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Identical Twins -父と息子のリリカル・ライフ-

「むーねーよーしー!むーねーたーかー!ご飯だぞー!」
父ちゃんの呼ぶ声でおいら達は二階の部屋から一階の食堂に向かって駆け出す。
「わー!飯だ飯だー!」
「今日は何かな?」
「ステーキだったりして!」
「そんな訳ないだろー。」

おいらの名前は宗吉。
一応、双子の兄。
弟の名前は宗高。
父ちゃんの名前は、耕造だ。

で、今日の晩飯のメニューは何とーー。
ジャーン!
まさかのステーキなのだ!
予感的中!
「奮発したんだぞー!よく味わって食べろなー。」
「わー!父ちゃんすげー!」
「いただきまーす!」
ここで図々しい事に、弟の箸がおいらのステーキに伸びる。
あまりに腹立たしいものだから、弟の箸を持つ手を、空いた左手で引っ叩いてやった。
これが毎日のように繰り返されるのだから、おいらとしても参ってしまう。
「ちぇっ!何だょけちー!ぼくのステーキはぼくんもの、お前のステーキもぼくんだぞ!決まりには従えよなー!」
あんまりな物言い。
ジャイアニズムむき出し。
「ふざけんな、このやろー!」
さすがのおいらも怒る。
こうして取っ組み合いの喧嘩が始まる。
いつもの事だ。
ここで父ちゃんが恒例の一喝。
「いい加減にしないと、ご飯抜きだぞ!冷めない内に食べろ!」
渋々食べ始める弟。
おいらも肉に箸をつける。
「うめー!」
「父ちゃん最高!」
おいら達が口々に感想を述べると、父ちゃん何だか嬉しそうだ。

公園をふらつく。
弟も一緒。
ふと、昨日のステーキの味を思い出す。
今考えても、美味かった。
そんな折。
健坊がこちらに向かってやって来た。
近所に住む、年下の男の子。
可愛いのだ。
「むねたん、遊ぼー。」
「いいょー。暇だし。鬼ごっこでもやろーか?」
「うん!」
で。
久々の鬼ごっこ、おいらが鬼。
あの二人、なかなか捕まらない。
や、鈍いな、おいら。

三十分程遊んでたっぷり汗をかいた頃。
健坊のお母さんがやって来て、おいら達を自宅に誘ってくれた。
今日は暑いので助かった。
「二人とも、いつもありがとう。アイスがあるのよ。うちに着いたら、たっぷり召し上がれ。」
「やっほー!」
「やったね!」
ここは宗高とハイタッチ!
ここ二日、ステーキにアイスと、ついている。
怖い位だ。

健坊の家は立派だ。
うちとは大違い。
居間には暖炉がある。
冬しか使わないのに、贅沢だね。
「はーい!アイスとジュースよ。どちらもお代わりあるから、遠慮なく言ってね!」
こうして、みんなで仲良くアイスを食べる。
美味い!

健坊とは五つ違いだ。
可愛い弟みたいな感じ。
可愛げのない宗高とは、大違いだ。
ふと目を遣ると、健坊一家の写った写真が飾ってあった。

三年前、母ちゃんは空の星になった。
父ちゃんは、一足先に天国に行って、おいら達を見守っているんだと言っていた。
どうしていなくなったのかは、何度聞いても教えてはもらえなかった。
寂しかった。
でも、おいら達があんまり寂しそうな顔をしていると父ちゃんの元気がなくなるから、今はいつでも笑うようにしている。

「宗吉くん、お代わりはいらない?」
ぼーっと考え事をしていたせいで、アイスがなくなった事にも気付かなかった。
見ると宗高はもうお代わりをもらっているようだ。
「あ、いりまーす!」
早速返事をする。
しんみりしている場合じゃない!
美味しいアイス、腹いっぱい食べなきゃ!
が。
「宗吉くん、そういう時には、お願いしますって言うのよ。」
珍しく、健坊のお母さんに注意をされてしまった。
「あ、ごめんなさい。お代わり、お願いしまーす!」
「はい、よく出来ました!今持ってくるから待ってて!」
「おかーしゃん、おかーりーおねがいちます。」
健坊も器を差し出す。
「はいはい、待っててね。」
「あーい!」
みんなでおやつを食べた後は、健坊の積み木遊びに付き合った。

陽が傾く頃。
「今日も遊んでくれてありがとうね!またよろしくね。」
健坊のお母さんとあいさつを交わして、おいら達は帰宅する。
帰ると、夕食の支度が出来ていた。
「さ、二人とも、今日は豚しゃぶだぞ!早く手を洗ってこい。」
「はーい。」

「豚しゃぶ、美味そうだな。」
よだれが出そうだ。
そう、親子揃ってうちは、肉好きなのだ。
だからきっと、みんな丸々とした体型なんだな。
「ぼくの分、取んないでょ!」
宗高がこちらを睨む。
いつも人の分を取ろうとするのは、どっちだっつーの!
「べー。」
おいらはゾウアザラシみたいにあかんベーをしてみせた。
宗高、怒る怒る。
さあもっと怒れ、ざまあみさらせ。

そんなこんなで一日は終わり、寝る時間になる。
明日からはまた一週間が始まる。
今日は日曜日だったのだ。

いい事ばかりは続かない。
翌朝。
目がさめると、股間がじとっとしている。
まさか……。
ふと横を見ると、呆然としている宗高の姿があった。
「なぁ、お前も世界地図か?」
宗高、黙って頷く。
内心、ちょっとホッとした。
一人だけで怒られるというのは正直、怖いのである。

学校に着くと、転校生がうちのクラスにやって来るという。
もうすぐ夏休みなのに。
それにしても、久々の世界地図。
父ちゃん、もっと怒るかと思っていたけれど、意外と淡々としてたな。
父ちゃん、優しい。
おいら、嬉しい。
と、ここで。
担任のイモアタマが転校生を連れて、教室に入って来た。
転校生と目が合う。
会釈する転校生。
その瞬間、おいらは固まった。
眩しい。
見ていられない。
「おい!イモアタマがこっち見てるぞ!」
隣の席の宗高が教えてくれて、おいらはハッとする。

何だろう、この胸のざわめく感じ。
今まで、経験した事もない。
ポーッとした状態で、転校生の自己紹介を聞き流す。
「宗吉、恋か?」
「へ?」
青天の霹靂、そんな感じさえする宗高の一言。
恋!
言われてみれば、まさに!
相手は同性。
おいら、終わったのか?
「心配するな。ぼくも初恋は男だった。年上だったけどな。」
宗高、驚きの告白。
やっぱり、想いを伝える事さえ出来ずに、結ばれなかったらしい。
そんなもんだよな。
おいらもたぶん、同じ轍を踏むと思うのだ。
悲しいが、仕方ない。

それでも、五年後のおいら達にはそれぞれ彼氏がいるようだから、男日照りが長く続く訳ではないのだ、たぶん。
もう少しの辛抱なのだ。
頑張れ、おいら!

転校生とは、友達として仲良くなった。
よく考えてみたら、三人とも丸っこい体型をしている。
宗高の初恋の相手は、スレンダーだったのだそうだ。
やっぱり双子でも、好みのタイプは違うんだな。
まぁ、揃ってゲイだというだけでも、驚きなのだけれど。

終業式を終えた。
転校生と出会ってから、数日後の事だ。
いよいよ夏休み。
嬉しいはずなのだけれど、どこか落ち着かない。
転校生が気になるのだ。
三人での帰り道。
転校生がふいに、おいらに問う。
「宗吉くん、緊張してる?それともぼくの事、苦手?」
どきりとした。
おいらはぶるぶると、首を横に大きく振った。
「よかった。これからも仲良くしてね。」
奏太というその転校生、にっこりと笑って片手を差し出した。
慌てておいらは、両手を出す。
がっちりと握手。
こちらは緊張と眩暈で倒れないようにするのに、精一杯だった。

健坊の家の前を通る。
お母さんが見守る中で、健坊は小さなビニールプールで遊んでいた。
「あ、むねたん遊ぼー!」
こちらに気が付いたようで、門の近くまで駆け寄って来る。
「少ししたらここに来るから、そしたら遊ぼうね。」
おいらがそう言うと、健坊は嬉しそうににこにこと笑った。

まだ七月。
おいら達は夏休みだけれど、父ちゃんには当面、関係のない話だ。
毎日汗だくで働く父ちゃんには、感謝する他ない。
学校は早くに終わったのだが、それでも当然、家は既にもぬけの殻。
奏太とは一旦別れて、後ほど健坊の家の前で合流する予定だ。

うちに向かう途中で、お隣さんちの瑞樹姉ちゃんの顔が見えた。
「おーい!瑞樹姉ちゃん、どこ行くのー?」
「よぉ、宗吉に宗高!私はこれから勉強しに友達の家に行くのよ。来るか?」
「いや、おいら達勉強は好きじゃないから、いいや。」
「そっか。んじゃ、またな。」

冷蔵庫を開ける。
帰宅直後、まずは水分補給だ。
おいらは棚から出したコップをテーブルの上に置き、冷蔵庫から出した麦茶を注ぐ。
「ぼくの分もー!」
「あいよー。」
飲み干す。
あぁ、美味い!
「お前も着替えて来いょ。麦茶さんきゅ!」

健坊の家の前に着くと、奏太は既に待っていた。
やっぱり可愛い。
「お前、あれがいいだなんて、趣味悪いな。」
宗高がそう耳打ちするので、頭にげんこつを食らわせてやった。
「痛ってぇ!殴る事ないじゃんか!」
大袈裟に痛がる宗高。
だいぶ手加減したのに、これではまるでおいらが悪いみたいだ。
「宗吉くん、せっかくの双子なんだし、仲良くしなきゃ駄目でしょ。」
健坊のお母さんに、注意を受けてしまった。
目の前には宗高の得意げな顔。
腹は立つが仕方ない。
「悪かったな。ごめん。」
ここは謝って、引き下がる。

健坊のお母さんから、アイス代をもらった。
四人でアイスを買いに行くのだ。
一人一個の約束で、もらったのは千二百円とちょっと。
や、金持ちは違うな。
おいら達はいつもガリガリ君なのに。
健坊はクッキー&クリームが好きらしい。
銘々好きなアイスを選んで、おいらがまとめてお会計。
と、ここでアクシデント。
健坊がチョコレートとポテトチップスを持ってやって来たのだ。
「あい。」
にこにこしながら、レジのお姉さんに健坊はそれらを手渡す。
『あい、じゃねぇょ。』
内心ではそう思っていたが、仕方ないので足りない分はおいらがなけなしの小遣いから払う事にした。
もう、泣きたい。

そうは言いつつも。
いまだに頭がふわふわする。
奏太の顔がたまたま視界に入っただけで、先ほどの余計な出費の事も忘れられた。
それは、帰り道での事。
報われなくてもいい、そばにいたい。
この時のぼくは、そう思っていた。

健坊の家に着くと、お母さんがチョコレートとポテトチップスのお代を払ってくれた。
お礼まで言われて、ありがたい。

風薫る五月。
五年後の事。
健坊は小学生に、おいらと宗高、それに奏太は中学生になっていた。
おいら達は相変わらずの仲良しで、四人でよくつるんでいた。
宗高と健坊は、半年前から付き合っていた。
健坊から告白されたのだという。
年下だが、健坊は可愛らしいスレンダーな子供だったから、宗高としても申し分なかったのだろう。
一方のおいらと奏太は、仲は良かったのだが、あと一歩が踏み出せないでいた。

そんなある日。
おいらと奏太が二人で歩いていると、路側帯に軽自動車が突っ込んで来た。
「危なーい!」
たまたまそばにいた瑞樹姉ちゃんの叫び声。
おいらは幸い、かすり傷で済んだのだが。
奏太が骨折してしまった。
急遽、病院で手術。
それからおいらは、毎日欠かさずに奏太のお見舞いに行った。
退院の日。
病院を出るおいら達。
昨日までの雨が嘘のように、晴れ渡っていた。
奏太は言う。
「よかったら、ぼくと付き合おう。」
感無量だった。涙で顔がべちょべちょになる。
奏太は、笑っていた。
たぶん奏太には、おいらの気持ちは筒抜けだったのだろう。
街路樹のそばでハグしてもらって、おいらは天にも昇る心地だった。

ギラギラと照りつける日差しが眩しい。
蝉の声がうるさい。
再び、五年前の夏。
父ちゃんに、新しい母ちゃんが出来た。
それは、優しそうな、綺麗な人だった。
おいらと宗高の反応は、正反対だった。
新しい母ちゃんと初めて会った日。
「仲良くしましょうね。」
にっこりと微笑むその人を見て、おいらはただ頭を下げるしかなかった。
宗高は、違っていた。
「嫌だ!こんなの母ちゃんじゃない!」
喚き散らす宗高。
その時だった。
父ちゃんのげんこつが、宗高の頭を直撃した。
おいらは、父ちゃんが手を上げる所なんて見た事がない。
驚いた。
「少しは頭を冷やせ!」
父ちゃんがそう言うと、宗高は泣きながら走り去って行った。
後を追うおいら。

見失った。
でも、おおよその見当はつく。
落ち込むと二人でよく行っていた、河川敷に向かった。
やっぱりだ、いた。
蹲って泣いている宗高においらは、声を掛ける。
「お前、父ちゃんの事が嫌いなのか?」
おいらの問いに、宗高は首を横に振った。
なら、話は簡単だ。
「だったら、父ちゃんが好きになった人の事も、好きになれ!」
宗高はおいらに抱き付いて来た。
珍しい事もあるものだ。

「しけた面してどうしたょ、そこの二人。」
瑞樹姉ちゃんが声を掛けてくれた。
事情を話すと、瑞樹姉ちゃん、おいらが思っていたのと同じ事を言った。
「とりあえず謝れ。それで不満が残るようなら、うちに来い。話なら、いくらでも聞いてやるぞ。」
瑞樹姉ちゃんは、宗高の背中をポンと叩いた。

「さっきは、ごめんなさい。」
うちの前で、宗高、俯きながら新しい母ちゃんに謝る。
そんな宗高にも新しい母ちゃんはやっぱり優しくて、少なくともおいらは好きになれそうだ。
「さ、みんな、お昼ご飯にしましょう!」
スカートが風に揺れる。
ドレープ感が綺麗だ。

新しい母ちゃんは、その名を愛美と言うそうだ。
まなみ、読みにくいな。
それはともかく、優雅な見た目とは裏腹に、食事の支度はチャキチャキとこなす。
しかも、男所帯で散らかっていた家の中が、新しい母ちゃんのお陰でどんどん綺麗になってゆく。
女の人って凄えな、子供ながらにそう思った。
前の母ちゃんもそうだった。
父ちゃん、見る目はあるのだ。

インターホンが鳴る。
おいらが玄関のドアを開けると、そこには健坊とそのお母さんがいた。
そこへ父ちゃんと新しい母ちゃんがやって来る。
「ご結婚おめでとうございます!式は挙げないんですって?残念だわ。」
「まぁ、二度目なんで……。」
健坊のお母さんとうちの父ちゃんが話を始めた。
そこへ健坊が、衝撃の一言!
「むねたん、このきれーなばぁしゃん、誰?」
一同、凍りつく。
「こら!健坊!婆さんじゃなくてお姉さんでしょ!」
ここで健坊のとどめの一言。
「でもこれ、ばあしゃんだょ。」
たまりかねた健坊のお母さん、健坊を連れて大慌てで帰ってしまった。
そんな出来事の後なのに新しい母ちゃんは笑顔で、「面白いわねぇ」なんて言っていた。
凄え。

夜。
自室で。
おいらと宗高は同じ部屋で寝起きしていた。
「なぁ宗吉、新しい母ちゃんと父ちゃんの仲、どう思う?」
何を今更、そんな事を。
そう思ったおいらは、「いいんじゃん?」とだけ答えた。
宗高の思いは複雑だったようで。
「なんかさ、新しい母ちゃんのせいでおいら達の本当の母ちゃんがさ。父ちゃんの心の中からいなくなっちゃったんじゃないかって。凄く心配なんだ。」
しばし無言のおいら達。
思い立っておいらは、宗高の手を取った。
「そんな事、父ちゃんに直接聞いてみろょ!」
駆け出すおいら達。
意外なもので宗高、これには反発しないのだった。

「父ちゃん!」
宗高がふすまを開けると、父ちゃん、おいら達の本当の母ちゃんの仏壇の前で、お祈りをしていた。
「よかった、ぼく、父ちゃんが本当の母ちゃんの事忘れちゃったんじゃないかと思って、心配で……。」
父ちゃん、そんな宗高を抱き寄せて、こう言った。
「忘れる訳がないだろう?お前達を産んだお母さんも、今のお母さんも、どっちも本当のお母さんだ。だから少しずつでもいいから、今のお母さんの事も好きになろうな。」
宗高はただ黙って、大きく一つ頷くのだった。

あくる日。
健坊のお母さんが、健坊を連れてうちにやって来た。
玄関先でのやり取り。
「昨日はごめんなさいね、うちの息子が。これ、お詫びの気持ち。受け取って!」
「あらあら、そんな、いいのに……。」
そこへ、健坊が一言。
「ブスなばぁしゃん、昨日はごめんなしゃい。間違ってきれーって言っちゃったの、ぼく悪い子。」
凍りつく空気。
それを壊したのは、他でもない母ちゃんだ。
「あらー、凄い子ねー。将来強くなるわょ!」
笑い飛ばす。
すると健坊、勝手に靴を脱いで上がってきた。
「ブスなばぁしゃん、おしゃましまーしゅ!」
「あらあら、駄目よ健坊。」
健坊のお母さんは慌てるのだが。
ここまで言われてもうちの母ちゃんは平然としている。
我が親ながら、大したものだ。
「挨拶、よく出来ましたー!さぁ、ゆっくり遊んでいってねー。」
この調子。
「あーい。むねたん、遊ぼー。」
「さぁ、おいでー!」
おいら達は居間の片隅でジグソーパズルをやっていた。
健坊、ピースを一つ手に取って一言。
「いただきまーしゅ!」
これにはおいら達、顔面蒼白。
「それは食べちゃ駄目ー!」
おいら達は叫ぶ。
これに怒ったのが健坊だ。
「んきゃー!」
奇声を発しながら組み上がっていたジグソーパズルをばらばらにしてゆく。
「あーあー!」
もう、涙が止まらない。

居間のソファですやすや眠る健坊。
気付けばもう、夕方。
健坊も疲れたのだろう。
父ちゃんが仕事から帰ってくる。
健坊を揺り起して、入れ違いで二人が帰宅。
「こんばんは、健坊は相変わらず元気そうで、何よりです。」
父ちゃんが健坊のお母さんに挨拶。
「元気なだけが取り柄で。はしたない事ばかり言うんですょ。困っちゃうわ。」
「ブスばぁしゃん、アホじぃしゃん、ばいばーい!」
健坊、おいら達の母ちゃんと父ちゃんに手を振る。
「またいらっしゃいね!お菓子用意して待ってるわ。」
これに健坊、またもや。
「ぼく、ばぁしゃんの事しゅきー。」
「さ、帰るわょ!お邪魔しましたー!」
いたたまれなくなったのか、健坊のお母さん、そそくさと帰ってゆく。

父ちゃんが居間に向かう。
「父ちゃん、お帰りー!」
「おみやげはないのー?」
父ちゃんにまとわり付くおいら達。
「おみやげかー!毎日おみやげ買ってたら、破産しちゃうなー。そうだ。来週、仙台に出張があるから、牛タンと萩の月買ってきてやるょ!」
これは聞き捨てならない。
「それ、食べられるの?」
「もちろん!」
「おいしい?」
「おぅ!保証付きだ。」
あまりの嬉しさに、二人で踊り出すおいら達。
こんな時には決まって、フォークダンスを踊るのだ。
父ちゃんも母ちゃんも笑い出す。
そういえば、母ちゃんがおいら達の踊りを見るのは、これが初めてなんだったっけ。
「あなた達素敵ねー!面白いわ!」
喜んでもらえて、何よりだ。

滑り出した日常。
まずは上出来だ。
これから幸せな出来事がいっぱいいっぱいあるといいな、二人してそんな風に思う夏の夜だったーー。

暑い。
でも、文句など言ってはいられない。
父ちゃんが今、大変なんだ。
おいら達がしっかりしなきゃ、駄目なんだ!
という訳で、またもや五年後。
その夏休み。
母ちゃん、おいらと奏太、宗高と健坊の五人は揃って、毎日のようにうちの父ちゃんのお見舞いに行っていた。
時々、瑞樹姉ちゃんも来てくれる。
おいら達がゲイである事は、関係するみんなの両親に知れ渡ってしまっていた。
救いだったのは、誰一人として怒らなかった事。
みんな、将来を心配して、励ましてくれた。
まだまだ差別はあるもんね。
みんなで、強くならなきゃ!

父ちゃんは胃がんだった。
実は前の母ちゃんも乳がんで空の星となったらしい。
発見された時には既に末期で、助からなかったのだ。
本当に、あっという間に亡くなったのだった。
それだけはおいら達も、よく覚えている。
母ちゃんがいなくなってから、父ちゃんは度々がん検診を受けるようになった。
その甲斐もあって、まだまだ生きられるらしい。
よかった!
父ちゃんは大黒柱だ。
まだまだ元気でいてもらわなきゃ!

公園の草原の上にシートを敷いて、寝そべるおいら達。
その様子を父ちゃんが動画で、母ちゃんが写真で撮ってゆく。
陽射しが眩しい。
だんだん眠たくなって来た。
「さ、みんなご飯よ。」
今日は大きな公園に一家でピクニックに来ていたのだ。
父ちゃんが退院したから、みんなで遊ぼうという話になったのだ。
おいらと宗高、おにぎりをかじりながら空を見上げる。
空は広くて、大きいなぁ。
おいら達もあの空みたいにでっかくなって、奏太や健坊、そして父ちゃんや母ちゃんを支えてゆきたい、心からそう思うのだった。
亡くなった前の母ちゃんは、どんな風に思いながらおいら達を見下ろしているのだろうか?
いつかまたあの世で会えるのかな?
会えるとして、前の母ちゃん、おいら達の事覚えていてくれるだろうか。
そんな風に考え事をしながら、夏の楽しい一日は過ぎていった。
宗高も同じ事を考えていたようで、「大丈夫だょ!」そう言って励ましてくれた。
そうだよな、母ちゃん、そう、あの人に限っておいら達の事を忘れる訳はなかったんだ。
「どうした?」
父ちゃんが心配そうな顔をしているので、おいら達は揃って首を横に振った。
「何でもない」と言いながらーー。

食後、思い立って円陣を組む事になった。
父ちゃんと母ちゃんも巻き込んで、みんなそれぞれの片手を出す。
「行くぞー!幸せになるんだ!」
「おうっ!」
未来へのキックオフ、試合はまだまだ始まったばかりだ。

お・し・ま・い

これを書き出した経緯というのは、ゲイ版よつばと!を作れないかという事だったのですが。
書き進めてゆく内に、いつも通りのぼくのお話になっていたという。
そんな感じです。
よつばと!は個人的に好き。
といっても、ぼくはバイではありませんが。
ゲイですので、悪しからず。
ちなみに双子は8〜9歳位の年齢を想定しています。
それ位の年頃のキャラクターは、個人的には何となく書きやすい気はするかな、という。
深い心理描写は苦手なので。
このお話を書くにあたっては、恋愛の描写はありだけれど、SEXの描写はなしで、みたいな最近のいつもの決まり事に沿ってみました。
楽しんで頂けましたら幸いです。
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