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海松色の日常 外伝 - The Seasons : Winter [お鍋と、愛と、缶ビール]

お鍋を囲んでいた。
他に誰もいないぼくの部屋で、猛くんと二人で。
付き合っている訳ではない。
唯一無二の親友なのだ。
というか、認めたくはないけれど、今の所はそういう事になっている。
鍋奉行はぼくの役目だ。
カセットコンロ上のお鍋に具材や鍋の素やお水を入れていって、火を付ける。
時々かき回したり、灰汁を取ったり。
猛くんはというと、ぼくが録画しておいたアニメを集中しているんだかいないんだかな風情で観ている。
とはいえ、缶ビール片手にケタケタ笑っていて、楽しそう。
ぼくが好きで毎回録画するのだが、
猛くんはぼくと会う度にこれをせがむ。
猛くんの部屋にはレコーダーがないのだ。
鬼灯●冷徹ねぇ。
確かに面白いけど、タイトルからして読みづらい。
それに、猛くんのイメージには合わないとぼくは内心では思っている。
どちらかといえば猛くんは、ぼくの頭の中ではケ○○軍曹のタ◯◯二等兵といった感じだ。
猛くんを捨てた元彼の青丹さんに街中で出くわしたら、この子、懲りもせずに尻尾を振って付いて行きそうだ。
それが内心では、歯痒くてならない。
って、アチっ!
お湯がはねた。
油断していたせいだ。
これだから情けない。
そろそろ火は通ったから、いよいよ待ちに待った食事の時間だ。
「はい、猛くん〜、器取って〜。」
ここは手際良くせねば。
二人分の小鉢に鍋の具材を入れる。ぽん酢も用意して。
「春希くん、美味しそうだね〜!頂きまーす!」
「じゃあぼくも。頂きまーす。」
しばし、無言。
ひたすら鍋に舌鼓を打つ。
この沈黙を破ったのは猛くんの方だった。
「ところでさ、春希くんの好きな男の人のタイプって、どんな?」
幾らゲイである事を互いにカミングアウトし合っていたとはいえ、内心ではギョッとしていた。
まさか猛くんが好みだなんて言えない。
仕方ないのでお茶を濁す事にした。
「うーん、どちらかといえば太め可愛い子かな。」
すると突然、猛くんが信じられない事を言い出すものだから、ぼくは飲みかけの缶ビールを盛大に吹き出してしまった。
「ぼく、春希くんとだったら、寝ても良いよ。」
こちらの想いなど筒抜けである。
穴があったら入りたい気分だ。
しかしそんな事よりもまず、この場面できっちりと言っておかねばならない事がある。
「ダメだよ猛くん。青丹さんが戻ってくるまで待っていないと、きっと後悔するよ。」
すると猛くん、酒の勢いも手伝って、いきなり泣き出してしまった。
「青丹さんが戻ってくるまでなんて、そんなに待てる訳ないじゃんかぁ!うわあぁ!」
仕方ないので、そっとそっと、抱き締める。
他に今のぼくに出来る事は何もないから。
それから酔いが回って、二人揃ってコタツの中で眠ってしまうのだった。
昔母親から風邪を引くからコタツで寝るのはやめなさいと言われていたけど、馬鹿は風邪引かないとも言うし、大丈夫か。
むしろ猛くんが心配だ。
でもま、大丈夫でしょう。
彼も頭が良さそうな感じの子ではないので。
まぁ二人とも睡魔には勝てそうにもないので、本日はこれにておやすみなさい。

翌朝。
まだ土曜日である。
月曜日も休みであるから、三連休。
実はこの三連休を利用して、ちょっとした小旅行をする事にしていた。
ここは東京。
二泊三日がせいぜいだから、遠すぎてもいけない。
かといって幾ら近場でも、伊豆や箱根は宿代が高い。
という訳で、季節外れの海を見に、南房総のホテルまで出かける事にした。
ぼくは車の免許を持っているので、近所でレンタカーを借りて早速出発だ。
選んだ車はトヨ◉の小型車。
別に買う訳ではないので、選ぶのは気楽だ。
小型車は取り回しがし易いし、料金も安いので、仕送り・バイト風情の一人暮らし大学生には大いに助かる。
それでも奮発したのだ。
猛くんには喜んでもらえると嬉しいな。
道中、レインボーブリッ◎を渡り、その後アク●ラインを利用する。
どちらも景色が良いから、猛くんが好きなピンクフ○イドを流しながら二人で盛り上がろう。
コンビニで飲み物を買って、いざ南房総へ!

「春希くん、昨日はごめんね。」
猛くん、申し訳なさそうな顔でこちらを上目遣いで見やる。
「ん?何の事?別に気にしてないよ。それより今日、楽しみだねー。」
そう返したら猛くん、嬉しそうにはにかんだので、
ぼくとしてはこの上ない。
昨夜、流れに流されて襲わないで本当に良かった。
少し経つと車は都心を抜けてレインボーブリッ◎を滑りながら上ってゆく。
ここまでの道のり、高そうなタワーマンションが雨後の筍のようにあちこちにそびえ立っていた。
だから猛くんに、「あの辺のマンションどこも筍みたいで美味しそうだょ。みんなぶっ壊して一緒に食べよっか?」って笑いながら話しかけたら、猛くんも笑ってくれたので、思わず小さくガッツポーズ。
次の見せ場はアク●ラインだ。
海ほたるには寄る予定。
軽食でも食べてから、デッキで景色でも眺めようか。
という訳で、車はひとまずの休息の地海ほた○へ向けてひた走る。
で、まぁ着く訳である、海ほた○に。
二人して欠伸やら伸びやらしちゃってさ、
だらだらムード全開でさ、いたって呑気なもの。
と、ここでふと上着のポケットに手をやって、重大な事実が判明する。
財布がないのだ。
持って出たのは確かだから、どこかで落とした事になる。
「うわぁー、猛くんどぅしょう!財布がないよお!」
「えーっ、たいへーん!」
結局さ、こういう時の例に漏れず灯台下暗しという奴でさ、何故だか後部座席助手席側のフロアマットに落ちているのを猛くんが見つけてくれて、一件落着、という訳。
ぼくの財布はマットな黒革のやつだから、黒いフロアマットの上では目立たなかったのもあって、ひと騒動になってしまったという訳である。
良かった、良かった。
気前が良くなったぼくは、遅めの朝食にと食べる事にしたカツカレーとソフトクリームそれぞれ二人分の料金を払う事にした。
「春希くん、悪いよ、ぼくの分まで。」
「へーきへーき、猛くんのお陰で財布が無事に見つかったんだから、これ位はしないとね!」
そうそう、それ位はしておかないと、ぼくの気が済まない。
あぁ、幸せだなぁ。
で、軽食を済ませてデッキに出ると、それはもう寒い寒い。
ダウンジャケットを着ていた猛くんは暖かそうだけれど、ぼくはね。
ロングコートだとかダウンジャケットだとか、暖かそうな上着は運転の邪魔になるので、運転中はどうしても薄手のハーフ丈の上着になるのだ。
「ねぇ猛くん、そろそろ車に戻ろうか。」
あまりの寒さに一応聞いてはみるのだけれど、ね。
「うぅん、まだここにいる。ねぇ見て、景色最高だよ、ほら!」
うん、見ました。十分に。
あぁ、吐く息が白い……。
本当に、涙が出そうだょ。
それを知ってか知らずか猛くん、
すっかり身体が冷え切った頃になって、
「さぁ、そろそろ出発しよっか!あれ、春希くんもう疲れたの?大丈夫?」
だなんて見当違いも甚だしいズレまくった心配を今頃になってしてくれるという。
こんな時は、想い人の優しさに心から感謝。
うぅ、寒い。
ステアリングヒーターとエアコンの方が案外、猛くんよりも優しかったりして。
そんなこんなを思いつつ、二人して車に乗り込むと少し遅めの昼食を食べに一路南房総へと車を走らせてゆくのだった。

やがて車は高速を下りて一般道へ。
外気温とは打って変わって、なかなか暖かな車内。
ともすれば眠くなりそうで、危険を感じたぼくは途中コンビニに立ち寄ると、小瓶入りの眠気覚ましドリンク剤を買って飲み干した。
それから海沿いの道をしばらく走り続ける。
予想通り、ピンクフ○イドを聴きながら猛くんはご機嫌である。
と、ここで車を路肩に停めてカーナビをセット。
寄ってみたい海鮮丼屋さんがあるのだ。
しかしカーナビって便利なようで不親切だよね。
目的地が近付くとそこで案内を終了してしまうから、
どこが入り口なのかが分からない事もしばしば。
「ま、何事も慣れなんだけどね。」
「ん?春希くんどうしたの?」
「あ、んぃや、別に。」
それから車を走らせる事およそ三十分、目的の海鮮丼屋さんに到着。
この辺りは駐車スペースが広々としているから、停めやすくて良い。
お店に入って。
貧乏大学生同士の旅行、それもまだお昼である。
ぼくは海鮮丼、猛くんはサーモンとイクラの親子丼。
単品で。それだけ。節約も時には大事なのだ。
で、現れたのは、具がたっぷり乗った美味しそうな丼。
猛くんのイクラなんて、量が多すぎてもう零れ落ちそう。
しかもこれはお味もなかなか。
お値段もお安め、もうホックホク!
すっかりお腹いっぱいになったので、お次はデザート。
びわソフトクリームを食べに行くのだ。
車を発車させ、道路へと戻る。
それにしても眠い。
暖かな車内、うららかな日差し。
と、そこへ!!
路上を斜めに横切って横断する老人が!!
すかさず猛くんが叫んだ。「ブレーキ!!」
猛くんが、何も出来ないでいるぼくの代わりに横から咄嗟にハンドルを切る。
茫然自失のぼく。
老人は何事もなかったかのように道路を斜め横断すると、のんびりと歩いて行く。
それでも、老人を怒る気は起きなかった。
むしろ猛くんがいなかったら老人を死なせていたかもしれない自分が、怖かった。
「春希くん、大丈夫だった?」
猛くんは、こんなどうしようもないぼくの事を怒らないでいてくれた。
この瞬間に、ぼくの中での猛くんへの想いが、恋から愛へと変わった。
その後は美味しいびわソフトクリームを食べた後、カラオケボックスでチェックインまでの間時間を潰してから、ホテルへ。
ツインのお部屋はなかなか綺麗で、しかもオーシャンビュー。
シーズンオフだけあって料金も格安。
いい事尽くめだ。
ちなみに、昼食をセーブしたのにはちゃんと理由がある。
夕食にはホテルのレストランで舟盛りが出るのだ。
初日から二食続けて贅沢なんて出来やしないから、これはこれで正解なのだ。
夕食までまだ少し時間があったので、ぼくたちは誰もいない海岸をそぞろ歩く。
「……ね、今夜手、繋いで眠ろっか。」
突然の猛くんの言葉に、ぼくは頭が沸騰しそうになる。
それに気付いたのか猛くん、ぼくの事を見て、笑っていた。

部屋に戻るとせっかくのオーシャンビューが台無しに。
少し前から薄々感づいてはいたのだが、周囲に灯りらしい灯りがないので、夜になると真っ暗になってしまいせっかくの景色が何も見えないのだ。あーあ。
でも、舟盛りはとても美味しくて、記憶に残る味だった。
レストランから部屋に戻る途中の自販機でビールを買うと、部屋で乾杯!
明日何をしようか、今から楽しみで仕方ないのだ。
お鍋と、愛と、缶ビール。
そうだ、お鍋にしよう。
明日のお昼は、そうしよう。
そう独り頷いて、シャワーを浴びに浴室へと向かうのであった。
「待って、ぼくも一緒に入るょ!」
その瞬間……やべ、鼻血出てきた。
どうしよ、これ。

ちゃんちゃん。

この作品のタイトルの四季というのは、グラズノフのバレエ音楽から採りました。
このミニシリーズが冬から始まっているのも、そのためです。
なかなか良い曲ですので、気が向いたらお聴きになるのもよいかと。
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