FC2ブログ

えくすぷれっしょん![WONDER : WONDER 外伝]

(1) 語り : 宗治

うろこ雲が綺麗な、秋の空。
空高く、鷹が滑空している。
池の前の柵にもたれて、優雅なひと時。
「そーうじ!」
僕よりも一回り小さなちびでぶ君がいきなり後ろから抱き付いてきた。
あわわわ、危ない。
柵がなかったら確実に二人共に転落している。
「こら!危ないでしょ!」
「えへへへー。」
この子、人の話を聞かないので、こちらとしては手を焼いている。
「お昼は何処がいい?」
一応、話を振ってはみるのだけれど。
「グランドホテルのランチビュッフェ!」
これだから馬鹿は困るのだ!
そんな金はないのだ!
という訳で。
「とんかつね。」
「ちぇっ。」
舌打ちとは、とんかつに失礼な!
二人分払うこちらの身にもなって欲しいょ、全く。
しかしまぁ。
こちらにも弱みはある訳で。
何せこの子、モテるのだ。
そんな子を独り占めしているのである。
多少の出費は仕方ないのだ。
ちなみに、とんかつ屋でのこの子の好物は、かつ鍋。
暑さも去って、かつ鍋好きのでぶには、いい季節だ。
ちなみにこの子、名前は秋嘉という。
名前の通り、秋の生まれ。
僕の名前は宗治だ。
一応、冬生まれ。
僕の誕生日はともかくとしても、そろそろ秋嘉の誕生日も近い。
その為にも、今日はそんなには遣えないのだ。

(2) 語り : 語り部

森の中。
サモエドを連れた美少女が、地面に魔法陣を描く。
途端に魔法陣が光り輝いて、竜巻が発生する。
サモエドが一回吠えると、目の前に金貨の山が現れた。
禁じ手の魔法。
美少女は切羽詰まっていた。
母親の病気の治療に、莫大な費用が掛かるのだ。
別に遊興に遣う訳ではないのである。
そこへやって来たのが、グライツベルク卿。
「おやおや、フロイライン。子供なのにまた随分と大胆だねぇ。何か理由でも?」
「お前には関係ない。」
美少女、周りの皆からはフロイラインと呼ばれている。
美しいのは確かだが、少しばかり尊大なのが玉に瑕だ。
「まぁ、そう言わずに。私が枢機卿に口を聞けば、フロイラインとてただでは済まないのだからな。」
「何が欲しい。」
「何とまぁ、可愛らしい見た目に似合わず、身も蓋もない。そうだな、その金貨を半分もらおうか。」
「分かった。やる。持っていけ。そもそもこんなには要らないのでな。別に構わん。」
「良かろう。ありがたく受け取っておく。一つだけ忠告しておくが、あまり禁を犯してはいけないよ。それでは、また会おう。」
グライツベルク卿、こうなる事を初めから知っていた。
最初から金貨が目当てであり、運び手も引き連れていた。
麻の袋に運び手が、手際良く金貨を詰め込む。
きっかり半分詰め終えると、グライツベルク卿の後を付いて行くのだった。
「くだらない、全く。」
フロイラインは溜め息をついた。

「金はあるのだろうね?」
王国一の医師がフロイラインに尋ねる。
この医師に、母を診てもらおうというのだ。
フロイラインは帆布の袋の口を開いた。
「上出来だ。手術はすぐに行う。必ず助けるから、安心なさい。」
「その言葉を待っていた。母を任せた。」
フロイラインは立ち上がると、診察室を出て待合室へと向かった。
フロイラインは魔法を使えるが、魔法でも治せない病気はある。
運悪くフロイラインの母は、そうした病に罹ってしまったのだった。

手術は成功した。
王国一の医師がフロイラインに迫る。
「あの金貨、禁じ手の魔法を使ったのだろう?政府の高官に知られたくなかったら、大人しく私と寝なさい。」
「嫌だ。断る。」
フロイラインの答えは明快だった。
「ほう。ではせっかく助けたフロイラインの母君には、亡くなってもらおう。」
その瞬間だった。
怒りに任せたフロイラインの、最強魔法が炸裂した。
そのせいで、爆風と共に王国一の大病院は灰と化した。
思えばグライツベルク卿は、この事態を想定して忠告したのではなかったか。
フロイラインは後悔したが、もう遅かった。
母は巻き添えになり、亡くなってしまった。
それだけではない。
大勢の無辜の民が犠牲となったのだ。
もう動きたくない。
失意のどん底で胸が張り裂けそうだ。
しかしこのままここに居れば確実に投獄され、火炙りになる。
フロイラインは逃げるしかなかった。
運良く助かったパートナーのサモエドと共に、魔法を使って。
その様子を恨めしそうな目つきで泣きながら睨んでいた魔法使いの男の子の姿に、フロイラインは気付かなかった。

(3) 語り: 語り部

「はぁ、はぁ。」
「あぁ、あぁ。いいょ、出る!」
ボンっ!
秋嘉と宗治が抱き合っている最中、突如天井からフロイラインとサモエドが現れた。
この魔法、瞬時に移動出来るのはいいのだが、場所も時刻も指定出来ないから、何処に出るか全く分からない。
出たとこ勝負、という訳である。
だから極めて追われにくい、というのもあるのだが。
ドンっ!
全裸の秋嘉と宗治の上にフロイラインとサモエド、落下。
「痛っ!何だぁ!?」
「何、何!?何が起こったの!?」
動揺するばかりの二人。
無理もない。
「何だお前達は!男同士で抱き合うなど、穢らわしい!」
フロイラインはそう言うが、まだ少女だけに恥ずかしかったのである。
しかしそうは言っても、いきなりのしかかられた秋嘉と宗治は堪らない。
「人の家に勝手に上がり込んでおいて、穢らわしいも何もあるか馬鹿!」
急に我に帰るフロイライン。
「ご、ごめんなさい。」

服を着る秋嘉と宗治。
それはもう、どっちらけである。
その様子を見かねたサモエドが一言。
「何処か広い公園のような、ひと気のない場所はありますか?ワン!」
元居た世界では禁じ手となっていた魔法を再び主人に使わせるべく、サモエドは誘導しているのだ。
リスクはある。
しかも大いに。
しかしどうあがいても、もう元の世界には戻れない。
その上この世界でお金を稼ぐには、フロイラインは余りにも無知だ。
しかも結局、何をするにも金は要るのだ。
だから、こうする他ない。
この犬、賢いのである。
「林間中央公園がいいな。空を飛ぶと目立つ。車とやらで案内してくれ。」
二人が答えるよりも先にフロイライン、結論を出していた。
「ちぇっ。しょうがないな。」
宗治、珍しく舌打ちである。
で、宗治がフロイラインとサモエドを、所有する軽自動車へと案内すると……。
「何だこれは!我々はこんなにもせせこましい所に押し込められねばならんのか!」
フロイラインのこの反応には、普段は温厚な宗治も冷たかった。
「嫌なら好きにすればいい。僕達には元々関係のない話だ。」
「仕方ない。よろしくお願いする。」
こうして一行は林間中央公園へと向かった。

(4) 語り: 宗治

「着いたよ。」
下車を促す。
やっと解放されたといった表情剥き出しで、フロイラインなどと呼ばれている女の子と喋るサモエドが飛び降りた。
ドイツ育ちのバイリンガル、といった所だろう。
フロイラインとは随分と古風な呼ばれ方だが、何か含む所はあるのだろうか?
それにしても、喋るサモエドとか大概である。
荒唐無稽にも程があるのだ。
さて、これでようやくこちらも解放されると思ったら、そうでもないらしい。
しかしまぁ、気位の高いお育ちの良いお嬢さま、といった感じははなからしていたが、よろしく頼むと殊勝に頭を下げられれば、こちらとしても助け船くらいは出してあげたくもなる。
「広い公園だからね。使えそうな場所まで案内するょ。」
このフロイライン、魔法使いでありながらも、同時に二つの魔法が使えないようなのだ。
一つ一つの魔法は強力なようなので、痛し痒しといった所だ。
そこでいよいよサモエドの出番。
こいつ、ただの木偶の坊ではない。
いざという時にはなかなか頼りになるという事を、この後思い知る事になる。
フロイライン、錬金術の魔法を使うのだ。
誰かに見られては万事休すだ。
そこでサモエド、辺り一帯に強風を巻き起こして、見える所にまで部外者が近付けないようにしたのだ。
「これで安心。ワン!」
これは効果てきめんだった。
誰にも見られる事なく、金の塊が山のように現れた。
いわゆるインゴットである。
今回金貨でないのは、この世界ではインゴットの方が利便性が高いからであった。
それにしても、壮観である。
額面、五億や十億ではない。
途方もない金額だ。
この魔法は高度で、見破る方法はないらしい。
だからこその禁じ手なのだ。
「半分やる。色々、済まなかったな。」
「え、こんなに要らないし。そもそもこれ偽物じゃないの?」
「嫌なら受け取らなくてもいいんだぞ。強要はしない。感謝の気持ち、それだけだ。」
頭がまたもクラクラするのを感じながら、結局秋嘉のひと押しで受け取る事になった。
一瞬にして富裕層の仲間入り。
まあ魔法で作ったとはいえ、偽物ではないようだから、足は付かないだろう。
こうして秋嘉と僕は、急転直下、お金の問題をクリアしてセレブの仲間入りと相成った訳である。
だが、話はここで終わらない。
フロイラインが切り出す。
「私をかくまってはくれないか?きっと役に立つぞ。」
これはインゴットを受け取る事に決めた以上は、避けられない運命なのだった。
僕ら三人と一頭の共同生活がこれから、始まる。
帰り際、男の子が立っていた。
泣いていた。
丸っこい体型ばかりが印象に残って、顔はこの時には覚えなかった。

(5) 語り : 語り部

霧が深く立ち込めていた。
グライツベルク卿、そんな森の中で一人考える。
あのフロイラインの錬金術、喉から手が出る程に欲しいのだ。
彼女を意のままに動かせないか。
残念ながら唯一その為に使えそうだった母親も、既に亡くなってしまっている。
錬金術が使える魔女は、そもそも数が限られており、殆ど居ないと言っていい。
その中でも、面識があるのはフロイラインだけ。
どうにかならないものか。
諦め切れない。
せめて居場所が分かれば。
こうなる前に拉致しておくべきだったと後悔する、グライツベルク卿。
薄々予感はあったのだ。
それだけに、悔やまれる。
グライツベルク卿の悪い所が出た。
悠長に構え過ぎたのだ。
と、そこへやって来たのは、巨漢の魔法使い、ミルドス。
「グライツベルク卿、何かお困りで?」
グライツベルク卿は考えた。
このミルドスにフロイラインの拉致を頼んで仮に失敗しても、切り捨ててしまえばそれまでの事。
捨て駒には、ちょうどいい。
「ミルドス、フロイラインを探して、私の元へと連れて来い。力づくでも構わん。成功した暁には、金貨を山程くれてやる。」
「かしこまりました。仰せのままに、グライツベルク卿。」

風は様々な者たちの思いを乗せて、思わぬ方向へ吹こうとしていた。
この事態をフロイラインはまだ、知らない。

(6) 語り : 宗治

金が山程あったからといって、それで即座に信用を得られるとは限らない。
僕は考えた。
「高級賃貸マンションは気楽でいいけれど、やはりここは分譲の一戸建てにするか。」
そこへ、秋嘉が一言。
「家の話?僕、タワーマンションがいい!」
なんとかと煙は高いところに上る、ってね。
「一戸建てにするょ。南青山。」
「ふぅん、いいじゃん。」
この子、南青山という響きで納得したに違いない。
まぁいいけど。
ちなみに今は六本木のホテル暮らし。
フロイラインも同じフロアの別の部屋に泊まっている。
ホテルなら金さえあれば泊めてくれるし、何よりセキュリティ面での心配が少ない。
心残りは、サモエドを知人に預けねばならなかった事、それ位だ。
当初予定していた三人と一頭の共同生活には、残念ながらならなかったという訳だ。
この先は一緒に住めるといいな。
可愛いし。
ちなみに、仕事は辞めた。
快適だが、何も自由にはならない。
物も自由に置けないのは、やはり窮屈だ。
大事な荷物は前のアパートに置きっ放し。
いずれは引き揚げなければ、不便で仕方ない。
やはり引っ越しは、必要だ。
そういえばあの後フロイラインから聞いたのだけれど、錬金術の副作用として、魔法を使った者の寿命が縮むというのがあるのだそうだ。
二度も使ったようだけれど、大丈夫なのかな、彼女。

南青山の中古物件。
お値段、七億八千万円也。
即決。
値段の割にこぢんまりとしているのは、南青山という土地柄のせいだろう。
「何だかちんまりとした家だよね、ここ。」
また余計な事を言いなさる、この子。
でも、人が命を削った金で贅沢をしているのだ。
誰に何を言われようとも、何も言えない。
「ねぇ宗治、この家お風呂二つしかないょ。フロイラインも一緒だから、二つだと少ないょ、不便だょ。」
やれやれ、何を言っているのやら。
二つもあるの間違いだ。
どうせ掃除もやらないくせに、思い上がりも甚だしい。
まぁいいけど。
しかし、調子に乗り過ぎだ。

(7) 語り : 語り部

夜、暗闇の公園の上空。
時空間の裂け目が突如現れ、ミルドスが日本に襲来した。
ミルドス、遠方の人や物を探知する能力に長けていた。
その為にフロイラインのおおよその居場所を特定出来た、という訳だ。
危機が迫っていた。
この時のミルドスの頭の中にあるのは、金貨だけだった。
フロイラインがどんなに美しかろうと、関係はない。
金貨さえもらえれば、それでいい。
人並み以上に強い性欲もあるミルドスだが、今は金貨に夢中なのだ。

ミルドスにも、純真な子供時代はあった。
だが、愛する母親の死によって、全ては変わってしまった。
母親は父親の所属するギャングの連中に強姦され、殺されてしまったのだ。
恨みを持った父親も、その流れで厄介払い、殺されてしまう。
ミルドスはその当時から怪力と魔法で鳴らしていたから、復讐は容易だった。
だがその罪でミルドスは投獄されてしまう。
まだ少年だったというのにである。
それ以来ミルドスは、お金以外のものを信じなくなった。
そんなミルドスには、今回の依頼はお誂え向きだったのである。

ミルドスの襲来を、フロイラインは察知した。
フロイラインは考えた。
何処にいても結局見つかってしまうなら、ここに居ても同じ事だろう。
それよりも秋嘉と宗治には、豊富なチラン耐性がある。
これを利用しない手はない。
そもそもこんな時の為に、命を削ってまで生み出したインゴットを、わざわざ差し出したのではなかったか。
遠慮するのもおかしな話だ。

室内ではあったが、チランブーストの魔法陣を描く。
チラン耐性を使ってシールドを張ったのだ。
これでこの一帯の建物と、中の人間は守られる。

やがて、ミルドスがやって来た。
予想通りの展開だ。
フロイライン、最強魔法を最大出力で使うのである。
一撃で仕留められねば、フロイラインの命は危ない。

このシールド、誠に都合が良い事に、外からの攻撃は防いでくれるが、中からの攻撃は素通しなのである。
しかしこのシールドは、延々持つ訳ではない。
徐々に効果は弱まってゆく。
やはり一撃で仕留めねば。
ミルドスが一歩一歩、近付く。
フロイラインは最強魔法を最大出力で使うのだった。

ミルドスにも、確実にダメージはあった。
だがそれ以上に、錬金術を二度も使ったフロイラインの体調が芳しくなかった。
このまま無理をすれば死んでしまう。
そこへ、フロイラインの守護神が現れた。
何の事はない、彼女の母親の霊なのである。
「後は私に任せて、フロイライン!」
「そんな、駄目よ!行かないで!」
「子供を守れなくて、何が親ですか!あなたは満身創痍。これ以上戦うと死んでしまう。そうなったらどのみち私も完全に消えてしまうのよ!」
フロイラインの母がこの戦いで完全に消えてしまうかどうかは、この時のフロイラインには定かではなかった。
大方、話を盛ったのだろう。
だが、この言葉の一撃は、今のフロイラインには効いた。

(8) 語り: 語り部

フロイラインの最強魔法は、母から受け継いだものだ。
当然、母の方が手練れだ。
だが、それでもミルドスを止められない。
居ても立っても居られず、フロイラインも参戦。
ようやくミルドスが苦しみ始めた。
あと一歩だ。
正直フロイライン、倒れる寸前だった。
それでも母を守る為に、時には盾になり、時には矛となった。
秋嘉と宗治のチラン耐性によるシールドは、効いていた。
彼らの尽力がなければ親子はとっくに消えていただろう。

やがて、ほんの一瞬だけ隙が出来た。
チャンスだ。
だが、シールドが切れた。
時間は一刻の猶予もない。
ミルドスは相変わらず、苦しんでいた。
手をこまねいている訳には行かない。
一か八か、勝負だ。
フロイラインは最後の最強魔法を使い尽くそうとしていた。
「駄目ー!」
母が絶叫した。
次の瞬間、母はミルドス目掛けて特攻した。
こんな時の為に母は、非核超高温度熱エネルギー爆弾を手に入れておいたのだ。
爆発。
だが、まだだ。
流石はいっぱしの魔法使いだけの事はある。
しぶといのだ。
もう駄目か、皆がそう思いかけた時、先の魔法使いの男の子が現れた。
魔法陣を描く男の子。
いきなり彼の最強魔法をぶつける。
実はミルドス、男の子の父親だったのだ。
とはいっても先の病院での爆発で亡くなった母を犯して、棄てただけの男。
男の子はその時に妊娠した子供だ。
という訳で、父親には恨みこそあるものの、感謝の念など持った事もない。
病院が吹き飛んだ時に男の子がフロイラインを復讐の対象としなかったのも、犯されそうになってカッとなって起こした事だと、魔法で知っていたから。
自分の母と似たような境遇になるかもしれなかった訳で、そこは思い留まらざるを得なかったのである。

ミルドスはこうして、冥界の門をくぐった。
親子だけあって実力は伯仲していたが、度重なる攻撃を受けて弱っていた分、父親のミルドスにとっては分が悪かったのだ。
先の爆弾の爆発の衝撃で、フロイラインの母の霊は跡形もなく消えてしまっていた。
結局、フロイラインの努力は徒労に終わった訳である。
無力感が、全身を包み込む。

蹲って、苦しそうに嗚咽を漏らすフロイライン。
その場に舞い降りた大天使フローラによると、余命は五年。
「五年!?もう少しどうにかならないの?」
「幾ら何でも短すぎるょ。」
騒ぎ出す秋嘉と宗治に、大天使フローラは淡々と告げる。
「お前達が贅沢な暮らしを今すぐに止めて、フロイラインとミルドスの息子を養うのであれば、その気持ちに免じて出来る限りフロイラインの寿命を長くしてやる。」
まだ子供だったミルドスの息子、行く当てがなかったのである。
それを慮っての、大天使フローラによる提案なのだった。
顔を見合わせる秋嘉と宗治。
二人の気持ちは決まっていた。
「よろしくお願いいたします。」
ここはユニゾンで、息もぴったり。

(9) 語り : 宗治

僕と秋嘉は、再びアパート暮らしに戻っていた。
大騒ぎするかと思っていた秋嘉が、文句一つ言わない。
「大丈夫なのか?」
「女の子に興味はないけど、その命と引き換えに贅沢だなんて、僕には出来ない。ベーネは弟みたいで可愛いし。」
そう、魔法使いの男の子は、その名をベーネと言うのだ。
それはともかく、この子にしては珍しくまともな事を言う。
感心、感心。
「今、珍しくまともな答えだって思ったでしょ!晩飯抜き!」
筒抜けかょ!
そういえばこの子、こんな時に限って勘が鋭いのだった。
やれやれ、おちおち隠し事も出来やしない。
「僕に隠し事をしようったって無駄だょ。こう見えて勘は鋭いんだからね。」
そうですね、以後気を付けます、はい。

フロイラインは、街を歩くとどう見てもコスプレのお姉さん。
職業は魔法使い。
他には出来る事なし。
一般常識も欠けている。
この世界での経歴も白紙。
使えない。
就職なんて出来る訳がない。
どうりで大天使様が、僕に養えと言う訳である。
ましてやベーネはまだ子供だ。
この子もこの先、就職は期待出来そうにない。
どうするか。
その内にマジシャンでもやってもらうか。
しかしまぁ、とりあえずは、僕が頑張るしか!
サモエドはアパートでは流石に飼えないので、引き続き知人に預ける事になった。
知らない人に譲るよりはいいだろう。
知人の元に居れば、時々は会えるし。

「クルード、新しい飼い主の元でも、お利口にしてるんだぞ。時々、会いに行くからな。」
涙、涙のお別れ。
そういえばこのサモエド、クルードっていうんだな。
知らなかった。
しばらく離れ離れになるというのでわざわざ連れて来てくれた知人のミニバンに乗せられて、再び引き取られて行くクルード。
いつまでも手を振る僕達四人。

「さ、早く美味いもの食わせろ、そこの三人。」
偉そうに言い放つフロイラインに、僕が一言。
「それはあなたの仕事。金は出す。美味いと思うものを安く作れ。」
「私に料理など作れというのか!」
「働かないんだから、それ位はしてもらわないと困る。」
「言っておくが、味の保証はしないぞ。作った事がないからな。闇鍋になっても責任は持たん。」
うっ……。
「じゃあ、掃除と洗濯!これは覚えれば誰にでも出来る!やり方は教えるから!」
「仕方ないな、任されよう。」

危なっかしいながらも、掃除と洗濯はどうにかこなすフロイライン。
元々住んでいたアパート、引き払う前で良かった。
2DKなので、一応は四人でも住める。
大黒柱となる僕の仕事はすぐに見つかったので、問題はない。
資格を幾つか持っていると、やはり違う。
一つ問題があるとすれば、わがままな人間が増えた事で、食事の支度が更に面倒になった事だ。
せめて秋嘉だけでも就職してくれれば家計だけでも助かるのに。

「スーパーのかき揚げかょー。海老はどこ?小柱は?ゴボウとか玉ねぎなんて、要らないんですけど!」
「それになんだこれは!油でべちゃべちゃじゃないか!もっとまともなものを出せ!」
「うるさーい!文句があるなら、銘々食べたいもの自分で作れー!」
「頂きまーす!宗治も早く食べないと冷めるょ。」
「そうだ。温かいものは温かい内に食え。」
「そうそう、どさくさに紛れて僕の誕生日祝いまだだったよね?食事とプレゼント、よろしく!」
「当然その食事には私も連れて行ってもらえるのだろうな?」
なんなんだこいつらはー!
最後にベーネが一言。
「駄目だね、君達。」
お前だってパラサイトだー!

(10) 語り : ベーネ

フロイラインは正直憎いけど、同じ状況なら僕でもああしていたかも知れない。
それだけに、何も言えない。
けど、秋嘉やフロイラインが仕事をすれば、せめて宗治も少しは楽が出来るのではないかと思うんだけどね。
二人共、宗治の脛を齧るだけのごろつきのようなものにしか思えない。
「ねぇ、フロイライン。一緒にマジックでもやらない?こんな狭い家にずっと住むの、辛くない?」
「そうだな。飯も不味いしな。」
という訳で、コンビ結成。
その名も、えくすぷれっしょん!

そんなこんなで。
ちゃんちゃん。

WONDER : WONDER シリーズ第五弾。
初の外伝。
前作Beautiful Peopleが重たかったので、さらっと読める明るい内容となるように努めました。
サモエドのクルードや魔法使いの男の子ベーネの出番が少ないのが心残りです。
近頃の僕の典型的な作風となっておりますので、ANNIVERSARY共々、初めての方にはよろしいかと。
ちなみにフロイライン、名前を決めていないのですね。
フロイラインは死語らしいので、いっその事ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ、とかでも良かったのですが……。
タイトルは、よつばと!と、にあみす!からの影響です。
楽しんで頂けましたら、誠に幸いです。
関連記事

最新記事

検索フォーム

QRコード

QR