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三つ子とオウム [前編]

空が傾いていた。
澄み渡った茜色の空が美しいのだが、それをぶち壊すように子供達がいつにも増して騒がしい。
子供達は、三つ子だった。
珍しいのである。
三人共、現在十歳。
「うるさーい!すぐに静かにしないと、晩飯抜きー!」
あまりにうるさいので、年の離れた姉の叫び声が聞こえた。
まぁ、いつもの光景ではある。
三人を養う為にキャバクラにお勤めのお姉さん、とても美人な上に気立てが良くて、若くはないにもかかわらずお店では大変な人気である。
姉の年齢は二十六歳。
六年前からずっと、今のお店で働いている。
さて、三つ子の今夜の献立はカレー。
三つ子が大好きな上に、一旦夜に作って食後に残りを冷蔵庫に入れてしまえば、温め直すだけで朝食としてもいけるのであるから、都合が良いのだ。
作るのに時間も掛からないし、たっぷりの量をお安く作れるので、家計にも優しい。
栄養面からも、悪くない。
「じゃ、私行って来るから。ちゃんと助け合うのよ。」
「はーい!ラジャー!」
返事だけは一丁前な三つ子なのだった。
で、早速食事の件で揉めるのである。
毎日毎日、懲りずに繰り返される光景。
で、姉が帰って来ると何食わぬ顔で平静を装うのだから、タチが悪い。

母は癌で早くに亡くなってしまった。
享年三十九。
健康的でとても美人だった母だが、みるみる窶れていって、半年も経つと以前の面影はなかった。
亡くなったのは、それからすぐの事だ。
姉は母に似たから、美人なのだ。
父は母が亡くなった時には既に離婚しており、早くも新しい家庭を築いていたから、頼るに頼れなかった。
以来姉が、自らを犠牲にしながら三つ子の面倒を見ていたのである。
だが、悪い事ばかりでもなかった。
何だかんだ言っても、子供はやはり可愛かったのである。

霧雨の夜。
白いオウムが羽ばたいた。
飼ってくれる家を探している。
オウムの目に、小さなアパートが留まった。
三つ子の家だ。
彼らの関心を引くのは容易い、それは見てすぐに分かった。
このオウム、賢いのである。
三つの影が蠢く。
その様子だけで、子供が三人居ると分かったのだ。
窓の外の手すりにオウムは留まり、カーテン越しに中の様子を伺う。
三つ子の中の一人が、オウムに気付いた。
「ねぇ兄ちゃん!外になんか居るょ!」
「あ、ほんとだ。追っ払ってやる、待ってろ。」
三つ子の長男が、布団叩きを片手にカーテンを開ける。
ご対面だ。
「おわっ……何だこれ、オウム!?」
チャンスだ。
すかさずオウムは喋り掛ける。
「皆さん、こんばんは。私の名はブルッフ。もし良かったらお友達になりましょう。飼ってくれると嬉しいのですが、いかがですか?」
オウムは、野良として暮らした事はなかった。
前の飼い主が急逝したため、新たな飼い主を探す旅に出ていたのだが、当座の餌を探すのにも一苦労。
残念ながら遺族に飼ってもらえる望みもなく、焦っていたのだ。
三つ子にしてみれば、こんなに面白そうな遊び相手はそうは居ない。
窓を開けて、オウムを迎え入れる三人。
「飼ってみたいけど、姉ちゃん怒らないかな?」
三男坊が心配するので、長男と次男坊がにんまりと笑う。
姉がこういった不可思議な生物を好むのは、長男と次男坊の間では常識だ。
過去には爬虫類だとかタツノオトシゴだとかフクロウだとかを飼いたがっていた事もある程だ。
追い払う訳がない、そう初めから分かっていたから、受け入れたのだ。

眺める三人。
「何も付いていませんし、何も出ませんょ。」
オウムはそう言うのだが、明らかに三人は期待している。
仕方ないのでオウム、歌を歌ってみる。
曲は桑田佳祐の、かんざし。
選曲からして、渋いのである。
本来ならば三つ子には退屈な所だが、どっこい、このオウム、歌が物凄く上手いのだ。
もうブラヴォーの嵐。
しかし、三つ子に受けたのはいいとしても、オウムとしては本来、それどころではない。
お腹が空いているのだ。
オウムは三つ子の機嫌を損ねないように恐る恐る、聞いてみる事にする。
「食べるものはありますか?お腹が空いていまして。とりあえず、野菜の切れ端や果物などで構わないのですが。」
三つ子にとってはこれはどうでもいい話なのだが、オウムにとっては死活問題だ。
とりあえず出て来た物は何でも食べよう、それだけの覚悟は決めていたのだった。
で、出て来たのはリンゴとセロリ。
リンゴなど、ごろんと丸ごとだったのだが、このオウム、器用に食べるのだ。
ちょっぴり意地悪をしてみたつもりだっただけに、呆気に取られる三つ子達。

三つ子、長男の名前は銀太という。
次男坊の名前は光太。
三男坊は煌介だ。
三つ子の両親は、いわゆるマイルドヤンキーの走りだった。
それが子供の名前にも表れているという訳だ。
三つ子が物心ついた頃には、既に両親は居なかった。
だからか、三つ子は両親が居ない事を特に気に留めてはいない。
両親が居なくなって寂しかったのは、むしろ歳の離れた姉の絢華の方だ。
当初は、毎日が荒んでいた。
だが、すぐに責任感が芽生えた。
自分が三つ子を育てるんだ、そんな意気込みが芽生えたのである。
それからすぐに夜の世界に飛び込み、今に至る。
夜の世界、美人は強い。
母には感謝感謝の、姉なのだった。

姉、帰宅。
アフターが多いので大抵は深夜だが、帰宅すると三つ子は必ず目を覚ます。
で。
喋るオウムを見て、姉、感激!
「わぁ、素敵!凄いわ!」
やはり長男と次男坊の読みは当たっていた。
すぐに家族となったオウム。
特別に知性があるので、丸三日でも留守番が出来る。
餌と水さえあればだ。
という訳で、この一家にはお誂え向きなのだった。

翌朝。
今日は日曜日。
三つ子の学校はお休み。
仕事で疲れてはいたが、姉もオウムの芸を見たかった。
今晩はキャバクラも定休であるので、多少の無理は利くのである。
リクエストは、宇多田ヒカルの初恋。
これがまた、上手いのだ。
またもや、ブラヴォーの嵐。
で、姉がである。
何を思ったか、オウムを肩の上に乗せたのである。
そのまま台所に向かって、昼食の支度。
BGMにリクエストしたのは、椎名林檎。
前の飼い主が音楽好きだったので、このオウム、色々と知っているのだ。
「素敵なオウム!あなた達、でかしたわよ!こんなの買ったら幾らになるかも分からないわ!今日は気分がいいから、スパムの缶詰たくさん開けてあげる!」
「やったー!いぇーい!」
三つ子、ハイタッチ。
三つ子はスパムが大好物なのだ。
この日の昼食はいつにも増して賑やかだった。
オウムが朗らかに竹内まりやを歌う中、四人の話題はオウムで持ち切りだ。
「ね、ね、銀太。私とオウムのツーショット、撮って!ネットに上げるの!」
「りょーかい!ねぇちゃん、美人に撮ってやんょ。」
「私は元々美人なんですー!失礼しちゃうわ!」
わいわいと楽しい、家族団欒。

その日の夜、近くのひと気のない林で。
芦澤君が美樹本君を呼び出していた。
芦澤君も美樹本君も、三つ子の姉の高校時代の同級生だ。
二人共に、年下の双葉君を好きな同性愛者だった。
芹澤君が美樹本君を呼び出した訳であるが、それは芹澤君が恋敵である美樹本君を殺すためだった。
のこのこと近付いて行くように見える美樹本君。
だが次の瞬間。
ショルダーバッグから取り出した出刃包丁で、美樹本君が芹澤君を突き刺したのだ。
「悪いな、お前の考えなんてお見通しなんだよ。」
芹澤君は息も絶え絶えに助けてくれるよう懇願するのであるが、美樹本君はとどめのひと突きを芹澤君に浴びせた。
林の中には断末魔の叫びが轟いたが、へんぴな場所、しかも夜だけに、それを聞いた者は誰も居なかったーー。

殺す事まではしなくても良かったのではないか、急所を外せば或いはーーなどと後悔する事もなくはなかったが、所詮は過ぎた話、考えても詮ないだけである。
呼び出された時間と場所から言っても、一歩間違えれば自分がやられていたかもしれない話だけに、それはもう必死だったのだ。
行かないという選択肢もあった筈だったが、美樹本君は是非とも今回でけりを付けたかったのである。

美樹本君は芹澤君の遺体を、車に乗せて遠くへと運ぼうとしていた。
遠くに運んで埋めた方が、見つかりにくいだろうという算段だ。
暗いから人目につきにくかった。
まんまと計画は成功しつつあった。
だが、ただひとつだけ、この計画を看破したものがあった。
三つ子の元で暮らすオウムである。
芹澤君は、急逝した前の飼い主の親友だったのだ。
オウムの前の飼い主は、一人暮らしをしていた大学生だった。
ふとした興味から薬物に手を染め、分量を間違えた為に即死だった訳である。
オウムには薬物の知識まではなかったから、止めようなどとは思わなかったのだ。
そうした事なので、親友を救えなかった、そんな心残りが芹澤君の胸の内にはずっしりとのし掛かっていた。
という訳で、引き取り手の居ないオウムを飼えないか、実家住まいの芹澤君は両親に掛け合った事もある。
結果は、残念なものだったが。
だから芹澤君が亡くなった瞬間に、オウムには虫の知らせがあったという訳なのだ。
このオウムには特殊な能力があり、美樹本君の居場所はすぐに特定出来た。
オウムは叫んだ。
「芹澤さんが美樹本さんに殺されたょ!今遺体を乗せて車で移動している。車のナンバー、分かるょ!警察に通報して、お願い。」
三つ子の姉、沸騰した。
どことなくゲイではないかという雰囲気を漂わせていた為に告白は出来なかったが、かつて三つ子の姉は芹澤君の事が好きだったのだ。
だから、これは看過出来ない。
三つ子の姉は、オウムの証言を元に一部始終を目撃した事にして、警察に通報。
芹澤君、ふくよかな体型と大きな背中が、男らしかった。
結局翌日になって、美樹本君は殺人の罪で逮捕されたのだった。

実際の所、双葉君もまたゲイであり、三つ子の遊び相手でもあった。
三つ子から事件のあらましを聞かされて、双葉君は胸を痛めていた。
実は双葉君は芹澤君の事が好きだった。
相思相愛だったのだ。
双葉君の父親と芹澤君の父親は仲が良いので、双葉君と芹澤君、互いに知っていたのである。
美樹本君は、たまたま二人で一緒に居た芹澤君と双葉君に嫉妬して、自分から双葉君に声を掛けたのだった。
それ以来美樹本君と双葉君は仲が良かったが、双葉君が好きなのはあくまでも芹澤君だったのだ。
それだけに双葉君、美樹本君の事は決して許す事が出来ないのだった。

ここで三つ子は、オウムにある提案をした。
双葉君のような可哀想な人をこれ以上増やさない為に、三つ子探偵団を作りたいから、協力して欲しいというものだ。
これには双葉君も加わりたいとの事、オウムも是非やりたいとの事なので、みんなで活動する事となった。

双葉君、新たな恋の相手が出来た。
三葉君という、同い年の男の子。
ただ、三葉君には彼女が居るという専らの噂だった。
同じ大学に通う、違う学部の学生。
双葉君は大学生なのだ。
学部が違うので普段は交流がないが、カフェテリアで昼食を摂っている時に見掛けて一目惚れ。
三葉君の名前は同じ学部の知人が知っていた。
その知人によると三葉君は、一部界隈では有名な、三葉グループの御曹司なのだそうで。
諦めるしかない、双葉君はそう思っていた。
ちなみに双葉君は、東京・日本橋双葉商店の跡取り息子。
こちらも、ゲイで居るにはなかなかに困難な雰囲気の一族なのである。
悶々と悩んでいる双葉君を見かねた三つ子の長男が、こうけしかけた。
「全部みんなにぶっちゃけちゃいなょ!案外上手く行くかもょ。悩んでたって仕方ないょ。行動あるのみ!」
まずは両親へのカミングアウト。
自宅の座敷で、両親と面と向かって。
「あのさ。実は僕、ゲイなんだ。結婚出来ないし、子供も作れない。申し訳ないと思ってる。でもこれは変えられな……。」
ここで父親が遮った。
「気にするな。お前の後は親戚に継がせればいい。今はお前がすべき事とやりたい事に集中するんだ。大学を出たら修行が待っている。厳しいぞ。だが、お前ならやれる。頑張れ!」
母親もこれに続く。
「知ってたのよ、私達。親を見くびらないで。大丈夫、大した問題じゃないわ、ゲイかどうかなんて。あなたが後を継いでくれるかどうかの方が、私達には余程大事。頑張るのよ、双葉商店の名に恥じぬように、しっかりね!」
双葉君は、泣いていた。
この人達の息子で良かった、そう心から思っていた。

双葉君、恋愛の方は厳しかった。
三葉君と二人きりになるチャンスを狙っていたのだが、彼には付き人がぴったりと張り付いていて、とても告白どころではなかったのだ。
とある夜。
自室に籠って一人啜り泣く双葉君。
そこへおもむろに父親がやって来た。
「やぁ、どうした?失恋か?」
父親がそう聞いて来るので、黙って頷く双葉君。
「どんな相手だった?」
「可愛い子。三葉グループの御曹司。近付く事も出来なかったょ。」
双葉君、再びの父親の問いに、しゃくり上げながらどうにか言葉を紡ぎ出す。
「あはは!それは相手が悪いなぁ!」
双葉君、笑われてしまった。

その後、夜更けまで語り明かした双葉親子、絆はしっかりと太くなった。

次の日の夕方。
双葉君、思い立ってペットショップに向かった。
ハムスターを眺める双葉君。
とある一匹が、双葉君の事をじっと見つめていた。
結局その子と、ケージや餌など一式を買って家に戻る。
勝手口から入って階段を上る。
四階に双葉君の部屋はあった。
部屋に入って扉を閉める。
その途端に、ハムスターが喋り出した。
「こんにちは!僕、ハム乃助。よろしくね!」
腰が抜ける程の衝撃だったが、考えてみれば自らの意思で喋るオウムも居るのだ。
喋るハムスターだって居るだろう、そう納得した。
しかし、である。
「僕長生きだから、あと二十年は生きるょ!その間お世話、お願いね。」
これには一瞬、頭がくらっと来た。
ともあれ、これで恋人が居なくても当面は寂しくないのだった。

あくる日。
喋るハムスターを持って父に願い出る双葉君。
「ほぉ、ハムスターが喋るのか!珍しいなぁ。」
「この子の持ち運びに使う丈夫な鞄を、父さんの知り合いの鞄屋さんに作って欲しいんだ。」
「お前がおねだりとは、珍しい事もある。よし来た!お代は出世払いでな。」
「うん!」
双葉君の父親、粋なのである。

一ヶ月後。
鞄が届いたので、早速ハム乃助を入れて、三つ子の元へと向かう。
「へぇ、喋るハムスターなんて、可愛くていいじゃん!」
「見せて見せてー!」
三つ子に大人気の、ハム乃助。
「おほん。私の餌も忘れないで頂けますと、助かるのですが。」
ブルッフの咳払い。
これまた珍しい事もある。
「餌ね。はいょ。忘れてないょ。今持って来る。」
一安心のブルッフなのだった。
実のところ三つ子にとっては、ハム乃助も可愛かったが、存在感がもう面白いブルッフも、やはり可愛かったのである。

三つ子と双葉君が、並んでお喋り。
丸い背中が、四つ。
ブルッフにハム乃助も一緒。
ブルッフとハム乃助は、すぐに意気投合した。
「私は喋る動物仲間が大好きですよ。仲良くしましょう。」
「うん、こちらこそ末長くよろしくね!」
三つ子の姉も起き出して来た。
本日も同伴、そろそろ出勤時刻なのである。
支度を済ませた姉、双葉君に声を掛ける。
「今日もありがとう。三つ子の事、よろしくね。」
「はい、夜九時頃まではここにいますので、その間は任せてください!」
「いつもありがとう。じゃ、行ってくるわね!三つ子もいい子にしてるのょ。」
「はーい、ねぇちゃん。」
「ラジャー!」
「僕らいつでも仲良しだから。さ、行った行った。」
これはもう、嘘八百もいい所である訳だが。
で、夕食の時間。
双葉君も一緒。
なのだが、いつも通りに取っ組み合いの喧嘩が始まる。
やれ僕だけ少ないだの、やれ僕のウインナー取っただの、そんな話。
双葉君、苦笑い。
結局双葉君、自分の分を三つ子に少し分けてあげた。
今夜のメニューは、ジャンバラヤとサラダ。
たっぷりの量なので少しくらい分けてあげても平気なのだ。
温かな食卓。
いつか自分も、好きな人とこんな温かな食事が出来たらいいな、この時の双葉君は確かに、そう思っていた。

夜九時過ぎ。
三つ子の家からの、帰り道。
幸せの風が、双葉君の頰を撫でていった。
三つ子にもこの風は、届いただろうか。
みんなで幸せになれるといいな、そう思って双葉君は足取りも軽く家へと向かっていた。

しかし、幸せの一歩手前には、まだもう一波乱が待ち受けていた。
ブルッフとハム乃助には、そうした運命の声が届いていた。
何が待ち受けているか。
特にブルッフは、お世話になっている事もあり、三つ子達を何があっても何としてでも守り抜こうと、そう誓うのだった。

嵐の前の静けさ、そんな言葉がぴったりと嵌る、そんな夜だったーー。

-続く-

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三つ子とオウム [後編]

雨がそぼ降る夕方。
双葉君は、三つ子の家へと遊びに行った。
この頃ハム乃助を連れて、こうして三つ子の面倒を見に行く事が多い。
着くとちょうど、三つ子の姉の出勤時間。
いつも通りの同伴出勤、だから早いのだ。
そう、姉は人気者なので、同伴出勤の場合が多い。
昼間もメイクにヘアサロン。忙しいのである。
お店のナンバーワン常連なので収入は多いが、いざという時の為に貯金は欠かさない。
それでももちろん、仕事柄出費は多いのである。
ファッションにも気を遣う。
楽な仕事ではないのだ。

薄暗い廃屋の中。
太った男の子が柱に括り付けられていた。
犯人は一人。
同じ高校に通う同級生。
実は二人は相思相愛なのだった。
だがそれを知らない犯人は、太った男の子が他の奴を好きなのだろうと勝手に思い込み、憎しみから暴行を働こうとしていたのだ。
ブルッフの案内で廃屋にやって来た三つ子と双葉君。
ハム乃助も一緒。
間一髪、セーフだった。
三つ子の次男坊が叫んだ。
「殴らないで!その太った子、君の事が好きなんだ!」
ブルッフに教えてもらった事。
それを聞いて目を丸くしたのは、男の子を括り付けた犯人だ。
目の前の太った男の子は、号泣している。
犯人は、その場に崩れ落ちた。
太った男の子は泣きじゃくりながら、こう言った。
「良かったら、お付き合いしたい。今日の事は、内緒にするからさ。だから、優しくして!お願いだから、怖い事しないで……!」
二人の事が心配なのは、双葉君。
だが、自分達に一体、何が出来るだろうか?
その気持ちを察した三つ子の長男、ある提案をする。

「あの二人、長持ちしそうにないよね。」
「そうだね。嫉妬深いのも程々じゃないとね。」
三つ子の次男坊と三男坊は、こんな感じ。
そこへ例の二人がやって来る。
想定の範囲内の事ではあるが、二人共やはりブルッフとハム乃助が喋るのに、腰を抜かしている。
それは、あくる日の事だった。
太った男の子は椎太、彼を括り付けた子は倫次郎という名だった。
「さぁ二人とも、今日から三つ子探偵団の仲間だょ!」
三つ子の長男の掛け声で、新メンバー加入となる。
もちろんその二人とは、椎太と倫次郎である。
提案とは、この事だった。
これならいざという時に椎太を守る事も、倫次郎を諌める事も出来るという訳なのだった。
「ところでさ。」
何かを切り出そうとする倫次郎。
「何?」
どうせろくでもない事だろうと思い、険しい顔つきで聞き返す三つ子の長男。
予感的中。
「名前変えね?倫次郎探偵団!これで決まり!」
「却下!!!」
ここは三つ子のユニゾンで、リジェクト。
「ちぇっ。つまんねぇ。」
ここでブルッフが口を挟む。
「三つ子の皆さん、彼氏は要りませんか?」
目の色が変わる三人。
「要る、要る!」
「私、可愛らしい三つ子を知っております。三つ子同士、仲良くなれるのではないかと思います。いかがでしょう?」
という訳で、早速会う事になった。

で、ご対面。
「むぅ……。言われてみれば確かに、可愛く見えないような事もない、ような気はするというかなんというか……。」
「でもさ、似過ぎだよね、僕達と。」
「悪くはないというか……なんか複雑。僕達別にナルシスト気取ってないし。難しい。」
向こうの三つ子も何か言いたげではあったが、結局三つ子同士が結び付く事は、その場ではなかった。

それから一週間が経って。
茂みの中で、鈍い音が響く。
悲鳴を上げる間もなく、男は撲殺された。
殺された男の名は、紀美彦。
三つ子の父親だ。
ブルッフの脳裏を、事件の一部始終が駆け巡る。
このブルッフだが、事件のあらましを知る事は出来るが、事前に防ぐ事はほぼ出来ないのだ。
誠に以て残念な事である。

事件の原因は、よくあるもの。
痴情のもつれ、或いは紀美彦による不倫だ。
不倫が発覚してもへらへらとしている紀美彦に腹を立てた妻が、紀美彦を拉致。
目立たない茂みの中で撲殺したのだ。
紀美彦の妻、元アスリートで、紀美彦よりも体力はあったのだ。
だから、こんな荒っぽい犯行も可能だった訳である。
三つ子とその姉の前で、ブルッフは告げる。
「皆様方のお父様が、お亡くなりになられました。不倫が原因で、奥様に撲殺されたようです。」
これに姉、瞬時に沸騰した。
「それが私達と何の関係があるっていうの?不愉快だわ!」

紀美彦はそもそも、健康的で程良くスレンダーな美人が好みだった。
三つ子の母は癌の為に紀美彦の求める容姿を失ってしまい、すぐさま棄てられてしまう。
今の奥さんを差し置いて別の女と不倫したのも、運動をしなくなった元アスリートという事で、太ってしまったのがその原因だ。

「犯人、捕まえようよ!」
三つ子の長男が叫ぶ。
「そうだ、そうだ!」
次男坊と三男坊もこれに同調。
だが、姉がそれを遮った。
「そんな必要ないわよ!みんなして余計な事を言うんじゃないの!」
これに長男が反抗。
「お母さんを棄てようがどうしようが、お父さんである事に変わりはないでしょ!せめて犯人を捕まえる位の事はしなきゃ駄目なんじゃないの?」
ぐさりと、突き刺さった。
「あんたに何が分かるのよ!」
そう言って、姉は泣き崩れた。

空を悠然と滑空する鷲。
ターゲットを見つけると、一目散に襲い掛かる。
相手は、紀美彦を殺害した元アスリートの女。
女は一瞬の事で成す術もなく、絶命するのだった。
鷲は同じ鳥類であるオウムのブルッフの、盟友だ。
ブルッフの呼び掛けに応じて、馳せ参じたのだった。
これはもちろん、動物が人間を襲っても、逮捕される訳ではなく、逃げ果せる事が出来れば無罪放免も同じだから可能な技だった。
「俺はしばらく姿を隠す。あとは上手くやれ。」
これにはブルッフも感謝せざるを得ないのだった。

複雑なのは三つ子の姉の感情だ。
元アスリートの女の事は憎かった。
だが、父・紀美彦への感情も、容易ならざるものがあったのだ。
こんな時、陽気な三つ子の振る舞いは、姉の心を癒やす。
ポルカにタップ、思い思いのダンスを披露する三つ子。
こんな時によく踊れるものだと呆れながらも、その様はコミカルで、頑なだった姉の心も綻んだのだった。

半年後。
三つ子の姉に、幸せが舞い込んだ。
結婚したのだ。
相手は年上で、お店のお客さん。
自分の事を一人の人間として見てくれた事が、姉は内心ではとても嬉しかったのだそうだ。
厳しい仕事で得た、掛け替えのない出逢い。
一本芯の通った、骨太な男との出逢いが、姉の人生を好転させる。
そもそも結婚相手、お金はそこそこといった所だったが、決して低収入ではない。
三つ子の事も受け入れてくれたし、十分に育てていけるだろう。
結婚相手としては、申し分なかったのだ。
姉とその婚約者、そして三つ子とで、早速食事会を開いた。
場所は焼肉店。
みんな大好物なのだ。
もちろんお会計は、婚約者持ち。
特上ハラミに特上ロース、特上カルビ、特上タンにホルモン、カルビクッパまで。
お肉はサンチュで包んで食べる。
それにしても三つ子の食べっぷりは、なかなか壮観だ。
婚約者、苦笑い。
二人は、経済的に成り立たない事もあり、自分たちの子供は作らない事にした。
何しろ、三つ子は金が掛かるのだ。
もちろんそれだけではなく、三つ子の心情を慮っての事でもあった訳なのだが。

小さな教会で、結婚式。
旦那の親族や、姉の仕事仲間が祝福してくれる。
姉は涙を溢れさせていた。
化粧が取れるのもお構いなし。
ここまで頑張って来て本当に良かった、そう思っていた。
まさに、感無量だった。

ある休日の午後。
三つ子の姉が憧れだった優雅な専業主婦ライフを満喫する中で、事件は起きる。
「パリーン!」
遠くからサイレンサー付きの銃で銃弾が撃ち込まれ、ブルッフの羽をかすめたのだ。
瞬時に身の危険を察したブルッフ、辛うじて大きな怪我は免れた。
このように、すぐ先の未来なら、場合によっては予測出来る事もあるブルッフ。
普段は全く役に立たない能力ではあったが、この時は身を助けたのである。
銃撃して来た相手は、すぐに分かった。
たまたま通り掛かった折、盗み見る事でブルッフの能力を見抜いた、とあるヤクザだ。
高く売れる、そう踏んだのだ。
つまり、もともと殺すつもりはなかった。
ブルッフが避けたのも、織り込み済みの事だったのである。
おずおずと、ブルッフは申し出る。
いいカモになろうとしていた。
これもヤクザにとっては想定の範囲内の出来事。
「私がここにおりますと皆様にご迷惑をお掛けする事になりますので、これにて失礼させて頂きます。」
これに三つ子の姉、激昂した。
「自分一人で不幸を背負い込むなんて、ガキのする事よ!頼れるものには何にでも頼る、それが大人の生き方ってもんでしょ!」
ブルッフ、心を打たれた。
ここで骨をうずめよう、そう思った瞬間だった。

という訳で、三つ子探偵団、姉も連れての出動である。
ブルッフの案内でヤクザのアジトを発見。
三つ子と双葉君、椎太君、倫次郎君は陽動、姉は万一の事態に備えて物陰に待機。
場合によっては警察に知らせる。
で、ブルッフの盟友の鷲が隙を突いて、ヤクザを仕留めるのだ。
危険なので今回はブルッフは帰宅、ハム乃助と仲良くそのまま留守番だ。
ブルッフは三つ子の盾になると言い張って聞かなかったのだが、姉が無理矢理にブルッフを捩じ伏せた。
アジトの前で三つ子が叫ぶ。
「おい、そこのヤクザ!よくもうちのオウムを襲ってくれたな!出て来い!警察には通報した。黙って隠れていても無駄だぞ!」
或いはそのまま隠れていれば、ヤクザ達は助かったのかも知れない。
だが、頭の良くない連中だったようで、ノコノコと出て来てしまう。
鷲は仲間を集めていた。
五人のヤクザと、七羽の鷲。
勝負あった。
ここで三つ子の姉が警察に通報。
ヤクザ達の命を奪う事まではせずに、鷲達は去って行く。
「今度僕達を狙ったら、その時は本当に命はないぞ!」
三つ子の長男が凄むので、ヤクザ達は震え上がった。

ヤクザ達は無事に捕まった。
三つ子の姉達への取り調べも無事に終えて、皆で帰宅。
もうすっかり夕方だ。
「双葉君、椎太君、倫次郎君、寄って来なさいよ。家には連絡しておくから。ビーフシチューを作るの。旦那も帰って来るから、みんなでわいわいやりましょ!」
三つ子の姉の旦那は、休日出勤。
不倫ではないので、悪しからず。
「あーあ。ガラス割れちゃって。誰が弁償するのよ、これ。ヤクザ達に請求したい位だわ。」
帰るなり嘆く三つ子の姉。
「まぁま、事情を話せば払ってくれるょ。太っ腹の旦那様が。」
「でも、お転婆したから怒られるかも。あんた達も覚悟なさい。」
そうこうしている内に、三つ子の姉の旦那、帰宅。
「父ちゃん、お帰り!」
三つ子は姉の旦那の事を、父ちゃんと呼んでいた。
心の広い旦那の事、すんなりとそれを受け入れたのだった。
「父ちゃん、姉ちゃんから話があるんだ。」
「どれどれ。何でも話せー。」
そこで、今回起こった事の顛末を話す姉。
その表情は険しかった。
で、旦那はというと。
「無茶するなよー。身体は大丈夫なのか?いざという時には、俺の事を頼ってくれていいんだぞ。」
その瞬間、三つ子の姉は泣き崩れた。
「パパは駄目!あなたが居なくなったら、私どうすればいいの?あなたは大黒柱なんだから、しっかり働いてくれれば、それでいいの!」
子供のように泣く三つ子の姉を、旦那はしっかりと抱き締めた。

パーティーは盛況に終わり、双葉君と椎太君、それに倫次郎君は帰宅した。
三つ子は考えていた。
もう一組の三つ子と付き合ってみても良いのではないかと。
もう一組の三つ子、蘭児、綾太、三津吾郎も同じ事を考えていて、例によってそれはブルッフに筒抜けで。
またもや自分を守ってくれたこの家の人たちへの感謝の念も込めてのブルッフの取り成しで、三組のカップルが成立した。
どちらの三つ子も互いの顔は良く似ているのだが、微妙な性格の違いが相性の良し悪しを分けた。
それを見透かして、ブルッフがカップリングしたのだ。
それ以来、二組の三つ子達は互いの家を入り浸るようになった。
姉は言う。
「いい事、キスまでよ!あんた達まだ子供なんだから、あんな事やそんな事はまだ早いのよ!」
「自分達はやってるくせに。声、聞こえてるょ。」
そこで姉の旦那が一言。
「引っ越すか!」

姉の旦那の鶴の一声で、引っ越しが決まった。
これまで住んでいたアパートの近所に、4LDK・三階建ての戸建てを買ったのだ。
三つ子も一人一部屋もらえた。
そろそろ思春期に突入する三つ子だけに、ちょうどいいタイミングなのだった。
引き続き双葉君や椎太君、倫次郎君、それにもう一組の三つ子も通える距離だ。
都会にありがちな狭小敷地の一戸建てなのであるが、贅沢は言えない。
姉は旦那に、心からの感謝をしていた。

双葉君、ハム乃助と並んで夕陽を見ていた。
今日は三つ子一家にご馳走になるのだ。
「双葉、早く彼氏が見つかるといいね。」
「うん。」
それだけの会話。
でも、じんわりと温かい。
と、ここでハム乃助、とんでもない事を言い出す。
「僕が恋のキューピッドになってあげる。三葉くんだっけ?彼の近くに連れて行って。明日にでも早速、GO!」
だが双葉君は気が乗らない。
相手の気持ちを無理矢理に変えてまでお付き合いしようなどとは、どうしても思えなかったのだ。
結局、この話はなかった事になった。
仕方ない。
どうにもならない事も、世の中にはあるのである。
「双葉は、それで本当にいいの?」
「ハム乃助が居てくれるから、それで平気だょ。」
ハム乃助、この後珍しい位に双葉君に甘えるのだった。

翌日はもう一組の三つ子が、それぞれのお相手に逢いに来ていた。
するなと言われればしてみたくなるもの。
初体験を済ませたのである。
場所があるというのは、二組の三つ子にとっては本当にありがたかった。
無事にすべき事を済ませたお陰で、絆がより太くなったのだ。

更に翌日は、椎太と倫次郎が遊びに来ていた。
お互い、浮気など考えもつかない。
仲睦まじい二人なのである。
二人は、三つ子とブルッフに心からの感謝をしていた。
その証として、プレゼントにという事で、銀座丸福堂の羊羹を持って来た。
姉が切って、その場のみんなで食べる。
いつも仕事で忙しくしている姉の旦那だが、この日はたまたま休みだった。
「美味い!」
旦那も大喜びである。
二人、オウムのブルッフには果物を持って来た。
「ありがとうございます。また何かありましたら、何なりとお申し付けください。相談に乗ります。」
ブルッフも、上機嫌だ。

その夜。
三つ子は、新居の三階の小さなベランダに出て、星空を眺めていた。
「そこ、邪魔!もっと向こう行って!」
「そっちこそ邪魔!どいて!」
「あぁもう!うるさーい!」
やっぱりロマンチックなムードとは無縁の三人なのだった。
長男の肩には、ブルッフが乗っている。
そこへ、椎太と倫次郎がやって来た。
「みんな、ありがとうな。」
倫次郎の言葉に、満更でもない三つ子とブルッフ。
こうして、皆それぞれに幸せを掴もうとしていた。

そんな中、双葉君の通う大学で、ちょっとした事件が起こった。
三葉君から双葉君に、友達にならないかと誘いがあったのだ。
断る理由などない。
三葉家としても、自分たちの経営するグループには劣るものの、日本橋の老舗商店の跡取り息子だ。
友達としては、悪くないのだ。
この後どうなっていくのかは、誰にも分からない。
ただ、運命の歯車はハム乃助の力を借りずとも、回り始めた。

温かな風が心地のいい季節、幸せへの入口は、もうすぐだ。

-完-

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