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ナックルボール : 二十四年目のプレイボール

(一)

近くの公園で。
舞い降りた紅葉を踏み締める。
くしゃり、くしゃりと音を立てて葉が潰れてゆくのを確認しながら俺は、迷っていた。
あの子からの告白を受けるか、蹴るか。
良い子だ、確かに。
見た目も素敵だ。
だが、果たして俺はいつまでこんな事をしているのかーー。
俺がゲイである事を、両親は既に知っている。
その上で、理解も示してくれた。
それでも尚、罪悪感は残る。
俺は一人っ子なのだ。
孫の顔位は見せてやりたい。
このままでは、それも叶わないーー。
俺は溜め息をひとつ吐くと、近くのベンチに腰を下ろした。

あの日、俺はあの子の前で暗い顔を見せてしまっていた。
「お願いです、ぼくと付き合ってください!」
そう言われた俺の顔は、残念ながら曇っていた。

「ねぇねぇ、そこのお兄さん。悩み事?」
ベンチに腰掛けて小一時間。
何処かから声がする。
何事かと思って辺りを見回すも、居るのはリス一匹。
まさかね。
そう思って目線を逸らすと、また声がする。
「ねぇお兄さん、僕を飼ってくれれば今よりもちょっとだけ、幸せになれるよ。」
やはりここには、木の実を抱えたリスしか居なかった。
驚いた。
もしかしたら俺、気が変になったのかも。
「お兄さんは大丈夫。僕、喋れるょ、ほら。」
そういうと目の前の小さなリスは、歌いながら踊ってみせた。
その様があまりにコミカルなので、俺は思わず笑ってしまった。
「ね、決まり!お兄さんちに連れて行ってょ。良い仕事するょ!」

という訳で、何となく惰性で連れて来てしまったこのリス。
そういえば名前も知らない。
聞くと、付けて欲しいという。
なので俺は適当に、ナックルという名前を付けてやった。
俺は野球が好きなのだ。
「ありがとう!お兄さんの名前は?教えて!」
「俺の名前は槇原 泰治。ヤスで良いょ。」
「OK!今から未来を占ってあげる。ヤスの好きな人の名前を教えて!」
俺はあの子の名をナックルに教えた。
あの子は、その名を成太郎といった。
「ジャン!成太郎とは、三年後に付き合い始めると良いょ。三年だけ、待ってもらいなょ。」
開いた口が塞がらない。
何を言っているのだ、こいつは。
などと思っていると、ナックルは言う。
「成太郎、両親からお見合いを勧められているんだ。成太郎の両親は今時珍しい位に保守的な人達だから、仕方ないね。三年あれば、子供を一人作って離婚する位の事は、出来るでしょ。付き合う前に、ひと仕事させてあげれば?」
頭がぐるぐると回り出す。
混乱の極みだ。
そこへナックルによる、とどめの一撃。
「ヤスもその間に結婚して、子供作っちゃいなょ!」
その発言に、暫し呆然。
しかし、よく考えてみればそれも一理ある。

翌日、公園で。
呼び出した成太郎を前にして俺は、淡々と告げる。
成太郎は、泣いていた。
そして、ただ無言で、しかしじっと逸らす事なく、俺の事を見つめていたーー。

ナックルによるとそれからすぐに、成太郎は結婚したようだ。
両親はとても喜んでいたらしい。

空が青い。
風景の凛とした色彩、そしてツンとした空気感。
まさに晩秋。
「ヤス、何考え込んでるんだょー。どうしたの?」
物憂い感情を切り裂くナックルの声、正直言って鬱陶しい。
だが、放置するのも何なので、答えておく事にする俺。
「成太郎、どうしたかなって。結婚生活、上手く行ってるのかな。心配だ。」
「ヤスは結婚しないの?」
「急かすなょ。何も考えていない訳じゃないょ。携帯で相手探しでもしようかと思ってさ。でもそんな事して、ウチの親は喜ぶのかな?」
疑問に思っていた事。
ゲイである事を両親から咎められた事は一度もない。
俺の秘密を知っていて、その上それを受け入れていて、それでも尚結婚を期待する、俺の両親はそんな人達だったろうかーー。
それが引っ掛かって、前へと進むのを躊躇するのだった。
と、ここでナックルがとんでもない発言。
「明日、会社の同僚の女性社員から告白されるょ。ご両親にはバイだったって説明して、お付き合いすると良いょ。積極的な女の子だから、すぐに結婚出来るょ。」
これにはもう、呆れて物も言えない。
「あのなぁ。如何にも急過ぎるし、大体子作りはどうするんだ?女の子相手では俺、勃たないぞ。」
「大丈夫!シアリスやレビトラがあるから!一旦勃たせてしまえば、もうこっちのもんさ!」
「そういう話かょ……。」

その晩。
ナックルのせいで眠れない。
あいつめ、どうしてくれよう。
腹が減ったのでカップ麺を食べようと部屋の明かりを点けると、ナックルがケタケタと笑っていた。
「んがぁー!」
リス相手に思わずキレてしまう俺。
大人げない。
「まぁまぁ、木の実でも食べなょ。これで機嫌直して。」
「要らねぇょ!」
完全におちょくられている。
ここは我慢だ。
動物虐待はいけない。
早くお腹を満たして、歯を磨いて寝るんだ。

で、翌朝。
頭が痛い。
会社、休もうか。

もう十年は経つだろうか。
初恋の相手が男だったと知って、俺は狼狽えてのたうち回っていた。
もちろん、告白など出来よう筈もない。
あまりに取り乱していた為か、母が見かねて尋ねてきた。
「どうしたの?何かあったの?」
俺は咄嗟に、言ってはいけない、そう思った。
だからそのまま黙っていると、不意に涙が零れた。
そうしたら母は俺の肩を抱いて、「言わなくちゃ分からないでしょ。泣き止んでからでいいから、話してみて。大丈夫、何があっても怒らないから。」、そう諭してくれた。
俺は悩んだ。
だが、母の真っ直ぐな眼差しにやられた俺は、信じてみる事にした。
俺は言う。
「実は俺、病気なんだ。男に恋をした。病院にでも何処にでも行くから、頼む!許してくれーー。」
その時だった。
母は、思い掛けない事を囁いた。
「大丈夫、あなたは悪くない。性は自由なの。あなたが異性愛者であろうと同性愛者であろうと両性愛者であろうと、私はあなたを愛しているわ。関係ないのよ、そんな事。将来気が変わって結婚したくなったら、報告してね。そうでなければ、自由にして良いのよ。いちいち報告も要らないわ。大丈夫!親子だもの。絆は強いのよ!」
俺は母に寄り添う格好で、嗚咽を漏らしていた。

そうだ!
俺の両親ならきっと、分かってくれる筈だ。
俺は己を奮い立たせて、出社する事にした。
そもそも学生ではあるまいし、気が乗らないのでフケようというのも、無理筋な話なのだ。
「ヤス、ドンマイ!」
見るとナックルが、木の実を抱えながら俺をお見送りしてくれている。
『呑気なもんだ。』
とはいえ満更でもなかった俺は、笑顔のナックルに手を振って家を出た。

出社して、お昼休み。
スレンダーで爽やかな雰囲気の同僚女性社員が、俺のデスクに近付いてくる。
「あの……。もし良かったら、お昼ご飯一緒に食べませんか?」
来た来た。
運命の誘いだ。
ここで断る事も出来る。
だが俺は、ナックルの判断を信じようと、この時思った。
「良いょ、何処行く?近くのイタリアンは並ぶから、平凡だけども中華で良い?奢るからさ。」
「はい、ありがとうございます!嬉しい!」
女性社員の顔が見る間にパッと明るくなった。
デブ専なのかな、この子。

中華屋で、二人してサンマーメンを啜る。
美味い。
この温かさ、今の季節にはちょうど良い。
付け合わせの餃子もまたGood。
しかし探れど探れど、会話の糸口が見つからない。
興味がないのだ。
そんな時。
話し始めたのは、彼女の方だった。
「槇原さん、ご趣味はありますか?」
まさか男漁りとは言えまい。
どうしたものか。
まぁ、とりあえず幾つか挙げてみよう。
「昔高校球児でキャッチャーやってたんで、野球を観るのは好きだょ。でももう晩秋だしね。他には、家の図面を見るのも趣味。そうそう、居酒屋は好き?俺は良く行くんだ。」
「はい、私も居酒屋好きです!ざっくばらんな雰囲気、良いですよね〜。」
明らかに話を合わせにいっている。
だがまぁいいだろう。
こんな俺の壮大な茶番に付き合わせるのだ。
少しは喜ばせてあげないと。

気が付くと、お昼休みも残り僅か。
俺達は連絡先を交換して、会社に戻った。
彼女とは部署が違うので、そこで一旦別れて帰りに合流。
行きつけの居酒屋に向かう事となった。

居酒屋で。
お通しを食べながら。
「お酒は何を飲まれますか〜?」
陽気な彼女の声。
酒を飲む前から酔っているかのようだ。
「ビールに日本酒。それがメイン。後はワインを少々。焼酎とハイボール、それにウイスキーは苦手。そっちは?」
「あ、私もおんなじような感じですよ〜。特にワインが好きです。でもとりあえず、ビールで乾杯しましょうか。」
話が早い。
ここは同じ社会人同士、セオリーを分かっている。
二人して生の大ジョッキを注文。
あとは刺身の盛り合わせとつくね、焼き鳥を何本か。
メインは後ほど、鍋の予定。
それにしてもこの子、結構飲むのな。
まぁその方が結婚してからも退屈はしないからいいだろう。
「はい、生大お待ちどうさま〜!」
「は〜い、ありがとう〜!」
率先して受け取る彼女。
これはいい。
何より、楽だ。
「どうぞ、槇原さん。かんぱ〜い!」
「乾杯!」
彼女何と、大ジョッキを一気に半分も飲み干したではないか。
しっかりしないと。
先にこっちが酔い潰れてしまう。

昔、遊園地に行った。
親子三人で、仲睦まじく。
週末だったので、中は人でごった返していた。
風薫る季節。
それでも、人混みはしんどかった。
まだ子供だった俺はぐずった。
しかし、俺の両親は嫌な顔一つせずに、辛抱強く俺をなだめてくれた。
その時、発売されたばかりのアイス、確かチョコクランチアイスバーだったかな、それを買ってくれたのだっけ。
甘くてとても美味しかったのを覚えている。
もしも人の親になるとして、果たして俺は自分の子供に何をしてやれるだろうか、どんな背中を見せてやれるだろうかーー。

椅子に座り直す。
いつの間にか気分が悪い。
ふと気が付くと、さっきまで笑っていた彼女の様子がおかしい。
そわそわして、焦点が定まらないのだ。
次の瞬間、彼女、即ち幸恵の言葉が、辺り一帯の空気を切り裂いた。
「槇原さん、私と付き合ってください!」
それに対して、咄嗟に出た次の一言が自分でも思いがけなくも思えたが、それは良くも悪くも次なる俺の未来の到来を告げるものだった。

「いいよ。」

幸恵は、喜色満面の様子で「ほんとに?」と返して来た。
だから俺は、黙って大きく頷いた。
この時に俺の覚悟は決まった。
もしかしたらこれは三年では済まないーーそんな予感もあった。

そして、週末がやって来る。
俺は幸恵をテーマパークへと誘った。
六年ぶりのテーマパーク。
前に来た時は、まだ大学生だった。
知り合ったばかりの成太郎と意気投合して、気合いを入れて臨んだのだっけ。
結果は惨敗。
三時間待ちの行列に耐えかねて、俺達は喧嘩を始めたのだった。
今度はその二の舞にしてはいけない、何となくではあるがそう思ってはいた。

開園三十分前に到着。
ゲート前は既に人でごった返していた。
入場するなり俺は、彼女の手を引いて走る。
人気アトラクションのフ◯ストパスを取る為だ。
彼女も今日はスニーカーで来てくれたから、大丈夫だ。
息を切らしてフ◯ストパスを取ると、すかさず今度は行列の少ないアトラクションに並ぶ。
この日は、俺が事前にガイドブック片手にシミュレーションした通りに動いていた。
体力が残っている夕方までにアトラクションを楽しんで、夜はパレードに専念するのだ。

幾つかのアトラクションを回って、お昼の時間がやって来た。
時間をずらしても良さそうなものだが、腹の虫が鳴いている。
結果、行列しているセルフサービス式のレストランに並ぶ事にした。
「大丈夫?」
気になっていた事。
ここまで振り回しっ放しだったのだ。
胸がちくりと痛む。
だが、こんな状況でも幸恵は嬉しそうで。
「平気、平気。せっかくだから、まだまだ楽しみましょ!」
良かった、本当に。

その後も休憩を挟みながら、幾つかのアトラクションを回った。
夜のパレードは、それはもう綺麗だった。
喧嘩して早々に帰った為に六年前には観られなかったパレードを、どういう訳だか幸恵とこうして観ている。
その因果が不思議で、ただ恨むでもなく、感じ入るのだったーー。

帰宅の時刻、到来。
今日は久々に楽しめた、そんな気がした。
成太郎が結婚してから週末につるむ友達も居なくなっていて、時間を持て余していたのだ。
や、俺もしかして、バイなのか?
そんな疑問が頭をもたげたが、とりあえずの所は気にしないでおく事にした。
車で来たので、幸恵の住むマンションまで送ってやる事にする。
気が付くと、幸恵の表情が心なしか暗い。
だから俺は切り出した。
「来週末、マンションのモデルルーム見学にでも行こうょ。二人で住めるといいね。」
すると幸恵の表情がパッと明るくなって、はい!と小気味良い返事が返って来た。
我ながらちょっと急ぎ過ぎているかな、とも思ったが、勢いで突っ込まないと気が萎える、そんな気がしていた。
幸恵は一人暮らしだから門限はない。
その点は気楽だ。
「じゃ、またね。」
「はい!またお会い出来るのを楽しみにしてます!」
相変わらず快活な子だ。
気分は悪くない。
やっぱり俺、バイだったのかも。
二十代も半ばに差し掛かって、ようやくその事に気付き始める俺、鈍いにも程がある。
でも俺、勃つかな?
そんなゲスな考えが頭をもたげる。
正直自信はない。
でも、やってみるしか。

小学校の頃。
教室の床に鉛筆が落ちていた。
俺はほんの悪戯心で、近くの女の子の机にそっと忍ばせた。
その子なら大丈夫だと思っての、ちょっとした出来心だった。
それだけの事だ、なんて事ない、そう高を括る俺に、現実は厳しかった。
帰り掛けに担任に呼び出されて、ガンガンやられた。
それ以来、女の子には見向きもしなくなった。
初恋の前の事だ。
それからの俺は自然と、自分の事をゲイだと自認するようになった。
それから十数年が経過して、それは俺の確固たるアイデンティティとなっていた、筈だった。
だから俺は今更ながら、困惑していたのだ。
今まで一度も女の子の事をそんな目で見た事はないというのに。
恋愛の対象はいつだって男だったというのに。
或いはこれは、恋愛とは別種の感情かもしれないーー。
そう考えれば説明が付く。
きっとそうに違いない。
このようにして俺は結局、自分の気持ちの在り処に長い事蓋をする道を選んだ。
バイだと感付いていたのにだ。
それが良かったのかどうかは、もちろん決して分からないまま。

帰ると、ナックルが起きて待っていた。
ナックルは相変わらず陽気な声とひょうきんな動きで、俺を和ませてくれる。
「ねぇねぇどうだった?女の子と、上手くいった?」
俺が大きく頷くと、ナックルは木の実を持ったままで器用に歌い踊り始めた。
この時はまだ複雑な心境でもあったが、次第に笑いが込み上げてくる。
気が付くと、俺は腹を抱えて笑っていた。
ナックルのお陰で、その晩はとても良く眠れた。

次の週末は、約束通りにマンションのモデルルーム巡りをした。
終始ウキウキとした彼女の表情が、印象的だった。
個人的にはタワーマンションが良かったが、明らかに予算オーバーだ。
まだ結婚すると決まった訳でもないが、いつの日か幸恵と離婚をした後も、住み続けるつもりでいる。
そもそも幸恵には、子育てをしてもらわねばならない。
稼ぎ頭は、俺となるのだ。
だから、もう少し安い物件でなければ。
俺が気に入ったのは習志野の物件だ。
「ねぇヤス、ここにしない?」
俺の心情を察したのか、幸恵は随分と推して来る。
幾ら何でも性急過ぎると思った俺だが、不動産会社の営業担当の見事なセールストークの効果の甲斐もあってか、商談の席に着く事になってしまった。
いざそうなってしまうと人間脆いもので、あっという間に必要書類に判を押してしまっていた。
契約成立だ。

居酒屋で食事を済ませて現地解散、俺達はそれぞれ帰路に就いた。
入居予定日までにはまだ十ヶ月も間があるので、その間は互いの家を行き来する事になる。
そういえばまだSEXもしていない。
次のデートで、幸恵と会うのは三回目になる。
この成り行きだ。
そろそろだろう。
ED治療をしてくれる外来を、探しておかねば。
時間がない。
俺は電車の中でスマホを取り出すと、医者を検索にかけるのだった。
明日早速、予約を入れてみよう。

俺、何やってんだろうな。

(二)

成太郎は、恋をしていた。
相手は、泰治。
大学に入ってからの友達だった。
想いを隠し通すのに、必死だった。
毎夜、布団に包まって独りで、泣いていた。
両親はとてもゲイに理解がありそうには見えなかった。
というよりも、毛嫌いしているようなのだ。
この間も、成太郎に母が言ったのだ。
「ね、お隣りの山田さんとこの息子さん、ホモなんですって!いやーよねぇ。気持ち悪い!」
これではカミングアウトも出来ない。
ましてや成太郎は一人暮らしを認めてもらえず、実家暮らしだ。
ゲイとしての活動など、出来よう筈もなかった。
そんな中での、泰治への叶わぬ恋。
何年もの間ひた隠しにして、内で温めて続けていた想いが、爆発しそうになって。
成太郎はようやく、泰治への告白を決意する。
ちょうど時を同じくして、母親が喜び勇んでとある見合い話を持って来た。
「ね、成太郎!これ、素敵でしょ!絶対に断っちゃ駄目ょ!これと結婚すればお父さん、出世しちゃう!嬉しーい!」
これ呼ばわりである。
ここに成太郎の母の心境が良く表出していた。
その場ではポーカーフェイスを貫いた成太郎だったが、内心では怒り狂っていた。

成太郎は決意した。
泰治への告白が成功したら、一緒に逃げようと。
何処までも逃げようと。
失敗したら、母の見合い話に乗ろうと。
その夜、成太郎は独りで、咽び泣いていた。

幼い頃。
成太郎は、男の子を好きになった。
その子は、久之と言った。
久之の事を想うだけで嬉しくなって、成太郎はウキウキしながら母に言った。
「お母さん、僕久之君の事が好きになっちゃった!とっても可愛い子なんだょ!」
次の瞬間だった。
バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!
成太郎は母から、往復ビンタを三回も受けたのだった。
「男が好きだなんて、金輪際言うな!今度言ったら、叩き出す!あんたは私の決めた相手と結婚して孫を作って、親孝行するのー!」
それ以来成太郎は、誰を好きになっても決して口には出さなかった。
好きになるのは全て、男だったからだ。

それ以来、何人かの男を好きになった成太郎だったが、いずれの場合でも想いを打ち明ける事は叶わなかった。
いつでも母の怒り狂った顔が思い浮かんで、告白どころではなくなっていたのだ。

結婚式前夜。
成太郎はドアノブで首を吊ろうとした。
だが、内臓が痛くなるばかりで、死ねる気配がなかった為に断念。
ひたすら、嗚咽を漏らすばかりだった。

翌日。
微塵も好きではない女と、誓いのキスをした成太郎。
悔しくて、涙が溢れた。
そこへ間髪を入れずに、「良かった、良かった!」という父と母の声が聞こえる。
成太郎の頭の中にはこの時、「鬼」の一文字が浮かんでいた。
もちろん、己の両親を指しての言葉である。

この時だった。
告白への返答があった際に、泰治が言っていた事を思い出したのだ。
「俺も多分、結婚する。三年経ったら、また会おう。その時にはきっと、付き合える筈だーー。」
また涙が溢れた。
なに、三年の辛抱だ。
訳ない。
そう無理矢理にでも思って、成太郎は己を奮い立たせていた。
長い長い、孤独との戦いの、これが始まりだった。

成太郎の妻は、瑞恵と言った。
勝気で、おっとりとした性格の夫の成太郎を、しばしば振り回した。
性行為は問題なかった。
妻にはEDだと言ってあり、行為のしばらく前に成太郎は堂々とシアリスを飲むのだった。
一旦勃たせてしまえば、萎えにくいのである。
ただ成太郎にとっては、やはり抵抗は強かった。
しかし、それだけである。
我慢すればいいのである。
少なくとも成太郎の両親にとっては、これはそれだけの話でしかなかった。
SEXや恋愛感情の事など、成太郎の両親にとっては取るに足らない、瑣末な事だったのである。

最後に泰治と会った時、つまり告白の返事を聞いた時、言われていた事があった。
「三年後の今日、夕方六時にこの公園の銅像の前で待ってる。約束だ。きっと守る。だから連絡はしないで欲しい。約束してくれ。」
成太郎は大きく頷いて、大粒の涙をポロポロと零した。

あと三年ーー。
このフレーズだけが、孤独な成太郎を支え続けた。
心を許せる者は、誰も居なかった。
やがて出来た子供は可愛かったが、いちいち双方の両親がおもちゃを持って乗り込んでくるので、鬱陶しい事この上なかった。
子供は、男の子だった。
それもあって、親類縁者皆が可愛がっていた。
その輪の中に成太郎一人だけが、入れなかった。
望んで作った訳ではない、そんな意識に絡め取られて、素直に接する事が出来なくなっていたのだ。

結婚から三年ーー。
喜び勇んで、公園の銅像前に向かう成太郎。
だが、待てど暮らせど泰治はやっては来ない。
嗚咽を漏らしながら深夜になって、そうっと帰宅するのだったーー。

それから毎年、その日の夕方になると、銅像の前で立ち尽くすようになった。
幾ら待っても、誰も来なかった。
それでも、めげなかった。
毎年毎年、ただひたすら、待ち続けた。
祈りを込めて、心から待ち侘びていたーー。

(三)

俺と幸恵は、SEXを済ませた。
その場でプロポーズ。
「こんな時にプロポーズだなんて、雰囲気も何もないじゃなーい!」などと言われたが、予想通り結果はOK。
俺の住んでいるマンションの部屋の間取りは、2DK。
幸恵はワンルーム住まい。
とりあえず一緒に住むなら、俺の部屋だ。
ただそうなると、幸恵が会社から遠くなってしまう。
どうするか。
俺は話を振ってみる事にした。
「どうする?ここで一緒に住むか?」
「うん!そうしたい!」
即答だった。
そういえば、言葉遣いが微妙に変わっている。
まぁ、そんなものなのだろう。

次の日、両親に報告。
「もしもし、母さん。泰治だよ。俺、バイだったみたい。好きな女の人が出来たから、結婚する事にした。プロポーズはもう済ませてある。今度挨拶に行くから、よろしく。今まで、本当にありがとう!」
電話口の向こう側の母は、声を震わせていた。
「そう、良かった、本当に……。待ってるわね、きっとよ!」
それで電話は切れた。

一昨年だったか。
母が早期の胃がんで入院したのだ。
手術は無事に終わり、俺は病院へと見舞いに行った。
その時に母から、初めての言葉を聞いたーー。
「孫の顔、見たかったわね。死ぬかもしれない、そう思って初めて、自覚したの。でも、仕方ないわね。」
衝撃だった。
それだけに、これでやっと胸が張れる、そう思った。
必ず子供は作るから、孫の顔は見せるから、待っててくれーーそんな思いでいっぱいだった。

後日、俺の両親に幸恵を正式に紹介した。
もちろん、幸恵の家にも挨拶に行った。
どちらの家も、歓待してくれた。
ありがたい。

結婚式前夜。
俺と幸恵は、ベッドの上でぽつりぽつりと会話をしていた。
「ねぇヤス、何年位結婚生活を続けたい?」
まさか三年と答えるわけにもいくまい。
困った。
咄嗟に俺は、丸二十三年、と答えていた。
「嘘!?何、五十年とか言わない訳〜!?」と責められたので俺は、そんな先の事は分からない、とだけ答えた。
それでも幸恵は腑に落ちない様子。
なので付け加える。
「子供を一人作って、大学卒業までで丸二十三年。二十四年目からは、余禄みたいなもんだ。」
そう言うと幸恵は、「それもそうだね!」と言って笑った。
だから俺も笑う。
ちゃんとした“夫婦”になれるかどうかは分からないが、友達夫婦にならなれそうだ。
ここで成太郎の哀し気な表情を思い出したが、俺はその感情に蓋をして、鍵を掛けた。
幸恵をシングルマザーになど出来ない、そんな思いが芽生え始めていたのだ。
ここでナックル。
「二人共、ラブラブだね〜。泰治のお友達の成太郎も、丸二十三年は結婚生活を続けるみたい。二人も、頑張って!そうそう、僕普通のシマリスよりもだいぶ長生きだから、老後のお供にも役に立つょ!よろしく!」
そこまで言い終えると、あとは恒例の歌と踊り。
ナックルの事は、以前初めて部屋に上げた際に、幸恵には話してあった。
その日も、そして今日もケタケタと笑う幸恵。
やはりこんなものを見せられた時の反応というのは、誰もが同じなんだな、と改めて感じるのだった。
「先、お風呂入って来るね!ヤスはナックルと仲良くしてて。」
笑顔で風呂場に向かう幸恵。
と、ここで言いたい事がある。
もちろん、ナックルにだ。
「おいナックル、三年の予定が二十三年になってるぞ。嘘も程々だ。どういう訳でだ。説明しろ。」
「だってそうでも言って結婚してもらわないと、ヤスと成太郎が危なかったんだもん。もしあの時告白にOKして付き合い出していたら、怒り狂った成太郎のお母さんが乗り込んで来て、みんなが悲しい事になっていたんだょ。仕方ないでしょ。」
固まった。
だが、腑に落ちた。
ここから俺達の戦いが始まるのかーー。
俺はいい。
いいのだ。
忘れたい事だがどうやら少々バイの気配もあるようだから、少なくとも幸恵とは友達夫婦では居られる。
だが、成太郎はどうかーー。
それを考えると、辛い。
「ほら、もうすぐ幸恵ちゃんがお風呂から戻って来るょ。そんな辛気臭い顔してると良くないょ。笑って笑って〜!」
♪タカ、ズンタカタッター、ズンタカズンタカ……♪
例の踊りに励まされて、俺の顔に笑顔が戻った。
そこへ幸恵が到着。
「さ、あなたもお風呂入って来て。せっかくだから、赤ちゃん作ろ!」
「おう、任せとけ!」
何が任せとけだょ、という突っ込みはこの際無視。
ちょうど三時間近く前にシアリスを飲んでおいた。
さて、入浴だ。
ここで男の裸を想像しながら勃たせると、薬のお陰で萎えにくいという訳だ。
正直言って慣れないが、自分で決めた事だ。
仕方ない。
自由なのだ、だからこれは俺だけの問題だ。
周りに迷惑を掛けていい話ではないのだーー。

結婚式も無事に終わり、翌年には子供も生まれた。
子供は女の子だったが、可愛かった。
すくすくと成長してゆく我が子を見ていると、こういう選択肢もあるのだという事を、ひしひしと実感させられた。
出産に伴い、幸恵は仕事を一時的に辞めていた。
娘が中学校に入学するまでは専業主婦としてやってゆくようにと、俺が勧めた。
家計が苦しくなるから、子供は一人だけだ。
これは、二人で決めた事。
その代わりに、子供は大学までちゃんと行かせる。
最初から考えていた事で、これは予定通りだ。

春夏秋冬が幾つも過ぎゆき、家族の想い出もたくさん出来た。
遂に恋をしているという実感は湧かず終いだったが、これはこれでいいと思えた。
多分やっぱり自分、ゲイ寄りのバイなのだ。
でも、改めてその事には蓋をしよう、再びそう思った。

娘が中学校に進学した。
今更だが娘の名は、千穂。
「チホちゃん、中学進学おめでとう〜!」
♪ズンタカズンタカ、ズンズンズンズン、タカタッ♪
例によってナックルが歌い踊る。
手に持った木の実を放り投げて足でキャッチしたりと、なかなかアクロバティックだ。
進化している。
家族でのお祝いの席で幸恵は、意外な事を口にした。
「私、スナックやりたい。自分のお店が持ちたいの。」
ここで考えた。
幸恵がお店で稼げるようになれば、将来の離婚もスムーズだ。
そんな事を前提にものを考える自分には嫌気が刺すが、成太郎が待っていてくれるかもしれないーー。
そう思うと、やはり将来の離婚は譲れない線なのだ。
まぁ、二十四年目で離婚するとして、俺と成太郎の年齢は四十代後半。
まだ行けるか。
成太郎に振られたら、男漁りの自堕落な日々が始まるだけだ。
まぁ、それもいい。
それもいいさーー。

程なくして、幸恵のスナックは開店した。
俺と違って幸恵には男女を問わず友人が多く、店はなかなか順調なスタートを切った。
開店資金は夫婦の貯金。
これは言わば、とんだ茶番に付き合わせてしまった俺からの幸恵への、なけなしのプレゼントだ。
千穂は地元の公立中に通っていたが、高校受験の為に進学塾に通わせる事にした。
やがて合格した高校は、公立の進学校だった。
急かせる事はしない主義の俺達夫婦だったが、千穂は勉強に自ら意欲を燃やしていた。
誰に似たんだろうか。
少なくとも、俺ではない事は確かだ。
俺はあいにく、ぐうたらなので。

そして、遂に時はやって来た。
千穂は東京の大学に進学、いよいよ卒業を迎えるーー。
結婚、丸二十三年。
俺は決死の覚悟で、幸恵に告げた。
開店準備前のスナックで、その場には二人きり。
「別れたい。」
俺が告げた言葉は、ただそれだけだった。
「あなた、バイなのよね。ナックルから聞いたわ。これまでありがとう、お疲れさま。楽しかったわ。お互い、第二の人生を歩みましょう。」
これはナックルに感謝だ。
もちろん、幸恵にも、千穂にも。

大学の卒業式を終えた後。
俺達家族はお別れ会を開いた。
もちろん、離れ離れになっても家族である事に変わりはない。
俺には、後悔はない。
成太郎はどうだろうか。
それだけが、気掛かりだった。
それにしても、揃って離れ離れになるというのに、三人共に笑顔が絶えない。
ケーキを囲みながら、談笑している。
側から見れば不思議な光景だろうが、俺達にとってはこれでいい。
これで、いいのだ。

三月三十一日をもって、離婚。
正式に家族解散である。
俺は、淡々としていた。
成太郎の出した答えを見届けてからでも、遅くはないのだ。
「成太郎は、きっと来るょ!だから秋までは、待たないと駄目だょ。」
相変わらずナックルは踊っている。
陽気な事だ。
ちなみに、ナックルは俺が引き取る事になった。
家族の一員だっただけに、俺が独り占めするようで、少し気が引けたのは事実だ。
だが、是非にと言われて断る程には、俺は良い人ではなかった。

晩秋。
「あの日」が迫っていた。
俺は行きつけの美容院に行って髪を切った後、プレゼントを購入して、当日に備えた。

そしてーー。
楓並木の下で、成太郎は一人、佇んでいた。
お互いに、相手の事はすぐに分かった。
雰囲気が残っていたのだ。
「遅いよ。」
そう言いながら笑う成太郎を、たまらずに俺は抱き締めていた。
「待たせてすまない。俺は所詮、どっち付かずのどうしようもない奴だ。それでも、お前のことは愛している、本当だ。老いぼれになるまで寄り添うから、俺と一緒に居てくれ。頼むーー。」
次の瞬間、成太郎との初めてのキス。
フレンチ・キスかと思いきや、そうではなかった。
大人の味。
往来があるので少し恥ずかしいが、これもまた良し。
そのままハグをする。
「しんどかったーー。」
成太郎による、心底からの言葉。
「俺は、楽しかった。でもお前となら、もっと楽しくやれる。一緒に居よう、な!」

それからすぐに、俺達は共に住む事にした。
場所はもちろん、俺の家だ。
成太郎は離婚の条件として、持ち家を相手に渡していたのだ。
慰謝料を免じてくれただけでも良かったのだろう。
成太郎の両親は既に他界しており、とやかく言う人間は居なかった。
随分と若くに逝ったものだ。
バチでも当たったかーー。
俺達の今後として養子縁組も考えたが、姓が変わるのを避けて、敢えて止めたのだった。

俺達はこれから先、何があっても一緒だ。
互いに丸くなっていて、何をしていても楽しい。
テーマパークにも行った。
今度は、勝った。
ナックルも含めて、新たな「家族」が出来た、そんな感じもある。
俺達は二人でよく、幸恵のスナックに遊びに行くようになった。
嫌な顔一つせずに、楽しい話で盛り上げてくれる。
幸恵とは友達になった。
同性と話す感覚で、楽しく話せる。
「再婚はしないの?」と聞くと、「あなたと丸二十三年間、とても楽しかった。だからもういいの。」と言って笑っていた。
どうやら幸せに出来たようだ。
良かった。

ある日俺と成太郎は、公園でキャッチボールをしていた。
ナックルボールなんてとても投げられないけれど、久々のボールの感触は、心地良かった。
二人揃って元高校球児。
血が騒ぐのだ。
これは言わば、二十四年目のプレイボールだ。
傍らには、幸恵と千穂の姿が。
「二人共、そろそろお弁当にしましょうー!」
幸恵お手製の弁当は、それはもう美味だった。
相変わらず彼女、料理が上手い。
スナックでも、凝ったお通しでお客さんから喜ばれているのだ。
俺達の関係は、新たなフェーズに突入していた。
約束の地なんてものがあるのなら、ここがそうなのだろう。
この幸せを噛み締めて、俺達はここで生きてゆく。
そう思うと何だかこそばゆくなって、思わず俺は照れ笑いをするのだった。
季節は、冬を迎えようとしていた。
それはとても嬉しい、新たな季節の到来だった。

-完-

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抜けるような青空が気持ちのいい、ある夏の日の事。
僕は携帯と財布をボトムスのポケットに突っ込むと、自宅アパートを抜け出して、散歩へと出かける事にした。
玄関ドアを開けると、外は夏の匂いや空気が充満していて、噎せ返るようだった。
階段を降り、庇の外に足を一歩踏み出すと、照り付ける日差しの強さと眩しさに、一瞬目眩がした。
汗が途端に吹き出す。

失恋した。
良い子だったのだ。
それだけに悲しかった。
友達でなら居られるよ、そう言われて一瞬動揺したが、僕はその誘いは丁重に断った。
叶わぬ恋の相手と共に過ごすというのは、僕には地獄にしか思えなかったからだ。

かねてから野良の茶トラに懐かれている。
飼ってもいいのだが、僕は今アパート暮らしのご身分。
許可は得られるだろうか。
散歩の途中だったが、思い立って、その場で管理会社に連絡してみる。
意外な事に、OKだった。
そう言われてみると、街の不動産屋で、この物件はペット飼育可だから人気なんですよ、などと言われた記憶が頭の片隅に残っているのに気が付く。
僕はひとまず、茶トラに名前を付ける事にした。
とはいっても、気の利いた名前など全く思い付かない。
トラでいいのではないかと思って、呼んでみる。
「おい、トラー。」
「ニャー。」
呼ばれるとのっそりと立ち上がり、俺の足元で丸まって甘える。
「さ、トラ。ペットショップに行くょ。」
「ニャン!」
トラ、心なしか嬉しそうだ。
言葉が分かるのかな?まさかね。

ペットショップでは鈴の付いた首輪、キャットフード、餌用のトレイ、トイレ、トイレ用の砂など最低限の物を買った。
ケージなどは今度でいい。
ここまでは徒歩で来ている訳で、そんなには持てないのだ。

トラと並んで歩く帰り道。
こういうのもいいな、と思えた至福の時間だったーー。

部屋に入る。
振り向くとトラ、筒状に丸められた紙を咥えている。
次の瞬間だった。
『今から俺と契約を交わして欲しいんだ。』
耳からではなく、明らかにそうではなく、脳に直接声が入り込んでくるのだ。
これには驚いた。
『テレパシーだ。そんなに驚く事でもないんだけどな。まぁ、あんまり気にしないでくれ。逆に智彦から念じる事も出来る。会話をしなくていいから、外でも怪しまれなくていいだろ。』
なるほど、などと感心している場合ではない。
僕、いよいよ頭がおかしくなったみたいだ。
『まぁ落ち着け。今起こっている事を、素直に受け止めるんだ。俺は喋れないが、契約してくれそうな人間とだけ、テレパシーが使える。もちろん契約後も使えるが。智彦が俺との間でテレパシーを使えるのも、俺の能力のお陰だ。試しに何か念じてみ。喋らずにな。』

頭がぐるぐるする。
混乱の極みだ。
そんな中、一つの画像が咄嗟に思い浮かんだので、とりあえず念じてみる事にする。

『智彦、今特大オムライスの画像を思い浮かべたろ?』
『凄い!当たってる!昨日の夕ご飯のメニュー、トラは知らない筈なのに!』
帰宅してからここまで、部屋の中はほぼ無音である。
やり取りは全て、テレパシーによって行われていた事に、ここで僕は気付いた。

どうやらトラが念で語ってくれた事は、本当らしい。
僕はトラから契約書を受け取ると、中身に目を通す。
なるほど、トラがテレパシーなどの特殊な能力を持つ事に関しては、口外厳禁、と。
他にも色々と書いてはあったが、特に気をつけた方が良さそうだったのは、その項目だった。
それにしてもトラ、この契約書によると、未来や過去の出来事を見る事も出来るのだそうで。
凄い猫だな、などと思ってしまった、思わず。
『そんなに褒めなくてもいいぞ。何も出てこないからな。』
と念で語りかけつつも、満更でもなさそうなトラ。
しかしまぁ、筒抜けとは困ったものである。
頭を抱える僕にトラはひと言。
『俺をもっと褒めればいい。それだけで済む事だ。』
これにイラっときた僕は、心の中で『トラのブス、ブス、ブース!』と念じてみた。
するとすかさず、飛び掛かって来るトラ。
鋭い爪で顔を引っ掻かれて、哀れ僕の顔、血まみれだ。

二ヶ月前。
この近所で殺人事件が起こった。
当時中学生だった男子が、暴行を受けて殺されたのだ。
可哀想だという同情は広く集めたものの、事件は何の手がかりもないまま、今にも迷宮入りしそうなのだった。

もしやトラの能力があれば、解決に導けるのでは?
期待に胸を高鳴らす僕。
だが、続いてのトラの念による語りは、そんな僕に冷や水を浴びせかけるようなものだった。
『犯人の目星はついてる。だが、目撃者も物証もない。証拠がなければ、念で犯人を知った所で、何の意味もない。』
詰んだ。
行き詰まった、完全に。

『そんな事より。契約書へのサインが先だ。ほらょ。』
デスク上のペン立てから、放物線を描いてひとりでに飛んで来るボールペン。
そうだった。
完全に忘れ切っていた。
僕が慌ててサインをすると、ボンっという音を立てて、契約書は煙となって消えた。
『腕、見てみ。』
促されて見てみると、腕の内側に小さな青い印が打ってあった。
『その印は、何らかの理由で契約が切れない限りは、消える事はない。契約者である証のようなものだな。』
なるほど、見落としとしまいそうな程の小さな印が、しかししっかりと、腕の上で自己主張をしていた。
『これ、タトゥーみたい。嫌なんだけど。』
『俺と居たかったら、我慢しろ。』
まぁここは仕方ないか、そう思ってトラを見ると、心なしか嬉しそうなのだった。
結構、単純なのね。
『単純とはなんだ、単純とは!』
『その方が可愛いから、いいの!』
『まぁ、許す。』
思うだけで念になるのか?
落ち着かないなぁ。
とまぁこんな訳で、僕とトラとの共同生活はスタートしたのだった。

去年の夏。
僕にとっては、高三の夏。
照りつける日射しが眩しい休日の午後に、僕は両親にカミングアウトをしていた。
「僕、ゲイなんだ!もしも邪魔なら、高校卒業したら大学へは行かないですぐに就職するから。だから、あと少しだけここに置かせて!」
これに、両親の対応は実に素っ気ないものだった。
『ゲイなの?あら、いいんじゃない?別にあなたは悪くはないわよ。それよりせっかくなんだから、大学へは行きなさいね。学費は出すから。』
『今時ゲイなんて珍しくもない。実際の所は、数は少ないらしいがな。そんな事より、学生なんだから勉強頑張れ!あと、悪事は働くなよ。それさえ出来ていれば、後は何も言わん。』
両親共にこんな感じで、肩透かしを食らった気分でさえあったのだ。
とはいえこれはありがたかった。
今こうしてアパートに住んでいられるのも、両親の仕送りのお陰なのだ。
感謝してもし切れない。

しかし世の中そう上手くは行かないもので、大学に入って以来、いまだに友達も彼氏も出来ず終い。
元々が内向的な性格だったから、難しいのだ。
人間、そう簡単には変われないものなのである。
でも、そんな事では駄目だと、心が囁く。
そうだ。
あの男の子にもう一度だけ、告白してみよう。
ひょっとしたら、奇跡だって起こせるかも知れないーー。

大学のキャンパスで。
もう一度、男の子を呼び出した。
今度は花束を買って、用意してみた。
選んだのは、真っ赤なチューリップ。
薔薇だとキザかな、と思ってのチョイス。
花言葉は“愛の告白”。
お誂え向きだ。

初恋を経験したのは、小六の頃の事。
何も出来なかった。
目を合わせる事さえ、恥ずかしくて躊躇われた。
当然、何も起こる事はなく、僕の初恋は花開く前に散っていった。
僕は、意気地なしだった。

それから高三まで、ひたすら勉強に打ち込んだ。
ゲイである自分が病気ではない事はネットで知ってはいたのだが、良い出会いはなかなかないものだ。
だから、青春の有り余るエネルギーを、勉強に振り向けたのである。
それが少しだけ変わったのが、高三の春だったのだ。
僕はそれまでの勉強の甲斐あって、高校では選抜クラスに所属していた。
そのクラスメイトに、恋をした。
結局最後まで告白出来ず終いだったが、当時は顔を見るだけでも幸せな気持ちになれたものだ。
そのクラスメイトは、海外に留学したから、その後の事は分からない。
僕は東京の大学に進学したから、どのみち離れ離れになる運命だったとも言える。

男の子がやって来た。
浮かない顔だ。
だから僕は、怯むな!そう己に言い聞かせた。
僕が勇気を振り絞って告白しようとすると、目の前の男の子が、何かを呟いた。
「え?何?」
思わず聞き返すと、ここでは騒がしいから場所を変えたいとの事だった。
で、近くの喫茶店へと移動。
このお店、お値段がお高いから、学生さんはあまり利用しないらしい。
極小のカップに注がれた香り高いコーヒーが、程なくして僕達の目の前に現れる。
それはまぁ、香り高くないと困る訳だ。
これ、こんな量で結構するのである。
どうりでこのお店、空いている訳だ。
プリンアラモードなんて、小さいのにいい値段過ぎて、目ん玉が飛び出そうになった。
それはそうと、本題である。
「お願い!これが最後の告白。僕と付き合ってください!」
すると、まだ名前も知らない目の前の男の子が、泣いていた。

どうしたらいいのかは分からなかったが、とりあえず下ろしたてのタオルハンカチを渡してみる。
彼の名前は悠太郎と言った。
悠太郎は涙をそれで拭うと、鼻もかんで丸める。
ありゃま。
「僕、昔男の子に告白した事があるんだ。ちょうど智彦みたいな感じの子。その子、僕がゲイだって事学年中のみんなに触れ回っちゃってさ。父さんと母さんが助けてくれなかったら、今頃僕、死んでたかも。」
そしてこう続けた。
「今の告白が本気なら、付き合ってもいい。けど冗談なら、一生許さないから!」
だから僕は胸を張った。
「もちろん、本気だょ!きっと幸せにするょ。楽しくやろうょ。」
そう言って、チューリップの花束を渡した。
すると悠太郎、それまでの険しい表情が嘘のように、それはもう嬉しそうに花束を受け取るのだった。
「や、そういえば体型、似てるね。ナルシストではないつもりなんだけども。」
「似てるよね!アハハ!顔は似てないから、いいんじゃない?」
二人して、笑った。
幸せになれれば、過去の嫌な記憶なんて消し飛んでしまうもの。
そうに違いない。
だから僕達は、この時知らぬ間に、記憶の整理を頭の中で行っていたのだ。
要は、嫌な記憶を少しずつ消し去って行く作業、とでも言うのかな。

そこへ、場違いな事に美少女がやって来た。
いわゆる萌え系、という感じかな。
で、何となくツンデレっぽい、みたいな。
フリルのたくさん付いた服装で、店内で、一人浮いている。
「ねぇ、そこの君!」
ほうら来た来た。
僕のことを指差して、何となく偉そうだ。
ここまでは、予想通りの展開。
「茶トラを飼っているだろう。調子はどうだ?」
「あの猫なら、渡しませんょ!」
僕は目の前の美少女の事をキッと睨み付けた。
「大丈夫だょ、智彦。この子、僕の妹だから。猫は苦手だから、取られる心配はないょ。」
なるほどね。
心配して損した。
「あの茶トラ、トラって名付けました。元気ですょ。」
それにしてもこの子、何でトラの事を知っているのだろうと頭を捻っていると。
「また随分とありきたりな名だな。まあいい。私は超能力を使えるのだ。兄には遺伝子しなかった、特殊な能力だ。」
「じゃあ、トラの持つ特殊な能力っていうのは……。」
「先の兄の話にもあった通りで、情けない事に私は猫が苦手でな。何もしてやらないというのも不憫に思えたから、能力を授けてやったのだ。」

ここで、以前から心の片隅に引っ掛かっていた、二ヶ月前の暴行事件の事を思い起こす。
彼女の力で、どうにかならないものか。

「おそらくあの茶トラもだろうが、二ヶ月前の暴行事件、犯人の目星は付いている。ただ、何の証拠もないままでは、どうにもならんだろう。どうしたものか。」
「念だとか超能力だとかで見えている映像をそのまま、パソコンで開ける形式のファイルに出力出来ませんか?二ヶ月前の事件現場の映像をファイル化出来れば、手っ取り早いと思って。」
都合の良い話だとは分かっていた。
駄目で元々だ。
ここは一応、聞いてみるのだ。

「それは難しいな。それより遺体は何処で発見されたのだ?」
「ここからしばらく離れた裏山の山中に埋められていたそうです。表面が不自然に固められていたので、裏山の所有者が掘り返してみたのだとか。」
「そこに案内しろ。」
もう何も出ないと思うのだが。
でも一応、ね。

一旦僕の部屋に戻ってトラを連れ出すと、揃って現場へと向かう。
念のために所有者の家を念で確認してもらい、訪ねるのだが、留守だ。
トラによるとどうやら、山菜採りに出掛けたらしい。
現場が近付いて来ると、トラが騒ぎ出した。
念で伝わって来る言葉を読み取ってゆくと……。
『被害者は加害者から常習的に暴行を受けていたようだ。事件のあった日は、逃げる途中で捕まらないようにしながら、犯人の名前が油性ペンで書いてあるビニール製のメモを、少し離れた場所、そう、ちょうどこの辺りで埋めたんだな。ビニール製のメモは、やはりビニール製のファスナー付きの袋に入っているから、文字は読めるはずだ。』
これは一大事だ。
でも何故離れた場所に?
『犯人に見つかったら処分されてしまうからだろう。埋めた時点で、少年は自分の運命を悟っていたのだな。ビニール製の袋まで用意していたとは、泣ける。可哀想な事だ。』
トラは猫の癖に溜め息を吐いて、嘆いた。

僕と悠太郎はトラや妹さんが示した辺りを、ゴム手袋を付けて掘り返してみる。
すると探しながらゆっくりと掘り進んで五分ほど経った頃、ビニール製の袋が出て来た。
ビンゴだ。
「ねぇ、これ誰が警察に持っていくの?僕は嫌だょ。」
早速、悠太郎が妹さんに聞いてみる。
妹さんは、明快にこう答えた。
「もちろん、智彦君で。」
「え、えぇ!?」
トラと悠太郎、笑っている。
覚えてろょ、畜生……。
そんな僕を気にも留めずに、妹さんは話を続ける。
「私が行ってもいいのだけれど、万が一超能力が使える事が人に知れたら厄介だわ。今ここに居るだけでも冒険なの。これ以上やると犯人が、私のせいででっち上げられたと言えば、そこで話は終わってしまう。兄は記憶力がないから駄目。適任は智彦君、あなたなの。」
どうも僕は、犯行現場を見ていたという嘘をつく事になるらしい。
犯行当日の現場の詳細について、妹さんからレクチャーを受ける。
「でも、何で今頃申し出たんだって話になりますょ、きっと。」
すると妹さん、眉一つ動かさずに、こう言った。
「仕返しが怖くて今まで言えなかった、こう言えばいい。まだ二ヶ月だ、大丈夫。」
なるほど、怖い人だ。
敵に回したくはない。

その後、警察署で。
打ち合わせ通りの告白をする僕。
物証があるからか、すんなりと話は通った。
良かった。
心配は取り越し苦労だったらしい。
幸か不幸か、僕は元々犯人の顔と名前を知っていた。
高校時代の同級生だったのだ。
それ以上は知らない。
よって今回の事件の動機も不明だ。
後日逮捕されて、一件落着。
さて、警察署を出ると、僕は近くの公園へと直行する。
悠太郎がトラを抱えて待っているのだ。
「あれ、妹さんは?」
姿が見えない。
「帰った。それより、これからどうする?」
「うちへおいでょ、もし良かったら。」
「うん、行く行く!」

それから二時間後。
僕にとっての初体験は、終わりを告げた。
トラによると、悠太郎はちょくちょく遊んでいたらしい。
本気ではなかったらしいのだが、それでも心配だ。
そんな事を考えていると、悠太郎が一言。
「浮気しないでね!」
それはこっちの台詞だよ、と思いつつも、僕は無言で大きく頷いていた。

その後。
悠太郎は僕の家に泊まる事になった。
なので、僕達は二人で夕食の買い物に出掛ける事にする。
「ねぇ、夕食は何にするの?」
「すき焼きはどう?国産のお肉、奮発するょ。」
「やったね!」

ここでふと思い出す。
高三の頃、それまでの人生で唯一と言っていい友達が居た。
名は紀伊太郎と言う。
ヘテロであり、純愛に憧れるウブなところがあった。
彼は憧れていた女の子に告白、やがて付き合い出す。
初めの頃は、嬉しそうなメールが度々、僕の元へと届いていた。
が、彼からのメールは、「今夜は彼女とすき焼き!家族みたい。嬉しい!」という短文を最後に、ぷっつりと途切れてしまう。
それ以降、彼からのメールが僕の元に届く事は、遂になかったーー。
彼女は、股を掛けていたのだ。
紀伊太郎は、遊ばれていた。
彼は、空の星となったーー。

別に悠太郎に遊ばれていた所で、僕が自殺をする道理はない。
だが、忘れた筈の悲しい記憶が頭を掠めていたせいか、顔色は曇っていたようで。
「どうしたの?顔色悪いょ。」
悠太郎に心配を掛けてしまった。
「ううん、何でもない。」
慌てて取り繕う僕。
が。
「僕があんまり可愛いものだから、心配したんでしょ?大丈夫!僕はこう見えても、想い人には一途だから。」
悠太郎の言葉に少し安心しながら、近所のスーパーへと出掛けるために、玄関で靴を履く。
するとそこへトラがやって来て、ウインクなどするではないか!
もしやこれはーー。
「僕はトラのサポーター契約者。一匹の猫につき、契約者とサポーター契約者を一人ずつ付ける事が可能なんだ。だから僕もトラの念じている事が分かる。テレパシーは一対一の他、一対二、妹も交えた一対三で行う事も出来る。僕が契約者にならなかったのは、猫の世話なんてするつもりがなかったから。飼ってくれそうなあてはないかと聞かれたから、君の名を挙げておいたんだ。」
おやまぁ!
悠太郎、何と僕の事を前から知っていたのだ。
「可愛かったからね。何となく、知ってた。まさか両想いだなんて、思わなかったけど……。」
悠太郎が下を向いたので、すっと頰にフレンチ・キス。

僕達の恋はまだ始まったばかり。
これからどうなるかは分からないけれど、トラが居るから、少なくとも浮気の心配はなさそうだ、お互いに。
楽しい事がたくさんあるといいなーー。
そう思って悠太郎と顔を見合わせると、どちらからともなく笑みが零れた。
『二人共、幸せになれよ!』
トラの呼び掛けに、大きく頷いた僕達なのだった。

お・し・ま・い

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この所、雨が多い。
じめじめとして、鬱陶しい。
今は出先で、傘はない。
持って来れば良かった。
迂闊だ。
雨音は嫌いではない。
しかし。
この急な雨は、俺を困らせようとしている風にしか思えない。
或いはこの雨はひょっとして、あの時の俺の涙なのだろうか。
そう思うと急に照れ臭くなって、俺は中華屋の軒先から飛び出すと、最寄りの地下鉄の駅の地上出入り口まで駆け出していたーー。

今からひと月前の出来事。
父が危篤だった。
倒れてからは、もう半年になる。
あの日、俺は仕事中だった。
入院中だった父。
容体が急変したのだ。
仕事を途中で切り上げて、早退。
病院へと急ぐ。
正直、間に合って欲しかった。
意識がなくなる前に、どうにか辿り着けないものかーー。
難しい事は分かっていた。
でも、うわ言でもいい。
父の言葉が、聞きたかった。
そしてその一縷の望みは、部屋のベランダの薔薇の鉢植えの数々の力を借りて、奇跡的な形で叶う事となる。

父とは昔から、仲が良かった。
ゲイである俺の事を、母以上に心から理解してくれていた。
俺が高校一年だった頃に、こんなやり取りがあった。
「ねぇ、俺男の人が好きなんだけど、やっぱおかしいのかな?病気だったら治療しないと。」
父は笑ってこう言った。
「そういうのはゲイっていうんだ。病気じゃないぞ。俺の知り合いの息子にも居るんだ。別に珍しくもない。怖がる事はないから安心しろ。ただ、その事を明かす相手はよく選べよ。」
この一件で、俺と父との絆はより一層、深まったのだった。

初恋と呼んでもいいものかは分からないが、初めて人に好意を寄せたのは、中二にまで遡る。
笑顔がとても可愛らしい、一つ年下の男の子だった。
告白をしたいのだが、失敗したら悲惨だ。
だから俺は、さり気なくこう聞いた。
「別に答えたくなかったらそれでいいけど、ゲイとかホモって、光君はどう思う?」
「僕は全然気にしないょ。良かったら付き合ってみる?君、名前は?」
や、いきなり直球か。
まどろっこしいやり取りはなしで、という事か。
それなら、それで。
「ありがとう!僕は充って言うんだ。ぜひお付き合いしたいな!これからもよろしく!」
もちろん、俺の方には断る理由など微塵もないのだから、ここは受けるしかない。
手を差し伸べると、温かくて俺よりも小さな掌が出て来た。

早速意気投合して、光君の家に遊びに行く。
着いた先は、いわゆる高級分譲レジデンス。
俺も一応この近所に住んではいるが、両親がかつて中古で購入した築二十五年の、古ぼけた小さな一戸建て。
だから正直ここは、俺には場違いもいい所だ。
オートロックを解除して中に入ると、そんなに大規模なマンションでもないのに、広いロビーとフロントがある。
「フロント、時間限定なのね。分譲の、これが弱みかな。」
とはいえ、話によると全二十戸そこそこの物件らしいのだ。
フロントなどある方がおかしい。
そういえばこのマンション、フロント以外に人の気配がしない。
その場にはちょっと居ただけなのだから、別におかしくもないのだが、それにしても何処を見回しても住人や関係者が一人も居ないというのは、何処となく不気味だ。
光君の住まいは、最上階のペントハウス。
四方向から光が差し込む住戸で、とにかく広い。
このフロアにあるお部屋は、ここだけ。
この時の俺は、あまりに浮世離れしている、光君の住む家を見て、正直舞い上がっていた。

両親は共働きらしい。
それぞれ別々の上場企業の幹部だとか。
どうりで。
それはそうと、家に上がるなり同い年位の男の子が居て、面食らう。
呆然と立ち尽くしていると、向こうから話しかけて来た。
「やぁ!君、名前は?光にはあと四人彼氏がいるから、君で六人目。確かに可愛い顔してるね。乱交とかもあるから、みんなで親睦を深める機会はあると思うょ。」
親睦ねぇ。
俺は真っ平御免だ。
という訳で俺は、早々に見切りを付けると、そそくさと退散する事にする。

「充君待ってよ!何が不満だって言うのさ!」
だから言ってやった。
「何もかもだょ。」ってね。
帰り道、不意に涙が零れたのを覚えている。
これが自分の初恋かと思うと、なんだか情けなかったのだ。

病室に着いた俺は、意識のない父と対面する。
すると、背後から母の声がした。
「間に合って良かった。それにしてもあなた、ゲイなのは良いけど、本当に子供は要らないの?可愛いわよ。身の振り方、少し考えてみてから決めても良いんじゃないかしら。」
母の発言、場違いも甚だしいので鬱陶しくはなったが、まぁ一人息子の長男が子供も作らないというのだ。
罪悪感は当然、ある。
だからここは努めて抑えて、冷静に告げた。
「俺が子作りのために結婚すると、偽装結婚になってしまう。相手の女性にも申し訳ないから、それは出来ない。」
母の返答は、意外にも素っ気ないものだった。
「あらそぅ。それじゃ仕方ないわね。」
それより、気になっていた事を聞かねば。
「何でそんなに気丈なんだよ。」
即答だった。
母は真っ直ぐな目で俺を見た。
「私は信じてるの。もう無理かもしれないと思ったら、それまででしょ。でも、万が一の事があるといけないから、あなたには急いで来て欲しかったの。」
その時だった。
俺を呼ぶ、小さな声がする。
これは時々聞こえる、家のベランダの薔薇達の声だ。
耳を澄ませるとーー。

「ねぇ充、お父さんの事助けてあげる。僕達は力を使い果たしてみんな枯れちゃうけど、悲しまなくて良いょ。また育ててくれれば、きっとまた会える、そう信じてるんだ。今までありがとう!またね、元気でね!」

同時に、父の意識が回復した。
俺は心の中で、薔薇達にありがとうと、そう何度も念じていた。

ふと思い出した、ずっと昔の話。
幼い頃から、特に父は俺に優しかった。
昔、父はよく肩車をしてくれた。
「ほーら、高いだろう!」
「うん!」
思い出は、きらきらと輝く。
父が肩車をしてくれなくなったのは、別に俺の親離れが進んだからとか、そんな理由からではない。
単に重たくなったからだ。
腰にくるのだという。
確かに当時から太ってはいたから、無理もない話ではある。

飛んでいた意識を元に戻すと。
半年間意識の回復がみられなかった父が、目の前で何かを喋ろうとしている。
気丈だった母はここで、泣き崩れた。
「洋子、充、心配かけたな。体が軽い。もう大丈夫そうだ。この分なら、また充の事、肩車出来るな。」
父は、そう言って笑った。
それだけで、たったそれだけの冗談で、俺は涙を止める事が出来なくなった。
父は両手で、母と俺の頭を掻き抱く。
薔薇達の尊い犠牲のお陰で、俺達の家族は救われた。

雨が上がった。
外回りを終えて会社へと戻る途中で。
鴉が、視界に入った。
正直、鴉は苦手だ。
嫌な思い出があるからだ。

二度目の恋。
鴉が邪魔をした。
中三の夏。
告白の時。
入道雲を切り裂くように、鴉が手前を横切る。
それだけならまだしも、その鴉、今度はこっちに向かって来るではないか。
「充君ごめん!僕、鴉は苦手なんだ!」
それから学校でも放課後でも、彼は俺の事を避けるようになった。
それどころかクラスメイトの間では、俺は鴉野郎という事になってしまった。
結局想いは、告げられなかったーー。
まぁ告げていた所で上手く行くとは限らなかったのだから、これはこれで結果オーライだったのかも知れなかったが。

雨だった日の夜。
路面はもう、すっかり乾いていた。
俺は仕事を終えて、帰路に就く。
行きつけの立ち飲み屋で、夕食がてらのつまみと共に一杯。
気取った店は、嫌いだ。
昔は憧れていたものだが。
時間が経てば、人も変わるのである。
と、ここで携帯に着信。
俺は基本的に、一旦登録した連絡先は消さない。
だから中学時代から今までの連絡先が全て、携帯に残っているのだ。
別に特段連絡を待っている訳でもないのだが、もしかしたら吉報が届く事だってあるかも知れないーーそう思うと、消せないのだ。
まぁ、それは置くとして。
俺は携帯の画面を見る。
驚いた。
それは初恋の相手、光君からのものだった。
俺は恐る恐る画面に指を触れて、なぞる。
電話に出ると、あの懐かしい声が聞こえて来て、妙な期待が頭をもたげる。
あれから俺も色々と経験を積んで来た。
今なら、あの時の光君の気持ちも、少しは分かるつもりだ。

そう、実はあるのだ。
光君と同じような事をしている男性に、恋に堕ちた事が。
その男性とは、俺が高一の時に出会った。
一目見て恋に堕ちた。
知り合ったきっかけは、いわゆる出会い系。
出会い系にはその後も、よくお世話になった。

談話室で。
静かな店内にて、紅茶を啜る俺と相手の男性。
相手の男性は、名を晶之と名乗った。
「これから行こうよ、僕ん家へさ!仲間も待ってるょ!」
「仲間って!?」
この時、嫌な予感がしていた。
それは程なくして的中する。
俺は、耳を疑った。
「あぁ、僕、彼氏が七人居るんだょ。充で八人目。よろしくね!」
すかさず手が出て来たので、条件反射で思わず握ってしまう。
退路を断たれた。
正直、あまりそういう面倒臭そうな人間関係の中には、首を突っ込みたくなかったのだが。
ヤマタノオロチではあるまいし。
でもまぁ、ここは仕方ないのでとりあえず、晶之さんの後を付いて行く事にした。

こぢんまりとした風情のマンションの、一室。
中は意外に広い。
居間に通された俺は、七人全員とここで対面した。
反応は綺麗に真っ二つに分かれた。
あからさまに嫌な顔をする子と、フレンドリーな雰囲気を醸し出してくれる子。
これでは、先が思いやられる。

それからは、色んな事があった。
俺を嫌っている子からは、嫌がらせを受けた。
俺にだけ埃だらけのお茶を出したり、座布団の真ん中に画鋲を置いたり、晶之さんの見ていない所で足を踏みつけたり。
でも、好いてくれる子も居た。
懐いてくれる子、助けてくれる子。
そこでは、SEXはしたい子とすればいいという状態になっていたから、抱いたり抱かれたりする事もしょっちゅうだった。
悪い事ばかりではなかったのだ。
しかし、そういう自由過ぎる人間関係に飽きて来たのもあって、一年でそこは卒業した。
晶之さんはいつもの調子で、止めるそぶりも見せずに朗らかだったーー。

光君からの電話。
「良かった、繋がった!」
声が嬉しそうだ。
俺は努めて冷静に、光君に声を掛ける。
「久し振りだね。どうしてた?俺は汐留勤めの、平凡極まるサラリーマンってとこ。」
それに光君、相変わらずの率直さで。
「ねぇ、今度会えないかな?近況も報告したいし。」
「オッケ!週末に池袋のカフェでどう?」
「分かったょ、了解。西口のスタバに十四時ね。」

どうせまた同じ事の繰り返しかも知れない。
でも、少しでもチャンスがあるならーー。
俺は、上手く行く方に賭けてみた。
失敗してもまた次がある。
いつもの事だ。
もうすっかり、慣れっこなのだ。
だから、気にしない。

あれから、また薔薇を育て始めた。
どういう訳か、今度の薔薇も喋るのだ。
こうした事は二度目なので驚きはしなかったものの、またか!という思いはあった。
前の薔薇達の記憶を受け継いでいる訳ではなく、その点では残念だったが、今度の薔薇達もフレンドリーなので、すぐに仲良くなれそうだ。

光君と再会する前の晩。
薔薇達がベランダで囁く。
「明日会う相手、びっくりするような秘密があるけど、怯まずに前向きに考えた方が良さそうだょ。」
びっくりするような秘密ーー気になる。
や、気になって眠れないじゃないか!
ベランダの薔薇達はクスクス笑っている。
笑い事じゃないっつーの、もぅ!

翌日。
池袋駅西口のスタバにて。
久々の対面。
相変わらずの童顔ぶりに、顔が綻ぶ俺。
でも、本題はここからだ。
まずは近況を聞かねば。
敢えて今、俺にわざわざ連絡をして来るのには、何か理由がある筈だからだ。
「ねぇ、最近どうしてる?彼氏の山はどうなった?」
するといきなり、予想外の言葉が飛んで来る。
「僕、HIVに感染しちゃった。だからみんな居なくなった。」
これは、どうしたものか。
前に進むにも後ずさりするにも、勇気が要る。
考える事、一分。
「良かったら、付き合わない?昔出来なかった事を、一緒にやろうょ。」
薔薇達のアドバイスを、ここで思い出したのだ。
すると目の前の丸顔が、涙でびしょびしょに濡れる。
俺は持っていたハンカチを差し出すと、頭をそっと撫でてやった。

聞くと光君、今は川越駅近くのアパートに一人で住んでいるのだという。
両親からはHIV感染発覚を機に見放されてしまったそうで、その後は至って庶民的な生活をしているという。
「夢はあるの?」
ふと、気になった事。
「好きな人と、一緒に住みたい。」
やはり、独りは嫌みたいだ。
ま、それはそうだよね。
という訳で、切り出してみる。
なに、これ位の事は予想の範疇内だ。
「とりあえず、うちに転がり込んでみたら?今、ちょうど2LDKの賃貸マンションに住んでいるから、部屋は空いてるょ。」
その瞬間、目の前の丸顔がパッと明るくなった。
「うん、そうしたい!」
早速俺達は、これから二人の家となる我が家へと、足を運ぶ事にした。
まだ新しい物件だから、きっと気に入ってもらえるだろう。

そもそも独り暮らしなのに、わざわざ家賃の高い2LDKを選んだのには、ちゃんと理由がある。
三年前の春まで、当時付き合っていた彼氏と、同棲していたのだ。
彼は、素敵だった。
俺には、勿体なかった。
そう。
俺には、素敵過ぎたのだ。

気が付いた時には、五股を掛けられていた。
そうなると、もう誰が遊びで誰が本命なのかも、全く分からない。
それにしても、一緒に住んでいたのによくまぁ気付かれる事もなく、そんなにも浮気が出来たものである。
まぁ、残業だとか出張だとか、頻繁にあったそれらは、大抵が嘘八百だったのだが。
俺の恋愛人生は、まさに七転八倒だった。
今度はどうなるか?
上手く行ってくれ、頼むーー。

「今日からここに居るといいょ。明日はちょうど休みだから、必要な荷物を持って来るとして。どうかな?」
「うん、ありがとう!僕、凄く嬉しい!」
感触は上々。
いい滑り出しかな、うん。

その夜。
初めて肌を重ねる。
すべらかな柔肌が、心地いい。
嬌声を聞きながら、ボルテージはMAXーー。

「ねぇ、良かったの?」
「んぁ、何が?」
「ほら、僕HIVでしょ。良かったのかなって。」
それなら取り越し苦労だ。
ちゃんとコンドームは着けていたし、何より覚悟は出来ていたのだ。
だから俺は、返事の代わりに抱き締めた。
優しい優しい、夜だったーー。

二年前。
付き合っていた子が、空の星となった。
俺の恋愛相手としては、珍しく真っ当な子だった。
優しかった。
それが、彼自身を苦しめていた要因でもあった訳だが。
俺は、何も出来なかった。
救えなかった。
そもそも当時は、彼の身に何が起きていたのかも知らなかった。
情けなかった。
本当に。

最後の夜。
俺に組み敷かれていたあの子は、透明な瞳を向けてこう言った。
「今までありがとう。幸せになれるといいね。」
訳も分からずにただ、俺は無我夢中で抱き締めていた。
目の前のあの子が掌から零れ落ちてしまうような気がして、たまらなかった。

あの子は、失踪した両親の借金を背負って、どうにもならなくなっていた。
訳を知っていた所で、俺に何が出来たか。
それは分からない。
でも、何も言わずに居なくなってしまったからーーいつまでも傷が疼いて、どうしようもなくなってしまったんだ。

あれから俺は、少しは成長出来ただろうか。
光君の事は幸せにしてやりたい。
今度こそ、何としてでも。

光君と同棲を始めてから半年。
俺達の関係は続いていた。
変わった事といえば、中古のマンションを購入した事だ。
ローンは俺が組んだ。
代わりに、生活費は光君に出してもらう。
二人で居るには、それが最善の策だと思ったのだ。
もちろん、薔薇達も一緒に、お引っ越し。
実は引っ越し先の物件は、薔薇達がお勧めしてくれたものだ。
だから内心では、安心している。
薔薇達を信じているのだ。
有り難い、得難い存在なのである。

ある日の夜、新居で。
光君が口を開く。
「僕の事、信じてる?」
だから俺は、胸を張って答えた。
「信じてるょ。だってそうでないと、家なんて買えないだろう?」
素で出て来た言葉。
飾り気など全くない。
やがて、黙ったままの光君を視界に入れて、俺は驚いた。
光君、泣いていたのだ。
こんな表情を見るのは、再会した時以来だ。
戸惑いながらも俺は、光君の事を掻き抱いてやる。

俺達には、夢がある。
それは、ほんのささやかな希望でもある。
いつでも、どんな時でも一緒に居たい。
それだけだ。
嵐の夜でも、向かい風の中でも、疑わずに、互いの支えになれたらーー。
そう思う俺達は、昔よりもきっと、強くなっている筈だ。

光君は、貯金をはたいて二丁目にバーを出店した。
自身の経験を、悩める同胞達にも伝えたいらしい。
今の所、収支はとんとん。
まぁ気長にやればいい。

父とは、前よりも増して仲良くなった。
母との関係も良好だ。
俺はついこの間、光君の事を俺の両親に紹介した。
「まぁ二人共ふっくらしちゃって!確かに可愛らしいけど、糖尿病には気を付けるのよ。」
母さんはそう言いながら笑って、饅頭を頬張る。
人に糖尿病の心配をしながら、饅頭ねぇ。
何だかな。
「充のこの体型、誰に似たのかね?」
父が笑って言うので、母がすかさず突っ込んだ。
「あら、あなたよ〜。」
母、大笑いですが、僕、あなたにもとても良く似ています。
残念な事です。
それからは宴もたけなわ、賑やかな食卓となった。

俺達のストーリーは、まだまだこれから盛り上がってゆく。
この広い空の下で、夢を膨らませる事が出来たなら、約束の地はきっと、もうすぐだ。

-完-

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ペン助・ペン太のほっこり劇場 [其の四]

季節は冬。
掘り炬燵を造った。
まぁそうは言っても、別に自分達は何もしていないのだが。
中庭の見える洋間を、和室に変えてもらっての事だ。
ついでに元々あったペアガラスを、より高価で性能の高い真空ガラスに替えてもらった。
それからは、我が家は結露知らず。
中庭のガラスで効果があった事に気を良くして、家中のガラスを真空ガラスに交換したのだった。
クリアなガラス越しにペンギンを眺めながら、お茶を片手にほっこりとしたひと時。
で、まぁ。
わざわざ銀座まで出向いて買った、丸福堂の羊羹がお茶受けなのだが。
目玉が飛び出る程に高いだけあって、それはもう美味しいのである。
これはもう、ある意味羊羹の域を超えている。

丸福堂の羊羹は元々、生きていた頃の両親が大好きだったんだよね。
夏場は水羊羹。
これもみんなで美味しく食べたっけ。
十二個入り六千円の一箱が、あっという間になくなったのを覚えている。
そんな訳で羊羹や水羊羹は、いつも買い置きがあった。

キャンベルのクラムチャウダーにロールキャベツ、ビフテキにマリネ、ドリアといったメニューの後で、杏仁豆腐と丸福堂の羊羹が出て来るといった事は、度々あった。
当時はそれが普通だと思っていたのだが、実は恵まれていたのだ。
両親には感謝だ。
今でも記憶に残る、それが思い出の一つだ。

さて。
今日は夏太郎が居ないのである。
毎月一回は、実家に一泊するようにしているのだ。
今日はその日。
こんな時は、つい昔の事を思い出す。
とは言っても僕の場合は、よくありがちなドラマティックなエピソードは何もない。
虐められていた訳でも、両親と軋轢があった訳でもない。
いや、だからこそ、両親が居なくなってしまった事のショックは、計り知れないものがあったのだが。
そんな時に、真っ直ぐな言葉で僕を励まし続けてくれたのが、ペン助とペン太、それに夏太郎だったのだ。
そう、夏太郎である。
可愛らしい顔をした、幼馴染み。
励まされて寄り添ってもらえて、それはもう、いっぺんに惚れた。
まぁ元々、仄かな好意は寄せてはいたのだが。
その気持ちにブーストがかかったのが、あの頃の事だったという訳だ。

僕と夏太郎、今年で二十一になる。
夏太郎は就職するらしく、これからが大変なのだ。
酔狂な事だ。
一方の僕はというと、それは実に呑気なものだ。
ペン助とペン太の面倒を見るために、専業主夫になるのだ。
それでなくとも、家が広すぎて掃除をしてもしても終わらない。
正直、お金には困っていないので、二人して働く必要は無いのだ。
まぁ掃除などは業者さんに任せても良いのだが、それでは勿体なさ過ぎる。
大体まだ学生なのに掃除も自分でやらないだとか、頭のおかしな話なのだ。
とはいえ敷地が三百坪程あるので、毎日掃除と食事作りに追われている感じではあるのだが。
その掃除にしたって、室内の床や壁はどこもかしこもトラバーチンなので、それはもう気を遣う。
掃除機なんか回さない。
床に傷でも付いたら、困るのだ。
使うのは、モップとダスキンなのである。
尤も今の所は、家の中の掃除は夏太郎の担当なのだが。

十二歳の頃。
淡い恋をした。
言うなれば、初恋である。
相手は、幼馴染みの夏太郎。
まだほんわかとした恋ではあったが、恥ずかしくて、夏太郎に恋をしているというのは、両親にさえ言えなかった。
そもそも男に恋をするとか、治療が必要なのではないかーー。
そんな事を考えて、思い切ってある日の夕食の際に、両親に思いの丈をぶち撒けたのである。

「父さん、母さん、実は僕、病気なんだ!」
「何だね、いきなり。どうした?」
「そうよ、ピンピンしてるじゃない。」
「違うんだ、僕、ホモなんだ。病院に行かないとーー。」

その時だった。
父さんはその大きな体で、僕の事をきつく、きつく抱き締めてくれた。

「ホモという言葉の代わりに、ゲイという言葉があるよ。これから大変な事も多いだろうけど、覚えておくといい。いつかきっと、役に立つから。ゲイは病気ではないよ。もちろん誰にでも明かしていい事ではない。ちゃんと、相手を見極めるんだ。恋、初恋かな?上手く行くといいね。父さんは応援してるよ。」

その言葉を聞いて、僕は父さんに抱き締められたままで号泣した。
一頻り泣いて、後ろを振り返ってみると母さんもまた
、ほろほろと涙を零していた。

こういう訳なので、僕の場合は余りにも恵まれていた。
それからも、この件で両親から怒られる事は決してなかった。
拒絶されていたら、場合によってはひょっとするかもしれなかった、それだけの、いわば決死のカミングアウトだっただけに、両親に恵まれた事は感謝してもし切れなかったのだ。

この辺りの事情は、夏太郎の場合も大して変わらない。
カミングアウトしたのは大学に入ってからだが、元女優の綺麗なお母さんである麗子さんは、そもそもそうした事柄にはオープンだったし、お父さんに至っては関心がないという始末。
まぁお父さんにしても、悪い事さえしてくれなければそれでいいよ、という考えなのだ。
みんな理解があるのである。
必ずしも都会とまでは言えない地方都市の中では、これは異例といってもいいかもしれない。
まぁどっちの両親もみんな、東京生まれの東京育ちだもんね。
夏太郎のお父さんにしてみれば、夏太郎がゲイだった事よりも、ペンギンに絨毯を糞まみれにされた事の方が、よっぽど腹立たしかったみたいだし。

僕には、弟が居る筈だった。
筈だった、というのは、流産したからだ。
暴走自転車に背後から突っ込まれて、転倒したのだと聞いている。
母さん、それで一時鬱になったみたい。
父さんが懸命になって支えていたらしい。
弟が居たら、楽しかっただろうな。
でも、その分も可愛がってもらえたのだから、僕は何も言えない。

それは、良く晴れた冬の日の事だったそうだ。
ちょうど、こんな日だったのだろうか。

十五歳の春。
青春真っ只中。
そんな僕だったが、クラスメイトの夏太郎に、引き続き仄かな恋心を抱いていた。
だが、間の悪い事にそんな僕へ、告白をする男の子が現れた。
名前は風馬。
何処か憂いを帯びた瞳の、スレンダーな二枚目だ。
風馬からの告白を受けて。
正直、タイプではなかった。
でも、友人としてなら、上手くやって行けそうな気がした。
だから僕は答えた。
「僕ね、今片想い中の好きな人が居るから、付き合う事は出来ないんだ。ごめん。でも、友達にならなれるょ!風馬君みたいな友達なら、大歓迎だょ!」
この答えに、風馬は苦笑しながらも握手で答えてくれた。

そこへ厄介な人物登場。
夏太郎である。
風馬は一瞬、悲しそうな目をした。
それはたぶん、夏太郎がやって来た瞬間に、僕の目の色が変わったからだろう。
自分でも、自覚はある訳で。
それはもう、嬉しいのだ。
不機嫌なのは夏太郎だ。
キッと風馬を睨み付ける。
その瞬間、風馬の目は諦観を帯びていた。
まぁ言ってしまえば、体型から顔立ちから、風馬は夏太郎とはまるで異なっていたのである。
似ても似つかない。
それでも、新しい友達が出来たのが嬉しくて、僕は弾む声を抑えながら夏太郎に話し掛ける。
「友達になったんだ、風馬君だょ。みんなで仲良くつるもうね、きっと楽しいからさ。」
だが、夏太郎の顔色は険しい。
「俺、こいつと居ても、たぶん楽しくない。俺とこいつ、どっち選ぶ?」
突然の夏太郎の問い掛けに、困惑する僕。
風馬は、一旦は踵を返したが、何かを思い起こしたのか、覚悟を決めた表情で、こちらに向き直った。
妙な緊張に飲まれそうな僕だったが、答えはもう既に出ていた。
「僕は、夏太郎がいい。」
僕は、小さな声にはなってしまったが、しかし決然と、己の意思を示そうとしてみせた。
それを聞いた風馬、背中を向けて手を振ると、改めて踵を返すのだった。
その背中が小刻みに震えていたのを、僕は見逃さなかった。
それからは、僕と風馬が会話をする機会は、なくなった。

今から思い返すと、互いの気持ちには鈍い僕と夏太郎の二人ではあったけれども、側から見ると、それはもう分かりやすかったようで。
この分かりやすさ、危険さを包み隠してくれた共通の友人、それが健司だった。
健司はバイであり、それを公言していた。
口癖は、「ま、いずれは結婚するけどね。」
顔立ちも成績も平凡、生まれ育った家も服のセンスも平凡。
何もかもが平凡であるが、バイであるという。
ゲイではない所がミソで、実際この時、健司には彼女が居た。
もう初体験も済ませたらしい。
早いものである。
で、そんな訳の分からないとも言われてしまいそうな健司とつるんでいる僕達二人は、まともに見えなくもなかったのだ。
耳目が健司に集まってくれるお陰で、僕と夏太郎の本当の気持ちが露わにならなくて済んでいたのである。
これには僕も夏太郎も、それぞれの心の中で健司には感謝をせねばならないのだった。
一方の健司も、ゲイではなくバイであり、彼女も居るという事で、辛うじて虐めのターゲットとはならずに済んでいたのである。
まぁどすけべの烙印は押されていたのだけれど。
どうせ男も女も取り混ぜて、酒池肉林の乱交でもしたいのだろう、みたいな。
これはまぁ、否定しない本人も悪かったのだが。

今から三年前になろうとしている。
僕の両親が亡くなった、あの日。
両親は、仕事の取引先の社長さんが所有するヘリに乗っていて、事故に巻き込まれたのだった。
搭乗していた全員が、空の星となった。

一報を聞いた時、涙は不思議と出て来なかった。
僕が泣いたのは、骨になった両親の変わり果てた姿を見た時だ。
号泣した。
暴れ出したい気持ちを抑え付けて、その場に崩れ落ちて咽び泣いた。

帰り道、付き添ってくれていた夏太郎が、声を掛けてくれた。
「お前は、亡くなったお父さんやお母さんの分まで、幸せになるんだ!今生きているって事には、必ず意味がある。俺で良ければ、どんな事でも力になる。ゆっくりで良いから、元気になれょ!約束だかんな。」
ありふれたフレーズではあったが、胸に沁みた。
この瞬間に、僕の夏太郎への気持ちは、一気に沸騰した。
そう。
この時の僕には、これ位の飾らないフレーズの方が良かったようなのだーー。

あくる日、独りで水族館に行くと、ペン助とペン太が声を掛けてくれた。
「あんまり気を落とすなょ。その分、お前が幸せになれば良い事だ。」
「学校はサボっちゃ駄目だょ。駄目人間になっちゃうからね。特にこんな時は、要注意。家に帰ってからはのんびりすると良いょ。夏太郎でも誘ったら?」
温かい言葉に、なんだか泣けて来たのを、良く覚えている。
それにしてもペン助の言葉からすると、もしかしたら僕達の気持ちに、この時から気付いていたとかーーそんな事も感じたのだが。
「うん、何となくは気付いてたょ。確証は全く持てなかったけどね。雪太の気持ちは初めて会った時からぼんやりとは分かっていたつもりだったし、いつだったか二人で来てくれたお陰で、夏太郎の気持ちもごく薄らとは読めたかな。本格的な念を使える程には餌をもらっていなかったから、出来た事といえばそれだけだったけど。」
うーん、恐るべしペン助、ペン太。
二羽のお陰で今は幸せなのだし、感謝してもし切れない。
まぁ、掃除は面倒だけどね。

それからも夏太郎やペン助、ペン太には、幾度となく励まされた。
その度に絆は深まり、特に夏太郎への気持ちは益々沸騰していった。

遺産は、巨額だった。
公正証書遺言が残っていて、かなりの額を僕が相続した。
親戚には良い人達が多く、揉める事はなかった。
たぶん、両親を一度に失った僕の気持ちを、慮ってくれたのだと思う。
もちろん僕の親類縁者には、お金に困っている人が誰一人として居なかった、というのも大きな理由の一つではあったろうが。
相続税は巨額だったが、現金保有資産が非常に多かった事もあり、どうにか家やその他の不動産、株などを売らずに支払えた。
尤も、株はその後高値の折に売却して、全て現金化してしまったのだけれども。
投資にはあまり向いていないという実感があったから、売却する事への躊躇いは、少しもなかった。

若干二十にして、リタイアメントライフ。
庭の掃除と料理くらい自分でやらないと、惚けるのである。
ちなみに家事の分担であるが、先にある通りで庭の掃除全般と料理が僕の担当。
家の中の掃除と洗濯が、夏太郎の担当。
広いのもあってそれぞれ、それなりに大変なのだ。
特にペン助とペン太の居る中庭の掃除は、骨が折れる。
まぁ餌遣りの特権があるから、やめられないのだが。
夏太郎が就職したら、家の中の掃除と洗濯も、僕がやるつもりだ。
まぁ適当にやるさ、そんなもの。

さて、今週末から週に一回、日曜日に夏太郎一家を夕食会に誘おうと考えている。
当面のメニューは焼肉とすき焼きの交互でいいだろう。
楽ちんだし。
今は冬だから、蟹鍋もいいかもしれない。
通販でカット済みのカニを売っているのだ。
山程買って蟹三昧というのも、ありだろう。

さて、一休みも出来たし、そろそろ中庭の掃除もしなければならない。
それが終わったら餌遣りだ。
「雪太ー!掃除しろー!」
「急げ!急げ!」
相変わらず、五月蝿いのである。
黙っていれば可愛いだけに、惜しい。
「今、五月蝿いとか思ったでしょー!」
相変わらずまるっと筒抜けだ。
「黙っていてくれたら、可愛いのー!今行くから、待っててー!」
これだからうちのペンギンは厄介だ。
「お前のような下等生物に厄介者呼ばわりされる覚えはないぞ!」
参ったな。
これではおちおち考え事も出来ない。
それに、そんな事で無駄に能力を使われてしまうと、餌代が嵩むので、やめて欲しいのだが。
まぁここは無心で掃除に励むしか。
寒い中デッキブラシで床を擦る。
ゴム手袋が防寒の役目も兼ねているのだが、それにしても寒い。
そういえば何かのドキュメンタリーで、デッキブラシの事をぼうずりと呼んでいた人が居たような。
ぼうずり、うちには似合わない呼称だ。
やはりここはデッキブラシという事で。

「そこ、汚れてるょ!」
「あいよー。」
「ここも!ほら、ほら!」
「ちょっと待ってて!」
よっぽど暇なのか、いつもこうして急き立てられる。
「暇じゃなーい!」
分かったょ、全くもう。

辛い中庭掃除の後には、嬉しい餌遣りタイムが待っている。
一度にたくさんの餌を運べるようにと、台車とより大きなバケツを用意した。
今日はそれの初お目見え。

「おぉ!見ろ!今日は一段と餌が多いぞ!」
「もちろん、お代わりもあるよね?」
「あいょ。」
「やったー!流石は雪太様〜!」

無心で、大量の餌をひたすら食べまくるペンギン達。
ものの五分で、バケツは空だ。
「早くお代わり〜!」
「あいょー。」

お代わりを持って行く。
ペンギン達、大喜びだ。
「雪太様、バンザーイ!」
「流石は雪太!今日は良い日だ!」

そういえば、最近連絡があって知った事がある。
昔近所にあった、今はなき水族館の、元館長さんによる話なのだが。
それによるとペン助とペン太、普通のマゼランペンギンよりもだいぶ長生きをするらしい。
念で病気を自己治癒する事が出来るからだそうだ。
下手をすれば人間よりも長生きするとか。
僕達ひょっとして、こいつらに看取られるのか?
何だかそう思うと、複雑だ。

一週間後の週末がやって来た。
今日は夕食会の日。
メニューは蟹鍋。
食いしん坊が雁首を揃える事になるので、蟹は山程用意した。
それにしてもカット済みとは、実に便利である。
僕が自分でカットした訳ではないのだから、潔癖症の夏太郎のお父さんにも、お誂え向きだろう。

これから夏太郎が我が家のミニバンでお父さんとお母さんを迎えに行く。
良い機会だから、丸福堂の羊羹をお土産に持たせてやった。
「や、別にいいのに。」
「いいから、いいから。さ、行った!」

程なくして夏太郎一家、三人総出で我が家に到着。
「やぁ雪太くん。世話になるね。」
「何が出て来るのかしら?楽しみだわー。」
「うぃっす!」

鍋なので、新設したばかりの和室で頂く。
「あら、蟹がたくさん!」
「気張ったねぇ。それにしても、良い和室だ。ところでそこの蟹、カットしてあるけどそれは誰が?」
急に不穏な空気が流れる。
でもそこは抜かりない。
「業者です!別に僕は触れてませんから!大丈夫ですょ!」
「そうか。それは良かった。それなら安心だ。」
相変わらず失礼な人だ。
そう思っていると。
「帰れょ、親父。」
「そうよ、あなた独りでカップ麺でも啜りなさい。そうよ、そうなさい!」
二人からの攻撃に遭って、流石の夏太郎のお父さんも意気消沈。
ちなみに夏太郎のお父さん、本名は堅吾と言うのだとか。
予想通りと言うべきか、名前までちょっぴり堅苦しい。
それにしても堅吾さん、二人の攻撃にタジタジだ。
言い訳も珍しく吃っている。
良かった。
ざまあみろ。

と、ここで異変が。
何だか焦げ臭い。
台所を見に行くが特にこれと言って異常はない。
はて、どうしたものか。
これは何の臭いだろう。
そんな事を考えながら首を捻っていると。
夏太郎が一言。
「外じゃねぇの?」
外の庭に出て様子を伺うと、煙がもくもく。
お隣さんが、燃えている。
一大事だ。
鍋どころの話ではない。

「みんなたいへーん!お隣さんが火事だょ、逃げてー!」
だがこんな時だというのに、夏太郎は鍋を守るのに必死だ。
気持ちは分かるが、非常事態なのだ。
「そんなことより早く、逃げなきゃ!」
「具材を冷蔵庫に入れておけば、後で鍋が出来るだろ?まだ具材はまるっと残ってるんだからさ、捨てるなんて勿体ない。大丈夫、ここまでは燃えないから。」
呑気なものである。
「鍋の安全は確保出来たわね!さ、通帳と実印、有価証券の類を持って避難よ!」
麗子さんもこの調子。
焼け死んでも良いのか?
死んで花見が出来るものか。
阿呆らしいが一応、寝室のクローゼット内の金庫から金目の物を持ち出して、ペン助とペン太も連れ出して避難。

でもまぁ実は、うちが燃える心配は殆どないんだけどね。
そもそも壁を接していないし、うちは鉄筋コンクリート造だ。
木造よりも耐火性能は高いのである。
で、出火元と、うちの反対側のお隣さんが全焼して、鎮火した。
幸い、犠牲者は居なかった模様。

ここで二羽に質問。
「ねぇ、何で火事を食い止めなかったのさ。」
「火の回りが早すぎて、気付いた時には手遅れだったのー!何でもかんでも、当てにするなー!」
「大体お前は、誰のお陰で全員怪我もなく無事で居られたと思ってるんだ!少しは感謝しろ!」
これは、反省。
「ごめんね、ペン助、ペン太。」
頭を撫でてやる。
「分かればいいょ。」
「そうだな。まぁ許す。」
機嫌を直してくれて、良かった。

十二年前。
僕と夏太郎と三人でよくつるんでいた、吉太君が空の星になった。
家が火事になったのだ。
煙を吸って、事切れたらしい。
一家全員、可哀想な事になった。
まだ色恋沙汰とは無縁の年頃だったが、どことなく子役モデルのような可愛らしさを持った子供だったと記憶している。
彼が今も生きていたら、僕達を巡る恋模様も、或いは違っていたのだろうかーー。

火事は怖い。
今回の火事でも、一番取り乱していたのは、僕だ。
今思うと、情けない。
よく考えてみたら、お隣さんとの間にはそこそこ幅のある庭があったから、余程の事でもない限り燃え移るとは考えにくかったのだ。
床も全面、燃えにくい石のタイルだし。
芝生ならばともかく。
過去の記憶が、僕を過剰に反応させたのだろう。
でもまぁお隣さんが火事だなんて、普通みんな慌てるよね。
仕方ないのさ、そう言い聞かせて、とりあえず落ち着く事にした。

警察官には事情を聞かれたが、お隣さんの出火元が台所であるのは一目見て分かったようで、それは簡素なものだった。

今回の火事では、やはりというべきか、我が家には何の損害もなかった。
タイル張りの壁面も、変色なし。
どうやら取り越し苦労だったようで。
色々、心配して損した。

戻ると、鍋が待っていた。
すっかりお腹が空いてしまっていたから、ここは鍋を守ってくれたみんなに感謝かな。

で。
みんな黙々と蟹を頬張る。
カット済みなのに。
量が多いのもあるだろうが、何もここまで無言になる必要もないと思うのだ。

食後。
「今日はありがとう。それじゃ、また来週。帰りは散歩がてら歩いて帰るから、車はいいよ。」
「次も楽しみにしてるわ!また来るわね〜!」

二人が帰って、ほっと一息。
「そろそろ寝ような。」
「うん。」
寝室へと向かう僕達。
そこへ背後から。
「逃げるなー!腹減った。餌ー!」
「餌くれないとこの家もろとも木っ端微塵にする!」
やれやれ、相変わらず物騒な事で。
この家もろとも木っ端微塵って、それペン助やペン太も無事では済まないのでは?なんて考えていると……。
「いいから餌ー!」
「いいから餌ー!」
見事、ユニゾンである。
それにしてもこいつら、お腹が空いたらいつでも餌を要求するとか、邪悪ぶりが半端ではない。
餌なら少し前にやった気がするのだが。
「邪悪とは何だ、邪悪とはー!」
「さっきの火事で念をいっぱい使ったのー!腹減った、餌ー!」
はいはい、分かりましたょ、と。
山盛りの餌の入った特大バケツを台車に載せて、中庭まで移動。
「待ってました、雪太様〜!」
「お代わりもよろしく!」
こいつらは一体、どれだけ食べれば気が済むのだろう。
恐ろしい。

翌日。
ペン太の具合がおかしい。
アスペルギルス症に罹っており、医者曰く手の施しようがないとか。
「俺はもう助からない。病気が進み過ぎて自己治癒力がなくなっている。俺とした事が迂闊だった。雪太、夏太郎、ペン助を頼んだぞ。」
「僕が代わりに念で治すから、そんなこと言うなー!置いてくなー!」
ペン助、号泣である。
僕達も、涙が止まらない。

その日一日中、時折餌を食べて燃料補給をしながら、ペン助は付きっ切りでペン太に念を送り続けていた。
僕達も固唾を飲んで、その様子をじっと見守っていた。

翌朝。
ペン助の努力の甲斐あってーー。
ペン太は元気になっていた。
二羽とも無事とあって、喜ぶ僕と夏太郎。
が、喜びも束の間、驚くべき事態が発生していた。
ペン助もペン太も、喋れなくなっていたのである。
もちろん、念も使えない。
僕と夏太郎、揃って号泣したーー。

それ以来、餌が少ないと体当たりしたり羽で叩いたり奇声に近い鳴き声を放ったりして、今までとは違った形で猛抗議をするようになった二羽。
飛び蹴りに近い攻撃もあったりして、あぁ、やっぱりこいつらはペン助とペン太なんだな、と納得した。
堪らないのは相変わらずだが、だからこそ愛着も湧くというものだ。
食べる量は、以前の一番多い時と比べても、さらに大幅に増えていた。
フンもその分増えるので邪悪極まりないが、そこに希望の光のようなものを見い出した僕と夏太郎は、気長に復活を待つ事にした。

相変わらずフンはその場で垂れ流しなので、掃除をする方は大変だが、そんな事でもこいつらは紛れもなくペン助とペン太なんだ、そう実感出来たから、手を抜かないでやろうと決意する事が出来た。

それから一ヶ月後。
ペン助とペン太の力の事は、何となく忘れかけていた、そんな頃。
中庭に面した掘り炬燵で、夏太郎と二人してうつらうつらとしているとーー。

「雪太ー!早く餌持って来ーい!」
「早くしないとドロップキック百連発だぞー!」

元の賑やかな日常が、突然戻った。
あまりに突然だったので僕は衝撃で、頭の中が真っ白になった。

「ペン太の病気で念を使い過ぎちゃってさ。だいぶ復活して来たペン太と二羽でどんどん治療していったら僕達、そのせいで一時的に喋れなくなっちゃったの。ペン太は瀕死だったし僕は一羽きりでそれをどうにかしなきゃいけないしで、大変だったー。あのクソジジイの時はペン太も元気だったからどうにかなったけど、今回はきつかったょ。でももう大丈夫。だから餌ー!」

涙が止まらないが、催促されているのだ。
急がねば。
この時ばかりは、僕と夏太郎の二人で餌遣りだ。
もちろん、出血大サービス。
「おぉ、いつにも増して今日は餌が多いぞ。」
「雪太、夏太郎、最高ー!」
そんなペンギン達を前にして、笑みを零しながら互いの顔を見つめ合う僕達二人。

ペン助とペン太は、それからもすっかり元気で、僕達を困らせ放題。
でもあの二羽にはその方が良く似合うーー。
そう思えたから、僕はこれから先もずっとずっと、ペン助、ペン太と一緒に居ようと思う。
夏太郎も、もちろん一緒だ。
夏太郎には、何より笑顔が良く似合う。
みんなで笑おう、そう言って僕達は絆を深めた。
僕達二人と二羽の幸せな生活は、まだまだ終わらない。

お・し・ま・い

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Bloomin’ Flowers IV : 徒然小噺

水の中に潜る。
ゆったりとした波の動きに、暫し身を預けてみる。
旅先の海で、シュノーケリング。
ゴーグル越しに覗いた海は、魚たちの楽園だった。
「気を付けな!握った手綱は、決して離さないんだよ。いいかい?」
海の中から聞こえてくる声。
俺はどうしたらいいか分からなくて、ただ黙って頷いた。
それからずっと、何かある度にその時の言葉を思い出すようになっていた。
この時、相方さんは聞いていなかったようで、何も知らなかった。
休暇を取って二人で出掛けた、沖縄での事だったーー。

ずっと、一緒に居よう。
それが、二人で交わした、たった一つの約束だった。
白い薔薇の咲き乱れる庭の真ん中で、俺らは抱き締め合った。
俺らには時々、白い薔薇の囁きが聞こえる。
最初は幻聴だと思ったが、それにしてはいやにはっきりと聞こえる。
しかも、二人共同じ内容を聞いているのだ。
それはもう、驚いた。

最初は不気味だったが、どの薔薇も俺らへの敵意がないと分かると、自然と友達になっていった。
もちろんこの事は、二人と薔薇だけの、秘密だった。
バレると騒ぎになるからだ。

「ところでーー。」
俺らで勝手に長と名付けている薔薇の花が、よく通る声で一言一言を噛み締めるように、ゆっくりと話し始める。
「互いの気持ちを、裏切ってはいけないよ。ずっと仲良くするんだ。そんな姿が、お前さんたちには良く似合う。笑顔で、居るんだよ。」
気にはなった。
でもこの時は、忘れる事にした。
忘れて、しまったんだ。

それから一ヶ月後ーー。
俺は成り行きで、仕事先の先輩に組み敷かれていた。
酒を飲み過ぎたせいで、ここに至るまでの記憶は曖昧だ。
「リリン、リリン、リリン、リリン」
俺の携帯が鳴っている。
相方さんとは共に暮らしているので、心配したのだろう。
だが、今出る訳にはいかない。
放置していると、着信音は鳴り止んだ。

細い道を歩く。
だいぶ酔いが醒めてきた。
すっかり遅くなった。
お詫びにコンビニでアイスでも買って行こう。

家に戻ってインターホンを押すも、反応がない。
ここは鍵を使って開けるしか。
だが、鍵を解錠しても、チェーンのせいでドアが開かない。
困った。

俺は携帯を取り出すと、何度も鳴らしてみる。
が、音信不通だ。
もう家の前であるとはいえ、時刻は既に終電後。
無理もないか。
大体、俺がこんなに遅くなるのは珍しいのである。

待つ事暫し。
そろーっと扉が開く。
中から現れたのは、恨めしそうな顔。
「何だよ、こんな夜更けに。」
「そう言わずに入れてくれよ、頼む!」
「せっかく美味しい麻婆麺作って待ってたのにさ。ご飯はないよ。」
チェーンが外され、ドアが開く。
と共に抱き付いてくる我が相方。
可愛いな。
そんなことを思っているとーー。

「やっぱり!香水臭い!いつも香水なんかつけない癖に!この浮気者!出てけぇーー!!」
またドアは閉じられてしまった。
この家のローンを返済しているのは、俺なのだが。
とはいえ、酒のせいでもあったが浮気したのは、事実、なのだろう。
都合が良いのか悪いのか、その辺りの記憶がどうにも曖昧なのだ。
気が付いたらベッドの上。
その後も記憶は途切れ途切れ。
まぁ断片的には映像が思い浮かぶから、たぶん浮気したのだろう。
だがそもそも、俺には浮気をする動機がない。
俺はずっと相方さん一筋で生きてきた。
高校時代からの付き合いだ。
一度の過ちで全てを失くすのか。
情けないな、俺。

その夜は、繁華街のネットカフェで一夜を過ごした。
朝方。
携帯のバイブで目が醒める。
差し出し人は、相方さんだった。
「出て行く事にした。残った荷物は、全部処分してくれていいから。追いかけたって無駄だよ。僕、結婚する事にしたから。」
顔から血の気が引いてゆく。
相方さん、バイではない。
ゲイなのだ。
だから高校卒業後、二人して逃げるようにして、上京して来たのだ。

ここで庭の薔薇の花の声が、耳元で微かに聞こえた。
「いいかい、これが最後のチャンスだょ。タクシーを捕まえて、駅まで先回りするんだ。相方さん、まだ家だから、間に合うょ。すぐにそこを出て!」
俺は慌てて会計を済ませると、大通りでタクシーを拾い、大急ぎで駅まで向かった。

高一の夏。
クラスメイトに、俺は告白をした。
今の相方さんである。
「変態だと思うなら、それでも構わない。もし良かったら、俺と付き合って!」
相方さんに似合うと思って、白い薔薇の花束を渡した。
そうしたら相方さん、とても嬉しそうに笑って、黙って頷いてくれた。

それからは楽しかった。
ただ、俺らが住んでいたのは地方都市とはいえ結構な田舎であったから、怪しまれないように、それだけは気を遣った。
場所がないのでSEXもキスも出来ず、本当にプラトニックな交際を続けていたのだが、それでも毎日は楽しかった。

同級生は、上手くごまかせた。
元々共通の友人も居たので、三人でつるんでいる分には、誰の疑いの目もかからなかったのだ。
最後の最後で騙し切れずに俺らの関係が発覚してしまったのは、両家の両親だ。
卒業式終了後。
感極まって、周りに両親が居ない事を確認してから、俺らはこっそりとファースト・キスを済ませた。
それを、俺の父が物陰で盗み見ていたのだ。
そこへ、両家の両親が集まる。
無言の圧が凄かったが、彼らは至って冷静だった。
四人で何やら、ひそひそと話をしている。
やがて四人を代表して、俺の父が口を開いた。
「せっかく受かった大学、行きたいだろう?今この場で別れるのならば、通わせてやる。良い見合い話もあるだろう。別れないというのならば、即刻出て行ってもらう。それでも、結婚する気が起きた時は戻って来ていいぞ。よく考えるんだな。」
そこで二人手と手を取り合って、それぞれの実家に急ぎ、最低限の荷物だけを持ち出すと、上り列車へと滑り込むのだった。

「どうする、これから?」
俺が不安の眼差しを相方さんに向けると、目の前の丸顔はあっけらかんとしてこう言った。
「大丈夫だょ。二人だもん。何とかなる。」
その根拠のない自信が何処から出て来るのかは不思議だったが、何となく伝わってくるものは、確かにあった。

それからは、二人して物流関係のアルバイトをして生計を立てながら、地方公務員の試験の勉強をしていた。
安アパートにて、二人暮らし。
男同士なので、物件探しが大変だった。
これはもう、本当に。
まだ東京だったから救われたのだ。
仕事と勉強の両立は、それはそれは苦労の連続だったが、嬉しい事に二人共、試験は受かったのだ。
まぁこれでも二人揃って地元では、成績優秀で通っていた訳である。
そうでもなければわざわざ親が、あんな田舎から金のかかる大学へと進学させようとする道理はない。
少なくとも俺らの実家の方では、皆そう考えていた。

公務員になってみて、予想よりも激務だという事には面食らった。
だが時間が経つにつれて、家のローンを組めるようになったり、クレジットカードを作れるようになったりと、それまで考えられなかったような暮らしが出来るようになっていった。
ボーナスも多い。
なるほど、これは辞められない。
二十代も終わりに差し掛かった頃に、貯金の大部分を頭金に回して買った家は、都内近郊の一戸建て。
格安のリフォーム済み中古物件で、小さいながらも、庭が付いていた。
俺らはその庭を、白い薔薇で埋め尽くそうと話していた。
思えばあの頃が、それまでの人生の中で、一番楽しかった頃だったのかもしれない。

タクシーが、駅に到着する。
近くに花屋があるのを思い出した俺は、白い薔薇の花束を買って、相方さんの到着を待っていた。
今日は祝日。
店、開いていて良かった。

ドスン!

振り向くと、相方さんがこちらを見たまま手荷物を落として、呆然と立ち尽くしていた。
一歩、一歩、距離を詰める。
「今度デパートで結婚指輪を作ろう。もちろん、お金は俺が出す。頼む、戻って来てくれ!」
目の前の顔がくしゃくしゃになって、涙と鼻水でべちょべちょになる。
「可愛い顔が台無しだょ、ほら。」
俺がハンカチを差し出すと、顔中一通り拭いてから、色気も何もなくチーンと鼻をかんで、自分のパンツのポケットにそれを突っ込んだ。
『や、高かったのだが、そのハンカチ。』
とまぁ、思わない事もなかったが、ここは自業自得。
諦めねばならない。

「行こう。」
相方さんの掌が出て来た。
もう二度とないチャンス、繋いだ手は、離さない。
「もうしないでね。」
上目遣いで弱々しくこちらを見るので、俺は「もちろん!」と胸を張った。

帰る途中で、お昼の材料を買う事にした。
「今日から二人で禁酒!酒癖悪いんだから。今回のもどうせそのせいでしょ。破ったらお尻百叩き!絶対やるかんね!」
怖!
俺は別に酒に依存している訳ではないので、断酒は容易い。
ただ、弱いのだ。
すぐに意識を失くす。
俺はもう二度と酒は飲むまいと心に誓いつつ、それとなしに相方さんの横顔を眺めてみるのだった。
「う、何?なんか付いてる?」
「ううん。あんまり可愛いから、つい。」
「恥ずかしいょ、止めて。」
二人して笑った。
これでもう、大丈夫だ。

買い物しながら。
「実家には連絡入れたの?」
「ううん、まだだった。ギリギリセーフ。」
「良かった!麻婆麺作ってよ!炒飯と餃子もね。」
「良いけど、昨日早く帰ってくれば食べられたんだょ。ちょっとは反省してよね。」
「ごめん!」

スーパーで一緒に買い物。
休みの日はいつもだ。
平日は早く帰れそうな方が買い物をする。
二人共料理は作れるので、料理も早く帰った方の担当だ。
今日は休みなので、料理は一緒に作る。
幸せな時間。
豆腐や麺を選んでいるだけでも、楽しい。
二人して、笑顔が絶えない。
手放したくない、この時間を。
決して。

次の週末。
新宿のデパートの宝飾品売り場に来ていた。
二人してすっかり、お上りさん。
勇気を出して、店員さんに声を掛ける俺。
二人の結婚指輪を作りたいというと、怪訝そうな顔一つせず、商品を紹介してくれた。
良く出来た店員さんだ。
それにしても。
「や、高いな。」
思わず漏れた言葉。
横では、そんな俺を相方さんが睨んでいる。
買うとも、買いますとも!
もうこうなればヤケクソである。
どうせもう少し待てば夏のボーナスもある。
何とかなるっ!

サイズの調整があるので、その場では受け取れなかった。
また来るのかょ、ここに。
正直言って、デパートは苦手なのだが。
まぁ、元々が身から出た錆なのであるから、仕方ない。

カフェで休憩。
ぼんやりしていると、昔の事を思い出す。
中学生の頃。
クラスメイトの男の子から、告白をされた。
正直、好みではなかった。
だから、断った。
男の子、泣きながら駆け出して行った。
胸がちくりと痛んだ。
それで、終わる話だった。
が。
その場面を盗み見していた者が居た。
学年きってのいじめっ子と、その子分だ。
二人は、男の子がゲイだと吹聴して回った。
俺は断ったから助かったようなものだ。
可哀想に、男の子は遺書も残さずに自殺してしまった。
学校側はいじめがあった事を全面否定。
うやむやになって、終わってしまった。
ある日、男の子の両親と学校の廊下ですれ違ったのだが。
その時の両親の、鬼のような形相が今でも忘れられないーー。

「おーい!どうしたのー?心ここに在らずな感じ。まさか男の品定めとか!許せなーい!」
「違うからー!中学生の頃のクラスメイトの話。自殺した。」
「あぁ、その話か。悩むのはわかるけど、君は悪くないょ。大丈夫だから、ね。」
「ありがとう……。」
俺は思わず、泣き出してしまった。
涙と鼻水で、顔中べちょべちょだ。
「はい、これ使って良いょ。こないだのお礼!」
下ろしたてのハンカチを渡してくれた。
嬉しくて、更に涙が溢れて来る。
その後俺らは再び、デパートに戻った。
ハンカチを買うのである。
二人共に潔癖症のきらいがあるから、涙と鼻水でべちょべちょになったハンカチを、洗濯機で洗う気がしないのである。
地下食料品売り場で今夜のおかずも買って、帰宅。
一緒に夕食を用意して、笑って、喋って。
楽しい。
やっぱり俺には、君がいい。
心からそう思うのだった。

食事の後は、借りて来たブルーレイの鑑賞。
スプラッター映画だ。
二人共好きなのだ。
怖面白いのが、素敵だ。

夜。
事も済ませて、ベッドの縁に並んで。
相方さんの顔が優れない。
「どったの?」
「んぃやね、昼間泣いてたでしょ?似たような話が僕にもあってさ。記憶に蓋をしたくて、今まで話さなかったんだけど……。」

相方さんは切れ切れに、話を始めた。

「僕ね、中一の頃に、痩せ型の体の大きなクラスメイトから、告白されたんだけど。タイプではなかったので断ったら、たちまちいじめられるようになってしまって。結局転校したんだ。」

ゲイの告白、なかなか難しい。
俺も相方さんへの告白は、決死の覚悟でやったもんな。

俺は相方さんに、こんな言葉を贈った。

「東京は自由だ。俺らには住みいい。自由は時に残酷だけれど、それなしではたぶん、ゲイは生きられない。だから俺は自由が好きだょ。たとえ荒波に揉まれて沈む事があっても、二人でなら平気だ。自由であった事を、それで恨んだりはしない。そうだろう?」

相方さんは大きく頷くと、俺に抱きついて来た。
「今度は香水の臭いしないね。うん、僕はこれがいい。」
そのまま抱き合って眠りに就く。

翌朝。
今日からまた、仕事だ。
「頑張ろうね、お互い。」
「うん。」
所属する部署が違うので、仕事中に顔を合わせる事はない。
まぁ、その方が仕事に集中出来るから、良いのだ。
頑張って働かねば。
まだ家のローンがたんまりと残っている。
相方さんの笑顔の為にも、今日も頑張る!

ふと窓の外を見ると、木の枝にムクドリが二羽、留まっていた。
俺らもあんな風に見られたいものである。
可愛い。
そんな事を思って少し手が止まると、上司がやって来て咳払いをする。
いけね!

同じ庁舎に勤務しているので、上手くいけば一緒に帰れる事もある。
今日は二人揃って定時退勤。
こんな日は、二人でスーパーに行くのが楽しみなのだ。
今ここに在る幸せを、決して手放さないようにーー。
もう過ちは犯さない、そう固く心に誓った。
家の薔薇や海の生き物たち、みんなありがとう。

もうすぐ、相方さんと出逢った記念日だ。
忘れてはいない。
プレゼントはちゃんと考えてある。
俺らの日々は、まだまだ終わらない。

お・し・ま・い

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