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海松色の日常 外伝 - The Seasons : Spring 1 [こころの色、さくら色]

今から遡る事ちょうど一年前の春に、ぼくと猛くんは大学のキャンパスで出会った。
さくら舞う季節、頰の色もさくら色。
幼く見えるほどの童顔で、短い髪がとても良く似合っていた。
そんな猛くんを見て、ぼくはいっぺんに一目惚れをした。
最初は、遠巻きにちらりちらりと、見ているだけだった。
でもその内に、話してみたいという思いが募っていった。
さくらの花びらが散り始めたある日のお昼休み、いつも独りで食事を摂っている猛くんの後をそうっと付けていって、猛くんの昼の定番カツカレーをぼくも頼むと、「ねぇ、ここ空いてる?」と言いながら半ば強引に猛くんの目の前に腰を下ろした。
目を丸くしているのは、猛くん。
無理もない。
ここは勢いで畳み掛けるしか。
「いきなりだけどぼく、ゲイなんだ。そういうの、気味悪がらない友達が欲しいんだ。嫌なら正直にそう話してくれればそれでいいよ。残念だけど、傷付けるつもりはないからさ。ぼくは春希。当て字で、ハルキと書いてハルって読むんだ。ぼくはこの名前、気に入っているよ。君も名前を教えてくれると嬉しいな!」
すると猛くん、かすかに抱いていたぼくの期待以上の応えを返してくれた。
「ぼくもゲイなんだ。おんなじだね!仲良くしてくれたら嬉しいな。ぼくの名前は猛。よろしくね!」
ぼくは内心では飛び上がりそうなほどだったが、努めて冷静を装った、つもりではあった、一応は。
で、握手。
あ、猛くんの掌、しっとりとしていて温かい。
いつまでも握っていたい気持ちを抑えて、ここは我慢。
「猛くん、いつも独りだね。友達はいるの?」
気になっていたので聞いてみる。気軽に。
そうしたら、猛くんの目の色が瞬時に曇った。
これはやらかしたかな、と思ったので話題を変えようとする、のだが……。
「ぼく、大好きだった青丹さんが結婚するとかで、振られて寂しかったんだ。そしたら、悪い男の人に引っかかっちゃって……。」
見ると猛くん、涙ぐんでいる。
これは失敗だったか。
でもま、こうなった以上は行く所まで行くしか。
「猛くん、何されたの?力になれるかどうかは分からないけど、相談にはいつでも乗るよ。」
我ながら根拠もなくの見切り発車ぶり。
内心で己の事を呆れていると、猛くん、訥々と事のあらましを明かしてくれた。
「こちらから面と向かってゲイだとカミングアウトしたお陰で、信用してもらえたのだろうか?」
まぁそんな所だろうが、実際の所それは思いの外大変な状況だった。
「大好きだった青丹さんに振られて、自暴自棄になっていた所に、優しそうな男の人が近付いてきて、ついフラフラと付いて行ってしまったんだ。そしたら相手はゲイAV会社の人で、何本も隠し撮りされる事になってしまって。気付いた時には店頭にいくつものアイテムが並んでいて、後の祭り。ぼくもしかしたら、デブ専界ではちょっとした有名人かもね。」
諦観を帯びた眼差しが悲しかった。
実際、隠れゲイの大学の講師や助教授なんかが、猛くんの股間に触るなどというのは、割とままある事らしい。
怒りがこみ上げて来たのは事実であるが、
ぼくなんかがジタバタした所でどうにかなる問題でもない。
それでも、何とか気分だけでも前向きになって欲しかった。
だから、唐突だったかもしれないけれど。
「ねぇ、講義が終わったら公園にお花見に行かない?今日は良い天気だし、明日は雨だから、これが見納めだと思うんだ。良い気晴らしになると思ってさ。」
良いアイディアだと思った。
後は猛くんが乗ってくれるかどうか。
心配は杞憂だった。
「行こうよ!何処が穴場かな?春希くん何処か知ってる?」
うーんとね。そうだなぁ。
「近くの墓地、嫌じゃなければさくらは綺麗だよ。」
「春希くん、そこにしようよ!大きな公園だと混んでるしさ。ぼくは幽霊とかそういうの気にしないから、大丈夫。」
決まりました。
もう心臓バクバクいってます。
隠すのが大変。
で、講義が終わり次第学内掲示板前で待ち合わせ。
すっぽかされないと良いなぁ、と心配しながら掲示板を見ていると。
「はーるくん!」
ニコニコ顔の猛くんがいました。
もう脳内とろけそう。
「来てくれてありがと、猛くん!」
「春希くんが誘ってくれたからだよ。他の人の誘いなら、断ってたかもしれない。」
頰が熱い。
これが初恋というやつなんだな、きっと。
ぼくの場合はちょっと遅かったみたいです。
「ビニールシートとジュース、それに食べ物も調達しなきゃ。墓地に近くのコンビニなら全部揃うかな?」
ぼくとしたらビニールシートが揃うかどうかが、心配だった。
行ってみるとあるもんだねぇ、季節商品かな。
来年の花見の際には酒が飲めるから、よくある4リットルペットボトルの焼酎でも持って行って、酒盛りでもやろうかと言ったら猛くんが一言、人生終わりそうだよね、車に轢かれたりだとか急性アルコール中毒だとかで、なんていうものだから、花冷えどころじゃなく寒くなってきた。
でも、食べ物を食べてゆく内に調子を取り戻し、そこからは楽しい宴。

あれから一年。
また、さくらが散りそうだ。
散り際のさくら、綺麗だ。
そうだ、明日は雨だった。
今日の放課後、猛くんを花見に誘ってみようか。
そうしようか。

あの子、いつか青丹さんのものになるのかな?
猛くんよりも結婚と家庭を選んだ人。
これで猛くんにも手を出すようなら、
流石に黙ってはいられない。
けれど、、、結局は猛くん次第だからなぁ。
青丹さんが軍曹さんで、猛くんがタママ二等兵。
ピッタリ過ぎて泣けてくる。

お昼休みの、キャンパス内のカフェテリア、いつもの通り、二人きり。
「ねぇ猛くん、明日は雨だって。今日が今年の見納めだから、帰りにお花見に寄っていかない?今年はお酒も飲めるよ、二人とも二十歳過ぎたからさ。」
「春希くん、実は今日辺り誘いが来るんじゃないかと思って、待ってたんだ。ぼく、春希くんとなら寝てもいいって、今でも気持ちは変わらないよ。お花見、覚えててくれてありがと!」
はにかんだ微笑み、その奥に透けるさくら色のこころが眩しかった。
ぼくはすっかりとろーんとしてしまい、その後の話はあんまりよく覚えていない。
ただ、待ち合わせ場所と時刻だけは覚えていて、猛くんよりもちょっとだけ先回りして到着する事が出来た。

去年も来た墓地。
ここは花見の時期になると毎年そこそこ賑わうんだよな。
二人でビニールシートを広げて、食べ物や酒を並べてゆく。
と、そこへ見知らぬおじいちゃんがやって来て、おかんむりのご様子。
どうも猛くんが未成年に見えて仕方ないらしい。
しょうがないから猛くんに耳打ち。
猛くんは取って以来ペーパーになっている運転免許証と、大学の学生証を見せておじいちゃんを撃退したのだった。
「今時の大学生は子供みたいだなぁ」などと捨て台詞を残して去っていったのを見たぼくは、「猛くんがあんまり可愛かったからじゃない?」と言って、ちょっとばかり茶化して見せた。
もちろん半分以上は本気なのだけれど。
そしたら猛くん、恥ずかしさを蹴散らすためなのか、普段にはないテンションで飲め飲めー!食え食えー!と大騒ぎ。
泥酔した挙句にぼくにディープキスを食らわす始末。
「猛くん、ちょっと落ち着こうよ。」
となだめてはみるけれど……。
すかさず二度目のディープキスで口を塞がれてしまった。
意外と酒癖、悪いのな。
棚からぼたもちではあったけれども、正直あのキスは、胸がチクリと痛い。
今日の猛くん、正直、見た目とはイメージが違ってた。
ここからでは猛くんの住む部屋は遠いので、
ぼくの部屋まで歩いて帰る事にしたのだが。
遠くはないとはいえ、二人分の荷物を持って猛くんをおぶって帰るのは、正直しんどい。
お陰で酔いもすっかり覚めた。
でも良かった。
ぼくのこころの色、今、さくら色。

翌日、大学へ向かう途中。
雨のせいで、一生懸命に残っていた花びらもろとも、桜は全部散った。
「春希くん、昨日の内に桜、見ておいて本当に良かったね!ありがと!」
と言い終えるのと同時に、猛くんはぼくの頰にキスをした。
仮にもここは公道である。
でも邪険には出来ない。
仕方ないので、やけくそのハグ。
猛くん、嬉しそうだ。
この幸せがいつまで続くかは分からないけど、今は嬉しい。
青丹さん、このまま戻って来なければいいのに。
猛くんの前では死んでも言えないが。
そんなちょっとばかり悪い事を考えながらだからだったかもしれない、水溜まりに足を突っ込んでしまった。
毎度の事ながら誠にもって情けない。
心配してくれた猛くんがすぐさまウェットシートで拭いてくれたお陰で、大事には至らなくて済んだ。
こんなに愛しい猛くんだもの、何かあった時にはぼくが盾になるから、そう独り頷いて、ゆっくりと大学に向かうのだった。

春のイベントもこうして終わって、
次にやってくるのは夏のイベント。
泊まりがけで行くなら予約は出来る限り早くに取っておかないと、
空き部屋がなくなってしまう。
今日の帰りにでも猛くんを誘って、
プランを練ってみようか。
あぁ、幸せだなぁ。

今回は、こ・こ・ま・で。
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