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In the Spruce Forest : 春の詩、キミとならどこまでも行ける

プロローグ~春の詩~

キミの笑顔がまぶしくて
まるで春の太陽みたいで
壊れたはずのこころがふるえる
だんだん、さみしくなる
ボクにはもったいないから
ボクにはまぶしすぎるから

だから、オンボロでポンコツのボクは
くちびるを噛みしめて
春の太陽みたいなキミの笑顔を
暗い顔でじっと見つめる

だから、オンボロでポンコツのボクは
ひそかに歯をくいしばって
春風みたいなキミの笑顔を
暗い顔でじっと見つめる

ボクのことなんかどーせ
相手にしてくれないから
きっとだめに決まってるから……

だから、ふいにこみ上げる
わがままで情けない
涙をせーいっぱいこらえて
ボクはうつむきかける
また諦めようとする

キミの笑顔がまぶしくて
まるで春の太陽みたいで
壊れたはずのこころがふるえる
だんだん、苦しくなる

ボクにはもったいないから
ボクにはまぶしすぎるから

だから、オンボロでポンコツのボクは
いらない涙をそっと零して
春の太陽みたいなキミの笑顔を
ひとりぼっちでじっと見つめる

だから、オンボロでポンコツのボクは
頼りない肩をそっとふるわせて
春の太陽みたいなキミの笑顔を
膝を抱えてじっと見つめる

そうしたら、キミの笑顔が
壊れたはずのボクのこころを
暖かく照らした
キミはボクを見ていた

気のせいだと思った
だけど、確かにボクを見て
どーしようもないボクだけを見て
じっと見つめて、諦めずに
春の太陽みたいにいつまでも
笑ってくれていた

そうして、そんなキミが呟いた
宝物のようなたったひとことで

ボクは生まれてはじめて
ひとりぼっちじゃないんだって
信じられる人間が、ちゃんといるんだって
ようやく思えたんだ

気が付いたらボクは
声を上げて泣いていた

気が付いたらボクの目から
死んでいたはずの目から涙が
溢れて、止まらなかった

今度のは、わがままなんかじゃ
絶対にないんだ
必要な、大切な、涙なんだ

大事な、大事な一瞬だから
ボクのこころとキミのこころが
ちゃんと繋がった一瞬だから

ボクはキミとなら
きっとどこまでもいけるって

ボクはキミとなら
二人で幸せになれるって
そう思えたから、だからボクは

キミのとなりでいつまでも
声を上げて泣いていた
涙が溢れて、止まらなかった

そんな大事なあの瞬間に
凍り付いていたはずのボクの時間も
春の太陽みたいなキミの温もりで
みるみるうちに溶け出して
もう一度、静かにそっと、動きはじめたんだ

ーIn the Spruce Forest:春の詩、キミとならどこまでも行けるー

ひろいひろいトウヒの木の森の中
木々の間をそろそろと流れる、小さな川のほとり
古ぼけた丸太小屋が、澄んだ空気に包まれて、ひっそりと佇む
愛しあうボクたちふたりが、なかよく寄り添うように暮らす、暖かくて幸せな場所
一日のはじまりを告げるお日さまの光が、雨露に濡れたもみの木の枝を照らし出し、きらきらとまぶしい

窓の外からは、鳥の鳴き声が聞こえる
「あぁ…もう朝なんだね」
すやすやと寝息を立てて眠るプリムの横で、ボクはいつものように、ひと足先に目をさました
薄いカーテン越しの朝の光が、やわらかく部屋を照らし出す

「んーん」
ベッドの上でひとつ伸びをして、古ぼけたサイドテーブルに手を伸ばすボク
マグカップを手に取ると、昨日の夜の飲み残しの木いちごのジュースが、まだすこし残っていた
口に含むと、甘酸っぱい味がひろがって、ボクの意識はしだいに澄んでいく

最近のボクは、早起きするのが日課になっている
朝のひんやりとした空気が気持ちいいし、何より、プリムの寝顔を見るのがボクは大好きだ
ボクは、最愛の人の安らかな寝顔を、思う存分に眺める

「えへへへ」
ボクの頬は自然に持ち上がり、ニヤけてしまう
うん、かわいーね

やわらかそうな頬を人差し指でつっついてみるけど、特に反応はない
「そりゃ、そーだよね」
プリムはお寝坊さんなので、こんなことでは起きないのだ
プリムのやわらかい髪を撫でながら、ボクは頬とくちびるに、軽くキスをする
手をにぎったり、頬を摘んだり、お腹をつついたりしてみるけど、目をさます気配はない

調子にのったボクは、プリムのトランクスのボタンに手をかける
ちなみに、ボク自身はブリーフ派
ぴったりしている方が好きみたい
でも、プリムがトランクスを好んではくのはうれしいな
「だって、あんまりぴったりしてると、寝ている間にいじれないもんね」

ボクはちょっといたずらな気持ちで、トランクスのボタンをそうっと外す
前開き部分のすきまをひろげて、先っぽを軽く引っ張り出すと、おっきくなったプリムのあそこが、ぴょこんと顔を出した
元気だねぇ
とりあえず、皮でも剥いてみよう

プリムのあそこは、ボクのよりおっきくて、見た目もすこしたくましい
やわらかくなったあそこを触るのも好きだけど、朝は無理みたい
ま、男の子だもんね

ボクも一応、男の子なので、触っていると、だんだん変な気持ちになってくる
こんな時、情けなく埋もれるちいさなものを、ついつい摘んでしまうんだけど
「あー、だめだめ」
やっぱり、プリムとひとつになるのがいちばんだからね

ボクは慌てて、プリムのあそこをしまい、鉢植に水をあげることにした
プリムは、相変わらず幸せそうな顔で、すやすやと寝息を立てていた

ボクは、キッチンの戸棚から如雨露を取り出すと、水でいっぱいにする
そして、軽い足取りで暖炉を横切り、窓際に並ぶ大きな鉢植に水を注いでいく

この家には、観葉植物が多い
ボクは、花はあんまり好きじゃないから、鉢植の木がいつの間にか増えちゃった
花はキレイだけど、すぐに散っちゃうから悲しい

「ふぅ」
すっかり水やりもすんでひと息ついたボクは、暖炉の前の、古ぼけたロッキングチェアに腰かける

ボクは、この椅子が大のお気に入りだ
大好きだったおじいちゃんが、よく座っていた
いつも茶色い膝かけをのっけて、ゆったりゆらゆらと椅子を動かしていた
そんなようすを傍らで眺めている時、とてものんびりとした気持ちになれたのを、今でもおぼえている

「懐かしいなぁ」
ボクは自然と、穏やかな気持ちになる
ぼんやりと天井を眺める
ゆらゆらとロッキングチェアに揺られながら、ボクの意識はしだいに、プリムと出会う前までさかのぼっていく…

小さい頃、ボクはおじいちゃんといつも一緒だった

朝ご飯を作って、すやすやと寝息を立てて眠るおじいちゃんを起こすところから、ボクの一日ははじまる
ハチミツをかけたフレンチトースト、目玉焼きのベーコン添え、温かいスープ、それに搾りたての木いちごのジュースが、毎朝の定番メニューだった
張り切った朝には、スープの代わりに、シチューやロールキャベツを作ってみたりもする

変わり映えのしない、いつもの食卓
それなのに、ボクはすこし緊張しながら、おじいちゃんのしわの多い顔を見つめる
そうして
「どお?おいしー?」
そんな風に顔をのぞき込みながら聞くのが、毎朝のボクの日課だった

そんなボクに、おじいちゃんはやさしくてさ
「あぁ、とてもおいしいよ」
いつもニコニコ笑いながら頭を撫でてほめてくれるから、ボクはうれしくて、明日の朝も頑張ろうと、いつも思うんだ

朝ご飯の後は、森にきのこ狩りに出かける
針葉樹の森にも、たくさんのきのこがあるんだ
ボクはおじいちゃんにいつも、食べられるきのこと食べられないきのこの区別の仕方を
教わっていた
森で生きていくためには、かかせない知識だから、ボクはおじいちゃんの話に、真剣に耳を傾ける

丸太小屋の近くですませる日もあるけど、お天気のいい日には、そのまま森の西南の方へしばらく足を伸ばす
すると、もみの木に混じってしらかばなどの広葉樹が目に付きはじめる

ここには、小屋の近くよりもさらにたくさんのおいしいきのこが生えているし、何よりボクの大好きなこけももや木いちごが採れるから、ボクはこの場所が大のお気に入りだった
意外にたくさんの食料がここで手に入るから、買い物にいくのは、遠くの村の市場に週に一度だけ

運がよければ、鹿にも出会えるんだ
そんな時、おじいちゃんはすかさず銃を構えて、狙いを定める
ボクが、おじいちゃんのことを、いちばんカッコいいと思う瞬間だ

「ドン!」
銃声が森にこだまする
お腹にズシンと響く感じの音

「ドサッ!」
鹿の倒れた音が聞こえる
「やったぞ、キリル」
「やったね、おじいちゃん!」
ボクたちは抱きあって喜びをわかちあう

狩りの後は、帰り道の途中でいつも決まって、ボクが作ったサンドイッチをふたりで頬張り、なかよくおしゃべりしながら丸太小屋へと向かう

今夜は、おじいちゃんのおいしいごちそうがお腹いっぱい食べられるんだ!
ボクは楽しみで、いてもたってもいられなかった

丸太小屋でひと休みした後、午後は薪割りをする
この森の木は、燃やすとあっという間に燃えつきてしまうから、薪にはあんまり向いていないんだ
火が長持ちしないから、冬を越すには、本当にたくさんの薪が必要になる
しかも薪は、割ってから最低でも半年以上は乾燥させないと使えない
だから、まだ春だけど、冬に備えて、出来るだけたくさんの薪を用意しなくちゃならないんだ

おじいちゃんは力持ちで体も大きいけど、薪割りは重労働だから、ボクはおじいちゃんの体がいつも心配だった
それでもボクとおじいちゃんは毎日休まずにすこしずつ、木を切り倒して薪を割っては、近くにあるたくさんの薪小屋にしまっていく
今割った薪を使うのは、ちょうど十か月くらい後で、夏や秋に割った薪は次の年の冬に使うんだ

薪割りは本当に大変だけど、ボクもおじいちゃんも、森の木の薪を燃やすのは大好きだった
ゆらゆらとゆれるオレンジ色の炎は、見ていてとても穏やかな気持ちになれるし、香りもいいから、ボクたちは冬の間は、いつも暖炉の前に座っているんだ
寒い冬の夜、暖かい炎の前でおじいちゃんとおしゃべりするのが何よりも楽しみで、ボクは毎日張り切って、薪割りを手伝っていたんだ

薪割りが終わると、ボクたちは丸太小屋のすぐそばを流れる小さな川で、夕方までます釣りをする
真夏の晴れた日には水遊びも出来るし、秋には鮭も捕れる、キレイな川だ
この日の釣果はボクとおじいちゃんで一匹ずつ、あわせて二匹
うん、上出来だね!

夜はおじいちゃん特製の料理が待っている
今夜はごちそうだ
メインはもちろん、今日捕ったばかりの鹿の肉だ
スープにパスタ、スペアリブのロースト…
ます料理もある
ポーチド・トラウトとますの紙包み焼き、おじいちゃんとわけて食べるんだ

おじいちゃんは、赤ワインを飲んで上機嫌だ
ボクも、そんなおじいちゃんをとなりで見ていて、こころの底から幸せだった

その夜、ボクはベッドの上でぼんやり、ひとりで考えごとをしていた

ボクとおじいちゃんは、なぜか森のみんなの嫌われものだった
どうしてなのかは、理由を聞いても決して答えてはもらえないまま
ボクは森の片隅で、おじいちゃんとふたりきりで、そっと寄り添いあって、ひっそりと生きてきた
そうするしかなかった

だけどボクは、さみしくなんかなかった
おとうさんとおかあさんを赤ん坊の頃に亡くしたボクがさみしくないように、おじいちゃんは、いつもそばにいてくれた
だからボクは、森のみんなの嫌われものだったけど、ひとりぼっちじゃなかった
大好きなおじいちゃんと、いつでも一緒にいられるから、ボクのこころはポカポカと暖かくて、本当に幸せだった

だけど、そんなかけがえのない幸せを粉々に壊されてしまう、忘れることの出来ない忌まわしい日が、すぐにやってくる

翌朝……
その日も、いつものように薪割りをする、ボクとおじいちゃん

「よっこらせっ!」
おじいちゃんのかけ声とともにふり下ろされた斧が、“パカーン♪”という気持ちのいい音とともに、まっ二つに薪を割る
「はいっ♪」
ボクが新しい薪を、切り株の上に置く

そんな作業を繰り返している途中だった
おじいちゃんの背後から、ひげを生やした大男が、のっしのっしと近付く

「おじいちゃんっ!」
怖くなったボクは叫ぶ
だけど大男は、おじいちゃんに近付くと、「お手伝いしますよ、斧を貸して頂けますか?」と、静かに声をかけてきたんだ
安心したボクは、すっかり大男を信用してニコニコしていた

ボクは、ばかだったね
そうして
ボクの大好きなおじいちゃんは、「すまないねぇ」と言いながら、使い古された斧を渡してしまう
ボクが新しい薪を切り株の上に置くと、大男は斧をふり上げる
穏やかな表情で、おじいちゃんがそれを見つめる
だけど…

次の瞬間だった
信じられなかった
現実を、受け止められなかった

だって斧はボクの目の前で、薪ではなく、おじいちゃんにふり下ろされたんだ

「ぎゃあぁぁーっ!」
大好きなおじいちゃんの頭を、体を、何度も何度も、斧で痛め付ける大男
ボクはたまらず、大男の脚にしがみ付いて噛み付いて、必死に止めようとする
だけど、斧の動きは止まらない

辺り一帯が、血の海となった
大男の脚にしがみ付いて、噛み付いていたボクは、よだれを垂らしながら、くぐもった声で叫び続けた

やがて、それまで無言だった大男が、口を開いた
「おまえは昔、森の掟を破った!他のやつが許しても、オレは絶対に許さない…オレはおまえをずっと探し続けていた……やっと見つけた」
もう動かないおじいちゃんに、そう大男は語りかけると、やがて斧をふり下ろす腕の動きを止める
何の話なのかもわからずに脚にしがみ付いていたボクは、大男に放り出されて、宙を舞う

そうして
変わり果てた姿となった、大好きなおじいちゃんを前に、ボクはただひたすらに、叫んでいた

「おじいちゃあぁーん」
静かな森の中には、ボクの泣き叫ぶ声だけが、虚しく響き続けた

その日から、ボクは一日のほとんどを、部屋にとじこもって過ごすようになった
さみしくて、怖くて、不安で、ガタガタとふるえて丸まっていつでも泣いてばかりで、昨日と何にも変わらない長い長い一日が、今日もなかなか終わらなくて、苦しくて、夜も眠れなくて、そんな毎日がひたすら続いて、すこしでも楽になりたくて

気が付いたらボクは、おくすりなしでは、生きていけなくなっていたんだ
おくすりをほおばって流し込んで、お布団の中でうずくまって、疲れるまで泣いて、いつの間にか眠って、そうして何にも出来ないまま、また一日が終わっていく
お食事は一日に一度だけ、おじいちゃんの蓄えを取り崩して宅配サービスに頼んで届けてもらう
割高だけど、もうボクにはお買い物に行く気力も料理を作る気力も残ってはいなかった

『今日もまた何にも出来なかったな』
そんな風に毎日悔やんで落ち込んで、ボクはうなだれる

だけど、脳裏に時々、あの時の光景がフラッシュバックしては、ボクを苦しめる
そんな時に、決まって頭を抱えて、大声で叫び出すボクは、あの時確かに、壊れていたんだ

それから、どれくらいの年月が流れたんだろうか

その日も、カーテンをしめ切った暗い部屋のベッドで、丸まって横になって、一日を終えようとしていた
おくすりのせいもあってか、いつの間にか眠っていたボクは、おそるおそる布団から這い出ると、カーテンのしまった窓の前に立つ
わずかに呼吸が早くなるのを感じながら、そうっと、すこしだけカーテンをめくってみる

おそるおそるのぞいてみると、思った通りにお日さまが傾いていて、ボクは深く大きくため息を吐いて、うなだれた
「ごめんね、また一日が終わっちゃった……おじいちゃん……」
視界が、すこしゆがむ
いつもなら、そのままベッドに向かって転がって、布団をかぶってまた眠ろうとしてしまうところなんだけど
その日は、シャワーを浴びてみようと思ったんだ

「ふぅ…」
何日かぶりに、ボクの体に降り注ぐ温かいお湯が、すこしくもった意識を、研ぎ澄ましていく
お湯がすこしもったいないけど、ボクはそのままシャワーを浴び続ける
「気持ちいーな……」

元々キレイ好きで、お風呂好きだったボクだけど、おじいちゃんがいなくなってからは、シャワーもあんまり浴びなくなっていた
『どうせ嫌われものだから、誰にも会うこともないから、おじいちゃんもいないから、いいんだもん』
そう思うようになっていたボクには、もう毎日シャワーを浴びる気力すらなかった

だけどそれでも、元々キレイ好きだったこともあって、どうしてもさっぱりしたくて、重たい気持ちを奮い起こして、何日かに一回は、シャワーだけでも、浴びることにしていた
「浴びてみると、やっぱり、さっぱりしていーねえ」
ボクは降り注ぐお湯の下で、何日かぶりの穏やかな気持ちを、じっくりと噛みしめていた

全身をていねいに洗い、もう一度ゆっくりとお湯を浴びてから、ボクは目の前のコックをひねる
そうして、そのまま視線をすこし横にずらすと、すっかりくもって何も見えなくなった大きな鏡が、ボクの視界の中に入る

その日のボクは、いつもよりすこし、好奇心が旺盛だった
久しぶりに、たぶん何か月かぶりに、自分の体を見てみようと思った
いつの間にか、自分の体を大嫌いになっていたボクは、めったに鏡を見ることがなくなっていた

ボクは、大きく息を吸って覚悟を決めると、大きな鏡をていねいに拭いて、くもりを取り除いていく
しだいに露わになる、ボクの全身

ぶっとい腕、大きなお腹まわり、ぱんぱんの太股、情けなく埋もれるちいさなあそこ……
ボクは、だらしなく太ってゆるんだ自分の体を、じっと睨みつける
前に見た時よりも、さらに太っていた

「ボクは、嫌われものでデブだから、誰にも相手にされない」
そう呟くと、ボクの目から涙が溢れる
しだいに呼吸が荒くなり、気が付くとボクはお風呂場でひとりで、体を抱きかかえて泣きじゃくっていた

さみしかった
もう、我慢出来なかった
そんなボクの脳裏にふっと、昔、森のどこかで耳にした、嫌われものの男の子の話が浮かぶ

「いってみようっ!」
とにかく、誰かに、会いたかった
そばにいたかった

外に出るのが怖くて、もうずっと家の中に閉じこもっていたボクは、適当に着替えを探して、勇気をふりしぼって、ドアの外に足を踏み出した

高鳴る鼓動
でも、久しぶりに吸う森の空気は、ボクの気持ちを、ほんのすこしだけ、落ち着かせてくれた
風が、背中を後押ししていた
ボクは、場所もしらない、男の子の棲み家を探して、森を彷徨いはじめた

そうして
トウヒの木の森の中
さみしくて、ガタガタとふるえるこころを抱いて、ボクはまだ、ふらふらと彷徨っていた
当てもなく、居場所もなくてさ

悲しくて涙がにじんで、目の前がぼんやりと見えなくなってきた頃
茂みの奥に、小さな洞穴を見つけたんだ
ボクは、すこしうれしかった
嫌われものの男の子が住んでいる洞穴で、みんなこわくて近寄らない……そんな風の噂を耳にしていたボクは、ようやく見つけたその洞穴に、思い切って入ってみることにした
だって、みんなの嫌われものなのは、ボクもおんなじだからさ

じめじめとした暗い洞穴の中を進んでいくボクの足元には、粉々になってしまった、たくさんの何かのかけらが、転がり散らばっている
ボクには、何か大切なもののようにも見えた

だけど気になりながらも、そのまま先に進んだボクは、洞穴のいちばん奥で、ちいさな黒くて四角い岩、持ち出そうとすると祟りがあるとの噂で森の誰も近寄らない、 神聖ヘリテイジストーンと呼ばれているそれに寄りかかって、膝を抱えてうずくまっている、同い年くらいの男の子を見つけたんだ

かわいー、と思った
でも、何だかとても悲しそうな目をしていて、丸まった背中がとてもさみしそうで
まるで自分を見ているみたいで
ボクはたまらなくなって、胸がしめ付けられる感じがした

この子とならなかよくなれる気がして、なかよくなりたくて、ボクはなけなしの勇気をふりしぼって、声をかけたんだ

「そばにいてもいい?」
ボクがしゃがんでそっと声をかけると、男の子は涙をぽろぽろと零して、声を押し殺して泣きはじめた
ボクは切なくて、どうしたらいいかわからなくて、男の子のとなりに座って、ただ手を繋ぐことしか出来なかった

でも、きっと、ボクとおんなじ気持ちなんだろうなって思った
この子も、ずっとひとりぼっちで、さみしかったんだろうなって思った
胸が苦しくて、だけどとにかくそばにいたくて、ボクはドキドキしながら、男の子とぴったりとくっついて、じっと座っていたんだ

そうしたら、胸がじわじわと暖かくなって、ボクは、おじいちゃんが亡くなってからは感じたことのなかった穏やかな幸せを、男の子のそばで感じていた
もう怖くなかった、さみしくなかった
生きててよかった、って思えて、ずっとこうしていたかった

だけどこのままそばにいてもいーのかなって思ったボクは、男の子の顔をおそるおそるのぞき込む
そうしたら、男の子は目に涙をいっぱい溜めて、とびっきりの笑顔を、見せてくれたんだ

その笑顔を見て、ボクはこの子のことが大好きだって、こころから思った
なかよくなれた気がして、そばにいてもいーんだって思えて、ボクはうれしかった
だからボクも、とびっきりの笑顔で、男の子にこたえたんだ
ひとりぼっちでさみしかったボクたちは、そっと寄り添って見つめあい、いつまでも笑顔だった

それからすぐに、ボクたちはとてもなかよくなった
男の子は、プリムと名のった
ボクたちは自然と結ばれ、ふたり寄り添って生きていくことを誓った

ボクはひとりの時でも、いつでもプリムのことばかり考えていた

プリムの棲む洞穴は、ボクの棲む丸太小屋からは、とてもとても遠かった
だけどボクは、どーしてもプリムに会いたくて、毎日のように洞穴に向かったんだ
はじめは道に迷うこともあったけど、すぐに迷わずにたどり着けるようになった
体力のなかったボクは、プリムと会う頃には、いつもヘトヘトだった

「プリムぅー、ボクだよぉー、会いにきたよお!」
ボクは決まって、すこし息を切らしながら声をかける
プリムの棲む洞穴に近付くにつれて、はやるこころを押さえることが出来なくなっていって、ボクは、走るのが苦手なくせに、ついドタバタと駆け出してしまう

そんなボクに、やさしいプリムはニコニコと笑って、声をかけてくれる
「ボクはいつもここにいるよぉー、いなくなったりしないから、のんびり、ゆっくりおいでよお!よかったら、ボクがキリルのお家に遊びにいくよぉー」
ボクは、プリムの言葉がうれしくて、鼻の下をこすって、軽く胸を張って得意そうに笑ってみせる
「大丈夫だよぉー、ボク、へーきなんだからねっ!」

プリムには、心配してほしくなかった
ボクはただ、大好きなプリムと、毎日一緒にいたかっただけなんだ
ボクの棲む家は遠いから、毎日きてほしいだなんて、とても言えない
大切なプリムにはこんなに疲れてほしくないもん
『だからボクが、会いにいけばいーんだよっ!』
ボクは納得して、ひとつ小さく頷いた

だけど、そう思うボクの頭の中には、もうひとつ心配ごとがあった
『ボクとプリムがなかよくするのは、いけないことなんかじゃないんだっ!』
そうは思うものの、ボクもプリムも、森のみんなの嫌われものだ
いつかまたあの大男がやってくるかもしれない

『でも、ここなら、きっと大丈夫だね』
ボクはすこし安心して、そっと微笑む
森のはずれの、この小さな洞穴の入口は、あの大男が入るには、すこしばかり小さかったからだ

そうして
出会ってからというもの、ボクたちは洞穴の中で、毎日のように穏やかで幸せな時間を過ごしていた
ボクは、暗くてじめじめとしているけど、大切な人の棲む、その洞穴が大好きになった

だから、遠く離れた自分の家に、わざわざプリムをさそうつもりは、ボクにはすこしもなかった
だけど、ボクの棲む家を見てみたいというプリムのたっての希望で、ボクたちは丸太小屋に、一緒に向かうことになった

はじめは、なかよく歩いていたんだ
おしゃべりが楽しくて、ハイキングみたいで、ボクもプリムもごきげんだった

だけど、出発してから一時間を過ぎた頃だったかな
「ねぇー、まだぁー」
プリムがそう言って頬をふくらませるので、ボクはすこし笑いながら言ったんだ
「まだ半分もきてないよぉ、すこし休もうかぁー?」

その瞬間、プリムの目がくもった
みるみるうちに険しくなっていくプリムの顔を見て、ボクはとても不安になった
やっぱり、大切な人をこんなに歩かせちゃいけなかったんだ、くるんじゃなかった、そう後悔した

「戻ろう、まだ遠いよお、疲れちゃうよお」
ボクは、引き返すことを勧めてみる
だけどプリムは、怖い顔のまま、ズンズンと先へと進む
「ボク、帰らない!キリルのお家に、いく!」
そう言うと、プリムはひたすら黙って、森の中を歩き続けた

「待ってよぉー」
ボクは走って追いかけると、プリムの顔を時々のぞき込んではうかがいながら、前に進んだ
ボクは、心配で不安で、たまらなかった

結局、ボクたちは最後まで気まずい空気のまま、無言で丸太小屋の前に到着した
何も言えずに、ただ立ちつくすボク
プリムは、うつむいてボクに背中を向ける

「キリルぅ……、どーして何も言わないんだよお……、こんなの遠すぎるよお……、こんなの毎日、無理だよおぉ……」
プリムが、泣いていた
ボクは、ショックだった
ふるえるプリムに強く抱きしめられて、ボクも泣いていた

「無理じゃないよぉ、会いたいよお!ボク、もっと、頑張るよお!プリムには、心配してほしくなかっただけなんだよぉ!心配かけてごめんなさいぃ…」
小さく丸まって泣き崩れるボクの背中を、プリムは、何度も何度もさすってくれた
もうあんまり会えないかもしれない、もしかしたらもう二度と会えないかもしれない…
そう思うと悲しくて、さみしくて、涙が止まらなかった

「遠いってだけで会えなくなるの、いやだったんだよぉ、また会いたいよお…」
泣きながらそう呟いて、大切な人を困らせてしまうボクは、わがままな悪い子だ
『ここには、もうボクの居場所はないんだ』
そう思ったボクは、プリムを押しやると、ひとりでふらふらと丸太小屋に向かう
「ごめんね、もうわがまま言わないよ、安心していーよ、元気でね…」

もう、会わないつもりだった
大好きな人だから、大切な人だから、ボクなんかのわがままで、これ以上泣いてほしくなかったんだ

だけどプリムは、すぐに追いかけて、ボクなんかのことを力一杯抱きしめてくれた
「またおいで、いつでもおいで、待ってるよ、ボクもおんなじ気持ちだよ、キリルのことが心配だっただけだよ、ボクもほんとは、いつも一緒にいたいよぉ、元気でね、なんて言うなよぉ、ボクも会いにいくからさぁ……」
プリムは、泣きじゃくりながらそう言うと、ボクの頭を、やさしくやさしく、何度も撫でてくれる

「ありがとぉ……、うれしいよぉ……」
ボクは言葉にならない言葉で答えるのが、精一杯だった

「でも、あんまり無理しちゃあだめだからね」
プリムは、目に涙をいっぱい溜めて、満面の笑みでボクの頬をつっついた
そんなプリムがあんまりかわいーから、ボクも涙でぐしょぐしょのまま、目いっぱいの笑顔を見せて頷いたんだ

こうして、プリムと無事になかなおり出来たボクだけど、それから何日かして、風邪を引いて寝込んでしまった
熱のせいもあって、ボクはひどく落ち込んでいた

『プリムぅ…会いたいよお…』
寒くてだるくて、さみしくてこころ細くて、ボクは、布団にくるまって小さく丸まって、ずっとガタガタとふるえ続けていた
結局ボクは、プリムに会えないまま、丸三日ほど寝込んで過ごした

そうして、体調を崩して四日目の夕方
『え、もうこんな時間…』
ベッドから体をのそのそと起こして、窓の外に視線を向けると、お日さまはすでに、大きく西に傾いていた
ボクは驚いて、ひとつ大きくため息を吐く

このところ、体調のせいで、いつもよりもずっと遅い時間に目をさますようになっていたとは言え、これではひどすぎる
情けなくてがっくりと肩を落とすボクだけど、すぐにあることに気付いた
『今日は体が軽いよーな気がする』
どうやら、風邪はすっかり治っているようだった

急にプリムが恋しくなって、慌てて夕食を食べたボクは、サッとシャワーを浴びて着替えをすませると、バタバタと家を飛び出した

ボクは、はやる気持ちを押さえて、いつもの道をズンズンと進んでいく
しばらく進むと、ボクの目に、最愛の人の姿が飛び込んでくる

ボクは、ドキッとした

プリムは、さみしそうに背中を丸めて、ふらつく足取りでこっちに向かってくる

「元気ないねえ」
心配になったボクは、プリムの顔をのぞき込んで、そっと声をかける
こころ細そうな目で見つめられて、ボクは胸が痛くなる

「うん、ちょっとさみしかった」
うつむいて、ためらいがちにボソリと呟くプリムを見て、ボクは、今この子のそばにいたいと、強く思った

「ボクがいるよぉー」
ボクは、軽く胸を張って答える
自信はないけど、ふたりでいれば、きっとこころ暖まる、さみしくなくなる
みんなの嫌われものでさみしがりやのボクたちふたり、きっとこれからもうまくいく
ボクはそう思って、落ち込んだプリムに微笑んでみせる

『プリムが必要としてくれるなら、きっとボクは、いつまでもそばにいるよ』
こころの中で、ボクはあらためて誓った
『くっついて、離れないもん』
こころの中でそう呟くと、ボクは、プリムのすこし潤んだ目を、ニコニコしながらじっと見つめる

「ありがとう」
頬を軽く赤く染めて、照れながら、だけどとてもうれしそうに、プリムはニッコリと笑って呟いた
元気になってくれたみたいで、ボクはうれしかった
やっぱりプリムは、笑顔がいちばんだもんね

プリムが、ボクのそばにうんと近付く
「どーしたのぉー、ちょっと心配だったんだ」
プリムは、おでことおでこがくっつきそうな距離までやってくると、顔をすこしだけくもらせて、うつむきがちに聞いてくる

「ごめんねえ、風邪を引いちゃっててさ、会いにいけなかったんだぁ…ボクもさみしかったよお」
ボクはそう言うと、軽く背のびをして、目の前のおでこに思い切ってキスをして、自分のおでこをくっつけてみた

「そーだったんだぁ、風邪はもうだいじょーぶ?お見舞いにいけなくてごめんね」
指先でボクのお腹をつっつきながら、プリムは、申し訳なさそうに下を向いて呟く

「うぅん、気にしなくていーよっ!もしかして、ボクん家にきてくれるところだったのお?心配してくれてありがと!」
ボクは、くっつけていたおでこを離して、軽く胸を張ってそう言うと、プリムの頬にキスをした

「うん……会いたかったよぉ!すこし会えないだけで、心配で不安でたまらなくなって、出来たら毎日一緒にいたいって思ったよ……ボクもキリルとおんなじだね!」
ボクたちは抱きあって、いつまでも喜びをわかちあう

そうして
きらきらと輝くお星さまのそらの下で、ボクたちははじめて、ひとつになった

「大好きだよ、愛してるよ、キリル…」
プリムからの暖かい言葉が、さみしがりやのボクのこころに、深く深くしみわたる
大好きな人にまっすぐな目で見つめられて、ボクは一歩も動けなくなる

「ボクもだよ、愛してるよお、ずっと一緒にいようね、プリムぅ…」
溢れ出す思いをなんとかして伝えたくて、ボクは言葉を選んで口にすると、プリムのやわらかな頬にそっとキスをした

頬から顔を離すボクのくちびるに、プリムのくちびるがそっと重なる
ボクたちは、抱きあったままで舌を絡めて、互いの存在をいつまでも確かめあう

プリムは、ボクの頭をやさしく撫でながら、仰向けになるようにそっとうながす
ボクは、胸の痛みと高鳴る鼓動を感じながら、草むらにそっと転がる
ふと、愛する人の視線を痛いほどに感じて、ボクははずかしくて視線をそらす

「いーい?」
プリムが、すこし顔をこわばらせて、ボクの顔をのぞき込む
緊張でふるえるプリムの手が、やわらかなセーターの裾にかかって、ボクは思わず唾を飲んだ
体に力が入る
「だめだよおこんなところで、はずかしいよお…」
ボクは、自分の太い腕で顔を隠すと、つい甘えた声でぐずってしまう

「へーきだよ、だいじょーぶだよ…」
プリムは、片手でセーターの裾をつかんだまま、もう片方の手で、ボクの頭を何度も撫でてくれる
しだいに、体から力が抜けていって楽になって、ボクは、このまま流れに身をまかせたい気持ちでいっぱいになる

「…ボク、プリムとしたい…」
ボクは、精いっぱいの勇気をふりしぼって消え入りそうな声で、正直に気持ちを伝える
プリムは、そんなボクにうれしそうに微笑むと、自分たちの体にまとわり付く邪魔な服を、すこしずつ取りはらっていく

気が付くと、ボクたちは森の中で、一糸まとわぬ姿で横たわり、やがて体を重ねていた

『生きててよかったよお、幸せだよお…』
こころも体も、満たされていた
本当にうれしくて、我慢出来なくて、ボクはきっと大声で、泣いてしまっていたんだろうと思う

こうしてボクたちは、ふるえるような声を上げて、ほとんど同時に果てた

そのまま、かたく抱きあって動かないボクたち
ボクは、こころの底から湧いてくる暖かい喜びを、しみじみと噛みしめていた
プリムのことが、いとおしくて仕方ない

このままいつまでもひとつでいたい、そう思いながらプリムの体の重みを受け止めるボクの頭の上には、きらきらと輝くお星さまが、そらいっぱいにひろがる
静かな森の中には、ひんやりとしたそよ風の、かすかな音だけが響いていた

「きみとひとつになれて、ホントにうれしいよ!やっとひとつになれたね」
沈黙を破るプリムのやさしい呟きが、ボクの耳にそっと届く
うれしそうな顔でボクを見つめるプリムの目が潤む
今にも涙を零しそうなプリムを見て、ボクのこころまでもが、泣き出しそうな気持ちでいっぱいになる

「ボクもおんなじ気持ちだよ」
かろうじてボクの口から出た呟きには、かすかにふるえが混じる
ボクはため息を吐いて、愛する人をじっと見つめる
ボクは、生まれてきてよかったと、何年かぶりにしみじみと思う

穏やかで包み込むような時間

でも、やわらかでやさしい幸せを感じていたボクの体の上で、プリムは何かに怯えるように急にふるえ出す
ボクは急に不安になる

別れ際
何も言えずにいる、いつもと違うプリムを見て、とても心配になったボクは、大きく息を吸って両足に力を込めて、思いを伝えようとする
「また会おうねえ、絶対だよ!ずっと一緒だよぉー、約束だよっ!」
そう言うと、ボクはプリムをじっと見つめる

胸さわぎがしていた
不安で足がすくんでいた

だからボクは、大きく頷いて見送ってくれるプリムを見て、ホッと胸を撫で下ろしていたんだ

翌日、いつものように洞穴に出かけたボクは、前の日にひとつになったあの場所で、大切な人を見つける
うれしくなったボクは、駆け寄って満面の笑みを浮かべてみせる

『また会えてよかった』
大好きなプリムとこれからも一緒にいられると思い、ボクは喜びを噛みしめていた
ボクたちの暖かくて穏やかな幸せは、これからもずっと続くはずだった

だけどボクたちは知らない間に、かみさまの定めた掟を破ってしまっていたんだ
かみさまの決めたことだから、掟には従うしかないと言って、プリムは泣いていた
だけどボクは、悲しくて、離れたくなくて、もう会えないと告げるプリムに、わがままを言ってしまった

「かみさまの言うことなんか、聞かなければいーんだよ!」

あの時のプリムの顔が目に焼き付いて、今でも忘れられない

ボクの言葉を聞いたプリムは、見たこともないこわい顔で、びっくりするような言葉を、たくさんぶつけてきた

「今までかわいそーだから会ってたけど、顔も体も吐き気がするほど気持ち悪ぃーんだっ!」
「てめえみてぇなゴミ、だいっきらいだっ!」
「てめえなんかいるだけで迷惑だっ!おれに迷惑かけんなっ!」………

やさしかったプリムにいろんなことを言われて、すっかり弱り切ったボクは、気が動転して、泣きわめいていた

そうして
「離れたくないよお、どうしたんだよお、また会いたいよお」って言って泣き付いて、大好きなプリムを困らせてしまった

怒ったプリムは、ボクのことを突き飛ばして、こう叫んだんだ
「てめえがもしまた会いに押しかけてきたら、お前の前で、おれ、死ぬからな、自殺するからな!それとも、てめえが死ぬか?どーする?」

勢いだったんだと思う
必死だったんだと思う

今では、あの時のプリムの気持ちは、痛いくらいによくわかる
かみさまの決めた掟は絶対だから、必死で守ろうとしただけ
あんなに取り乱していたのも、それだけ、つらかったからなんだ

だけどあの時、真剣なプリムの刺すような眼差しにやられて、ボクは正気を失ってしまっていて
会いにいかないようにする自信もなかったボクは、この世から消えるしかないと、思ってしまったんだ

たったひとつの居場所をなくしてしまい、他には何の未練もなかったボクだけど
プリムの顔だけが、未練がましくちらついちゃってさ

迷惑をかけたくなくて、ボクはふらついた足取りで小屋に戻って、ありったけのおくすりをほおばり、川に身を投げた

冷たい水の中、寒くて、ひとりぼっちで、さみしくて、苦しくてさ
だから、死ぬ間際、ボクなんかのために、プリムがそばで泣いてくれているのを見て

ボクは、うれしかったんだと思う

そうして
どれくらい経ったんだろう
気が付くと、ゆらゆらとロッキングチェアに揺られながら、ボクは声を上げて泣いていた
そんなボクの視界のまん中に、最愛の人の心配そうな顔が割り込む

「あ、プリムぅ、おはよー…」
ボクはぐしょぐしょになった顔を拭うと、なるべく平気なふりをして、プリムに朝のあいさつを交わす
「おはよーじゃないよぉー!どーしたんだよお、心配だよお、大丈夫かよお…」
プリムはそう言うと、口をま一文字に引き結んで、ボクの顔をのぞき込んで、じっと目を見つめる

だからボクは、プリムと出会う前のこととか、出会ってからのこととか、ぼんやりと考えていただけなんだよって答えて、まだ涙ぐんだ顔のまま、すこし笑ってみせた
「だから大丈夫だよ、心配ないよっ!」
ボクは、すこし胸を張って答える

するとプリムは、急に力強い、だけどやさしい笑顔になって、ボクのおでこに、自分のおでこをくっつける
自然と、胸がドキドキする
「ボクがずっとそばにいるから、今度こそずっと一緒だから、もうさみしくないよ!きっとずーっと、守ってみせるよ!大丈夫だよっ!」
プリムは、そう言って満面の笑みを浮かべる
うれしくなったボクは、顔をくしゃくしゃにして目を線のように細くして、プリムの頬にキスをする

プリムの暖かい言葉で、ボクは、大切な絆を確かめていた
こころが、ポカポカ暖かい
「えへへへ」
ボクたちは、顔がくっつきそうなくらいにうんと近くで、ニコニコしながら見つめあう

すると
いたずらな顔に変わったプリムは、重たいボクを無理矢理に抱きかかえて、寝室まで運んでしまう
「おいでー!一緒にいーことしよっ!」
そう言うと、ニコニコしながら、プリムは廊下をズンズンと進む

途中、心配になって、大丈夫ぅー?って聞いてみたけど、プリムは「平気だよっ!」って答えて、得意そうな顔をしている
だからボクはうれしくなって、プリムの首にしがみ付きながら、ずっと頬を持ち上げていた

「よいしょっと」
そうしてゆっくりとやさしくボクをベッドに寝かせてくれたプリムは、ボクの頭を、何度も何度も撫でてくれる
プリムは、ボクのとなりにそっと寄り添うように横になって、やさしい笑顔でボクを見つめる
ボクはうれしくなって、プリムにぴったりとくっついてそっと抱き付いて、やわらかな頬にキスをした

ベッドの上で向かいあわせになるボクたち
見つめあって、抱きしめあって、くちびるを重ねて、夢中で舌を絡めあう
ボクの意識が、しだいにくもる

……それから、小一時間ほど経っただろうか
最後は、呆気なかった
大量の先走りを垂れ流しながらぴくんぴくんとはね続けるちいさなふくらみの先っぽを、ほんの二、三回軽く摘まれただけで、ボクはひと際大きな声を上げて噴き上げてしまった

「どーだった?」
満足そうにニコニコ笑いながら、プリムが尋ねる
「うんっ、よかったよっ!」
はずかしいけど、ボクは満面の笑みで答えて、プリムのくちびるを奪う
きっとボクの頬は、まっ赤に染まっていると思うけど、気にしない
「大好きだよぉ、ずっと一緒にいようね、プリム…」
絡めた舌を一旦離して、ボクは想いを伝える
胸がドキドキする

「ボクもだよ、愛してるよ、キリル…」
そんなやさしい、うれしい呟きが、ボクの耳元に届く
次の瞬間、ボクの口はプリムのくちびるにそっと塞がれる

長いキス
ボクたちは、互いの存在を再び、思う存分確かめあう

それから、どれくらい経ったんだろう
ようやくくちびるを離すと、ボクたちはいつまでも見つめあって、ニコニコと笑いあっていた

思う存分に抱きあって、すっきりしたボクたちは、遅い朝ごはんを食べたあと、散歩に出かけることにする
「近いから、こっちからいこー」
プリムはそう言うと、ボクの手をそっと引いて、すぐそばの裏口のドアを開ける

目の前には、あの日とほとんど変わることのない風景が、静かにひろがる

おじいちゃんの倒れた場所

亡くなってからしばらくの間は近付くことも出来なかったその場所を、ボクはとなりにいるプリムと、ただじっと見つめる
かつて血の海だった足元には、白くて少し小さなお花のじゅうたんがひろがる

ふとそらを見上げると、どこまでも抜けるように高くて、ボクは、胸がツンと痛くなる

こころ細くなったボクは、プリムのやわらかくて暖かい手のひらを、ギュッとにぎりしめる
するとプリムは、ボクの手のひらをすぐに力強くにぎり返して、そのままずっと離さないでいてくれる

だからボクは、もうひとりぼっちじゃないと思えて、安心して、笑顔になる

そんな時、ボクの目の前に、ふっとおじいちゃんが現れて、やさしく微笑んでくれた気がして、気が付くと、ボクの目には涙が溢れていた
そのままくちびるを噛みしめて、ボクは決意する

ここは、大好きだったおじいちゃんとの、忘れられない思い出がいっぱいつまった、大切な場所だから

これからもボクは、ここで生きていく
この場所を離れないで、ずっと守っていく
そして、最愛の人と一緒に、おじいちゃんの分まで必ず、幸せになるんだ

ボクはひとつ小さく頷くと、涙を拭って前を向く
そんなボクをプリムは、やさしくやさしく、抱きしめて包み込んでくれる
だからボクはうれしくて、そのままいつまでも離れたくなくて、プリムにずっと抱き付いたまま、動かない

『プリムとなら、この子となら、ボクは絶対に幸せになれる…この子となら、きっとどこまでもいける』
ボクはこころから、そう思った

ひろいひろいトウヒの木の森の中
木々の間をそろそろと流れる、小さな川のほとり
古ぼけた丸太小屋が、ここで起きた全ての出来事をずっと見続けてきたかのように、どっしりと佇む

ボクたちふたりは、これからもずっと愛しあい、この場所で、なかよく寄り添って、生きていく
ボクたちは、こうして巡り逢えたことが、何よりもうれしくて、いつまでも暖かくて幸せだった
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