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海松色の日常 -猛・十七歳、秋-

海松色の日常 -猛・十七歳、秋-

十月十日。高校二年生。
ぼく、海松 猛は十七歳になった。
中学校時代の同級生だった元彼氏の裕哉くんは、高校は進学校に進んだ。
そのために、頭の悪いぼくとは違う学校に通う事となり、関係は自然消滅。
友達だった幹久くんとも違う学校に通う事になったので、高校には中学校時代の頃からの知り合いは一人もいなかった。
元々引っ込み思案だったので、こちらからアクションをかけるのは性格的にとても難しい。
こうして学校での友達作りは諦めていたが、彼氏なんてどうにか出来ないものかと考える事は、年相応にはあった。
昼休み、独りぼっちの昼食。
もうすっかり慣れたとはいえ、心の何処かがちょっぴり淋しい。
義母の愛情の詰まった手作り弁当を早々と食べ終えたぼくは、側に誰もいない事をいい事に、手持ちの二つ折りiモー◉携帯で出会い系サイトにアクセス。
しばらく見ていると、素敵そうなプロフの男が顔画像付きで投稿しているのを見つけた。
無理かな、とも思ったが、どうせダメで元々なので、何日か前に撮っておいた写真を添付して、早速返信を出した。
もちろん、年齢は念の為に十八歳と一歳だけ偽って。
相手からのメールはその日の夕方に届いた。
夕食がまだなら、これから一緒に食べない?といった内容のものだった。
急な誘いだから戸惑ったものの、断る理由などなかった。
メールの返信で早速OKと送り、その後のやりとりで待ち合わせ場所と時刻を確認する。
犬の銅像前で18:00に待ち合わせ、っと。
メールのやり取りがひと段落つくと、ぼくは慌てて出かける支度を始めた。
準備が一通り整うとぼくは、夕食を作っている義母の元へゆき、今日、夕食は要らない旨を伝える。
「あら、せっかくケーキとご馳走用意したのに、残念だわ。」
「ごめん母さん、明日食べるよ!」
「そうね、一日位大丈夫でしょう。泊まる時には電話するのよ。」
義母は念の為にと、お金を少し渡してくれた。
「じゃあ、行ってきまーす!」
「気を付けるのよー!」
待ち合わせ場所までは電車で向かう。
「確か、待ち合わせ場所の最寄り駅までは乗り換えがあるんだよね。どうやって行こうか……。」
ぼくはパンツのポケットの中から二つ折りの携帯を取り出すと、iモー◉の乗り換え案内でルートを確認した。
「待ち合わせ時刻までにはまだ余裕があるみたい。ゆっくり行こうかな。」
焦る必要がない事を改めて確認すると、自宅からの最寄り駅までのんびりと歩いて向かった。
乗り換え用の切符を買って、駅のホームへ。
そこへ、ちょうど電車が滑り込んできた。
ナイスタイミング。
つり革につかまる事十五分。
乗り換えの駅に到着。
そこへ一通のメールが。
「早く着いちゃったから、喫茶店で待ってるよ。店内は静かだから、まずはのんびり話そう。入り口がわかりづらいから、駅前の楓並木の下で待ってて。」
うへぇ、もう着いちゃってるのか!
ぼくは焦って乗り換えをする。
階段を駆け上がって乗り換え用の改札を通る。
滑り込んできた電車に駆け込み乗車、ギリギリセーフ。
そこから二十分で待ち合わせの駅に到着した。
駅前はひらけている。
来た事がないだけに、新鮮だ。
待ち合わせ場所が犬の銅像前から急に変わったので戸惑うかとも思ったが、メールにあった楓並木はすぐに見つかった。
「やぁ、海松くん、はじめまして!青丹 伊知郎と言います、よろしく!さ、まずは喫茶店で軽く話でもしようか。」
緊張で手が汗ばむ。
ぼくたちが向かった喫茶店は、談話室で有名な全国チェーンのお店だった。
一度義母と系列の別の店舗に行った事があるだけに、静かなのは想像がつく。
地下への階段を下って、店内へ。

席に着き、改めて目の前の顔をまじまじと見た。
いい男だった。
ぼくには、もったいなかった。
これはダメだな、そう思った。
ぼくなんかとでは、釣り合いが取れないのだ。
だが、目の前の男は一旦席を立つと、ぼくなんかに握手を求めてくる。
ぼくはその握手に応じながら、もしかして脈ありなのかな、物好きな人もいるものだな、などと不思議に思っていた。
「海松くん、だっけ?可愛いねー!写真よりもずっといいよ。第一印象はバッチリ、かな。俺の事はどう?」
話を急に振られてドギマギしてしまったが、ここはしっかりせねば。
「あ、青丹さん、ですよね?凄くカッコよくて、素敵だと思います!」
それから、みるみる内に二人は打ち解けて、話は盛り上がった。
「ね、海松くんホントは歳いくつ?十八には見えないよ。」
「実は今日が十七の誕生日です。まだ高二。でも大丈夫、誰にも言わないから。」
「そっか、じゃあ今日は誕生日パーティーをやらなきゃな。良かったらウチに来る?デパートでケーキとか色々買ってさ、ジュースで乾杯しようよ!」
「ホントに!?ぼく、凄く嬉しいです!」
もう、舞い上がりそうな位のトントン拍子。
「そういえば“うみまつ”って“みるいろ”の“みる”と同じ字だよね。これから海松くんの事、みるって呼んでいいかな?俺の呼び名はみるが決めてくれて大丈夫だから。あと、敬語じゃなくて平気だよ。」
そう言われて、勇気を奮い立たせてタメ口で。
「いいよ、みるで。ぼくは青丹さんの事は下の名前から取っていーさん、って呼ぶ事にするよ。」
「それじゃあみる、そろそろデパートに買い物に行こうか。」
「うんっ!」
ぼくたちは喫茶店から程近いデパートの地下食料品売り場で、ホールケーキに小洒落たサラダやローストビーフ、のちに二人の大好物だという事が分かるカニクリームコロッケとエビフライ、他お惣菜などを買うのだった。
お会計はいーさんが払ってくれた。
知り合ったばかりなのに悪いな、とは思ったけれども。
割り勘でいいよと言ったら「これから食事代なんかは全部俺が持つから、心配しなくて大丈夫。こう見えても一応社会人だからさ、あいにく学生に払わせようって魂胆は持ち合わせていないんだよね。」と言われてしまったので、好意に甘える事にした。
いーさん、車で来たというので、二人でデパートの駐車場まで歩く。
顔を見上げるといーさん、笑っていた。
素敵な、いや、素敵過ぎる笑顔だった。
ぼくはというと、さっきから頭が少しふわふわする。
嬉しかった。
幸せへの重い扉が、ようやく、そして力強く開いた気がした。
車はスポーツカーだった。
車のことには詳しくないぼくだけど、国産のちょい高めの車種だという事位は分かる。
鮮やかな青。青丹さんにはピッタリだ。
乗り込むと、着座位置の低さにビックリする。
そうか、これがスポーツカーなのだ、と妙に納得させられた。
走り出すと、エンジンの音が結構聞こえる。
これ、不思議と嫌じゃない。
アクセルをベタ踏みするとどんな咆哮を聞かせてくれるのだろうか。
ちょっぴり聞いてみたい気もしたが、高速に乗る予定はあいにくとないので、これは多分しばらくはおあずけだろう。
そんな事を考えたり、話で盛り上がったり。
気が付くとあっという間に、青丹さんの住むマンションへと到着していた。
築浅の、こじんまりとした綺麗なマンションだ。
駐車場に車を停めて、エントランスへ。
オートロックを解除するとエレベーターで二階へ向かう。
外廊下を突き当たりまで歩くと、青丹さんの住む部屋だ。
「さ、上がって。」
靴を脱いで揃えて、振り返って。
短い廊下の突き当たりのガラスドアを開けると、こじんまりとしたリビングが広がる。
ここで、テレビがいやに大きいのが目についたので、聞いてみた。
「ねぇ、あのテレビ何インチ?おかしいよねぇ(笑)」
「あれね、液晶で七十インチあるの(笑)デカいテレビを置くのが夢でさ。」
「何か観てていい?」
「もちろん!地上波でもBSでもCSでも、好きなの観てていいよ。そういえばさっき、アニメ好きだって言ってたっけ?アニメ専門チャンネルも観られるから、楽しんでてよ!棚にはDVDやBlu-rayもあるよ。その間に俺は食事の準備をするからさ。」
「ありがとう、いーさん!」
こうして自宅へ今夜外泊する旨を電話した後、アニメ版のカぺ●をだらだらと観ながら待っていると、ダイニングテーブルの上にご馳走が並んでゆく。
明らかに歓待されているのが分かって、今更ながら改めてぼくは嬉しくなる。
「二人の出逢いとみるの誕生日を記念して、カンパーイ!」
青丹さんは黒ビールで、ぼくはりんごジュースで。
「なぁみる、エビフライとカニクリームコロッケって、タルタルソースを美味しく食べるためにあるようなもんだよな。」
「それ、分かる(笑)」
「エビフライなんて、名前変えればいいのにっていつも思うもん。タルタル棒でいいよな。」
「それはダメ(笑)」
楽しい会話、過ぎゆく時間。
気が付くと、あれだけあったご馳走はあらかた、胃袋の中。
テレビは相変わらず、カ◎タを映していた。
「カペ●、面白いよな。俺も好き。」
「ホントに!?ウマが合うよね、ぼくたち。」
「そうだな。それでさ、本当は出逢ってすぐに抱くのは抵抗があるんだけど、みるの事見てると抱きたくて仕方なくなるんだよ。ただな、単なる遊びはダメだ。俺のものになるか、みる。」
「うんっ!」
「プレゼントは次に逢った時に、な。」
「じゃあ、次の時にはぼくもプレゼント、持ってくる!」
「ホントか!?物凄く嬉しいぞ!」
こうして、ぼくたちは呆気なく結ばれた。
先の事は分からないけれど、
今はまずはこの幸せに浸っていようと思う。
高校では相変わらず独りだけれど、もう淋しくなんてない。
ぼくはこの幸せを抱きしめながら糧として、これから先を生きていくんだ!
「さ、シャワー浴びて歯を磨いたらベッドだぞ!寝技かけたるー!」
「うんっ!たくさんかけていーよ!」
「襲っちゃるぞー!」
「シャワーと歯磨きが先でしょ(笑)」

ちゃんちゃん。
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