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海松色の日常 外伝 - The Seasons : Autumn [ひたひたと、冬の足音]

街の落葉樹の並木の葉っぱが色付いている。
「そろそろ、遠くから冬の足音が聞こえてくる頃だな。」
春希くんとは、今日はカフェで待ち合わせ。
テラス席からは木々の様子がはっきりと見えるから、この席はぼくのお気に入り。
夏や冬にはお世辞にも快適とは言えないテラス席、今が旬かもしれない。
と、そこへ……。
「猛くん、遅くなってごめんね〜。」
ここでデブ同士、分かる事がある。
走ると辛いのだ。
「ぜーんぜん平気!走らなくていいよ、疲れるだけだからさ。」
春希くんはタオルハンカチで顔を拭きながら、ゼイゼイ言っている。
何だか観ているこっちがいたたまれなくなるので、五分の遅刻で走るのはやめて欲しい。
「何か頼むでしょ、奢るよ。」
何だか随分と一生懸命に走ってきてくれたようだから、ぼくなりのご褒美。
やめて欲しいと思いながらも、春希くんのその気持ちは嬉しくないわけでもないのだ。
我ながら矛盾に満ちている。
で、春希くんが選んだのは、見るからに高そうな山盛りパンケーキとカフェラテのLサイズ。
もう少し遠慮してくれてもいいんだよ、などと内心では思っているのだが。
ここは嫌味を言うよりは、あれで。
恒例となったディープキス。
ぼくは平気なんだけど、春希くんはいつまでたっても慣れないようで。
でも、これで良いのだ。
何しろぼくは、ゆでダコみたいになった春希くんの顔を眺め回すのが、大の好物なのだから。
そうして、ぼくが目の前のゆでダコを楽しみながら眺めていると、懐かしい顔と出くわした。
「た、猛くん……!?」
「え、あ、裕哉くん!?」
裕哉くんは中学時代の同級生で、元彼氏。
それにしても変わっていない。
中学卒業以来会っていないのに。
「裕ちゃん、かわってないねー!」
「猛くんこそあの時のまんまだよ!隣の人は?」
「大学の同級生。親友なんだ。名前は春希。とっても良い奴なんだよ!」
「そっか、彼氏かと思ってビックリしちゃった。良かったら三人でこれから飯でも食わない?美味しい肉バルがあるんだ。」
肉バルだなんて素敵だ。
もちろん春希くんもOKだろうと思って、「行こう行こう」と言ってはみたのだが。
わ、春希くん機嫌がめちゃめちゃ悪い。
目付きが怖いょ……。
仕方ないのでぼくは、カフェの清算を済ますと急用を思い出したという見え見えの嘘を付いて、春希くんと共にその場を去ったのだった。
お互いに知らない今のメールアドレスの交換もしなかったから、もう会う事もないだろう。
それにしても春希くん、短い足で懸命にズンズンと進む。
「待ってよ春希くん!あの子は中学時代の同級生で何にもないから!」
そう言っても止まってくれないので、走って駆け寄って春希くんの河豚のようになった頰にキスをした。
顔を赤らめながらゆっくりと歩き出す春希くん。
相も変わらず随分と分かりやすい。
「ねーえ春希くん、ぼくとSEXしてみる?」
「い、ぃ、いや、プ、プ、プ、プラトニックで、ぃい、いいょ、うん。」
嘘ばっかり。
でもこれが春希くんなりの優しさだって事も、ぼくは分かっている。
だから路上だというのに、返事も待たずに抱き付いた。
「ぼく、春希くんのそういうとこ、好きだよ!」
こういう時にフリーズするのも、春希くんの可愛い所。
仕上げに頰にキスして、いっちょあがり!

それはそうと、今日春希くんと待ち合わせしたのにはもちろん目的がある。
観たいアニメ映画があるのだ。
実は春希くんもぼくも、アニメ・同人好き。
ウマが合うのだ。
だから映画の帰りには漫画屋のとらのあなに寄って、何冊か漫画を買って来るつもり。
F○te/st○y night劇場版、楽しいといいな。期待大。
劇場までの道を、二人でそぞろ歩く。
まったりとした時間。
嫌いじゃない。
春希くんの掌を、そっと握ってみる。
周りの目なんてどうだっていい。
見ると春希くん、俯いている。
恥ずかしいのかな?
まぁいいや、劇場まではこのまま行こう。
で、劇場に着いて手を離す。
春希くんの掌はいつも通り、しっとりとしていた。
入場したらまずはポップコーンとコーラである。
二人とも先に買う派なので、パンフレットも買わなければ。
お陰で手荷物がいっぱい。
歩き辛いのを我慢して、自分たちの座席を探すぼくたち。
なるほど、これは良い。
運良く座席は上々。画面に集中出来そう。
まだ新しい劇場だからか、座り心地も快適そのものだ。
ここで一つ心配事。
実は昨晩思うように寝付けなくて、漫画を夜遅くまで読んでいたのだ。
せっかくの映画、途中で寝ないと良いけど。

おおよそ二時間後。
ぼくたちは劇場を後にしていた。
結論から言うと、とても面白かった。
二人とも起きていられたし、むしろ集中して楽しめた。
始まるまでの心配は杞憂だったようだ。
と、そこへ。
「なんだょ、冷たいじゃんか、仮にも元彼氏に対してさ。仲良くしようぜ、な。」
裕哉だ。しつっこいなぁ。
「お前、弟の直ちゃんとはどうしたんだょ。別れたのか?」
「新しい男が出来たらしくて、ぼくの事なんて見向きもしなくなったよ。」
なるほどね。でも今更そんな話は、ぼくには関係ない。
「ぼくらこれから、デェートなんだ!邪魔しないでよね。」
振り向くと裕哉、泣いていた。
様々な人々にとっての、様々な秋。
幸せになれるといいな、みんな。
「人間生きてさえいれば、いつかは良い事あるからさ。裕哉も泣きやんで明日からの事考えたら?きっと良いヒントを思い付くと思うよ。」
それだけ言うと、ぼくと春希くんはとらのあなに向かって歩き出す。
「ありがとなー!」
背後から裕哉の叫び声が聞こえる。
季節はもうすぐ冬。
大学の卒業も間近い。
ぼくは結局、義父の経営する工場にコネで入社する事になった。
ぼくよりも頑張り屋の春希くんは、無事にフリーターの危機からは逃れられたようだ。
「卒業しても、友達だよ。」
どちらからともなくそう言うと、ガッチリと握手を交わす。
今なら、ひたひたと迫り来る冬の足音も、全然怖くはない。
心の片隅にはまだしっかりと青丹さんがいるけれど、
それでも前に進まなきゃ!
「ねぇ猛くん、さっきのデェートって、本気で?」
珍しく真面目な顔をして聞いてくるので可笑しくなって、
「さぁ〜ねぇ。」
なんて気のない返事をしてみる。
ちょっと怒ったらしいので、周りの目も気にせずに抱き付いた。
これで帳消しっと。
秋、青丹さんと別れた季節には違いないけれど、こんな秋なら悪くない、そう思って口笛を吹いた。
季節とは裏腹に温かな予感を抱きながら、気分良く街を闊歩するのだった。
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