の婿養子、つまりマスオさんなので。
ちなみに玲子の玲は、川久保玲から取りました。
という訳で、彼女の好きなブランドはコム●ギ◉ルソン。あくまでドメスティックブランド好き。但しヨウジは自分には何となく難しいと感じている。そういう設定です。
玲子の近所の子供からの隠れあだ名はキチガイババァ。
個性的な洋服が子供たちにはなかなか理解されないのです。
で、孔児の幼い頃の服はミ○ハウス。そんな感じ。そういう家庭。
生ゴミはこまめに捨てます。
玲子は掃除好き。従ってお手伝いさんは居ません。
ちなみに孔児の趣味は天体観測、愛読誌はム●。
あとがき - 主人公一家の設定

孔児の自宅は、建築家小川晋一設計の、広い中庭のある東京郊外の邸宅。
家の外観は白くて目立つ。
キッチンは建築家オリジナル。
IHはガゲナウ。
食洗機と洗濯乾燥機はミーレ。
全て奥さんの希望。
他は……。
冷凍冷蔵庫はエコナビのPanasonic。
オーブンレンジはパンをよく焼くので東芝の石窯ドーム。そろそろ買い替え時だと思っている。
更にリビングのテレビは購入当時評判の良かったシャープ。これもそろそろ買い替えを考えている。
ブルーレイとハンディカム、それにプロジェクターは迷わずSONYを選ぶ。
根拠のない何となくの無難な選択が、美徳でもあるという。
そういう一家。
それから、孔児の父親・哲郎の愛車はレクサスLS。
他に奥さんの希望で、レクサスのLC500も。
ダイナミックなフォルムがお気に入り。
哲郎の名前は当然、あのアニメから拝借。但し名前以外には共通点は皆無である。
仕事上のしがらみが原因で国産車にしか乗れない為、選択の余地もなく何も考えずに運転手付きの黒いLSに乗る。
このお話に於いての哲郎とは、そういう男性。新幹線以外の電車には、長い事乗っていない。
時代が時代なら、あのセンチュリーの人。
保守一辺倒。
孔児の母親で専業主婦の玲子がああいった性格の人なので、そのお陰で家庭は壊れない。
玲子の発言力は一家の中では絶大である。
何しろ哲郎は玲子の家の婿養子、つまりマスオさんなので。
ちなみに玲子の玲は、川久保玲から取りました。
という訳で、彼女の好きなブランドはコムデギャルソン。あくまでドメスティックブランド好き。但しヨウジは自分には何となく難しいと感じている。そういう設定です。
玲子の近所の子供からの隠れあだ名はキチガイババァ。
個性的な洋服が子供たちにはなかなか理解されないのです。
で、孔児の幼い頃の服はミキハウス。そんな感じ。そういう家庭。
生ゴミはこまめに捨てます。
玲子は掃除好き。従ってお手伝いさんは居ません。
ちなみに孔児の趣味は天体観測、愛読誌はムー。
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