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海松色の日常 完結編

青丹さんとの再会から二ヶ月。
おれ、海松 猛は引っ越す事になった。
青丹さん、結婚中は賃貸マンション住まいだったようだが、先日のおれとの再会を機に、築浅の中古マンションを購入したのだ。
間取りは2LDKで広さは60m2。
至って普通の物件だが、おれは心がもう沸騰しそうだった。
青丹さんが購入してローンの返済もするので、おれは生活費を入れる事で家計を支える。
料理も青丹さんがやるので、おれは掃除と洗濯の担当だ。
というか、昔から不器用なので、包丁は持たない事にしている。
ボーナスが出た直後という事もあって、新居の家具と家電は全て新調する事となった。
家具はニ◉リで購入。
お安く浮いた分を家電の購入に充てるという算段だった。
が。ここで凝り性のおれたちの悪い部分が炸裂する。
「ロボット掃除機欲しいねー。三台は要るね。」
「洗濯機は当然ドラム式だよね。」
「冷蔵庫は5ドアの冷凍室の大きなやつ。」
「オーブンレンジはもちろん赤外線センサー搭載のカラータッチパネルのやつね。」
「炊飯器は本炭釜のやつがいいょ。」
「テレビは50インチ以上の4Kね。」
「レコーダーはとにかく容量の大きいやつ。」
もうね、予算なんて吹っ飛びました。
物凄い金額。
ついでにiM◯cとM◯cB○○k Proも購入。
おれたち、このまま破産するのだろうか?

実はもう一つ、大きな出来事があった。
おれたち、養子縁組をする事にしたのだ。
いわゆる同性婚、ってやつかな。
週末、それぞれの両親に挨拶に行ったのだけれど、反応が面白い位に正反対で驚いた。
おれは実の両親は亡くしているので義父と義母に報告したのだが、二人共自分たちの事のように喜んでくれた。
厄介だったのは予想通りに青丹さんの両親だった。
親である自分たちの勧めたお見合いで結婚したのに、子供も作らずに離婚し男と養子縁組をする。
確かに、見ようによっては勝手な生き方かもしれない。
だからか、報告の場に流れていた空気は、それはそれは冷たいものだった。
「お前なんかのたれ死んでしまえ!遺産もやらん!」
「好きにすればいいけど、もううちの敷居はまたがせないから、そのつもりで。」
事実上の義絶宣言であった。
それでも持参した養子縁組届の証人欄にはサインしてもらえて、一安心。
その日はもう夜も遅かったので、帰りにカクテルの美味しいバーに寄って、一息ついたのだけれど、そこで青丹さんの緊張の糸が切れた。
「俺、今まで何のために生きてきたんだろうな、結局、親に孫の顔さえ見せてやれなかった。でも、どうしてもさ、無理だったんだよ。俺、やっぱりゲイだしさ。」
カウンターに突っ伏しながら肩を震わせて、切れ切れに話す青丹さん。
今はただ、背中をさすりながら側にいて、話を聞く位しかおれに出来る事はなかった。

翌日の日曜日、おれたちはデパートの宝飾品売り場にいた。
あれば何かと便利だろうという事で、結婚指輪を作る事にしたのだ。
それにしても、どれもこれもいい値段だ。
見ていて眩暈がする。
結局売り場で一番安い指輪を選び、サイズ調整のため一ヶ月後に受け取る事になった。
「みる、ヤバいぞ。金がどんどんなくなる。」
「こんな事なら家電、もちっと安いのにしておけば良かったね。もう寿命だけど、車の買い替えは諦めようか、青丹さん。」
「そうだな、必須という程必要な訳じゃないしな。」
それでなくても青丹さんは今、お金がない。
離婚時に貯金を取り崩して数百万円の慰謝料を払ったというし、家を出たのは青丹さんの方だ。
それも着の身着のままで。
それでも、おれたちは幸せだった。

そして次の大安吉日、平日。
いよいよ二人揃って有給を取って、区役所に養子縁組にまつわる各種届け出をしに行く事になったのだ。
それから何日かが経ち、届け出の日が近付くにつれて、おれはそわそわして夜寝付けなくなった。
「みる、そんなに緊張してると眠れないぞ。明日の仕事にも差し障るから、早く寝ろな。」
「うん、分かったから腕枕!」
「おしおし。そういえば久々だったな、腕枕。」
「あー、やっぱりこれ、落ち着くなー、、、。」
そのまま寝落ち。
これ以来、毎日の腕枕は日課となった。
ちなみに来月末には新居への入居が決まっている。
家具や家電は既に入っているのだが、水周りのちょっとしたリノベーションなどがあったので、それが済むまで待っているのだ。
リノベーションの日数を考えずに二人のボーナスが出た勢いで家電を購入したのは、正直反省している。
という訳で、それまでの間青丹さんは、おれの部屋から出勤。
で、待ちに待った区役所への養子縁組の届け出日。
区役所に着くなりまずは戸籍課に行って書類を提出。
次に住民票の作成などの諸手続き。
ここでおれが青丹さんに提案。
「青丹さん、お互いの勤め先の電話番号交換しようよ。」
という訳で、待ち時間にサクッと番号交換。
これでいよいよ家族になるという実感が湧いてきた。
「これでお前も青丹 猛だな、これからも末永くよろしくな!」
そう言われて、もう感無量である。
思えば、心のどこかで、いつかこんな事が起きないかと、夢見てきた。
それが現実のものとなって、今、幸せ過ぎて怖い位だ。
区役所からの帰り際、ロビーで。
青丹さんからのフレンチ・キス。
そうだ、おれも今は青丹だった。
家族になれたおれたち。
結婚式もないけれど、心はポカポカ温かい。
「なぁみる、新婚旅行は何処にする?」
「いーさん、マルタ!と言いたい所だけど、休みも取れないしお金もないから、二泊三日で強羅花壇か茶寮宗園!」
「それがいいな。でもいつか一緒にマルタ、行こうな。」
新たな夢がまた一つ。
その後、指輪が届き新居への引っ越しも済んだおれたちは、引っ越し祝いにささやかなパーティーを二人でする事になった。
「いーさん、トシ・ヨ○イヅカのケーキ買ってきたよ!奮発しちゃった。」
「おれはモ●のシャンパンとローストビーフ他色々、デパートで。」
新居の便器はタンクレスへと変わっていた。他にも水周りには若干の変更点がある。
リビングには造り付けの棚も誂えてもらって、もうすっかりおれたち色の新居だ。
「カンパーイ!」
おれたちはこの新居でこれから、海松色の日常を紡いでゆく。
それはきっとずっと、どちらかが倒れるまで終わる事なく続いてゆくだろう。
これからは二人手を取り合って、前だけを向いて歩いてゆくんだ。
そう二人で決めたから、きっとおれたちの前には広く長い道が果てしなく続いてゆく。
まずは、もうすぐ新婚旅行だ。
結局、茶寮宗園に行く事になったおれたち。
目の前のご馳走を平らげながら、おれたちの意識は早くも秋保へと飛んでいるのであった。

お・し・ま・い。
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