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GREEN : GREEN [TE]

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[Part 1 : 語り - キッフル]

白い霧が森を覆い、道なき道、進む僕ら。
立ち往生、視界はゼロ。
誰の声も聞こえなくて、森の中でふたりぼっち。
疲れ果てて、しゃがみ込んだ。
霧が晴れたら、前に進もう。
そう言い聞かせ、そのままそこで、眠りに就いた。

「んぁ……。」
気が付くと、木の葉の隙間から漏れる陽の光が眩しかった。
霧は晴れ、太陽は天辺から僕らを照らし出す。
「ねぇポッコイ、起きて!」
「あーもー何だよキッフル……って、もう昼か!腹減ったなぁ。」
「歩こうょ。街に着けば何かはあるから、さ。」
「そだな、、、うげぇ!上着に虫、付いてる!」
「わ!わ!何だこれ!うわぁー!」
パンツの中にまで虫が入り込んでいたので、もう大変!
その場で全裸になって服を叩く僕ら。
するとその横を、間の悪い事に三台のリムジンが通りかかる。
僕らの惨状を見てか、真ん中のリムジンから人が降りて来た。
「うわ……。」
その男、ブロンドの豪奢な長髪をたなびかせて、僕らの苦手なオーラを漂わせる。
「何この貴族的な感じ。」
「貴族だろ。よりにもよってこんな時に!」
全裸で囁き合っていると、当然の如く冷たい一言を浴びせられる。
「服を着ろ。」
良く通る声だった。
僕らは慌てて服を身に纏うと、一礼して詫びた。
「詫びはいい。卿らの裸体は特段穢らわしい訳ではなかったが、余の趣味には合わんのでな。見た所、遭難したようだな。街まで乗せて行ってやる。最後尾の車の後部座席が空いている。乗れ。」
「はいっ!」
ここはユニゾン、即答で。

車中。
「助かったな、キッフル。いつの間にかヴァルクラインに入り込んでいたんだな。」
「え!?て事は、あの長髪男は、皇帝!?」
「左様でございます。坊ちゃん方。」
ポッコイよりも先に、感じの良い運転手の男が、さらりと答えてくれた。
「若いんだねー。ビックリしたょ。僕は苦手だけど、モテそうな感じだよね。」
「だな。美男子の最右翼、俺様みたいなものだ、な。」
「ちょっと、何言っちゃってんのー!自分で自分の事を美男子だとか、頭おかしいじゃんねぇ。どの顔が言うか!」
「キッフル、お前、俺の事嫌いなのか!」
「そうは言わないょ。僕、美男子とか嫌いだし。ブス専なの!」
「マジか……。ごめん、俺今、ショックで立ち直れない。」
「いちいち間に受けないでょ。嫌だなー。」
その時、キッと睨まれた僕。
大蛇に睨まれた気分だ。
「ハッハッハッ!若いですなぁ!」
運転手さんは上機嫌で僕らの遣り取りをあしらった。
やがて、車列はヴァルクライン帝都ハーレスの目抜き通りに差し掛かる。
路肩に寄る三台。
前の車からは、皇帝が直々に降りて来た。
扉が開く。
慌てて降りる僕ら。
そこに皇帝が。
「通行手形だ。持っていないのではないのか?卿らにはこれをやろう。何処でも通用するという訳でもないが、あれば役に立つ事もあろう。それと、金貨だ。金はあるに越した事はない。無事を祈る。では。」
皇帝一行を乗せた車列が、颯爽と走り去って行く。
金貨の袋は、ずしりと重たかった。
「スゲーな……。」
「格好良い……。」
惚けて暫く見ていると、後ろからクラクションが鳴る。
邪魔だったらしい。
急いで歩道に上がる。
「賑わってるなぁ。道路も片側五車線だし、歩道も幅二十メートルはあるし。これは凄いな。」
「すっかりお上りさんだね、僕ら。」
これまでに見た事のない光景。
そこは、目眩いがする程の大都会だった。

[Part 2 : 語り - キッフル]

暫し散策する僕ら。
僕らの旅の目的地は、そもそもがヴァルクラインではない。
スプルース・フォレストに出来たネイチャーセンターを観たかったのだ。
本当は、気軽な国内旅行のつもりだった。
当然、通行手形など持っていなかった。
そう、僕らはスプルース・フォレストの国民なのだ。
よって、自国にはいずれは帰らねばならない。
しかし、もう日が傾いている。
まずは今宵の宿を探さねば。
と、そこへ。
「キッフルー!ポッコイー!おーい!」
キリルとプリムがやって来た。
彼らとは、地元に最近出来た同性愛友の会で知り合った。
旧知の仲という訳ではないが、交流は密である。
それにしても、彼らもすっかりお上りさんだ。
「やぁ!キッフル、ポッコイ、五日ぶりだねー!」
「二人共可愛いねー。それはそうと、人が多過ぎて歩くのが怖いよ。僕ら、今夜泊まる宿を探してるんだけど、行けども行けども五つ星ホテルしかなくて、困ってたんだ。」
「僕らもちょっと探してみたんだけど、安いホテルが一つもなくて。困っちゃった。」
キリルはそう言うと、匙を投げてしまう。
しかし、野宿は危険過ぎる。
こんな時には、金貨の出番だ。
「ジャーン!ヴァルクラインの皇帝から直々に賜った金貨が山程。」
結局、電話を掛けまくって、部屋を見つけた僕ら。
そこは帝都ハーレス随一のホテルで、四人部屋らしい。
早速、手持ちの金貨でデポジットを支払って泊まる事に。
「お荷物をお持ちいたします。どうぞこちらへ。」
入口に近付くと、ポーターがやって来て手荷物を持ってくれた。
そのままチェックインして、鍵を受け取る。
それにしても、物凄い金額。
皇帝から賜った金貨がなければ、どうなっていた事やら。
ポーターの案内で、部屋へ。
「や、なんか広いぞ。リビングとダイニング、それにキッチンがある。ベッドもでかーい!」
「凄いねー!一週間位泊まっていこうよ!バカンスバカンス!」
僕もポッコイも、思わずはしゃいでしまった。
そこへ。
「あれ、お馬鹿さん達。飼い猫のピコはどうするの?忘れ去ってない?」
「酷いよねぇ。飢え死にさせる気なの?」
キリルとプリムが鋭いツッコミ。
そして。
キリルとプリムは更に続ける。
「僕らも明日には帰るょ。鉢植えの手入れもしたいし、お金もないし。」
「元々日帰りの国内旅行だった筈なんだ。それが道に迷って、王族の乗る車に拾われて。それでここまで来ちゃった訳。」
ほう。
すかさず、僕が突っ込む。
「もしかして、ネイチャーセンターに行こうとしてたとか?だったら、僕らもおんなじだょ!僕らは皇帝に拾われたんだ。道、分かり辛いよねー!」
「あー!なるほどね。で、馬鹿四人の珍道中、みたいな。あの王族、通行手形しかくれなかったよね。ケチんぼ。」
この頃ちょっぴり口の悪いキリル。
この日も毒がある。
斯くして一行は、ヴァルクラインの帝都ハーレスにて一夜を過ごす事になった。

「ふぅ。」
まずは、ホッと一息。
ベッドルームを、改めて見回す。
ベッドリネンの趣味が良い。
高そうだ。
と、ここで。
「さぁ馬鹿共、SEXするよー!」
キリルが叫んだ。
残された僕ら三人は、開いた口が塞がらない。
「まさか、この四人でするっていうの?」
辛うじて言い返す僕。
キリルの返答は、身も蓋もないものだった。
「当然でしょ!4P、4P!」
これには流石の僕も、頭が痛くなってきた。
すかさずフォローしてくれたのは、プリムだ。
「世間一般的には、僕ら四人は少なくとも体型的には、不細工という事になっていると思うよ、キリル。そんな四人が寄り集まって暑苦しくも4Pだとか、絵面が悪過ぎるでしょ。やめよ、ね!」
これを受けたキリルは途端に沈み込んでしまった。
「そうだよね。そうなんだよね。所詮はチビデブだもんね。いいんだ。その代わりにみんな、抜け駆けは許さないょ。置いてけぼりにしたら、恨むよ。呪い殺すよ。」
もうね、抜け駆けとか何の話やら。
全員、シャワーを浴びて。
ホテルのレストランで夕食。
ディナーブッフェだ。
が。
中を覗くが、四人だけ服装が浮いている。
「出直すか。」
「うん。まずは服を買おう。」
僕とポッコイの出した、当然の結論。
「そもそもお前らよくこのホテルに入れたね、って感じか。最低だ。」
キリルはご機嫌斜め。
「でも、服を買おうにも、服屋に着ていく服がなくない?」
プリムの鋭い突っ込み。
しかしまぁ、四の五の言っていても仕方ない。
ここは取り敢えず、行ってみるしか!

で。
着きました。
ブティックに。
見るからに高そう。
これでもこの辺りでは一番入り易そうな店だったのだが。
お金は金貨があるとしても、そもそも売ってくれるのか?
サイズはあるのか?
疑問は山積。
でも取り敢えず、レッツゴー!
「こんばんは。何かお探し物で。」
挨拶がいらっしゃいませじゃない!
まぁ、八百屋じゃないもんね。
しかし何だかこの店員、冷ややかなオーラを醸し出している。
「頭の天辺から爪先まで、ホテルで浮かないコーディネート一揃い、四人分!出来るだけ安く!すぐに見立てて!」
「かしこまりました。」
ここはキリルが仕切るのだった。
なかなかの気迫で、店員のオーラを振り払った。
で、各々試着を済ませて、合わせてのお会計。
ちなみに、残念ながら裾上げをしている時間はなかった。
よってボトムスは、ロールアップしてもおかしくないものをチョイス。
お値段。
「うげぇ。ゼロが一個多い……。」
僕とポッコイは、目が点。
プリムも頭が痛いようだ。
そんな中、一人冷静だったのがキリル。
「キッフル、早くその金貨の袋、貸して!」
「あいょ。よく冷静で居られるね。まぁ払えない事はないけど。」
「こんな泡銭、使い切っても文句はないでしょ!」
まぁ、それはそうだ。
ここで、調子に乗った店員。
「金貨をその袋でお運びになりますのは不安がございますから、よろしければこちらのクロコダイ……。」
「……要りません!」
四人の意志が、ここで揃った。
値段など見なくても分かる。
あんなものをいちいち買っていたら、早晩金貨が底を突くのだ。
しかしそれにしても、何処を見回しても高そうな店ばかりだ。
「ヴァルクラインの普通の人は、何処に居るのかな?何もこんな高い店で揃えなくても良かったんじゃ?」
僕の素直な疑問。
ようやく気付いた事。
が。
「ヴァルクラインって、場所によっては凄く治安が悪いの!皇帝もそれを知ってて、この辺で二人を下ろしたんでしょ。金貨が多かったのもその為だよ。」
キリルの突っ込み。
冴えている。
いつもはお馬鹿なのに。
そう思ったのは、僕だけではないようで。
「キリル珍しく冴えてるねー!これは土砂降りかもね。」
今度は、プリムの突っ込み。
これには流石に……。
「雲一つないから!馬鹿!」

さて。
会計を済ませた僕らは、着替えをその場で済ませ、古い服は処分を依頼。
そして、店を出ると、ホテルへと直行する。
お腹が空き過ぎて、背中とくっつきそうなのだ。
エントランスで。
手荷物がないのでポーターは現れない。
で。
白髭のドアマンが一言。
「お帰りなさいませ、ごきげんよう。見違えました。エクセレント!」
合格らしい。
面倒臭いな。
でも、これで。
待ちに待った夕食タイムだ!
このホテルは個室レストランからブッフェまで、食事の選択肢が豊富だ。
もちろんここはリーズナブルなブッフェを選択。
幾らかは気安いしね。
「見て!キリル!ローストビーフだよ!カットしてくれてる!並ぼうよ!」
プリムの目が輝いている。
正直、可愛い。
4Pしても良いのではないかと一瞬思ったが、ここは我慢だ。
彼らとは末永く親友で居たいのだ。
身体の関係を持ってしまうと、それも難しくなる。
さぁ。
テーブルを囲んで仲良く、ローストビーフだ。
べらぼうな値段を吹っかけるだけあって、うんまいうんまい。
ステーキもある。
それはもう、素敵だ。
サラダやマリネも、種類がある。
フォアグラもあったりして、充実しているのだ。
トリュフやキャビアを使ったメニューも多い。
さすがはハーレス随一の五つ星、伊達じゃない。
スイーツも豊富。
ここぞとばかりに無心で食べる四人。
元は取れないにしても、少しでも味わっていたい。

で。
満腹である。
ご馳走様でした。
美味しかったはずなのだが、一人キリルは不満顔。
「ちぇっ。こんな豪華なホテルに泊まってSEXも出来ないなんてさ。つまんない。万死に値する禍々しさだよ。天への冒涜。やっぱり4Pやろうよ。やってくんないと、一晩中大騒ぎするから。寝かさないから。」
「無理!」
三人の声が揃った。
見事!
これには流石のキリルも、すごすごと引き下がるのであった。
キリルは昔よりも随分と社交的にはなったらしい。
基本的には良い事なのだが、毒気と我儘が残念な所だ。
ブッフェ会場のレストランを後にした僕ら。
ホテル内のスパの室内温水プールで泳ぐ事にした。
ヴァルクラインは比較的寒冷な地なので、外にプールを作っても意味がないのだ。
四人共そこそこ泳げるので、楽しめた。

[Part 3 : 語り - 語り部]

その頃、スプルース・フォレスト国内では、ミスティ・レインフォレストへの侵略の準備が着々と進みつつあった。
そしてその事は程なくして、ヴァルクライン皇帝の耳にも入る。
「余は平和の為にわざわざスプルース・フォレストとの軍事同盟を結んだのだ。不可侵条約があるから、余はスプルース・フォレストには加担出来ない。むしろスプルース・フォレストを直ちに併合すべきではないのか。軍務尚書、どう思う。」
「陛下の御意のままに。」
「事態は決した。我が国は、余の思いを踏みにじったスプルース・フォレストを討伐する。直ちに機動部隊司令長官に出動を要請せよ。全軍を以ってスプルース・フォレスト軍を討つのだ。」
「御意。」
ヴァルクラインの軍は、百獣の王に喩えられる。
世界最強の軍であるのだ。
だが、実の所皇帝は、どちらかと言えば軍事衝突を嫌っていた。
スプルース・フォレストの首脳部は重大な勘違いをしていた。
不可侵条約があったとしても、それを破棄して協力をしてくれると思っていたのだ。
それが同盟であると。
これはまさに痛恨であった。
皇帝の人となりを、完全に読み違えていたのである。
そもそも皇帝は、無駄な犠牲は出したくなかったのだ。
だからこそ、知謀で事を動かす事の出来る軍務尚書を重用するのだ。
犠牲は最小限に、効果は最大限に。
それが皇帝のモットーであった。

そこからは電光石火であった。
ヴァルクライン機動部隊が全軍出撃。
皇帝が自ら陣頭指揮を執った。
空中補給機や、最新鋭の垂直離着陸型ステルス汎用攻撃機、空中大型空母などが進軍。
陸上からも、移動式ステルスICBM発射台などがスプルース・フォレストを射程に入れた。
このステルスICBMはAIを用いて、目標を自動追尾する。
高速で装甲も分厚くレーダーにもかかりにくい為、迎撃は容易ではない。
大量のステルス装甲四脚戦車も初の実戦投入となった。
言うまでもなく、目標は民家ではない。
軍事要衝や政府関連の建物だけを速やかにピンポイントで奇襲するのだ。
「余の思いを踏みにじった報いだ。せいぜい苦しむが良い!」
ミスティレイン・フォレスト、スプルース・フォレスト、ファルテニア、そしてヴァルクライン。
四国とも軍事大国ではあるが、軍備の近代化で頭一つ抜きん出ているのが、ヴァルクラインだ。
皇帝の陣頭指揮は、見事であった。
驚くべき早技で、スプルース・フォレスト軍に反撃の機会を与えない。
ミサイルによる対地攻撃もあり、壊滅状態に陥るスプルース・フォレスト軍。
「今生きている中で、投降する者は許してやる。まさかこの後に及んで、抵抗する者はおるまいな。」
結局、スプルース・フォレスト軍は全軍が投降する事となった。
ここに、国家としてのスプルース・フォレストは消滅する事となった。
尤も、スプルース・フォレストという森の名前まで変わる訳ではない。
この件に関しては、森の神は静観していた。
スプルース・フォレストがこれでより良く発展して行く、そんな確信めいた思いが森の神の中にあったからだ。

[Part 4 : 語り - キッフル]

戦争が終わった。
実はこの戦争のせいで、僕とポッコイ、キリルとプリムは足止めを食らっていた。
金貨にはまだ余裕があったのだが、しかし。
僕は飼い猫ピコが気になっていた。
「大丈夫かな。心配だょ……。」
俯く僕とは対照的に、ポッコイは楽観的だ。
それには理由がある。
「俺達、方向音痴だろ?何日か帰れなくてもいいように、餌と水は大量に置いて来たんだ。大丈夫!心配すんな!」
「流石はポッコイ!冴えてるねー!ありがと!良かった。」
「まぁ、お前が俺を褒めるのって、こんな時位だからな。正直、満更でもない。」
ここでキリルがちょっとビックリするような提案をする。
「4Pはともかく、良かったらうちの丸太小屋で暮らしなよ。ピコも一緒に。四人の方が、毎日賑やかで楽しいよ。」
これにはプリムも同調。
「今まではキリルの、今は亡きおじいちゃんの遺産を取り崩して生活してたんだけどさ。キッフルとポッコイに生活費を入れてもらえると、僕らも助かるな。」
僕とポッコイは靴職人。
十五の頃から十八になるまで、親方の元で修行をしていた。
今は独立している。
「もちろん、仕事は続けるつもりだよ。小さくていいから、工房の為のスペースが取れるといいな。そうなれば心配は要らないんだ。」
「あるよ!取り敢えず今日は仕事の事は忘れて、乾杯しようか。」
プリムが乾杯の音頭。
「パーティーしようょ!キッフル、ポッコイ、二人共二十歳だっけ?沢山飲んで天国へGo!」
キリル、調子に乗ってパーティーへの誘い。
ルームサービスでパーティーとはねぇ。
もうね、金銭感覚が完全に麻痺している。
一方の僕とポッコイ。
「明日チェックアウトだね。デポジット、足りるかなぁ。」
「大丈夫だろう。死ぬ程払ったからな。まぁ何とかなる。宿泊代は払ってあるしな。戦争も長引かなかったし、皇帝様々だな。」

翌日。
清算。
足りて良かった。
昨夜パーティーで高い酒をポンポン空けなければ、結構戻りがあったのにな。
ちぇっ。
でもまぁ距離は長いが、それでもタクシー代位は残った。
帰りの足は確保出来たという訳だ。
「引越し荷物の運搬は、後日業者さんに頼めば良いよ。道に迷うといけないしね。お馬鹿な方向音痴さん。」
キリル、この頃こうして腐すのだ。
自分だっておんなじだっつーの。

帰宅。
こうして、四人での共同生活が始まった。
「ねぇー、誰か歯ブラシ盗ったでしょー!こんなのいじめだ!一日中歌、歌っちゃうもんね。」
「それはやめて!キリル、戸棚に新しい歯ブラシがあるよ。それ使っていいからさ、まぁ機嫌直してよ。」
「良いけど、お気に入りのが良かったな。ちぇっ。大体僕の歌は聴きたくない訳?」
ここでも少しばかり悪態をつく、キリルなのであった。
ちなみにキリルは、大の音痴なのである。
声は綺麗なのだが、何しろ音程を外す。
僕も歌っている時に出くわした事があるから、知っている。
聴いていられないのである。
「あ、歯磨き粉も違ーう!すぐに買ってきてー!」
「今は無理ー!お店も開いてないし、朝食作りで手がはなせないのー!それよりキリルも朝食作り手伝って!」
プリムの気迫に押されて、歯磨きの後、渋々手伝うキリル。
キリルは料理はお手の物。
おじいちゃんが生きていた頃は、毎朝毎晩、作っていたらしい。
今では、寝起きですぐでは面倒臭いので、朝食はプリムに任せる事も多いようだが。
ちなみに、僕とポッコイは、もう仕事を始めていた。
朝は早い二人なのである。
こんな感じで、口の悪い者も居るが、みんな仲良しだ。
これから訪れる未来に思いを馳せながら、僕ら四人は共に生きる道を選んだ。
この共同生活は、きっと末永く続く。
明るい未来への道に足を一歩踏み入れた僕ら。
まさに、幸せの只中にあった。
ただこの日常が、ずっとずっと続くように、僕らは心の中で祈り続けるのであった。
ある春の日の出来事であった。

ちなみに、ピコはどうしたって?
四人の元で元気いっぱいですよ。
ちゃんちゃん。

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