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三つ子とオウム [後編]

雨がそぼ降る夕方。
双葉君は、三つ子の家へと遊びに行った。
この頃ハム乃助を連れて、こうして三つ子の面倒を見に行く事が多い。
着くとちょうど、三つ子の姉の出勤時間。
いつも通りの同伴出勤、だから早いのだ。
そう、姉は人気者なので、同伴出勤の場合が多い。
昼間もメイクにヘアサロン。忙しいのである。
お店のナンバーワン常連なので収入は多いが、いざという時の為に貯金は欠かさない。
それでももちろん、仕事柄出費は多いのである。
ファッションにも気を遣う。
楽な仕事ではないのだ。

薄暗い廃屋の中。
太った男の子が柱に括り付けられていた。
犯人は一人。
同じ高校に通う同級生。
実は二人は相思相愛なのだった。
だがそれを知らない犯人は、太った男の子が他の奴を好きなのだろうと勝手に思い込み、憎しみから暴行を働こうとしていたのだ。
ブルッフの案内で廃屋にやって来た三つ子と双葉君。
ハム乃助も一緒。
間一髪、セーフだった。
三つ子の次男坊が叫んだ。
「殴らないで!その太った子、君の事が好きなんだ!」
ブルッフに教えてもらった事。
それを聞いて目を丸くしたのは、男の子を括り付けた犯人だ。
目の前の太った男の子は、号泣している。
犯人は、その場に崩れ落ちた。
太った男の子は泣きじゃくりながら、こう言った。
「良かったら、お付き合いしたい。今日の事は、内緒にするからさ。だから、優しくして!お願いだから、怖い事しないで……!」
二人の事が心配なのは、双葉君。
だが、自分達に一体、何が出来るだろうか?
その気持ちを察した三つ子の長男、ある提案をする。

「あの二人、長持ちしそうにないよね。」
「そうだね。嫉妬深いのも程々じゃないとね。」
三つ子の次男坊と三男坊は、こんな感じ。
そこへ例の二人がやって来る。
想定の範囲内の事ではあるが、二人共やはりブルッフとハム乃助が喋るのに、腰を抜かしている。
それは、あくる日の事だった。
太った男の子は椎太、彼を括り付けた子は倫次郎という名だった。
「さぁ二人とも、今日から三つ子探偵団の仲間だょ!」
三つ子の長男の掛け声で、新メンバー加入となる。
もちろんその二人とは、椎太と倫次郎である。
提案とは、この事だった。
これならいざという時に椎太を守る事も、倫次郎を諌める事も出来るという訳なのだった。
「ところでさ。」
何かを切り出そうとする倫次郎。
「何?」
どうせろくでもない事だろうと思い、険しい顔つきで聞き返す三つ子の長男。
予感的中。
「名前変えね?倫次郎探偵団!これで決まり!」
「却下!!!」
ここは三つ子のユニゾンで、リジェクト。
「ちぇっ。つまんねぇ。」
ここでブルッフが口を挟む。
「三つ子の皆さん、彼氏は要りませんか?」
目の色が変わる三人。
「要る、要る!」
「私、可愛らしい三つ子を知っております。三つ子同士、仲良くなれるのではないかと思います。いかがでしょう?」
という訳で、早速会う事になった。

で、ご対面。
「むぅ……。言われてみれば確かに、可愛く見えないような事もない、ような気はするというかなんというか……。」
「でもさ、似過ぎだよね、僕達と。」
「悪くはないというか……なんか複雑。僕達別にナルシスト気取ってないし。難しい。」
向こうの三つ子も何か言いたげではあったが、結局三つ子同士が結び付く事は、その場ではなかった。

それから一週間が経って。
茂みの中で、鈍い音が響く。
悲鳴を上げる間もなく、男は撲殺された。
殺された男の名は、紀美彦。
三つ子の父親だ。
ブルッフの脳裏を、事件の一部始終が駆け巡る。
このブルッフだが、事件のあらましを知る事は出来るが、事前に防ぐ事はほぼ出来ないのだ。
誠に以て残念な事である。

事件の原因は、よくあるもの。
痴情のもつれ、或いは紀美彦による不倫だ。
不倫が発覚してもへらへらとしている紀美彦に腹を立てた妻が、紀美彦を拉致。
目立たない茂みの中で撲殺したのだ。
紀美彦の妻、元アスリートで、紀美彦よりも体力はあったのだ。
だから、こんな荒っぽい犯行も可能だった訳である。
三つ子とその姉の前で、ブルッフは告げる。
「皆様方のお父様が、お亡くなりになられました。不倫が原因で、奥様に撲殺されたようです。」
これに姉、瞬時に沸騰した。
「それが私達と何の関係があるっていうの?不愉快だわ!」

紀美彦はそもそも、健康的で程良くスレンダーな美人が好みだった。
三つ子の母は癌の為に紀美彦の求める容姿を失ってしまい、すぐさま棄てられてしまう。
今の奥さんを差し置いて別の女と不倫したのも、運動をしなくなった元アスリートという事で、太ってしまったのがその原因だ。

「犯人、捕まえようよ!」
三つ子の長男が叫ぶ。
「そうだ、そうだ!」
次男坊と三男坊もこれに同調。
だが、姉がそれを遮った。
「そんな必要ないわよ!みんなして余計な事を言うんじゃないの!」
これに長男が反抗。
「お母さんを棄てようがどうしようが、お父さんである事に変わりはないでしょ!せめて犯人を捕まえる位の事はしなきゃ駄目なんじゃないの?」
ぐさりと、突き刺さった。
「あんたに何が分かるのよ!」
そう言って、姉は泣き崩れた。

空を悠然と滑空する鷲。
ターゲットを見つけると、一目散に襲い掛かる。
相手は、紀美彦を殺害した元アスリートの女。
女は一瞬の事で成す術もなく、絶命するのだった。
鷲は同じ鳥類であるオウムのブルッフの、盟友だ。
ブルッフの呼び掛けに応じて、馳せ参じたのだった。
これはもちろん、動物が人間を襲っても、逮捕される訳ではなく、逃げ果せる事が出来れば無罪放免も同じだから可能な技だった。
「俺はしばらく姿を隠す。あとは上手くやれ。」
これにはブルッフも感謝せざるを得ないのだった。

複雑なのは三つ子の姉の感情だ。
元アスリートの女の事は憎かった。
だが、父・紀美彦への感情も、容易ならざるものがあったのだ。
こんな時、陽気な三つ子の振る舞いは、姉の心を癒やす。
ポルカにタップ、思い思いのダンスを披露する三つ子。
こんな時によく踊れるものだと呆れながらも、その様はコミカルで、頑なだった姉の心も綻んだのだった。

半年後。
三つ子の姉に、幸せが舞い込んだ。
結婚したのだ。
相手は年上で、お店のお客さん。
自分の事を一人の人間として見てくれた事が、姉は内心ではとても嬉しかったのだそうだ。
厳しい仕事で得た、掛け替えのない出逢い。
一本芯の通った、骨太な男との出逢いが、姉の人生を好転させる。
そもそも結婚相手、お金はそこそこといった所だったが、決して低収入ではない。
三つ子の事も受け入れてくれたし、十分に育てていけるだろう。
結婚相手としては、申し分なかったのだ。
姉とその婚約者、そして三つ子とで、早速食事会を開いた。
場所は焼肉店。
みんな大好物なのだ。
もちろんお会計は、婚約者持ち。
特上ハラミに特上ロース、特上カルビ、特上タンにホルモン、カルビクッパまで。
お肉はサンチュで包んで食べる。
それにしても三つ子の食べっぷりは、なかなか壮観だ。
婚約者、苦笑い。
二人は、経済的に成り立たない事もあり、自分たちの子供は作らない事にした。
何しろ、三つ子は金が掛かるのだ。
もちろんそれだけではなく、三つ子の心情を慮っての事でもあった訳なのだが。

小さな教会で、結婚式。
旦那の親族や、姉の仕事仲間が祝福してくれる。
姉は涙を溢れさせていた。
化粧が取れるのもお構いなし。
ここまで頑張って来て本当に良かった、そう思っていた。
まさに、感無量だった。

ある休日の午後。
三つ子の姉が憧れだった優雅な専業主婦ライフを満喫する中で、事件は起きる。
「パリーン!」
遠くからサイレンサー付きの銃で銃弾が撃ち込まれ、ブルッフの羽をかすめたのだ。
瞬時に身の危険を察したブルッフ、辛うじて大きな怪我は免れた。
このように、すぐ先の未来なら、場合によっては予測出来る事もあるブルッフ。
普段は全く役に立たない能力ではあったが、この時は身を助けたのである。
銃撃して来た相手は、すぐに分かった。
たまたま通り掛かった折、盗み見る事でブルッフの能力を見抜いた、とあるヤクザだ。
高く売れる、そう踏んだのだ。
つまり、もともと殺すつもりはなかった。
ブルッフが避けたのも、織り込み済みの事だったのである。
おずおずと、ブルッフは申し出る。
いいカモになろうとしていた。
これもヤクザにとっては想定の範囲内の出来事。
「私がここにおりますと皆様にご迷惑をお掛けする事になりますので、これにて失礼させて頂きます。」
これに三つ子の姉、激昂した。
「自分一人で不幸を背負い込むなんて、ガキのする事よ!頼れるものには何にでも頼る、それが大人の生き方ってもんでしょ!」
ブルッフ、心を打たれた。
ここで骨をうずめよう、そう思った瞬間だった。

という訳で、三つ子探偵団、姉も連れての出動である。
ブルッフの案内でヤクザのアジトを発見。
三つ子と双葉君、椎太君、倫次郎君は陽動、姉は万一の事態に備えて物陰に待機。
場合によっては警察に知らせる。
で、ブルッフの盟友の鷲が隙を突いて、ヤクザを仕留めるのだ。
危険なので今回はブルッフは帰宅、ハム乃助と仲良くそのまま留守番だ。
ブルッフは三つ子の盾になると言い張って聞かなかったのだが、姉が無理矢理にブルッフを捩じ伏せた。
アジトの前で三つ子が叫ぶ。
「おい、そこのヤクザ!よくもうちのオウムを襲ってくれたな!出て来い!警察には通報した。黙って隠れていても無駄だぞ!」
或いはそのまま隠れていれば、ヤクザ達は助かったのかも知れない。
だが、頭の良くない連中だったようで、ノコノコと出て来てしまう。
鷲は仲間を集めていた。
五人のヤクザと、七羽の鷲。
勝負あった。
ここで三つ子の姉が警察に通報。
ヤクザ達の命を奪う事まではせずに、鷲達は去って行く。
「今度僕達を狙ったら、その時は本当に命はないぞ!」
三つ子の長男が凄むので、ヤクザ達は震え上がった。

ヤクザ達は無事に捕まった。
三つ子の姉達への取り調べも無事に終えて、皆で帰宅。
もうすっかり夕方だ。
「双葉君、椎太君、倫次郎君、寄って来なさいよ。家には連絡しておくから。ビーフシチューを作るの。旦那も帰って来るから、みんなでわいわいやりましょ!」
三つ子の姉の旦那は、休日出勤。
不倫ではないので、悪しからず。
「あーあ。ガラス割れちゃって。誰が弁償するのよ、これ。ヤクザ達に請求したい位だわ。」
帰るなり嘆く三つ子の姉。
「まぁま、事情を話せば払ってくれるょ。太っ腹の旦那様が。」
「でも、お転婆したから怒られるかも。あんた達も覚悟なさい。」
そうこうしている内に、三つ子の姉の旦那、帰宅。
「父ちゃん、お帰り!」
三つ子は姉の旦那の事を、父ちゃんと呼んでいた。
心の広い旦那の事、すんなりとそれを受け入れたのだった。
「父ちゃん、姉ちゃんから話があるんだ。」
「どれどれ。何でも話せー。」
そこで、今回起こった事の顛末を話す姉。
その表情は険しかった。
で、旦那はというと。
「無茶するなよー。身体は大丈夫なのか?いざという時には、俺の事を頼ってくれていいんだぞ。」
その瞬間、三つ子の姉は泣き崩れた。
「パパは駄目!あなたが居なくなったら、私どうすればいいの?あなたは大黒柱なんだから、しっかり働いてくれれば、それでいいの!」
子供のように泣く三つ子の姉を、旦那はしっかりと抱き締めた。

パーティーは盛況に終わり、双葉君と椎太君、それに倫次郎君は帰宅した。
三つ子は考えていた。
もう一組の三つ子と付き合ってみても良いのではないかと。
もう一組の三つ子、蘭児、綾太、三津吾郎も同じ事を考えていて、例によってそれはブルッフに筒抜けで。
またもや自分を守ってくれたこの家の人たちへの感謝の念も込めてのブルッフの取り成しで、三組のカップルが成立した。
どちらの三つ子も互いの顔は良く似ているのだが、微妙な性格の違いが相性の良し悪しを分けた。
それを見透かして、ブルッフがカップリングしたのだ。
それ以来、二組の三つ子達は互いの家を入り浸るようになった。
姉は言う。
「いい事、キスまでよ!あんた達まだ子供なんだから、あんな事やそんな事はまだ早いのよ!」
「自分達はやってるくせに。声、聞こえてるょ。」
そこで姉の旦那が一言。
「引っ越すか!」

姉の旦那の鶴の一声で、引っ越しが決まった。
これまで住んでいたアパートの近所に、4LDK・三階建ての戸建てを買ったのだ。
三つ子も一人一部屋もらえた。
そろそろ思春期に突入する三つ子だけに、ちょうどいいタイミングなのだった。
引き続き双葉君や椎太君、倫次郎君、それにもう一組の三つ子も通える距離だ。
都会にありがちな狭小敷地の一戸建てなのであるが、贅沢は言えない。
姉は旦那に、心からの感謝をしていた。

双葉君、ハム乃助と並んで夕陽を見ていた。
今日は三つ子一家にご馳走になるのだ。
「双葉、早く彼氏が見つかるといいね。」
「うん。」
それだけの会話。
でも、じんわりと温かい。
と、ここでハム乃助、とんでもない事を言い出す。
「僕が恋のキューピッドになってあげる。三葉くんだっけ?彼の近くに連れて行って。明日にでも早速、GO!」
だが双葉君は気が乗らない。
相手の気持ちを無理矢理に変えてまでお付き合いしようなどとは、どうしても思えなかったのだ。
結局、この話はなかった事になった。
仕方ない。
どうにもならない事も、世の中にはあるのである。
「双葉は、それで本当にいいの?」
「ハム乃助が居てくれるから、それで平気だょ。」
ハム乃助、この後珍しい位に双葉君に甘えるのだった。

翌日はもう一組の三つ子が、それぞれのお相手に逢いに来ていた。
するなと言われればしてみたくなるもの。
初体験を済ませたのである。
場所があるというのは、二組の三つ子にとっては本当にありがたかった。
無事にすべき事を済ませたお陰で、絆がより太くなったのだ。

更に翌日は、椎太と倫次郎が遊びに来ていた。
お互い、浮気など考えもつかない。
仲睦まじい二人なのである。
二人は、三つ子とブルッフに心からの感謝をしていた。
その証として、プレゼントにという事で、銀座丸福堂の羊羹を持って来た。
姉が切って、その場のみんなで食べる。
いつも仕事で忙しくしている姉の旦那だが、この日はたまたま休みだった。
「美味い!」
旦那も大喜びである。
二人、オウムのブルッフには果物を持って来た。
「ありがとうございます。また何かありましたら、何なりとお申し付けください。相談に乗ります。」
ブルッフも、上機嫌だ。

その夜。
三つ子は、新居の三階の小さなベランダに出て、星空を眺めていた。
「そこ、邪魔!もっと向こう行って!」
「そっちこそ邪魔!どいて!」
「あぁもう!うるさーい!」
やっぱりロマンチックなムードとは無縁の三人なのだった。
長男の肩には、ブルッフが乗っている。
そこへ、椎太と倫次郎がやって来た。
「みんな、ありがとうな。」
倫次郎の言葉に、満更でもない三つ子とブルッフ。
こうして、皆それぞれに幸せを掴もうとしていた。

そんな中、双葉君の通う大学で、ちょっとした事件が起こった。
三葉君から双葉君に、友達にならないかと誘いがあったのだ。
断る理由などない。
三葉家としても、自分たちの経営するグループには劣るものの、日本橋の老舗商店の跡取り息子だ。
友達としては、悪くないのだ。
この後どうなっていくのかは、誰にも分からない。
ただ、運命の歯車はハム乃助の力を借りずとも、回り始めた。

温かな風が心地のいい季節、幸せへの入口は、もうすぐだ。

-完-

三つ子とオウムの後編となります。
いつの日かこのシリーズの新作をまた書けたらいいな、そんな風に思ってはいますが、まだまだ先の事になりそうです。
双葉君と三葉君、このお話では友達止まりとしました。
急に付き合い出すとか、現実味がないからです。
三葉家の両親の事もありますから、付き合う事になるかどうかは微妙。
その辺の事は、まだ話にするかどうかも全く決めておりません。
兎にも角にも、楽しんで頂けましたら、誠に幸いです。
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