FC2ブログ

海松色の日常 - 遥かな道、はじめての夜



シリーズの主人公・海松君の相方、青丹さんの若い頃の恋のお話しです

ボクは今、お世辞にも安らかとは言えない寝息を立てて眠る相方さんの隣で、一人ぼんやりと窓に映る空を見上げている
ボクは空を見るのが好きだ
刻一刻とその表情を変える空は、見ていて飽きない
現代美術で、空を建築で切り取っただけの作品もあったような気がするけど、よく分かる気がする
ボクは、少しずつ形を変えて流れていく雲を、ただじっと見つめている

ボクは、海を眺めるのも好きだ
海沿いの真っ白な家で、一日中空と海だけを眺めて過ごすのが、今のところのボクの夢だ
家の外にも中にも余計な物が何も無くて、家中どこにいても、窓の向こう側は、見渡す限りに広がる空と海…

「はぁ…」
溜め息を吐いたボクは妄想ついでに、昨夜の夢の内容を思い出してみる
相方さんと出会った頃の思い出
ボクは、頼りない記憶を頼りに、夢で見たよりも多くのことを思い出そうとする
大きく息を一つ吸って、ゆっくりと目を瞑る

;

ギィという音を立てて、ドアが閉まる
ふっとひとつため息を吐いて、ボクは小さなベッドに向かい横たわる
息をのむほど、いい男だった
柔らかなそう胸、大きな腹、艶やかな肌、弾けるような何よりの笑顔
目の前の、線のように細くなった目を見ることも出来ないくらいに、ボクの胸は高鳴っていた

「もう、逢えないな」
そう呟いて、ボクはまたため息を吐いた
『だってカッコ良すぎるもん、フられるのなんていつものことだよ』
まぐれでたまたま逢ってもらえただけだと、ボクはいつものように言い聞かせる
何度も、何度も
彼の笑顔が、その度にちらついて、ボクは何故だかイライラしていた
どうにもならないことなのに…

この春大学に通い始めたボクは、親元を離れて一人暮らしを始めた
うるさい親の目を気にする必要も無くなったボクは、意気込んで彼氏探しを始める
…のだけど、結局、やんわりと断られてばかりで、ボクはすっかり自信を無くしていた
高校時代に柔道をやっていたボクは、貧弱な体付きでは、決して無いつもりだったのだけど…
どうもこの世界の人は、似た者同士でお付き合いをする事が多いみたいなので、デブ専なのにデブではないボクには、少し辛いところがあった

「あーあ」
待ち合わせの前に教えてもらった、彼の携帯のアドレス
ボクは思い立って、自分の携帯を取り出すと、それを表示してみる
逢えただけでも夢のような男だった
恐らくもう、必要もないのだろうけど…
何となく消す気にもなれず、しばし眺めてみる

そうして結局、最後に挨拶くらいはと、メールを送ることにしたボクは、やっぱり諦めが悪いみたいだ

当たり障りのない文面

どうせもう来ないであろう返事を待つ気もなく、ボクは今日の出来事を無理矢理、記憶の片隅に追いやろうとしていた

あれから何日かが過ぎて、ボクはあの日の痛手を、遠い過去のものとしていた
すっかり忘れていたんだ

でも、再び繰り返され始めた惰性と堕落のボクの日常は、男からのたった一通のメールによって、あらぬ方向へと向かい始める

再び、ボクの部屋で
小さなテーブルを前に、ボクらは向かい合わせで
ボクは緊張を紛らわすために、またもつまらないことを考えていて

そう、例えば、座る位置のこととかね
斜め向かいなら少し疎遠で、隣り同士なら親密な感じ、かな

そう考えたボクは納得して、これは妥当な位置取りなのだと、ひとり頷く
そうして、気持ちと目線を元に戻して、ボクは目の前の“憧れの人”にぶち当たる

…苦笑していた
そりゃ、そーだよね
でも、大丈夫
気まずい空気だって、きっとまだ手遅れじゃないから

取り敢えず飲み物を出すことを思い付いたボクは、冷蔵庫を前にため息を漏らしていた
『あれ、何だ、疲れてるぞ…』
嬉しいはずなのに、予想出来る結末が、ボクのテンションを勝手に下げる

またか、悪い癖だな
予め悲観的観測、予測をしておいて、慣れることで自分を守ろうとしている
『でも、ま、いつものことだけどさ、何事もさ』
やっぱりボクは、イヤなヤツだ

部屋に戻ったボクは、氷の入ったグラスをテーブルに置く
色がとても綺麗なので、ボクの一番のお気に入りだ

透明なりんごジュースを注いで、グラスを手渡すと、彼は「ありがとね」と言って、にっこりと微笑む
そして彼は、喉が渇いていたのか、ジュースをゴクゴクと一気に飲み干して、満足そうにこちらを見つめる

どうせ何の役にも立てないからと、心の中で思いながら、ボクはまたもいつものように、当たり障りのない笑顔でそれに応える

だけどそんなボクの笑顔が、どうやら彼にはとても嬉しかったらしくて
「ね、となりいっていーい?」
身を乗り出しながらニコニコ顔で聞いてくるものだから
ボクは、胸を情けなくドキドキ鳴らしながら、黙って頷くしかなかった

ボクの返事を確認した彼は、大きな体を
のそのそと動かして、ボクが座るすぐ横に、ドカッと腰を下ろした
振り向くと、彼は本当に嬉しそうな顔をしている

そんな彼の声をもう少し聞いてみたくて、ボクは、隣りの丸くてふっくらとした横顔に声をかけてみようとするのだけど、結局、緊張のあまりに口を開くことさえも出来なかった
何だか、頭が熱っぽさで空回りしている感じだ
そのまま、しばしの沈黙が訪れる

ふいに、彼の柔らかそうな唇が、はにかんだ笑顔とともに、ボクの頬にごく自然に近付く

「うん、やっぱかぁーいぃーぞぉー」

彼の顔は、まるで朝焼けの太陽を見ているみたいで
どうしようもないボクは、こんな時だというのにたったこれだけで、涙なんか零して困らせてしまう

予想外の言葉
言われ慣れてないもんな
ダメだよ、こんなに無邪気で可愛い人が、ボクなんかを気に入るはずがないのに
何だか、勘違いしそうで…

そうして、ボクは困惑する

まるで、心の中でこうした言葉を誰かが掛けてくれるのを、ずっと期待して待っていたみたいで
そんな自分がとても後ろめたくて恥ずかしくて

嬉しいはずの気持ちが、霧に覆われていくのを感じる

それから少し落ち着いて、照れ隠しに自嘲気味の笑顔を浮かべて、目線を元に戻して、そうしてやっと気付いた
気持ちと目線を遠くに投げたままのボクを見ていて、彼は、泣きそうな、悲しそうな顔をしていたのだ

ぐさりと、胸に何かが突き刺さる音がした
ボクは卑怯で冷たいヤツなのに、こんな時だけ、悲しくて悔しかった
このまま押し黙ったまま、何も話せないで二度と逢えなくなる、そんな光景が瞬時に思い浮かんだ

二度と思い出したくない、悔やまれる思いが、またひとつ増えそうで

それも、想定の範囲内、かな
けれど、生まれて初めて可愛いと言われたこと、どうやらキスしようとしてくれたらしいことが、思いの外、ボクには重たく感じられて
このままじゃ、ずっとずっと、後悔しそうで

慌てたボクは、どさくさに紛れて、顔を近付けて、キスしようとしていた
本当は、抱き付きたかった
けれど、あとホンの少しのところで、彼の顔がはっきりと見えて、ボクは、動けなくなってしまった

『意気地なしだな』
あぁ、またダメだったかと思った次の一瞬、彼が笑ったような気がしたんだ
いたずらな笑顔
気のせいだったかもしれない

だけど、あんまり可愛くてさ
ボクは、鷲掴みにされた胸が苦しくなって、夢中になって、抱き付いていた
柄にもなく

でも、いいよね
だって彼は、ボクに向かって、嬉しそうに言ってくれたから
「よかったぁー!嫌われちゃったのかと思った!やっぱ、かぁーいぃー」
ってね

いつもの癖で、話半分で聞いたとしても
やっぱり嬉しくてさ
恋愛ってもしかしたら、こんな風に始まるものなのかなって、この歳になって気付けた気がして

そうしてボクらは、今では相方さんと呼ぶ彼の笑顔に引き摺られるようにして、二人の関係を始めたのだった

;

その夜、ボクらはそのままなだれ込むようにはじめての夜を迎えた
ボクは男だけど、いちおー処女みたいなもんなので、勝手も分からなくて、何の準備もしていなかった
だけど相方さんがやさしくリードしてくれたお陰で、ボクは安心して体を預けられた
生まれて初めてのHだというのにしっかりと処女を捧げたボクは、相方さんのお陰で、人肌の気持ち良さを思う存分に知ることが出来た

そうして
「大好きだよぉー!愛してるぞぉー!」
そんな、生まれて初めて言われた言葉に体が勝手に反応して、ボクのあそこからは、どういう訳か半ば自動的に精液が流れ出していた

そんな訳で、ウケとしての素質は、ボクにも一応あったみたい
だけどボクは、この頃はタチをすることの方が多い
もちろん、ボクもその方が嬉しい
何しろ、ボクにとっての一番の楽しみは、H大好きな相方さんの気持ち良さそうな顔を、じっくりと眺めることなのだから

「おはよーう」
相方さんが、寝ぼけながら抱き付いてくる
「今日は早起きだね、どーしたの?」
ボクは嬉しくて、相方さんの柔らかな頭髪を、ちょっと強めに撫でてみる
「ねぇー、するんでしょー?」
見ると、相方さんは柔らかな頬をぷっくりと、膨らませている
そうだった、うっかりしていた
昨日の夜は疲れていて、せっかく逢えたのに早々と寝てしまったのだ
「待ちくたびれたぞぉー、早く入れろぉー」
相変わらずのストレートな誘い方
ムードも何もあったもんじゃない
だけど
そんなところも可愛くて、ボクは相方さんに襲いかかってキスをした
「寝技かけてやるー!」
こうしてボクらは今日も朝から、互いの愛を確かめ合うのだった
あとがき - この作品の主人公・青丹さんについて

この作品は、海松クンが「最後の審判 後編」で五年ぶりの再会を果たした相方・青丹さんの、若い頃の短編です。
後に海松クンの相方となる青丹さんが、人生初の出会いを経験し、その後の交際を経る中で、少しずつ成長していく - そんな模様を描きます。
という訳ですので、この作品に出てくる“相方さん”とは、海松クンのことではありません。

青丹さんは、どちらかというと体育会系の“タチ寄りのリバ”です。
彼は柔道をやっているので、作中でHを寝技に例えた台詞(寝技かけてやるー!)を口にします。
これは、彼の口癖のようです(不謹慎な設定で申し訳ありません。)

彼は、やや脂肪が多めのガチムチ体型ですが、いわゆるデブではありません。
体毛は決して濃くはありませんが、海松君よりはしっかりとあります。
頭髪は海松君よりは長いものの、さっぱりとした短めの黒髪です。頭髪も含めた全身の毛質は、海松君よりもやや硬め。

それらの点や、全身の程よい筋肉が、海松クンと比べてより男らしい印象を、周囲の人間に与えるようです。

掃除や整理整頓が好きで、料理もてきぱきチャキチャキとこなす、マメなキャラです。
手先は器用ですが、性格的には不器用なところがあります。
内に秘めたプライドはなかなかのものですが、基本的には心優しい性格のキャラです。
関連記事

最新記事

検索フォーム

QRコード

QR